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継承物語  作者: 伊阪 証
ループマン・ウォーキング

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仕組まれた奇跡

道徳の神、知恵の神、知識の神。

神格において矛盾が発生する存在である。・・・それが別段優れている訳ではなく、管理者として任ぜられた程度と思えば良い。

「要件を満たさない人間から言語を奪う。」

テレビの生放送が停滞した、台本も、何も分からなくなった。

政治家が急に鳴き声で話し出した、インタビュアーもカメラを何処かに持ち去ったなぁ。

学校が無法地帯になった。

・・・これも必要な過程だ。

「・・・誰も言語を失わなかった村が日本にある・・・とな。」

インドネシア軍という罠、災害として人間を再生成し、邪魔をする、排除を実行させる。囮としての運用をした。

「悪意の玉座なんていいものがあったからなぁ。神話上の存在だと思っていたとも。」

人間の数は徐々に狂う。災害の闊歩、人類の衰退。それを覆せる存在。

戦いの日は近い。

人間という悪意、人間の玉座、人間の頂点。

・・・故に、悪意の玉座。

人間を呪い続け、漸く意味を持つ。

騒がしき王、奇怪なる剣、貴方への愛。

人を呪う災害達。前者二つは風評の名、只の恐れだ。・・・最後は一人を愛し人類を捨てた存在。

「貴方への愛はクローンで作れるとなると量産可能、GPUと同じ程度には面倒だな。」

リーツィアを拾い、使うだけ使って殺した。脳に電気信号を差し込み、強制的に使った。

「全ては人間の技術だ。」

災害は科学より生まれた。

悪辣な環境、絶望の日々、苦悶の連鎖。

生物という、複数個体故に呪い合う生物。

壊し、殺し、前に進む生物。

「騒がしき王、あの個体は確か水酸化ナトリウムに生きたまま捨てられた人間だったな。建築業者だったか。」

世界が残酷であると見せかけ、人類の残酷さを騙る。人間のどす黒さを知らないのだ。

いや、これから知る事になるだろう。ブラック企業、人権侵害、それが生易しいものであると言える位の汚濁が。そしてそれを肯定し、落ちまいと蹴落とす醜い姿が。



自分はこれを見守る、記憶を消すのはそれからだ。

「見ていてくれ、お前はこれから様々な悪事や呪いを見る事になる。だが、それ等全ては人の手で解決し、人の手で幸せに出来る。」

そう言われたは言われたが、作戦通りに行くとも思えない。

隔離されていた、そうある以上不安も不安だ。

あの一日程度の接触で、足りるだろうか。

優のリコ・ルドルフ記憶消去は成功、闘曰く妙に早く終わったとか。・・・優が手回しをしていてもおかしくはない。憂いとしてはないのだ。

憂いは無い、しかし不安だ。

「・・・見守るしか、無いのか。」

『言い出しっぺなんだから我慢しなさい、ね?』

「ああ。」

『いい子、これで大丈夫でしょ。』

「ペットみたいに扱うな。」

『ポメラニアンがいい所ね。』

不安だ。相変わらず不安だ。

『パブロからの新情報としては、災害が現れたらしい。行動はしていないが、アルトリウスが狙っているとか。』

「戦えって事だな。」

『そうだろうよ。』

その不安を抱えながらも、向こうを見た。

生川、出生やその辺に疑問は無い。調査しても平凡で普通だった程度。実験記録にも無い、この辺の答え合わせは運が良ければ幽閉されたアスタルトを頼れるかもしれない。

気分が悪い、群れる渇望の機能上仕方無いもので、常に負担が掛かる。生理と同じ様なもので、内臓出血が多発、50mlを超える常人の致死量程度の血液が残留し、取り出す必要がある。・・・毎日の話だ。

進化は常、故に廃棄も常。ストックが無ければ即死、それが群れる渇望の特性だ。

自分はあの場に居てはならない、異物だ。

災害と共に生きるのは幻想だ、群れる渇望は周りに対する影響が強く、自身へのそれよりも上にある。・・・気付けば追い越され、気付けば捨てられる。そうなる。

『そんな事は無い。』

「・・・。」

『群れる渇望は愛情をトリガーにする、ヒトへの強い愛情があるから進化が凄まじいだけだ。』

「・・・それなら、少しはマシか。」

『・・・少しは自分への自信を持て。』

無理もない。記憶を失い、失った矢先に自信を打ち砕かれた。自分を超越した人類の一部、自分が居なくとも生きている友。

『結局ヒトに戻る、そして、それぞれの目的を果たす。同じ視点に立ち、同じ道を辿る。』

狂は言った。優とも違う、回転寿司のレーンの様な知った言葉、頭の残留物が雑に流れる。

『王になった、もう後戻りは出来ない。そんな心意気じゃ櫛奈ちゃんも守れないぞ。』

「・・・ああ。」

『皆が居ない内に泣きな、もしかしたら、これが最後の機会かもしれない。』

弱く、惨め、優しく、幼い。・・・強さを磨き、惨状を乗り越え、優しさを変えず生きた。

・・・元々の在り方は変えられない。彼女への永劫回帰、それが与えられた試練だ。

そして狂は気付く。足りないもの、その正体は戦いであると。己の最も自信ある行為が出来ない、それが原因だと。察が案外狂気に満ちた存在だと彼は直感で理解した。



生川の家を無意識下に避けていた、それは事実だ。

捨て子だった、赤ん坊だが奇妙で、瘴気の様なものがあった。ガスマスクを着けたら臭い落ち着いた、逆にノイズと顔の醜さが出てきた。外すと元に戻る。超科学的な話だ、馬鹿馬鹿しさのあまりが希少品を壊す所だった。

自分は恐れていた。村の人々の中で接触するのは自分だけ、自分以外には彼がどの様な存在なのかも知らなかった。

不幸と痩せ細り・・・その残虐を、自分は謝罪しなければ・・・。

「・・・。」

「・・・よぉ。」

「・・・やぁ。」

三人とも、同じ様に料理を弁当箱に入れて持っていた。偶々十年被らなかった。

「・・・きっちり食べて、吐いちゃってたのかぁ。」

「社会的ジレンマだよこれ。」

「はは、どこまでも三馬鹿って事だ。」

コウキが居なくなってから、皆が不安にあった。周りを警戒し、利他主義に染まり、優しくあった。それが償いであると信じて。

「コウキは戦いに行った、せめて俺達は平和を、平穏を与えたい。だから、家から出して、見せつけてやりたいもんだな。」

こんな馬鹿な連中を、きっと笑ってくれるだろう。

洗脳を掻い潜り、先に進む。だが、進化のサポートが外れ、使命が変質する。迫る、苦しめる、本来対象でないものも、平等に変わっていく、全てをゼロに変え、絶対な平等に。

負担を与え、苦しめ、正しさを否定する。仕組みも原因も分からない、異変は存在する。だがそれ以上の情報は無い。

「松!」

「行け!」

「木野!」

「先に進む、後で来い。」

川副が部屋前に留まり、引っ張り続ける。

「・・・なんだよこれ・・・!」

煙の様な何かを恐れ、前に進むにも滑る。前に進めない中、木野を信じるしか選択肢は無かった。


彼等は傍観しつつ、観察する。前回とどうか、何が違うか、数値的に見る。

「ジョーの時よりは遥かにマシだな、彼奴の場合ルナが居た影響で悪化が凄まじかった。特に範囲。」

『・・・女神様は余程ご執心らしい。桁違いだな。』

「本当だよ。」

この使命は五感を狂わせ、思考を戸惑わせる。五感さえ狂わない強靭さがあるならば基本的に通用はしない。しかしそうならない、1V以下の電流でヒトは思考を変える、これに関しては五感が正常であると機能する、正気で強い人間を阻む為にある。

脳が直接切り替えられる、構造が違う災害、人間以外には通じないが、類人猿であれば対象。相手に合わせた嫌悪の提供。

「・・・違う。」

『何がだ?』

違和感、違和感があり過ぎて感じない方が非日常じみてきた。いつも通りの疑問だ。

「・・・ジョーは自己に価値を見出さず、存在しない様に扱っていた。宗教的な思考として当然だった。」

だが、生川はそうじゃない。だとすれば何だ。

「彼にそれは無い、自己嫌悪だ。」

『・・・ジョーがああなったのは、彼が相当しぶとかったから・・・で良いのかな。』

ジョーの凄さを後から思い知る。観察が甘かった事を理解しつつ、口元に指を寄せる。

「・・・他に気になるのは、これの最終段階だ。ジョーの場合は起きなかったが現時点で小規模破壊兵器、テロ事件程度は起こせる程度に脅威だ。」

覚悟している、同時に楽しんでいる。笑い、気味悪く、快く。

「・・・もしもの場合は・・・。」

ヘカテーを使い、記憶を抹消しつつ確実に消す。

『植物化』を使う以外に無い。危害や破壊は無い、戦力として群れる渇望を使えなくなるという欠点がある。

自分の再生成を今後の戦いで切り札にし、必ず使う。群れる渇望の進化ペース上、予め卵にして育ててある。悪意の玉座に質を加える事が出来るのだ。


実質的な毒ガス兵器、凶暴性を起こしうるもの。それを耐え続け、守るべき彼に向かう。嫌悪はある、だが、自分の嫌な事は諦めと死、彼へその洗脳は通じない。

・・・正に無敵、コウキを目指した男の勇姿。

精神の高潔と頑強、それこそが名を残すのに最も必要なものだ。

それは猛々しい実力ではない。

それは華々しい才能ではない。

それは仰々しい努力ではない。

信念を曲げず、貫き続けた結果である。

誰にでも出来る、出来るというだけで実際に行えるかどうかは不明だ。

脳の構造がとか、心臓がとか、なんだかんだケチを付けられる。

だが、それは木野という人間に対する侮辱に他ならない。

彼を讃えるべきだ、彼を誇るべきだ。

前に進む理由は、己の望む希望を掴む為だ。

その死を、その傷を、彼は憎悪する。

「・・・死なせない、奴ならきっとそうする。」

自分の盲信する英雄に憧れ、同じやり方を想像し、敢えて助けない彼に底力を証明する。

彼には彼の戦いがあり、自分には自分の戦いがある。

これらの戦いを終わらせ・・・最後の戦い、即ち宴でコウキを言い負かすまで。立ち、進み、戦い続けるのだ。

轟音と共に二階部が散り、屋根が落ちる。階段部に踏み入れた自分は玄関先に投げ捨てられる。

笠木優衣、明神初音がそれを受け止めた。

「中まで聞こえなかった!?」

「・・・何も・・・。」

「川副と松林は崩れるのを防ぐべく登って何とか持ってる。三人で行く?」

「・・・危険だ。」

「十年以上言うの遅れてる。」

「・・・そうだな。」

「行くよ、投げて強行突破するから。」

頼りになる仲間、全員が一人の幻影を見て、救助を進める。一階部分が潰れれば破片と倒壊で全員失血死は免れない。

前情報はある、人数に対して強い影響が出て、多く滞在させるのは厳禁。単独でやろうとしたが馬鹿なせいで失敗した。

「笠木、作戦を再構成する。」

木野はネジを外し、本領発揮に至る。

「大江、山野、加持、岩淵、国田を連れて来い。二十秒以内に終わらせる。」

脆い家、下手に下がらない様に家に穴を開けて前に進む。

「リスクを許容し、最速最短で完遂する。後ろは任せた。」

屋根を支える二人の体力は不明、耐えれないなら後で引き摺って持って行くつもりだ。

「同様の爆発が起きた場合、破片が無ければ危険性は無い。温度変化が乏しかった。」

逆に言えば音でしか予想は出来ない、しかし壁越しに聞けるかは怪しい。一度吹き飛んで周囲に物は無い爆発の規模は小さく、余程の音はしない。耳に異常をきたしているかも不明だ。

「情報上、必要な行為は説得だ。だが、最初の揺らぎ起こすのは簡単だ。とっくに用意してある。」

廊下の老朽化、スペースは殆ど無い。足は差せない。ここからは一度の爆破許されない。道具も決して耐久が高い訳ではない。


コウキは遠くから見て、また一つ思い付く。

「生川が出てこない、かと言って抵抗する動作も見えない。」

急造品のサーマル双眼鏡、先までは使えなかったが爆発以降落ち着いて内部までくっきり見える、だが、蹲っている様子は無い。

「・・・眠っている。」

『眠っているのにこれ?』

「・・・眠っているからこそだ、意識的な部分だけじゃなく無意識下まで嫌悪を起こしている可能性がある。」

起こさなければ説得は出来ず、ヘカテーの介入にも彼女は別の仕事がある。記憶の消去、他人格の停止。眠っている人間にどうこうした所で、無意識を総動員する相手にはあまり効果がない。人間がほぼ無意識だから彼女は人間の思考の主導権を奪える。

木野の戦略次第。

だが、不安は無い。不安に思っていてももう遅い。どちらにせよリスクは常在する。その中でどれだけの生存確率が存在するかでしかない。


無意識下、手放される思考。

一つ実証されているものがある。

「パブロとヘカテーに頼んで作っていたのさ。偽造も出来る。本来は別の者に使う予定だったが優先順位を考慮してこうなった。」

コウキへのイメージ、それに関しては好印象に留まり続ける。普通の場合他者は影響を受けて嫌う・・・結果印象が悪い。しかし災害には無効、人間社会を破壊するのに有用な為適用されない。本来は悪用する為に形成されたものだ。別の共通目的や信念がある、常軌を逸する思考の場合は無効化される。

「奥の手は切った、後は力を借りれない、確実にやるぞ。」

植え付ける、確実に。

無意識下という極限の苦痛の中で、自分を救ってくれる存在。その偶像に最も近いであろうコウキを当て嵌める。

「足りない!?」

爆発は無くなったが瘴気が消えていない。

不足している、まだ足りない。

「何が・・・!?」

瘴気に何があるかは分からない、有毒な可能性も否めない。どちらかと言えば奇妙に思わせる為の誘導、自分は現状影響を受けないだけで何かしら後で起きる可能性がある。

意識下が掌握出来ていない、それが原因ではないか。禍根は深く、嫌悪を続けている。


自分の出来る手は、何だ。

「・・・。」

魂の定着、元は女、タイムパラドクス耐性、自分への接触。

・・・もしかして、だ。

「銓を引っ張り上げる。生川に定着させる。」

『・・・出来るのか?』

「待っているだろうな。」

『・・・ふぅん、へぇ〜。』

そしてもう一つ。

「何か特別な事をする必要は無い。」

約束があり、その間に破られる事は無い。タイムパラドクス耐性が実を結ぶ。

「・・・この縁は、切られていない。彼女がその縁を切らない限り、戻ってくる。」

更には、自分の今の身体を信じて。

「銓、群れる渇望の影響範囲に居る筈だ。」

これでしか無理だ、これ以外に方法は無い。

「今のお前なら、きっとやれる。」

陽光が不意に夜を切り裂く。

「・・・これは・・・。英雄の力、あの英雄誕に類似したものか。」

誰のものか分からない、だが、召喚術に近しいものだ。

「・・・人間が何れ踏破すべき死という難題、倫理や道徳、それだけでなく成長や廃棄という恩恵すら捨て去りうる問題。それを越える日が来た。」

神崎銓、彼或いは彼女は見守っていた。

それは使命を解決するものではない。

人というのは因果の関係で結ばれた生物だ。その縁を解し、解き、切り紡ぐ。

関係は時に反響し、関係は時に霧散する。

消えぬ縁は紡がれる。残るが故に運命となる。

どの様な人生かも選べた銓は、苦痛があったとしても彼に出逢う為に進んだ。

そして、その縁は再び姿を現す。

『呼んでくれたんだ。』

「必要だった、そして信頼出来た。」

『そうなんだね。』

「頼んだ。」

『分かった。』

見送って、目的を果たす。

救助が終わり、外に出た。使命を切り、分離した。

「・・・自分のもされていたか。」

『可愛さ10点、性格10点、人付き合い-10点かな。』

『何の採点だ。』

使命の因果を終わらせ、その縁を切り、何より、憂いを終わらせた。


部屋の中で眠る生川を抱き、崩れる家の中、戻ろうとした。

「無理だ、一度抜けて戻れ!」

「守れんのかお前!」

「ドッチボールで優衣守れんかったんだから出来る訳ねぇだろ!!」

「うるせぇ!ボール四つに増やしたお前が悪い!!」

流石に屋根は飛ばせない、しかし抵抗は出来る。

「瓦が危険だから屋根を二つに割る!割った後は夫々背負い投げの容量で飛ばせ!」

「合点承知!」

「合分かった!」

割るのは自分、片足で木の繊維に添い、三日月の痕を入れる。そして、それが風化と一体化し始める。

「今だ!やれ!!」

眠る生川を庇い、背中へ無数の傷が入る。

魘される生川、庇う木野。

「木野!!一階が崩れる!!」

すぐに家は崩れ、呑み込まれる。

木野は畳と割れた柱二箇所に腹部を貫かれ、動けなくなった。

「・・・クソ・・・大黒柱が牙を剥くとはな・・・。」

横隔膜付近が上手く機能しない、救助の手はある。だが、下手に動かせば死ぬ。

「行け・・・生川、軽蔑の目を恐れるな、自分を恐れるな。」

その中で取れる選択肢は、逃がして伝える事だ。説明能力はある筈だ。

「お前は何も悪くない、胸を張って生きろ。」

壁が崩れて丁度隠れる、逆に逃げ道は出来ている。微かな声と微かな道で、生川を導く。

「困った時は友人を頼れ、特にコウキは優秀だ・・・。」

意識は混濁し、やがて目は閉じた。

だが、生きていると確信して走馬灯の様な夢を見た。



少し後にて。

無礼講は酒を子に許す、全員が飲み、ネジを外し、そして、倒れる。非言語的な笑い声、わななき。

異変は起こる、酒の飲み始め、アルコールが回るまでの人物もいたが、先に酒を未成年に飲ませた大人が言語を失った。気付かずに続け、耳の使えない木野はそれに反応出来なかった。

とても笑いとは言えないものだった。

言語を捨て、そして、記憶を消し・・・。

完全にその病は正体を表した。間隔がブレている。他要因は無い。・・・答えは一つ、条件次第での発動。

「・・・これが病の正体か。」

『酒と断定するにはタイミングがおかしい、一時間は経過してる。』

『・・・知性、かな。』

「不明瞭な箇所が多過ぎる。」

『・・・魔術の神と同じ仕組みだろう。』

「・・・ならどうする?」

『恐らく前線には出て来ない、第三勢力として戦力を乱す奴がやる手口だ。』

迷って一時間、戻る事はしなかった。分裂を用いた攻撃手段でどこを射抜くか、失敗したらアルトリウスの強襲が待っている。パブロを今戦わせるのは不味い、インド周辺はカルナが許さない。

「ねぇ。」

「・・・。」

『・・・。』

『・・・。』

『・・・終わったかな?』

「・・・ちょっといいかな。」

『・・・終わってなかったな。』

これは自分の手に余るものだ。だが、解決は必須。そう出来なければ役立ずにしかならない。

聞いている暇は無かったが、妙に急かされる。

「レイチェル・タカハシ、覚えてる?」

自分の母代わり、災害としての生き方を教え、彼を人類の味方にした功績だけでも世界史に載る価値がある人間。

「覚えている。」

忘れた事など、一度もない。

「よかった。」

安堵して、どちらも見合わない。

「本当に・・・よかった。」

愛情を込めて育てたつもりは無かった、怖かった、だから保身の為に育てた。・・・手放した後に、愛情を注いでいた事に気が付いて、自分は笑い、そして泣いた。

守れなかった、守りたかった。自分は遅かった、だからそもそも彼は自分の子供じゃなかったのかもしれない。

仕方無い事まで嘆き、後悔していた。

工学を駆使し、生成Aiでの偽造、翻弄。

各国で機能の混乱を起こし、戦争を誘発。

偽旗作戦、そして無秩序な破壊。

防ぐ為にと既存の文化を破棄、破壊。

文明という文明、その全てを。

語り継ぐ為の一人、よって国家より魔女として追われ続けた女。

「解決手段を知っているから、私に任せない?」

群れる渇望を隠し続け、守り続けた。

「もう少し、一緒に居て欲しい。」

だが、その心は磨り減り脆く、彼に心以外のものを教えられなかったと悔いる、優しい魔女。

「・・・大きくなったね。」

「こんなつもりはなかった。」

「どうあっても、次会った時は抱いてあげないとってね。」

背丈が自分より小さかった、だから彼女は顔を隠す。

「もう少し、居てくれる?」

「・・・駄目だ、行かなきゃ。」

「・・・そう。」

置いてかれてしまう、そう思った時に自分の手は思わず止まっていた。動き出したのに止まっていた。

群れる渇望は数万円単位の進化を短縮し、希望を叶える。デメリット以上のメリットを持ち、全生物のパワーバランスに異変を起こす。

進化を拒否し、しかし成長を拒まない。己自身を磨く、何事にも全力投球。

「さようなら、コウキ。」

そんな彼を自分が止めていいのだろうか。

罪悪感の呼び起こす正義は必ずしも正しいものではない、しかし、美しくは出来る。

彼が苦しむ、泣く、それでも良い。

それ以上に彼の人生を穢したくない。

「私の子、私の希望。」

陽光の幕が空へ上がり、盆地を強く照らす。

「・・・一時の幸せを果たす為に、地上の神、天の星々、海の闇。これから来る地の底の聖域にお祈り申し上げます。」

自分の終わり、目的は果たし、これから死を迎える。

「全ては些細な夜の夢、知と道を返し、そして彼の健やかを願います。」

自分は役目を終えた。残りは彼に任せ、消滅する。

命を対価に、彼等に自分を分け与える。情報伝達の端末を与え、最期の会話をさせる。

「・・・。」

かくして帳は下りて終わり、朝が開くまで待った頃に彼女は去った。

どうせ自分ではない自分に用があるだけだ。

自分には関係の無い・・・関係の無い話なのだ。

彼女を犠牲にし、起こした奇跡。

・・・神を騙して起こした呪いを拭い去る、人類の抵抗。縁切りを用いた除去。

「・・・何時か、ここの皆が幸せになれる様に・・・頑張るから・・・。」

神崎銓を宿し、村を平穏に戻し、眠る彼等の苦しみを断つ。最後に彼という縁を切り、そして見送る。その罪は分かっている。何時か返せる、だから待とう。・・・彼はこれから戦うのだから。



神崎銓の製造、見事なものだ。

「・・・群れる渇望が人類の味方、勢力図を塗り替えるのには最高の話だな。」

アルバート、アルトリウス、エンジニアとしては世界最高の存在と、単独としては最強の存在。どちらも人間であり、人類最大の味方。

「災害の対生物、対人類性能が厄介、それを打破しうる。」

「神格を作って対処した時代が遥か昔に思えるな。」

それ以上の、人類の進歩。

滅びゆく世界で、恩恵こそあれ、人類に与えられた苦痛を超えた。災害との共生の結果。

神崎銓という神格の製造、レイチェル・タカハシ最期の偉業。

「ラプラスの悪魔を奪い、現実の魔女を作る。」

「じゃあこっちはお前んとこの部下を使って避難の用意をしておく。」

「ああ。」

決戦の日まであと三日、会話の不足が齎す恐ろしさを傍でアルバートは感じ取っていた。


コウキの精神的不安、それには理由があった。

「鄭成功、これで準備は終わりか?」

「保険としてレイチェルと銓から抽出した情報を移植しておいた。以前対価として貰っていてな。こっそり計画だけ考えてヘカテーを通じて仕組んでおいた。」

アルバートは大一番を飾る、思えば彼のキャリア、その初めだった。

「・・・九十九億人、これを群れる渇望に取り込ませ、必要な材料へ変換する。」

アラン、彼は何処へ消えたのか。彼の計画を掘り出して作り上げて、今叶えようとしている。

日本は放射能汚染により救えない。進化で克服した所で、他の人間が耐えれる訳では無い。それを伝えた。リアは誤魔化せるが、それ以外は難しいと。・・・何より素材の計算がギリギリ、数百人単位は軽いとは言えない。進化した人間なら尚更高需要だった。

「バカ二人の小競り合いは止められん。放っておけ。」

戦いは出来る、だが、浪漫を求めてエンジニアとなった彼はそれに丹精を掛ける。

「タンパク質、ATP、脂肪、乳酸、アラニン。エネルギー源にする。」

鉄の翼、灰の胴、総合して黒の直角二等辺三角形。

「鉄分は大事だ、金属類に回す。」

彼の作り上げた飛行要塞、その第一。方舟であり、残存人類の保管と冷凍、エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ。

「・・・予定より早かったが、こっちも予定より早回しでやれる。」

飛行要塞カリフォルニア子機、本体はこれから作る。今は小さく、実用性が自分にとっては乏しい程度だ。だが、希望にはキッチリ応えた。

後は、人類九十九億人取り込めるメンタルがあるか、限界を超えて支える力があるか。質量としてかかる事は無いが、エネルギーだけは発生する。負担だけは掛かる。

残りは彼次第、彼がその言葉をどう受け取り、どう考えるかに懸かっている。

奇跡とは、人の手で仕組まれたものだ。

それを完璧に引き出した時、奇跡として完成する。

この計画もまた、そうだ。

今迄の交際相手がスポーツ系ばっかで生理に無縁なせいで結構忘れる。数回連続で起こせば死ねる失血量な事。

あと訂正ですけど優は兄、狂は弟、闘は母の部分が多いので人格がそっち寄りです。父とか真っ先に死んで残ってないだろうとロールプレイしてそうしました。

あと8話でループマン・ウォーキングは終わるけどアクションシーン増えて話数自体は減るかもしんない。

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