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継承物語  作者: 伊阪 証
王国騒乱
35/74

過去も未来も

ハーレムに捩じ込まれた連中に、ウェルビーイングなんて存在しない。王国は既存の才能と魔術の実力で立場が決まり、血縁重視される魔術によって全て決定された。・・・彼女はそれを良く思わない。

リーツィアは家を出た時、ボロボロのドレスを何とか身に纏い、歩いていた。

「・・・ここなら、私を知らない筈。」

先の街で数々の暴力を受け、何とか生き延びた。

貴族と成功者、それ以外は失敗作でしかない。最初は上流階級だけのいざこざで、成功すると下流でも手を出される、その程度だった。格差が広がると、上昇志向が生まれた。そうでなければ飢え、病み、苦しむからだ。家族の為、友の為。血を貸し借りし、出来るだけ強い魔術、強い意志、強い記憶を持って生きた。

聖女という支えのあったあのスラム、アレは意外とマシな治安をしている。闘争は人に最大の成長を齎し、それと同時に人間の皮を被った怪物を産む。それもまた、血の呪いである。

空腹の音が、そこらかしこで聞こえる。種は二度と使えない、一度終えれば残してはならない、種として機能しない、死んだ芽。

小麦は、今年も不作である。

リーツィアには、貴族の刻印がある。腕を大きく彩る、最悪の黒。刺青は紋様を刻み、交差する槍とそれを支える盾と花の印。

「・・・はぁ。」

餓死寸前、片目は失明していた。

求婚を蹴って、誰にも従わず生きた。認められはしなかった。彼女は、成功者とは言えない。特に功績の無い人間であった。

・・・只、心優しい人間。



歩き続けた道で、彼女は目撃した。城塞として形がギリギリ保てている程に古い壁で囲われた街。扉は押して開ける事が出来て、直ぐに閉じた。

「・・・コイツは・・・なんだこれ。」

「通貨だ、渡しても価値を認めないだろうな。差別的な連中だし。」

「えぇ!?そうなの・・・ごめんなさい、私には継承権が無くてそれも言えない立場なの・・・。」

「心配すんな嬢ちゃん、物自体に価値はある、海賊辺りに任せれば交換は出来る筈だ。」

「・・・でも・・・。」

もじもじと黙りこくり、彼女は申し訳なさそうに言う。

「反貴族ばっかりだから・・・。」

実際、周辺や海賊の拠点で反貴族的な連中は多く、隠せない彼女は恥じる様に言った。

「反対派なんているかよ、ここの連中は皆単純だ、悪口言わなきゃ全部納得してくれる。」

「ウチの長は賢いぞ、何言ってるか全く分からん位にな!!」

朗らかに返す彼等は、だからどうしたという目線で見る。

「気を付けろよ、この辺は獰猛な動物が多い。寧ろ守られているから減らされるのも困る。」

・・・そんな忠告を破り、少し外に出た時。PTSDが外出を駆り立てた。恐怖が逃げろと促し、足は問答無用で動く。・・・自分の琴線に、魔が触れた。

その後、彼女に会った。

「・・・ん?」

目覚めは悪く、骨折箇所が幾つかあった気がするが、目も全て治っていた。

「あれ、生きてた。」

「・・・誰?」

彼女は綺麗だという感想が真っ先に出てくる程目が輝かしく、澄んでいる。髪は透き通る程、そして身体は自分を誘う様な安堵を有している。

「私はエウリピデス、人間の肉体を粘土みたいに捏ね直す事が出来るの。」

「わぁ・・・実演しなくて良いから。」

胸に手を当て、そして名前を言い終えると顔を隠す様に動かし、次の瞬間には顔が少し変わる。日焼けを全て消していた。

「怖い事はしないよ・・・。」

そうして、助けてくれた彼女との生活は始まる。先の場所で、死んだ人の家を間借りする事になった。

家事自体は出来るが、苦手だ。疲れるのは嫌だが、やるしかない。そうして一週間程度過ごし、通貨は価値が上がっていたらしく多めに見返りが貰えたものを使い日々を謳歌した。

「・・・整形かぁ・・・見た目良いから弄りたくないなぁ・・・。」

「・・・ダメ?」

「駄目駄目!絶対!!」

強く主張され、照れながら視線を向ける。

「・・・分かった、でも、何時でも希望があったら変えて良いからね?」

「絶対悪くならない様に慎重にやるね。」

「大丈夫?疲れるって言ってたじゃん。」

「脳の消耗凄いのは事実、カロリー消費で直ぐ痩せるしタンパク質も持ってく領域になるから筋肉も減っちゃう。」

「えー、ちょっとだけ羨ましい。コルセット要らずは社交界じゃ魅力的だよ?」

「斧で切りかけの木みたいな姿なんて見るに堪えないけどね。」

「そうだねー。やっぱ私ももうちょっと安産型って感じの体型になりたいなー。狩りやパーティは出来ないけど、似た様な事は出来るよね?」

すると嬉々として忘れたものを思い返した衝動を彼女は見せる。

「あ、私美味しいお肉の作り方をインプットしてあるけど、今からやってみる?簡単だし。」

「おぉー!やってみて!!」

十歳以下の頃は思えば何時でも空腹だった。食べ物が見る度に幸福の対象として近かった。

「じゃじゃーん!鶏肉集めて牛肉を再現しました!」

「いぇーい!」

エウリピデスが彼女に囁く、悪巧みをする様に。

「・・・ちょっと疲れるけど、街全体でやってみようよ。」

それに強く頷いた彼女は、出会いに劣らない眩い視線で彼女を見た。

「おう・・・どうしたそんな肉持って。牛か?貰ってきたとか?」

「この辺の川までストランディングしてきた鯨、居なかった?」

「・・・ああ、居たな。今解体して運んでいる。腐敗する前に加工出来りゃ良いんだが・・・。」

「実は・・・このお姉ちゃん、肉ならなんでも他の肉に出来るんだって!」

「・・・うーん?」

「まぁいいや、干し肉にするか。」

「鯨だけじゃ飽きないかとか、腐る前に持ってこれば元に戻せるとか、そういうお悩みも解決出来ます。」

「おぉ・・・なら!」

準備は始まる、鯨肉鯨油は街を数ヶ月潤すと言われ、庶民の危機を何度も救う。プランクトンを大量に食い、保護をすれば生態系を乱しうる、その図体は動くだけで脅威となる。・・・そんな事を知らずとも、あの図体は恵か悪魔かとしか出ない。恵はより豊作のイメージを持つ牛という変化によって祭りが起きた。不思議な力を持った聖女の様な少女、貴族だが一般的な感覚を備えた平和な子である一方、聖女を連れてくる功績を持った幸運の証。

それ等を中心にお祭り騒ぎは凡そ二週間続いた。

パンと肉、野菜を組み合わせた食感は、疲れる程噛まなければ飲み込めない。疲れる程噛み、疲れる程食べる。最近流行りの聖女が伝えたコーヒー、豆を煮出して上澄みを飲む、豆は育ちやすく、どこでも作れ、働くにも相性が良かった。舌には合わないが、新鮮な味がする。

・・・街は、その時火災に襲われた。

「・・・あれ?え?」

突然の事だ、呼び止められた鎧の男達はそれでも前に進む。

「王国騎士団、貴女の様な人間を保護する団体です。」

・・・自分は、彼女を疑った。なんせ、彼女は貴族。自分は疑って当然だと思う一方で、認め難かった。

「・・・リーツィア?」

だが、その思考は直ぐに吹き飛ぶ、彼女は椅子から降ろされ、踏まれ、首を剣で抑えられ、それでも、切れてでも上に登ろうとする。

「エウちゃん!!」

「リーツィア!!」

恥じた、その行いが思考を鈍い神経が通る。何で気付けなかった、何で間違えた。彼女を守るべく手を伸ばす、戦闘経験はなく、手の密着が起きず、相手に手は届かない。動けなかった一瞬が命取り。

「あ・・・ああ・・・。」

そして、十年の別れを経験した。

十年の間に、リーツィアは拘束され、幽閉された。本を読み耽る毎日、陽の光を許されて尚、生きた心地がしない。その光差し入る美女に恋する人は数多、されど、彼女は幽閉を解かれない。

エリニューエスは名前を変えた、彼女を利用した国王及び王国騎士団、そこから仕事を依頼され、リーツィアを人質にほぼ全てを行った。拷問も、治療も、人間の尊厳を破壊し、侮辱した。そこからエルヴィンと契約し仕事から逃げ切った。心が落ちぶれる様に淀み、ちょっとだけ散歩、とジョーに合わせる顔もなく、多少高めの金で買った食料を彼の近場に置いておく。

それが、十年の間繰り返された。



少し前の話をしよう。王国再潜入時、久々の再会、コウキが合流していない頃。

「・・・え?そんな事して大丈夫?」

「彼の目なら出来る・・・だからお願い。」

「親友の願いだから聞くけどさ・・・。」

迫る、その闇に手を入れ、希望を見出し、自分は進んだ。

「・・・私は多分継承の贄にされる、図書館を知っているのは英雄誕を読んだ事があって、そしてそれが何処にあるか答えなかったから嫌われていた・・・でも私を乗っ取れば・・・。」

「・・・英雄誕は内臓の各箇所に結び付くから取り除けないよ・・・。」

彼女は何かを見ていた、自分が彼女を助けた時、同じ様な焦燥じみた怒りを持っていたと覚えている。

「だから・・・私のカバーストーリー通りにお願い。自分の脳を書き換えて・・・私を嫌っても良いから。」

「・・・!それだけはダメ!」

「・・・お願い・・・。」

「記憶は消さない、こんな大馬鹿なんて忘れてやるものか!」

彼女等は、互いに理解していた。だがしかし、互いに己への理解を怠った。

「・・・あのジョーって、見た目は違うけどコウキだよね?」

そうしてでも、彼女は彼女を助けたエリニューエスを幸福へ導こうとした。どんな手を尽くしてでも。結果を押し込み、完成させようとしたのだ。



将の名前を再確認しよう。

ルヨ・ホーエンローエ

パスカル・チェコヴァ

ジェラルド・フォン・ザロモン

フェルディナント・フルスト

グレゴール・ボアテング

ヴィリー・ダイチェル

ユーリ・ロイトホイサー=シュナレンベルガー

ベルンフリート・ウイベル

オリバー・ティファート

ハインツ=ハラルド・ティアム

ユルク・オット

全員死神が予約を入れた、さぁ、直ぐに首を狩ってしまおう。

そして王国の将は最も能が活かしやすい・・・生かしやすくもあるが・・・その様な環境下に居る。能を奉還しない事は使命への反逆であり、使命が牙を剥く対象である。

そして能があった所で、生きるのは難しい。寧ろその難しさ故にその対価が与えられたと言えよう。

実際は、そうではない。と言える所がある。神への奉還、と言っても災害の端くれ、虫垂程度の価値も無い。神というのは神格でも良い、だが、その神格を気付かぬ内に殺してしまった事、王国が上手く戦略を働かせ、その事を気付かせていないという事実がそれを産んだ。神という立場を認めない、帝国も例外では無い。

シンイセツ教は陰陽道と儒教の複合・・・この世界を比較的説明するに容易な概念であるそれを用いて、子供を教育し、大人になって正しい法則に修正する、という教育方針がある。・・・そんな詐称が神格とて良く思う訳が無く。

実際の所は、アルトリウスが一歩上手。彼も神秘に手を出した人間。それが必要であると知っているからこそ、その教えにしている訳だ。脳の質量が足りない分、神格というのも少々子供っぽい、そしてロボトミー手術後の患者に近い。何処か消極的な顔で居るのだ。

優のコウキは将を鏖殺する、一人を消し去った後、首を蹴り飛ばす。

将の位は、王国内においては誉れ高いが、少し特殊な位置にある。というのも彗星の一人は生存が隠されていた。それに近い存在は多い。

成功者の保護、その一つとして将は存在する。成功者は世に出さず、地下に縛る。その結果、彗星は価値を見いだせなくなり、裏切った。また、生きている数としてもストレスを与え過ぎて殺し合いが起き、保護とは到底言えないものになっている。

もう一人殺れる。素早く衛星兵器をアクティブにし、撃ち抜いた。

「二匹目!」

一旦視界以外の五感をゼロにする、搦手を最初に出してくると予想し、情報手段を絞る。

「(変な構えした奴から殺すか。)」

奥の奴が実際に変な構えをしている、いや、腕を動かした時点で確定事項だ、鉄球を複数投げ、それを磁力で戻し、心臓を抉る。そして、心臓を踏み潰す。

「三匹目。」

目を逸らした最近距離の相手をグローブの放電で帯電させ、鉄球の一つを引き戻し、心臓を掴み握り潰す。

「四匹目、大した事ねぇなやっぱ。」

剣を引き抜いた、前に構え、短刀をもう片方で持つ。肘を曲げ、短刀が彼の流儀を示す。

これは狩りである、無慈悲に遂行される一連の動作である。

「悪ぃな、対アルトリウス用に必要な使命なんだよ。」

強さが、全くの段違い。所作は全てが上位互換、望む物は、全て相手にある。居合すら使わない、無駄な動作を削ぎ落とし、芸術性の無い剣技が血を引き裂く。彼は剣を導き、殺傷能力を遺憾無く発揮し、最低限の距離で抵抗をほぼ起こさずに射抜く。

「五、六、七匹目。」

興醒めだ、将は保護する制度だとしても、弱過ぎる。自分が十分に準備しているからと言ってここまで弱いと相手にならない。

「八、九匹目。」

光と剣で目の前の軍団は一人残るだけになる。相手の能は何となく理解した、今までのも、当然だ。

「人間じゃねぇ・・・!」

ボヤいた相手に解答を突き返して剣を刺す。

「大ッ正ッ解!!災害だ!!俺は災害!群れる渇望!!」

多少は骨がありそうだった、何秒持つか楽しみだ。

「人類種、お前らも同じ生命の癖に差別するんだな。人類種らしい。」

剣を人体に直接刺す、臓物が飛び出るまで繰り返される黒ひげ危機一髪。剣が足りなければ追加されるか、押し込まれる。手足の神経が切断される。

「知性も、知能も、全部悪意に犯されて何をするにも愚行で終わらせる。最低最悪の支配者。」

奮起は、尽く壊される。トラップも、奥の手も。小細工は壊され、正々堂々と戦えば打ち砕かれる。

「俺にとっちゃどうでも良い事だ。俺は人類に希望通り争いをさせてやる、全員に平等な革命の権利を渡してやる。」

首と足を平等に切る。胴体にも手を出し、人間としての原型を留めなくなるまでそれを繰り返す。

「感情で生きろ、論理で生きるな。論理を有効活用出来る生命でない限り。」

合計十分満たず、様々な手段で相手を殺し、因縁による渇望を踏み潰す。手の肉は脱力しており、重くはあるが力は無い。

「彼女が渡した道徳倫理、それを忘れたからこうなったんだ。」

外れた手袋を付け直し、グローブを隠す。これからが本命だ。能十個、それを利用して戦う事になる。奥の手もある、その奥の手が今回有効か試し、撤退する。自分とアルトリウスのタイマン、それ以上は無い。

「・・・これで十分か。」

コウキという人間は、戦いに情け容赦を無くした後に殺しを認めるとこの様になる。・・・ここまで無慈悲であれば、彼の助けたい者は助けられたのかもしれない。




半壊した箇所に残る図書館、資料が多く残った言語はやはり有利、自分の覚えている言語で助かったと思いつつ本を漁る。

「・・・全て日記か。・・・ジャンルじゃなくて人物毎に分けているが・・・著作者は全員同じ、個人で書いてるな、これ。」

リリト・ラリュエット

グレース・カンテ

セシール・マング

ダニエラ・ストロス=カーン

「・・・長さ自体はそんなにバラバラじゃない、ペースも一定・・・。」

フェリシテ・ドソワーニュ=メユール

オリーヴ・ヴィヴィエ

リナ・オッセン

ジョスリーヌ・ドマルサン

「全部・・・最後に死んでいる。」

ヘラ・ホフマン

グレーテ・フォン・リヒトホーフェン

ハイデ・ハーロウ

リーケ・ホレンダー

「・・・契約・・・ 一年毎に好みと予想出来る女性を開発するクローン装置を設置する。秘匿として扱うべし。材料の取引によりそれらを認可せり。・・・か。」

ナターリエ・クノート

アルベルタ・リンデマン

キルステン・ファルトマン

ツィラ・ケンプファー

「彗星の中にクソ強いのが居た気がするが・・・其奴を引き渡した・・・とかか? 確かに日記の最後は全員同じ様な顔だ。」

イスメーネ・シュトックハウゼン

バスティエンヌ・ゲーレン

インゲボルク・ペプシュ

エルゼ・ビューラー

「部下共!何か見つけろ!!」

「見てよこれ!メッチャエロくね?」

「私この子好き、ちょっと欠陥っぽい所とか。」

「お前等に言ってんだぞマセガキ共。」

ヴァルトルート・グライス

アドルファ・ピーク

アウドラ・ヘンツェ

ピーア・ルスカ

「・・・あれ、もしかして・・・。」

「どうしたコウキ。」

「・・・なんだ、違ったか。」

『(エリニューエスが変えるまで誤魔化していた事はお墓まで持っていこう。)』

ヤネット・メッセマー

テオドーラ・リーネン

ハイデ・オストワルト

アンナ=カトリーン・ハイネ

「復帰が早いが体調に問題は無いか?」

「もうこれ以上は無さそうだから無理してでも動く。・・・そしてエマが見当たらないから人質の可能性を信じてこっちに来た。」

「エマは・・・チェルノボグ等が探している。直ぐに見つかるだろうが・・・。」

ツェツィーリア・モルドナ=シュミット

ドード・リース

エリザベート・プロール

マグダ・シンジェロルツ

「ロタールは見事に吹っ飛ばされて帝国内に不時着した。」

「(人体で不時着。)」

『(この程度で死ななそうだけどね。)』

「ローガンは輸送続投、彗星は捜索活動、もう片方は再生中、エリニューエスは病院送り・・・か。」

クニグント・ヴォーヴェライト

ローゼマリー・ヴィルヘルム

マクシミリアーネ・ルンメニゲ

エルフリーデ・フィーリッツ

「采配を見誤った。単独だと失敗も多かっただろうが、被害は少なくない。」

ミニョン・コッホ

ナターリエ・フライヤー

アウレーリエ・カルツ

カティア・クノール

「それに関しては俺の責任だ、金ならあるし、取れるものなら取ってくる。今は請求するな。」

アポロニア・ゲーアマン

ハンネ・フォン・ボルク

イェニー・グロッシュ

ワンダ・フローマー

「・・・全てクローンの女・・・って事か。条約も国同士にしちゃ少ない、個人の取引の範囲だったな。」

絵のページを捲り、全て出す。多い、数が多過ぎる。話に聞いたルナの一件に対して期間が短い。これで半分もやってないぞ。・・・触れない方が良い、想定しているよりかは複雑に絡み合った運命かもしれない。成功者の保護・・・彼の求める者を守る為、とも思った。下心も混ざった目的が、何時しか正しさあるものになり、彼はその生き方を選んだのだ。

「・・・ジョー、一度確認出来るか。」

『・・・誤差程度で色々あるが、最終的にはルナに似てしまっている。』

「・・・そうか。」

本来継承されたのは狂に対してであり、自分では無い。その為記憶注射で最低限テキストと感情アルゴリズムを移植、それ以外は所有しておらず、写真等は無い。断片的なヒントを託し、分析させた。

ベタと言えばベタだ、ベッタベタな別れをした自分は、活字でよく見るものを見せられたが、心理的には辛いもの、在り来りは体験しなければ分からない、知ったか振りでベタを語れる程偉くは無い。そして、自分の持つ記憶は、それを深く理解させる。

ある日記に書かれた事には。

『私は若い頃の我儘癖でルナを殺してしまった。もう彼女は帰って来ないのだ。・・・せめて反対するであろうという理由を以て彼女を聖女であると保ち続け、私は彼女を守り続けよう。』

引き抜いて開き、机に置いた。

『努力は結果に出るものではない、自分が認め、他人が認める事で成立するものだ。』

故に、結果は努力に関して信頼出来るものと断言するには信憑性が欠ける。

・・・その言葉は、自分が汚してしまったものである。突然変異を差し向け、周りの人間を強く、そして次々に殺し合いに向かわせ、新しい人間が頼る。・・・自分は努力を怠ったというのは些か感じる、だが、それ以上に自分は人々を容赦なく苦しめた事実に直面した。

彼とは大きく相容れない、才能や生まれの無慈悲。

正直、自分は言う必要が無かっただが、心の奥底に燃え盛る何かが存在する。



破壊された王都頂点、破壊された地下。それを蹴破った時、床は既に抜けていた。

「危なっかしいな。」

アルトリウス含めた数人の客。

「・・・罠の警戒を兼ねて抜刀した状態で進め、サーチアンドデストロイで構わない。」

「了解。」

書庫の真上、階段が抜ける度に下が見える。

本を見る度に、酷く夢を見る。

自分の助けられなかった彼女、リーツィア。彼女は幻覚だったのか、自分は幻覚を見てしまったのか。見てしまうのは只管な事実。心理的歪み。

「・・・誰か。」

いや、人では無かった。物陰に何もなかった。自分はもう気が狂っている。彼女に縋っているのは確かだが、それ以上の不安に襲われ続け、頭が眩む。



最後の扉、最上教会。

「・・・突入する、俺が戻るまで待て。」

意図としては、反応が無ければ開けろという事だ。戦力の判断は難しい。狂団と悪魔局は逃げただろう、だが、合流していれば一矢報いる位は出来る。

ドアが蹴破られた時、外れる所か枠が砕け、飛んだ扉が壁に埋もれる。

総勢二百、目立った人員は居ない。

手を剣に寄せ、両手持ちに変える。クレイモアと同じ持ち方で彼はそれを振り回す。半周と半周、それぞれに強く振り、半数を一度に殺す。

血肉が壁に染み入り、王国の歴史は終わったと確定させる。

「お待ち下され、我等が主を殺すならば、私めと戦い、殺して考え直しては。」

英雄は問う、寸止めの剣は他の鮮血を飛ばす。

「何故だ。」

肉薄し、顎を引いた手前、少し緩めた時に、重ねて彼が言う。

「何故だ・・・。」

小さく、弱々しく。

成功者を守る、大義名分は良い。

「我等は忠誠を誓った身、この命、終わりまで残すべしとソロモン王より命令です。」

「そんな事がある筈が無い!お前達!どうか考え直せ!」

「さぁて、どうでしょうか。」

仲間割れにも思える、最大の愛情、敵意は削がれつつも、剣の緩みは全くない、寧ろブレて広範囲まで届く。

「・・・戦場の叩き上げではありませんが、互いに騎士より学び、闘いは心得ております故。」

「努努精進怠るべからず。」

「努力を怠る人間は、どれも他責思考である。努力は恥を掻き続ける愚行であってはならない、恥を克服してこその努力である。」

「そう言って、二度と同じ事をしない様に、恐怖を超えて努力していたじゃないですか。」

「我々を導いてくれた言葉で、同じ様に立ってくれる貴方が、我々にとって最も勇気と希望を与えるのです。」

「我等は確かに外道かもしれない、ですが、信念は決して曲げない、そう誓い、そう守り、そう活躍しました。自分の為に、自分の希望の為に。」

「申し訳ありません、先に行かせてもらいます。」

四及び三。

「実際、こうだったさ。一撃で終わらせ、ちゃんと葬るさ。棺を用意しておけ、証拠であると同時に集団墓地に埋める。」

英雄は二を切り捨て、先に進む。

「さらばだ、若き王と若き臣共、そして若き男よ。お前達は許されない事をした罰として死に、良い物を見せた功としてせめてもの償いをしよう。」

過去を振り返る度に、その言葉は数多くの救いであったと教える。重く響いたその言葉に追い縋り、残酷だと思わず、確りと着いてきた連中だ。

それが例え一日で破壊されようと、彼は変わらず立ち続けた。その過去と一時は無駄ではなかったと教え、霧散したにも関わらず記憶に縁を残したのだ。

「記憶を探ってみたんだがな、実に潔い奴等だ・・・ああ、本当に良い忠臣を得たもんだ。・・・ソロモンは遠回りが過ぎるが。」

残りの一が話を続ける。

「・・・忠誠の理由は聞き出せないだろう、せめて殺す前に、聞き出して欲しい。」

英雄に問う、その答えは、何かと期待して。

「・・・お前も良く見てきたあの女・・・アレと同じ様なものさ。」

「・・・ルナが・・・。」

「聖書を読み、共感したんだろうな。」

ルナ聖女として信仰している人間は多いが、彼もまた、その一人であった。聖女であるなら、同じ様な人間はそうそういない、理想が故に昔は当然遠いが、今はどうかと見る事なく過ごした結果だ。

「ルナの記憶の継承者、その継承者・・・が居ただろう。その子に少し、伝えて欲しい事がある。」

神に祈り、跪き、彼は言う。いつもとは真逆に捧ぐ。

「お前を守ったのは・・・少し年上の・・・。・・・私の子でもある。守った記憶は、私に継がれている。」

その漏れ出る様な断念は、感情を揺さぶる。一生を終える音、覚悟の音だ。

「私は、謝罪しよう。全て詫びる。・・・与えられ過ぎて、それしか返すものがない。」

一分、祈り続けた。全てを振り返り、これが最後だと。人生を一分に集約させた時、やはり当然だったか、と諦める。

「いつか思い出してくれ・・・お前は王国の滅びの原因では無い、我々に安らかな死を与えた天使だ、お前が居なければ、きっと我々は死を目前にし、惨たらしく死んだであろう。」

感謝を最初に伝えた、そして、言葉を届けるべき相手にも向かって。

「・・・もう、これで十分だ。さぁ、殺してくれ。」

英雄に望むは剣の一撃、心技に隙無し、力体に劣無し。その聖なる慈悲を望む。

「任された、最も痛みのない殺し方で終わらせる・・・ん?」

剣が鈍る、何かが乱入する。

「お前が・・・お前が彼女を・・・。」

正気を失ったコウキ・・・いや、ジョーが突入した。コウキの体と彼の力、技術を用いて。

「ああああああ!!!!」

ルナという存在を奪い。

「うわあああああああああ!!!!!!」

エリニューエスという恩人を苦しめて。

「お前さえ!お前さえ居なければ彼女はあああああ!!!!!!」

ルナを殺すだけじゃ飽き足らない暴挙に出た。

「返せ!返せ!!彼女の時間!彼女の命を!!」

刃物に宿る情熱は、心臓を直ぐにぶち抜く。

「私の生を!私の希望を!!私の愛を!!」

彼の行動は理解出来る、コウキの話も知っている・・・だから、納得してしまう。・・・止める愚かを、ここで自分は犯せない。部下を守るに徹し、手を前に置き続けた。

「止めるな、復讐は終わらせてやれ。」

「でも・・・!?」

「罪とか罰、その機会を均等に均したのは彼奴自身だ。彼奴に最も苦しみのない罰は、精算だ。」

「・・・。」

「残酷を受け止めろ、価値観というのはこういう差だ。」

「アルトリウス卿!それでも英雄ですか!?」

「・・・。」

「アルトリウス卿!!」

彼女は声を届けようと必死になる、それも納得は出来る。だが、やがて気付く。

「・・・卿?」

英雄が人間である事を忘れた彼女は、自分の失言や妄想、狂信を恥じた。

「・・・あ。」

一番泣きたいのは、本当は彼なのだから。

「・・・申し訳ありません・・・卿・・・。」

「良いんだ、もう終わった事だ。」

涙は見せない、目元は暗くすらなっていない、彼の長身に目は届かない。

「・・・引導は渡せなかったか・・・。」

この戦争も、これからの戦争も・・・彼の嘗ての友を殺す、その遥かなる旅の為の巡礼であった。傲慢は絶望を呼び、請求した。

「・・・すまない・・・本当にすまない・・・。」

こうして、王国の長は死んだ。因果応報と、彼自身が最も信じた正しさによって。



アルトリウスは部下に告げた。

「王都はこれから夜叉の残存で爆破し、燃える。撤退だ、この戦いに勝利し、脅威は排除した。土地の確保は失敗とし、陥落以上の国辱を与える事は無い。」

リーツィア・タカハシ

「我等の家へ帰ろう、故郷にいる友と家族の手を取ろうではないか。」

ルナ・トゥールーン

後は、魔術の神に魔術をどうするか聞き、次第によって存在を消す事になる・・・王都地下に潜入する事となった。

ちなみにドイツの女性名にはコロナという名前があります。

リーツィアは特に関係性は無いけど一部の街で第二の聖女と呼ばれ調べていたからあります。


嘘は言ってないぞ。

リーツィア更生する理由が分かんないと来ていたが更生は前からだし(そもそもが根っからの善人なので更生する要素が無い。)

今の所更生どころかヤベー事しかしてねーぞ(彼に出会って親友が感情を向けているから即断で自分が嫌われた状態であれば殺されると思っていたが相手も負けず劣らずの善人だったので恋させて死んだ後に埋め合わせをする事でエリニューエスの後押しをする)。


スパマ64のスタート画面とか言わない。

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