破滅
王都突入前の話。
チェルノボグがギリギリ、駆けつけた。それに引っ張られるエレミヤは手を伸ばす。
「未だ血は残っているか・・・ギリギリ蘇生出来る。心拍数が抑えられてる影響でなんとか保てているな。」
「ギリギリ、運が良かっただけね。」
「・・・高エネルギー反応が離れた場所にあるんだが・・・。流用するか。」
手を傷口に押し当て、身体を擬似的に同じくする。
「・・・十分だ、良し、接続が済んだ。残りは再生を徐々に行い、終了まで粘る。」
エネルギーを流し込み、再生用に仕向け、抗体の活性化で細菌の駆除も並行する。
「手の内を読まれてる感じがあるな、確かに。保険というには組まれ過ぎている。」
「凄いでしょ?アレ私の夫。」
「・・・。」
「取り敢えず分からない事があれば全部彼が原因よ。」
正直、嫌いだ。魔女という言葉には因縁がある。そもそも王国では迫害対象である、自分は正直どうでも良いと思っているが、耳障りは良くない。そう思って好意を何とか留める。
「包皮事件を思い出すな・・・。」
「何それ。」
「女の人が口の中にぶよぶよと柔らかいものを感じて目が覚めたら特級の聖遺物が置いてあったって話。」
「半周回って呪物じゃないそれ。取り敢えず聖遺物とか冤罪でしょほぼ。」
落胆というか。あまり聞きたくない話だ。自分と同じ年齢で、話を分かってくれる上に強い、聞き流すとも大きく違う存在。心が大きく欠けた中では好きにならざるを得ない。好意と同時に、他者への敵意が強くなったのだ。
「・・・負のエネルギー、ドーパミンか?・・・心理的負担が大きい感じがする。」
「魔術ってそういうのも見れるのねぇ。」
「ある程度の実力と馴れが無いと見れないぞ。・・・うーん、不味い、起きたら待機してくれ。自殺を反射的にする可能性がある。」
「・・・マジ?」
「嘘を言う余裕は無い。」
「そうか、ありがとう。私に任せろ。」
エレミヤが言い放つ事には・・・。
「もう、彼女の記憶は戻らない。脳の奥が損傷し、自決する程度のストレスがある。取り除かなければ蘇生は不可能だと断言する。・・・どうする?」
チェルノボグはあまり時間を掛けず、知る事情から決めた。
「・・・私の独断で、責任を負って決める・・・。」
彼女は、衣服の滲みで全てを理解していた。恋と、叶わなかったが故の挫折。それを理解した上で、若き英雄の挫折として刻んでしまったとしても。
「私は解決出来ないが、理由にはなれる。蘇生を強行する。」
「・・・責任は半分、受け取る。」
「ありがとう、言葉だけ受け取っておくよ。」
エマは蘇生する、寧ろ前よりも健康な姿になって。悪意の玉座が残した人間達に奪われた記憶。戻る事は叶わない。
アルトリウスの最も優れている所は強さではなく、勝率だ。サボタージュが常に発生し、同時攻撃が成功しない。アスタルトの分析が介入し、阻害されるのだ。
仮に攻略するならば捕虜を一名も出さない様にするか、或いは全く戦況を動かさずにアルトリウスを殺害するか。
アルトリウスを殺す事が戦局を変えるのに影響し、その影響の為に膨大なリソースを消費し、疎かになった部分を叩く。そんな陣営の手腕がある。
アルトリウスが居なくてもある程度は戦えるのだ。
・・・それはそれとして、アルトリウスの実力は確かだ。彼は強く、そして特殊な存在である。信仰を作る為に作られた人間なのだ。
・・・故に、妄想さえ押し付けられる。ローガンにとってそれは酷な話だとしか思えない。・・・自分には足りない、遥か空の英雄だ。とはいえ、頼られる嬉しさは何となく存在する。
リーツィアは、ローガンに会った。
「・・・ちゃんと戻ってきたな。」
補足程度に彼が付け足す。
「アルトリウスの話によると、その災害が変化させる対象は、本人も含むらしい。」
木箱を運び、鎧を船から下ろすリフトに乗せる。
「・・・そう。」
哀愁ある声を聞き届け、悩みがあるかと別の場所に移った。流石に今触れる訳にはいかない。
「私は、役目終わったし、この状態を狙っている組織も居る。だから、死んでも問題無いかな。」
彼女は彼から受け取ったナイフがあった。鋭利で、簡単に心臓を貫ける形のものだ。
「私は死ぬって決めたんだ・・・駄目だ、駄目だ。振り返るな。」
胸へ斜めに、素肌に赤を露出させる。
「・・・コウキ・・・。」
奥深くにそっと、届くまで探る。
「・・・ごめんね。」
コウキは、二つ話さなかった。
己が元々災害である事。
それを話せば、また違った結果になっただろうに。
災害が本当に害であるかは誰も知らないという事。
それを話せば、また違った結果になっただろうに。
「・・・止めろ。」
血の臭いを嗅ぎつけた彼は反応した。一瞬錯覚し、思わず彼女は振り向き、刺すのを緩めた。
「公爵、それは英雄の位だ。横暴を通し、後悔となりうるものを消す。」
先ずは時間稼ぎ、ミランダ警告程度には心が和らげば抵抗を抑える筈。錯覚が解けた彼女に猶予を与えない様にしたが、人間であるかどうかは未知数。・・・錯覚してそれが悪意の玉座の判定に入ったら死ぬ、その程度にはリスキーだったが。
「お前は、恐らく他人に託した。遙か昔の死で、俺も同じ事をやった。出会う必要は無い、彼奴を苦しめるかどうかを考える必要も。・・・だが、諦めた先には何も無い。」
自分の過去を語らずに、少しばかり断片を見せ、共感を誘発する。そこまで出来れば残りは彼女の冷めた熱に任せるとしよう。
「少し位、憂さ晴らしの旅をしろ。・・・旅の先々で私かアルトリウスにつけておけば良いさ。」
そう突き放し、彼は彼女を道に進める。その通りに、彼女は街を歩き始めた。
リーツィアは、彼が生きている間に会う事は無かった。それでも、生きている。
「私は犠牲にならなきゃいけない・・・そういう存在に既になっているの・・・でも、ここまで来ちゃったから引き返せない。」
その覚悟は人知れず自分に刃物を押し付ける。災害という人類の天敵として。
だが、全ては一変する。
「・・・コウキ?」
「おう!あたしの名前を呼んだか?」
「いえ・・・人違いです・・・。」
「戸籍で似た名前無いから有り得ないぞ。」
アップドゥスタイルに白の軍服、体型を隠しつつもガタイが良いとも感じない、身長も決して高くない、程よい美、男女ウケを違う視線で出せる雰囲気の男・・・であろう人が居た。
「まぁ聞け、あたしはコウキ・タカハシ!似た奴居たら教えてね!」
「・・・男?」
「性自認はどっちでもないが他の奴がヒモ男(狂)、ダメ男(優)、ヘタレ男(察)だから尻叩きデキる女を目指している。」
「(あんまり話しちゃいけないタイプの不審者だ。)」
アップドゥスタイルが全て無駄になる上品さがない相手・・・品性はあるが、それ以上に何か微妙な感じがするのだ。残念な美人という奴だろうか。
「カン・ニイミ。・・・此奴が俺をコテンパンにしたが作戦指揮は俺が向いていると任されただけだ。」
コウキより高い位にありそうな衣服、こっちは服品性が追いついてそうな男が居た。しかし彼の方が良いだろうと手を引き、良心が消えた絶望を噛み締める。
「・・・まぁいいや、リーツィアちゃんだろう?・・・ダメ男から話は聞いてある。」
とはいえ、と少し迷った。彼はこれから帝都に用がある。遠征公の部下が道案内をしていたのだ。
「工廠公の所に渡すか、あの人しかこういう相談は出来ない。」
手を強く引かれ、そして握られた刺激が心を動かす。・・・この手は、確かに彼の手だ。感動に唖然とし、涙を忍ぶ。
「困るとか、少しでも引っ掛かりがあるならあたしに頼んなよ?・・・ね?」
闘のコウキはそう伝え、抱き締め、また会える様に囁いた。リーツィアはもう少し生きてみようという希望を持って生き延びた。
察のコウキは、災害や記憶喪失を通した彼女達を見て、心身を狂わせた。挫折した訳では無い、諦めた訳でもない。頭を何度打ち付けたか忘れ、実力不足を思い知る。自分が強ければ、こうならなかったと自覚しても、気絶するまで叩きつける事になった。
地下を蹴破る。コウキの体を借りたジョーは元から死にかけのコウキを酷使し昏倒、当分起きないとされた。
「盾役にして済まないな、あの剣は今使えないから防御が格段に薄いんだ。」
薄いと言っても剣を自爆利用してダメージが入る程度それ以外にダメージとなるものがほぼない。魔女の恩恵が彼にはある。謙遜どころか舐め腐っているも同然だ。
「窒息ギリギリ、人数も多くは出来ないね。」
「そっちは呼吸大丈夫か?」
「もしもの場合は大丈夫。」
「駄目じゃねぇかなそれ。」
「そうだね。」
「もう少し奥まで行けるか?」
「なんとか。」
サイズ感の問題があった。コウキの個体としては産まぬ人間自体が未熟、1.5mと2mオーバーで全然違う、潜入にもうってつけだ。
「トーチトーチ・・・良し。」
「ガスあるから気を付けろよ。」
「うわそうじゃん!消火!」
「口の中に突っ込むなホラーだぞそれ。」
「もごご。確実な消火だし。」
「どっちかと言えば消化だ。」
そして暫く掘り続けると、何かを発見する。
「あ、何か本あった。汚れてるだけで無傷だ。」
「読むと引越し作業あるあるになるから読むなよ。持っとけ。」
「はーい。」
恐らく書庫の残骸だ、カオルコが罪状帳消しにする要件は満たしたとはいえ、取り逃しは感心しない。割とサボる気質なら尻叩きにコウキを配置しておくか。
「空洞がある、妙だな。水道管引っこ抜いた筈なのに。」
本を背中に背負う、ネクロノミコンでも拾ったのだろうかという位大きいらしい。瓦礫を退かし、道を切り開く。
「麻原彰晃みてぇな事してんな。」
全然砕けないとピッケルで叩き続け、多少傷が入った所でアルトリウスが手を貸す。
「手を怪我するから俺がやる。」
そう言って足を振り、壁にヒビが入り一部が破壊される。
「・・・不味い、支柱が崩れた。」
「・・・え?」
自分は突然部屋の中に投げ込まれ、その後から瓦礫の小さいものを被った彼が入る。
「・・・帰り道も切り開くか。」
目の前は開けた空洞、それにしてはコンクリートの壁、多数の扉、巨大な建物。日差しが入り込む窓が存在する。角ばった赤レンガ倉庫・・・というのが一番近いだろうか。
「・・・気をつけろ、魔術の神、メルリウスは封印されていると言っていた。罠が存在する可能性が高い。」
「・・・うん。今度は壊せないしね。」
「俺が破壊神みたいな風評が付く言い方は止めろ。」
妙だった、相手の位置は確か、建物の中は普通の家、再生力に全てを当て、怪我人を治す。・・・そんな穏やかで朗らかな青年が魔術の神であった。
「・・・全然そんな感じしないね。」
「・・・ああ、だが、一応連れ帰らなきゃ誰かしらに利用される。」
「連れ去れば良いけど、交渉しても良いんじゃない?」
「・・・それもそうだな。」
許可を取り、堂々と建物に入る。ノックをし忘れたので入った後で鳴らす。
「てへ。」
「窓から入ってくるよりは安全だから問題無いか。」
すると向こう側、廊下の奥から声が聞こえる。
「怪我人か?」
「健康です。」
「時差ボケがある。」
「対象外だと思う。」
時差ボケと言っても時間引き伸ばされて通常の時間で過ごすのが無理という話だ。慣れるのに結構時間が掛かる、宇宙旅行の反動を思い出す。
「魔術、治療目的のものだ。どんな病魔であれ、昔の状態に戻す様な感じで治せる。ちょっと力を加えるだけで消滅する。」
一人を治し終え、寝かせる。再生に引き裂いた分疲れが押し寄せたのだ。
「いつの間にか治っている・・・寿命は減るが、それ用に動力源が上にある。減るのも数秒だけだ。・・・とはいえ悪影響が無い訳じゃない、使い過ぎは厳禁だ・・・。」
十人の内大半を治した。流石に首だけの遺体は治らなかったかと抱き締めた後に壺に納める。
「便利だろう?半身を失った甲斐が有る。半身は捧げられたものだから自分のものじゃないけど、拒絶反応も治療の範囲だ。反胃とかは治せないって聞いたけど。封じてしまった分、使い勝手は悪いが治療手段として普及させたい・・・君達もどうだ?」
自分は高尚な話だな・・・と思ったが彼は違う、アルトリウスはその言葉に苛立ちを隠さず、敵意を剥き出しにする。
「・・・今の魔術は治療行為に使う事は出来るが、使われてはいないし、寧ろ命を奪う。それも戦争以外、生産の為だけに使われている。」
魔術による死人は推定千万人とされている。そして、大半は戦争ではなく、エネルギーとしての利用で酷使、最終的に死ぬ。・・・彼はそれを黙っているのではないか、罪を証明しよう。
「メルリウス、記憶を叩き込め。」
遠くにいる彼に声を届かせる。声という最も単純な手法で壁を突破する。
「・・・俺等の神様は、もっと考えているさ。」
魔術の神は言う。
「・・・最初の死者・・・。」
突如、建物を巻き込む程の大爆発が起きた、壁が消し飛び、天井が崩落する。
「狂!やれ!」
「あいよっ!アルバートに要請する!」
大規模爆発をもう一度起こす、今度はブラフ、音と光を主としたミスった花火の様な一撃として。
「チヌーク!?・・・どこの勢力だ?」
セントエルモの火が遠くに浮かぶ、間違いなく航空機、光が影に溶け込むのを阻止する。
「ベス!対空防衛!!」
『了解ッ!!』
余分な剣を投げられた事に対し撃墜、破片対策込みで撃ち落とす。
来る、直接叩きに来るぞ。ラペリングを逆巻きに、自分の方だけを切断する。上空100m、衝撃が地平線に平行な形で現れる。
全員、特に知っていた人間程その攻撃の重さを知っている。
「アルトリウスの防御を突破しやがった!?」
優のコウキは顔面に叩き込んだ。
「全然傷付いてねぇじゃねぇかクソッタレめ!!」
駄目だった、頭蓋の方に衝撃を与えたが、多少ブレて反撃の緩みを与えただけ、不意打ちと大差無い恩恵の時点で価値は無い。
「駄目だ、近付くな。強さが未知数だ。現状だけで判断するなら世界に五人と居ない実力者になる。」
部下にそう指示した。
「危険を鑑みて出す事は認められない。腕が何か知らんが、ジュデッカを中和する時点で異常だ。」
指摘するは腕の部分、視線を向ける様に言って、状況を説明する。
「あの腕、接合されていないか?」
腕が燃焼を起こす、オーバーヒートだ、電磁グローブは次で爆破を起こすだろう、向こうは機械の知識もある、その上で使用する。
不意を突く、完全に決まった。排莢を引き戻し差し込む。
「・・・全然意味ねぇクソッタレぇ!!」
頭のネジが外れた奴は一番手が読めない、慣れがあるのに流儀が違う、殺しに来ている、武道が武道として機能していないのだ。既存の技術形態から外れる悪意の集大成。
着地タイミングに最後の一度を振り絞りもう片方も使い切った。
「・・・燃えたか、腕が火傷する前に外せる様にしておくのは正解だったな。」
衝撃自体は影響あり、ノックバック主体で罠に掛ける方式が現状最も相性が良さそうだ・・・罠の方式とか、攻撃が致命傷として運用出来るラインの調査に移行する。
「ジュデッカを置いてきたとはいえ他にも支えがあるか。」
「コキュートスの事か、ああ、どっちも人類が作った最高傑作だよ。」
運だけが頼りになる、それ程に実力は差があるのだ。運でしか平等になれない、その運でさえチェルノボグによって調整されている。勝ち目と言える大層なものは全くないのだ。延長か、死。その二択を常に迫られる中で相手の死の可能性をどれだけ掴めるかに懸っている。
「人類の最高傑作とやら、核兵器で多数をぶっ殺したお前には相応しい発言だな!最低な英雄アルトリウス!!」
「そりゃ事実だ、だが、仲間の強さを理解出来ただけで万々歳なんだよ!!」
「うっせぇなぁ、殺したんだから意地張らずに吐いとけよカス。そんぐらい人として悩むのが筋だろ悪臭モグラ。」
エネルギーの供給が足りた、第一の奥の手を使う。
只単なる水・・・それは何の変哲もない水である。純水なのだ。王水は物を溶かす能力の強さで有名だ。その一方で溶かす事が出来る量は少ない。
水もまた、物を溶かす物質である。そして、『何でも溶かす物質』に現状最も近い。
それを用いて魔術を行使、溶ける時間を省略する。
「(エネルギー調整ミスったな、余分にATPが一部分解された。乳酸がちょっと圧迫してくる。)」
複数の航空機、ベスの超長距離放水砲が水を流し込む。最初に産まぬ人間を無力化したのが正解か。アルトリウスにもバレていない。
「(感覚は掴めた、メインとしては運用出来ないが道具の排水を利用出来たら再度実行するか。)」
数々の計算で作られた王国の魔術を、彼は見た直感で全て補う。差し出せるものが多いとはいえ、リスキーな行動は大半が出来やしないだろう。
災害は技術提供であろうと問題は無い。結果として犠牲の方が多ければ、それは実績である。
故にコウキ、いや、群れる渇望は世界最大の災害であろう。彼の教えた技術は数千万人の犠牲を産み、更に広まって億単位に影響を及ぼした。
・・・名に恥じぬ、いや、今や名前負けする程弱い。だが、彼以外が強くなった訳では無い。
「群れる渇望の再来だ。」
十の能、予想よりはショボかったが問題無い。格別強くはないが使えればそこそこといった所か。
アルトリウスにダメージを通すのは厳しい、簡単に説明するなら彼へのダメージは全て利息の無いリボ払いの様に消化され、より多くの時間に一定量積み上げられる。時間軸の差異、更に時間が遅くなり、そもそも届いていないケースもある。
更にロタールの毒についての話はしたが、彼はもっと危険な原子力という毒を有しており、抜刀すれば原子力事故が起きっぱなしになる。
「行けるな!」
能が三つ発揮される、光陰を拳が叩き込む、武器を所有する事が出来ないのが明確な欠点か。
「・・・別人の腕だな?人間のものではないだろう。」
「明かす訳ねぇだろ。」
指を溶かした、肌も一部溶かした・・・だが、直ぐに生え治る。
「・・・マジか。」
見た目から来るスペックに対し実際のスペックが段違い、出力は当然、それ以外も凄まじい。
そして先に明かしておこう。あれはシャーマンの腕だ。彼が交換したのは自分とシャーマンの腕、放射能耐性が高い所か克服したもの、奇形タンパク質がそろそろ馴染む。
「対人以外で効果を発揮するならまだしも、対人以外ではそうでもなさそうだな。悪意の玉座があの身体能力で気付かない筈が無い。近付くのがトリガー、能動かどうかは問わない・・・と。」
ベスに連絡する、独り言を小さく言い、重要な情報は確実に伝えられる様にした。
「そして、その災害の腕は通用する。極論適用能力で誤魔化そうとしたが必要無かったな。これで漸く再生能力の方に着手出来る。」
他の手法はある、だが最も単純な手法はこれになると判断した。肉弾戦も可能だとすれば、大分制約も減るというもの。・・・不死とまではいかないが、ある程度耐久力を得られる、産まぬ人間は芯から皮まで分業している故にあの耐久値を誇る。血が欠ける事であの力は手に入らなくなってしまうのだ。
「とはいえコキュートスは脅威だ、肉が分離しかけてる。敵の神経を麻痺、身体を擬似的な凍結状態にし、進みを遅くする。分子の動きを極端に鈍くする。」
ジュデッカは時間に、コキュートスは生体に影響する。物理と精神が共謀した手の込んだ嫌がらせが自分を襲う。
「やはり神格か、それともサイボーグか。」
・・・不味い、報告用のメッセージが聞かれた。水で妨害出来たと思ったがこっちも影響を受けていた。ワイヤレスは便利だがそういう欠点もある。鈍った電波による失敗が向かい風になる。
手の内がバレた、攻撃の出力が大きく上がる。
そして、轟音が響き銃弾が来ると確信した時、言い放たれた。
「俺の勝利は絶対だ。」
銃弾が運ぶは一振の剣。
人類の希望、文明の希望の剣。
地獄の一部の名を冠した失敗の賜物。
人類史の失敗が産んだ、正しい運用が出来る人間にだけ託した聖なる剣。
「(全然場所見つかんねぇと思ったら既に持たれていたのかよちっくしょ!!・・・エマの遺伝子は採取出来たから第二の目標は終わらせた。今回の情報収集も無駄じゃない。だが、この状態の相手とどれだけやれるかは見なきゃいかん、全てに価値が無くなる前に。)」
音量を超膨大にすれば瓦礫事故に出来るかと思ったが、何処かの音で位置がバレた。声も夢魔も使用していない、恐らく攻撃行動、バレて出力を上げた時に気付かれた。・・・メルリウスの可能性もある。
「(メルリウスの起きたタイミングは盗聴している間だ。通信障害が起きて再配置と追加で盗聴器を仕込んだ。それが被ったから核で向こう側の通信網がやられたのだと考えたと思われる。実際の所はベスを利用して衛星兵器で同時に処理した為だが、それに関してはバレていない。アスタルトの動向が不明だから一旦置いておく。)」
他にも懸念があった、強襲とはいえ穴が多い、この英雄、かなり用心深いぞ。
「(出てくる必要性が無い、リアルタイムの通信が生きていた頃に伝える事は可能な筈。)」
攻撃手段の調査以外は向こうがどれだけ頑張るか託されたのだ。
「(一芝居打たれたな。魔術を利用した下克上テロを狙うのはミスか。)」
メルリウスの位置情報は不明、幻覚も幻聴も仕込める、本体は最も後ろにあるのだ。・・・情報収集より、情報拡散の方に寄った力を行使するのだ。
「(狂がその判断を正しいとするか、それ次第で事の未来は決定される。)」
後は狂と察の入れ替わり、それに関しては、少し手間取る事になりそうだ。
「・・・いや、彼奴の行動次第ではバレるな、強制撤収だ!そこら辺考えときゃ良かった!第二以降のプラン破棄!」
狂に通信を無理やり回す。撤退、そうしなければ難しい。
『聞こえるか!・・・神崎家と鷹鷲家の資料を手に入れた!!』
「・・・撤退だ撤退!!撃墜されるのが一番の悪手だ!!」
奥の手第二もあるがそれは使えない可能性が高い。その状況で何かしら攻撃手段を行使し、止めなければいけない。
「能は王都から離れると使命の副作用を受ける・・・血抜きか自爆だな。」
『記憶注射作ってくれれば給料から捻出しますよ?』
「お、良いね。」
注射器を受け取り、一連の作業を行って箱に戻し、スイッチをオンにすると走り出す。大人気ないラジコンだ。
「逃がすかぁ!!」
後は自分の撤退だ。方向を帰る事で自分に標的を絞る。記憶注射の技術はやはり知らないか。
「しゃあオラァ!!」
一度振り払う、今ので腕の皮一枚まで持ってかれた、だが、残りは狂が行う。
「足りたか!」
「投与完了!」
次はわざと切らせる。準備は終了した。
「・・・?」
防御を解いた時、一瞬で腕はもうやられたかと無視され、それ以外の四肢をランダムな角度で切り捨てられる。
出血はギリギリ通り越しオーバー、その筈だった。
「使命の内五個は致命傷用だ。そして準備も完了した。」
世界が、確かに一新された。全員に平等な十秒の集中、及び猶予が与えられる。
「『黎明』」
太陽と月を指し、時間が捻じ曲がったかのように遅くなる。
「『白昼』」
竜の顎が無数に地面から這い上がり、地を食らい、上に進む。
「『夕日』」
時は未だに遅い、上に迫る顎を止める前に、コウキの身体は蛇に取り囲まれ、縛られる。
「『月光』」
締め付けて殺そうと蛇は暴れずに縮もうと身を巻く。しかし、骨が中々折れずに手間取っていた。急に骨が砕け、顔以外は最早死んだも同然であった。
「『御身の宝たる能、十を以て我が身を献上致しましょう。』」
蛇を使って立っていた身体は支えを失い、地面に押し付けられる。血を舐め、拾われる。
「ははは!お前は災害を何も知らない。全員口を割らなかったか!!」
その事実だけで面白くあった。魔術という封印を解いた彼に、当てつけを決め込む。
「人が作り出した傲慢さ、多少仕掛けも凝ってある。全員を守り切れる実力があるなら、それを証明して見せろ。」
自壊魔術『懲罰執行』
災害が狩りで得た物を返上し、その際に数が少ないと起きる現象。ベースは魔術で、以前の魔術の状態だと使用不可であった。これを自壊に使った方が有効だとしたため自壊魔術として扱われる。
その破壊規模は極めて小さいが、簡易的に諸宇宙で起きる現象を地球上に持ち込み、大規模な破壊を引き起こす。それの内容はランダムだが、順序は破壊、粉砕、捕食と同様になると決まっている。人間でも実行可能だが、条件として災害のモデルになった人間の使命が無ければ実行不可で、手法も決まっているので記憶も必須である。それによって対象の災害の破片まで回収し、新たな災害に作り替える材料にする。
・・・そんなそれを実行した。
・・・また、これは活用法としてはほんの一部、一点突破を仕掛ける為範囲を絞り、災害を一時的に顕現させる。
『破滅の日照』
キャリントン・イベントが巻き起こった。日差しが王国を焼き尽くす。電子機器全ては使い物にならなくなり、察のコウキとカオルコは一時的に麻痺を起こす。
王都の森と山は全焼し、形が崩れる。ガスの量が悪化し、酸素量が減る。爆発と炎上が繰り返され、更地の灰となる。
全身火傷、気絶はしていないが、再生能力が落ちると全く動かず眠るアルトリウスが後々発見された。
一応この作品ディストピアなので・・・。
アルトリウス:261cm
ティアマト:286cm
こいつらだけ身長バグってます。




