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継承物語  作者: 伊阪 証
はじまり
4/73

月詠

凍てつく彼等はやって来た、北の海からやって来た。畑を踏み荒らし、王国を滅ぼし、挙句の果てには王位まで奪われた。

然して彼等は統一し、帝国となった。

彼等は公爵家を各地に置いた、王を各地に置いた。王を統べる王を名乗った。

彼等の時代においては中心から川幅10km以上の川が各地に存在し、別れていくために海岸の都市よりも少し内側に農耕に最適な場所があり、そこに城を構え、税収を確保した。

その土は奥から来たものであり、本来はあの山々こそ資源の場所である。それを知らずに、彼等は海岸沿いに土地を広げたのだ。

山々に資源があると分かると、経済格差が悪化した中で、奴隷が流行し、その為にでっち上げが頻発した、その結果、奴隷の巣窟となった山は、彼等に占領され、奴隷を使う人物も反乱を起こし、誰も彼等を止められなくなった。しかして共和国が誕生し、その後の内乱を解決したアルトリウスによって、国は帝国として復活した。見くびっていた彼等を、苦しめ続けた彼等を、何れ怨恨の火で焼き払い、世界を平和にするという目標を掲げたのだ。

彼等は決して善人ではない、だが、それ以上の邪悪を前に、正義の鉄槌を以て打ち砕かねばならぬ。それが、悪行であったとしても。

それが、この国以外では教えられないのだ。

「標高と河川の確認、周辺の人口も把握しろ。」

アルトリウスは参謀本部にて指示を出していた、予算内で出来る行動から、一つ一つ選ぶ。別の会議場所でも同じ様な事をしていた一方で、周りの人物の背が小さいのを見ると、恐らく新人教育である。男女比は7:3程度で、少し生意気な感じの女が多く、コウキは無性にストレスを抱える。男は生真面目か生意気かはっきり別れており、立ち姿から分かる程に足元がブレている。

「包囲陣はバタイヨン・カレ以上のものを相手にすると難しい。ショック死する状況下でなかったら即座に解くべきだ。」

バタイヨン・カレはナポレオンが行った手法であり、どれか一軍が攻撃を受けたら翌日には全軍で殲滅しに来るという編成で、全軍に兵科を平等に割り当て、自己完結する様にしている。兵科を平等に振り分けると過去強国だったポーランド軍の様に強い部隊を作れる点でも侮れず、突撃後は武器を変えるかどうか一度処理を挟んでいる。しかし弱点は移動と誤認、その為専ら防衛を行う布陣となっている。また、コストがあったり代用が出来れば真似しやすい為、最上とは言えない。ナポレオンの実力も、冷静沈着な元帥あってこその結果だ。

「川周辺とはいえ人口が偏っている様に思える、そこからの移民人数を確認しろ、そして死亡率を確認しろ。」

「調査人員は誰にしますか。」

「遠目で観察するのが良い、指揮官権限率を倍にする処置で手を打て。」

「了解しました。」

「それで、君は?」

「コウキです!宜しくっ!」

「可愛らしいけど、男、女?」

「男。」

「あと三年ね、食べ頃は。」

「ミュラー少尉の指揮官権限率は0.95倍まで減らしておけ。」

「グッバイカレン指揮官。」

「貢がれるから良いけど別に。」

「じゃあ婚約取り消しも追加にするか?」

「ごめんアルトリウス見捨てないで。」

「十人目の婚約者という名誉は手放せなかったか。」

「士官学校で一途過ぎて重いと言われた奴がコレか、なんとも奇怪な。」

「ゾラ大佐はどう判断する?この国境線。」

「後退出来ない状況にしてから攻め込みますかね、増水出来るでしょうけど半分は掌握出来ていない点と水資源の需要が高いのに流すのは難しいという点、都市を潰せるのに合わないとは思います。」

「盛り上げてまで狙わせようとはしていないだろうしなぁ・・・。逆に水止めるか?」

「三国で組まれて国境戦は難しいですよ。」

「魔術王以外の筆頭を挙げてみろ。」

「気を付けるべきは中央十字トップ、無礼公アイヒマン、フランツ王国大公辺りですかね。」

「今回で手札を晒す様な戦い方に仕上げる、ある程度奪ったらその人員を逆方向の国境に回し元帥を全員此方に向かわせる。指揮権は変わらず担う、将校は全て元帥とし、60万人の軍勢に仕上げる。スパイを集めても人数が多い上別々の行動をする為マトモに反撃が出来ない。」

「防衛の指揮官はどうするんですか?」

さぁ、決断をしよう。国を滅ぼすという決断はYesとは言わない。取るに足りないと嘲笑ってこそだ。

「皇帝陛下にやってもらう、俺がこの国にいるのはアレと敵対したくないからだ。」

「了解しました、配備連絡を送ります。」

「宜しく頼むよ、ボエモン卿。」

「いえ、私めなど敬称すら必要ありません。」

「それじゃあ対等にボエモン君、以下略!」

その続きの言葉を遮る様にもう1人入ってきた、ジッキンデン家の末裔にして『最後』の人間である。

「ジッキンデン卿、お疲れ様です!」

ボエモンは比較的真面目な方らしい、庶民出身とは思えない適切な言動である。識字率は決して高い方ではないこの国(主に妖精にも権利を認めている影響)においては希少である。

「不能卿ジッキンデン、不能卿は自称だ。」

「謙虚?」

「謙虚で不能を名乗る人間はそうそういないぞ。」

「ランヌ元帥みたいな奴だ、変わった実績と女運の無さが彼の象徴・・・各国外交官と浮気したり王族に干渉して支配しようとしたヤバい奴が婚約者だったがアルトリウスに手を出そうとした所気が立っていた彼に殺された。・・・誰かを貶したらしい。王宮法違反のテロリズム拡散に関してに則り無罪だったが。」

「アルトリウス攻略大全だってよ凄い本だな。」

「誰だよ書いたの。」

どうでもいいという顔をしたジッキンデンが地図を指差しコウキに戦略を叩き込む。アルトリウス直属なのだからという信頼があるという一面もあるが、産まぬ人間の軍事転用をそれまでの間一応取り決めている。

「コストは嵩むが万能騎兵を用意する、一応前段階は出来ている。」

「万能騎兵?」

「様々な武器を持った騎兵だ、変わった装飾で挑発、耐久を行いつつ、変則的な突撃をする。一回でも突撃に失敗すると終わりだ。」

「右には砲兵を配置、そこの突撃は散兵で行く。」

「・・・でもこんなスピードで行けるの?」

「3km以内に接近したらサラブレッドに切り替えるんだよ、このルートは予め配備してある。」

「今回の戦いにおいて必要なのは捕虜だ、重要な部分を潰して逃げた奴から確保。」

「騎兵はコストこそあれリターンも手に入る。講和なんて最初っからされないから派手にやれ。」

以上が第一作戦会議である。

では第二作戦会議が引き続き行われる、防衛に対する攻撃をどう行うかとその懸念である。

「河川は恐らく毒だ、撒いた訳じゃない、元から病原菌の巣だ。」

「人口か、重要拠点と勘違いさせる事が出来れば確かに良い。」

「汚職事件が多いが裁かれない、蜜月関係なのではなく流刑地で契約している。」

「挑発が来たら確定だな。鯨油と牧の輸出入についてチェックしておくのも追加した方が良いんじゃないか?」

「良いな、それ。」

コウキが眠そうに言った。

「作戦会議始めて19時間目だよ、寝なくて大丈夫?」

「政治家において重要なのは体力だ。そこを疎かにすると弱腰外交か強硬外交になる。他の国は老人ばっかだし、若くてもデスクワークしかしていない奴に体力はない。一日二十時間の会議を二週間継続、休憩という名目で別々の人物に送り、元から軍務経験の多い此方はまだしも、スパイは無理だ。」

「そしてダガンが逃がさず仕留める。うん、完璧だ。」

「完璧・・・?」

「・・・まぁ、一番マシなんじゃないか?」

「・・・そうだね、うん。」

「魔術王が出てきたら確定で勝てないから兵糧攻めで一応追い込んでいる。抑圧が足りないし他国境にスパイを送り込めなかった。」

「この国じゃなきゃ出来ない、普通の国でやったら勇敢な国民とやらが反発し終わる。国境付近の輸送をどんどん壊して奥の方に移動させる事で買うにも運ぶにも苦労させる。川の上流はこっちだから水を止めれば輸送も封じれる。」

「封じれるだけで防衛は維持出来ない、大河を止めるなんて馬鹿げている。」

「坑道にでも流しておけ。」

「火事が起きたら流せる様にしておきます。」

「良いんじゃないか?」

コウキは別の統計を覗いて言った。

「それにしても凄いね、アルトリウスのカリスマ?」

「この国は軍人経験があると保険で金銭支援を受けれるし政治家における権力も固められる。」

「二十人元帥が存在し、その内五人がアルトリウスとその部隊。私も入っている。・・・その元帥より上の階級もあるし、夢と希望に溢れた仕事だ。」

「環境整備と食料整備を完璧にすれば逃亡兵は遥かに減る。突貫整備部隊はキツいけどな。」

三枚紙を捲った、そこには偉大な王の地という風に記載されていた。

「残念だが資源はあるが土地の面積は全然違う、こういうのは盛られた地図を渡される。国の配置も歴史も包囲されている。つまりだ・・・。一年、それがタイムリミットだ。そこまでに最低一国は滅ぼす。」

「チェルノボグが死んだ瞬間財政が破綻し国が消える。魔女の全員確保も必須だな。」

「コウキが後任をするかどうか分からないけど、もしもの場合になったら強制的にここだからね、良い?」

別の人は続ける、彼は語る。

「この国はカルタゴの様なものだ、敵は資源不足のローマ。二十人を予想外の手段で殺せばいくら皇帝陛下とはいえ滅ぼされる。」

また別の人は忠告をした。

「王国、共和国、商国、連合国、連邦国、二重帝国。国名はこの国だと発言禁止となっているからそこは押さえておいてくれ。」

「なんで?」

「王侯貴族から逃げてきて恨んでるのが多いから。そしてその人員が国を作ったから、以上。」

「環境が良いなら捕虜を受け入れる待遇はどうなの?」

「捕虜の待遇か?保釈金は不要、経済格差的にこっちの方が儲かるから殺す、薬漬けにして殺す。・・・使えそうなのと忠誠心が無さそうなのは引き抜くが。」

「痛みに対する訓練としては最高のものだ、これは無くてはならない通過儀礼だ。」

「この子、結構賢いのでは?」

「賢いと利益的かは別物だよ。」

「軍人は通常評価品目と特殊評価品目の二つで決まる。どれか一つの兵科をこなせると前者が、後方支援に関して専門的な医者等の人間は後者が基本になる。ちょろまかさないように兵站の場合暗殺班が存在する。・・・そっち方面に興味はあるか?」

「・・・?」

「コイツも寝てない、今あまり聞くなよ。・・・すまん、確認し忘れていたんだが最近の歌はなんだった?」

「豊作の時の奴ですね、士気高揚には良いかと。」

「なにそれー?」

「ヨーデルみたいなものだな、実際数千キロ単位で伝令を行える。五日以内で出来れば完璧だ。」

「遊牧民だったの?」

「どっちかと言えば海賊だな。船乗りの仕事が盛り上がったものの馬の改良で船が衰退すると『思った』そうだ。」

「実際はそうならなかったんだ。」

「ならんよ、無理があるからな。」

「可愛いよお馬さん。」

「世の中の奴は船が可愛いと言い出すのがいるから無理だ。」

「そんなぁ・・・。」

「コウキも子供だ、寝かしてやれ。」

「えー、もう少し遊んだって良いじゃないですか。」

「じゃあ一緒に寝てやれ。」

「分かりました。」

今日だけで百人は接触した、段々と思考は鈍る、眠気に襲われ、脱力する。


その中でもコウキはもう一つ気になるものがあった。彼は漠然と過ごしつつも、ひっそりと心に目指した野望があった。名前からして彼はローマ式、つまり本名、親の名、家族名の組み合わせである。彼のはコルネウスという親がいる事になるのだ。

「・・・知ってる?」

「親って・・・アルトリウスのか?」

「うん。」

アルトリウス本人も仕事を終えて返ってきた、そして先の話をすると彼は一度警告をし、覚悟の上で聞いた。

「とっくの昔に殺したよ、あの両親は。」

父はコルネウス・ユリウス・カストゥス、二王制だった当時に王を務めた賢王と言うよりは暴君で、実力はあるが、軍事において財政を悪化させた。母は様々な異名を持つが『東の王』という童話に用いられた英雄である。

母は不受胎が多く、また、家系の影響もあって『実力なくば当主は継がせず』という風習においてアルトリウスは頭角を現し挑戦。

母の四肢を生きたまま削ぎ、失血させない事で知識を見せつけ、更に裏に仕込んだ兵卒を生け捕りに、残酷に殺した上で不受胎を良い事に青少年を強姦していた事に関して問い詰め、心を折ってから殺した。記憶が絶望で終わらなければ逆に乗っ取られる危険性があったからである。

父は母の死体を見て怒り、善戦するが、敢えて撤退したアルトリウスと母が裏で行った事を知る時間を与え、正しく葬り、納得出来る様に殺した。そして双方の死体を食らい、倍の記憶に、使命と寿命を継いだ。

「当時は20ちょっと、あらゆる手段で潰し、自分自身が長生きする事で家の風習を捨てた、結果、血縁から活躍出来なかった人材や埋もれた人材が発掘されたんだ。英雄を越えた英雄、不倒の怪物、ヴィンディクディヴで魔術王と複数の公爵がいた全盛期の王国を挫いた男。最終的にそうなった。優秀な人間が出たが、結局死んでゆくから助けてくれた英雄に全てを預ける。それを何度も繰り返し彼が只管強くなる。」

「・・・そうなんだ。」

「人間は死ぬべくして死ぬものさ。気にするなよ。ちょっとだけ多く考えてやるとか、そんなんで良い。」

アランが出ていくとコウキは目を遣る、アルトリウスが話を聞くがいつもの事だ、気にするなと慰める様に言った。若干眠り転けると、彼の部下が変わりに抱き抱える。


街並みを横目に、港の方に向かうアラン。エンジンの音が僅かにするが、目の前でやっと聞こえる程度であった。なんとなくジョーズのテーマがかかっている気がする。

それに合わせて来るのは一人の男、彼はドナルド、ドナルド・シャーマン。宇宙関係の科学者であり、実績や過去はマトモであったり、ロマンチックな恋の様相がメディアにばらされ、理想の夫婦として有名人でもあった、一回の実験記録以降死亡扱いとされ、悲劇に終わってしまう。

そのメディアに露出した面影は一切無い、だが、プライドは何処までも存在した、結果アランと技術提携の協力関係となっている。

「アラン、調査結果だ。」

「本当か、確認させてくれ。」

医療技術の流出を防ぐべく、彼に一任した血液検査の結果のみを受け取った、ラテン語の記述。また、記憶の調査と記憶注射の製造を依頼し、洗脳されているかどうかの確認とか、彼自身の考えに従ってやりたい事だけをやった。

「コウキは、産まぬ人間に殺された人物だ。・・・そして今回得たものに記憶もある。複製も出来た。後は本国でクローニングをして記憶注射で復元する。

実際の見た目は恐らくこんな感じだ。」

「全然違ぇ、背と体重はどうなんだ?」

「背は165、体重は70。吉田沙保里も平均とあんまり変わらんからアテにしない方が良い。武道の知識と薬の知識が多いから怪我で休んでたと思われる。再現出来るかどうかは不明だ。」

「徴兵規約に引っかかるとスパイ活動に支障が出る。」

「スパイ活動に加担するかどうかは分からんぞ。」

「・・・ああ、そうだったな。」

アランの気の速さを抑える、存外に冷静、或いは冷徹な様だ。

「私の記憶、寿命、使命はアルトリウスに継承させる。だが、記憶は彼にも渡せ。」

「承った。首のそれを退けてくれ。」

「いつだって昔のアバターロボットを体験するのは嫌いだ。」

「慣れれは楽だぞ。」

DNAストレージに記憶形質を組み込む、心臓と脳のクローニングも可能ではあるが、専門的知識を排して可能にする点でもスタンダードなもの。マイクロチップにはデータ送信用数KB分の通信しか出来ない、それと比較してこれは数TBを一分未満で送信、定着は人のスペック次第だが解凍するよりかは早い。記憶注射という道具である。

「産まぬ人間の恐ろしさは分かっている、だが、殺す必要のある人物と考えてはいないだろうな。」

「相当なやり手だ、暗号を感情で読み取ってくる。何をしようとしているのか、少なくともお前は見透かされている。」

「・・・一つ提案だ、敢えて泳がせるのはどうだ?私はアルトリウスの計画に賛成はしたが他の意見が無かったからってだけだ、裏切りがバレない様に記憶は選別しておいてくれ。」

「分かった、だが、提案についてもっと詳しく説明しろ。もしかしたら彼女が交渉に応じてくれるかもしれん。念の為に陸上巡洋艦とアイアンサイドを用意しておく。」

「焦土にするのは良いが、徹底的にやってくれよ。」

アランは別れ、エンジンをかけられたボートを見送る。燃料タンクを入れる様が見えたが、どうせすぐにクルーザーに格納するだろうと少し目を逸らす。


クルーザーに滞在していたのはシャーマンだけではない、代理役、そしてシャーマンの国の人権を有する二十人の一人、名は初代アルバート・アイアンサイド、投石で竜を撃ち落とし、戦わずしてライオンを屈服させ、吸血鬼に血を幾ら吸わせても死なない怪物。戦略的に上手だったアルトリウスに負けたものの、過去一番に追い込んだ実力者。

もう一人はアルトリウスを支える右腕ダガン、彼女と話していた。

「アランはまだ足りないアルトリウスと比較すると。」

「知らねぇよ、成功したかどうかだろそんなん。」

「君達はまだ理解が足りない、理というものにな。彼はもっと考えるし、理解している。」

耳を食む、続けても何も起きんぞと鼻で笑う。

「薬物、武器、政権、核兵器、経済、エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ。・・・これらは全て一人勝ちに誘導できる道具であるという共通点がある。」

煙草はECHOとほぼ同じ、床にカートンで置いてあり、ライターは無い為、ダガンに付けさせる。

「カニバリズムも、例外ではない。劣るだけでその一つと言えるのだよ。」

辛気臭そうに彼は言い放った、それに良い思い出がないかのように。

「アルトリウスは知っている、そして、アランは理解した。さて、お前はどうする?」

目を逸らして言った所、一気に詰め寄られ、寧ろ目を逸らせない様にされた。その意思は分かり兼ねるが、逆鱗を踏んだ可能性もある。

「もう一度聞こう、ダガン、お前はどうする?」

「さぁ、私は必要な事をするだけ。」

「エレンの始末に使われてくれるかと思ったんだがなぁ。」

「無理、人海戦術を地で行く奴とやりたくは無い。」

「そうか・・・一つ任務を引き受けてくれ。」

「報酬は?」

「未確定、交渉次第。内容は『英雄誕』の確認だ。王国が保有しているという情報があった。」

「『誰の』?」

「『パンドラ』のだ・・・病死という概念が消失した原因が完全に不明だ、仮説から逆算するしかない。」

「確認次第報告、返信内容次第だけど応答が無かったら盗む。そんな感じで良い?」

「問題無い、我が国には存在しない代物だからな。」

「報酬上乗せ、よっろしくぅー!」

「はしゃがないと可愛げのない女か、十代の女か?」

「レディに年齢は聞かない方が良い、特に眼鏡かけてる奴は。あと体重と性別も。」

「忘れていなければそうする。」

アイアンサイドは小さいバッグを渡す、ランドセル、元が軍用だからかそれを選んだ。ダガンが断片的な情報しか知らないからか背徳的な性癖を持っているのではと思っている。それはそれとして貰っていく。

「この注射器と薬品を渡しておく、コウキが・・・いや、奴が喜ぶだろうよ。」

「・・・へー、あの子、知ってるんだ。」

「建物内でなければ大体は見れる。勿論焦土にも出来る。我が国の片手で数えれる人権保有者であればな。」

「アルバート。」

「覗きは感心出来ないか、だが、世界を終わらすのを避けた、十分金星だろうよ。」

「生理的に受け付けないだけよ。」

彼女は立ち去る。


彼は言った。

「・・・ああ、君がコウキなのか・・・。厄災なんてどうでも良い、根元から止めれるのはやはり彼だけだ。アルバートもアルトリウスもアランもメンドゥーサも出来なかった偉業を成し得るだろう・・・。魂は肉体の子、そして究極でもある。もしもの場合に訓練プログラムを組んでおこう、私の役に立てる人間は珍しい。心を閉ざした少年の気難しさは何よりも面倒だ。難しくはないんだがなぁ・・・。」

・・・コウキの周囲に思惑は蠢く、彼の存在が唯一無二であるかの様に。


アルトリウスとコウキは暇な間、船の用意を終えた為少し待つ、その間の話だ。

「アポロンの正体?分かんないよそんなの。」

「いや、宇宙の知識があるかないかって話だ。」

「宇宙・・・。」

「そうだ、特に月の知識があると良い。」

「あれ・・・あんな形だっけ。」

「アポロンという剣は人工的なウランを生成する異常な物質、ダークマター、ダークエネルギーに該当するものだ。」

「え?そうなんだ。・・・凄い値段で売れそう。」

「売るな。これは月から飛来した剣とされている。月が人工衛星って説があったろ?」

「あったね、一番面白いのは国語の教科書に評論として載せたけど同時期にこれが浮上したって事かな。」

「時代遅れになる前に仕事はしておけ、説が出てから結構経って出たろそれ。」

「載せたのは相当後だったねぇ。」

「・・・まぁ、月に人工的なウランがあるのは道の物質からの影響という可能性やその様な生物の可能性が示されている。」

鞘を持って、等身は見せずに言う。

「・・・この剣は正にそれだ。ウランを用いて危険な状態のまま転用、鞘の技術はアランでも説明出来ないらしい。」

そして剣の鞘に書かれている文字は古代の日本語、解読は難しいが、当て字で読める時代のものであった。

「月詠?・・・もしかしてだけど、天叢雲剣と同じ立ち位置の剣?」

「・・・?」

「雨は雨でも・・・。」

呪われている刀、そんなものと言って差し支えない。憎悪が根源とされる、理屈化された幻想の剣。神話的存在を科学と紐付けたもの。

「ろくでもない契約を結んだな、本当に。」

『コウキ』は言い切った、目覚めは遠い、しかし彼は依然存在する。

そして、アルトリウスは気付かない。全く彼らしく無い、その直感さえすり抜けたコウキという存在を、シャーマンは唯一観測していた。

宵も月夜、狂いの星は彼等を照らす。無数の視線は影を避け、只管に見るのだ。


前線基地を仕込み、準備を始める。彼は

「第一師団から第五師団は問題無い。」

「アルトリウス卿、勝率は?」

「戦略的撤退を前提とした勝負だ、夜まで粘り、城塞から引っ張り出す。これはまだ使っていない戦術だ。」

「幾らなんでも最高峰の兵士しか揃っていない第一を動かすのは・・・。」

「早めに東方に回す為だ、双方の犠牲者を敢えて増やす事で泥試合を切りづらくする。」

「・・・アルトリウス卿、何を考えていらっしゃるので?」

「コウキにジョーを回収させる。恐らくコウキを攫う事を王国は目的にしている、何人か記憶を介して乗っ取った連中も混ぜた、何処に居ても逃げれる用意もした。ジョーの存在はユウキがかなり危険視している。確保は将来の為に必須になる。」

「ジョー?そんな危険人物なのですか?」

「いや、どんな暴力を受けても決して暴力で反抗しない良い奴だよ。・・・ただ・・・。」

「ただ?」

「人類はアレを嫌う、そういう風になってしまうんだ。」

少し深刻な顔をしつつも、嫌そうな顔を見せない、自信に満ち溢れた彼にどうも偏見を持たないのだ。

アルトリウスの婚約者

半ば神格として扱われるアルトリウスの婚約者はアルトリウスをフェイクとして扱うのに必要な過程である。十人中八人は亡くなっている。

一定以上の実績を補償出来た後、その人物を保護に回すべきとした時、本人の同意を得て婚約出来る。例外としてチェルノボグには保護命令が取り消されている。

衣食住、名誉、爵位を約束され、アルトリウスの寵愛を受けるという名誉も与えられる。

子孫を残すという義務もあるが断る事が出来る以前にアルトリウスが帰ってくる頻度が少ないので会う事は珍しい。そうして保護命令に反し、死んでしまう。


徴兵法

製造、調理、整備等の一次、二次産業は軍事において兵役免除が行われる。(ただし通常のそれよりは多く行わなければならない。)

それらは特殊兵役に指定されており、前線に近い程大きく評価される。また、それらの評価の高い者は各都市に張り出され、指揮官からの推薦によって貴族に任命される場合がある。

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