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継承物語  作者: 伊阪 証
王国騒乱

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34/74

巨人作戦

コウキは二度目の見知らぬ天井を迎えた。

「息を戻したか、連戦し過ぎだ。」

「・・・誰だ・・・マジで誰だ。」

「ダガンだよ忘れたか?」

「覚えてないから忘れる事もない。」

「そうだったな。」

彼女が告げるのは、事の顛末。そして、竜王という強大な敵を前にロタールが軽く怪我をして踏み留まっている、ローガンと耐えているが吹き飛ばす技が強化され、下手すれば大気圏外に飛ばされるか、地球の何処かに飛んでいく。

そして、エリニューエスが用意した作戦が実行される。

それ即ち、巨人作戦。エリニューエスが死体を紡いで、巨大な身体とし竜王に対抗する。中身自体はどれでも良いが公爵連中はそれしなくてもやれてしまうので今回はストッパー役とし、彼の実力を見る。

『設計完了!準備出来たよ!』

「ヘカテー、操作は大丈夫か?」

『一時的に使命が有効になるから挑発も簡単。だけどその分精神力の強い数人しか寄れないから、助けは期待しちゃダメだよ。』

「分かった。」

『コックピット作った、でももうちょっと調整したいというか、エリニューエスを労ってあげて欲しいかなーって。』

「そうだな、ちょっと行ってくる。」

彼は走り出す、半壊した何処かの街、人が多く集う場所に。

「・・・そういや、エマは何処だ・・・?」

ヘカテーが場所を教え、その通りに進む。そして、彼女の場所を目指す。その際に迷い込む様に足が止まる。

「・・・心配無用か、啖呵も切っちまった。今はこっち優先だ。」

彼女に対する信頼が、自分の足を止めない、次に笑顔で会える様に、走り続けた。



王国民の姿は数多く見てきた、リーツィアの良い記憶、それが今の光景を当然の様に受け入れる。

「俺等にも、何かさせてくれ。故郷が潰れるのは都合が悪ぃんだろ?」

「敵も味方もあるか!上の馬鹿だけでやってろ!!」

「殺せ!殺しまくれ!」

悪そうな姿ではあるが、悪意の玉座で生成された人々を殺し、次々に持ってくる。

「これで足りる!」

エリニューエスは労いを聞かず、たった一度、彼の胴回りを抱き締めて、背中を押す。

「コウキ、全部の血肉を君に託す!良いね!」

「ああ、やってくれ。」

埋没しない様に仮で作ったコックピットに挿入され、感覚を掴む。ヘカテーの調整で視界をジャックする。

「(さっき死ぬほどやったから、余裕ではあるな。)」

目を慣らし、遠目で対象に絞るが、未だ感覚は馴染まない。だが、耳にはある言葉が入ってきた。

「・・・楽しい。」

エリニューエスの言葉が響く。

「ちょっとそこの造形は拘りたい・・・脱いで?」

「分かった。」

『普通分かんないよ?』

「仕方ねぇよ。」

『仕方なくもないよ?』

従って衣服を脱ぐと、古傷が露わになる。

「おぉ・・・未だ未だ出来る!」

「(俺こういうとこ嫌い。)」

『(私は一連の流れが嫌いなんだけど。)』

次々に仕事を終え、不思議な程に集中し、意識が収束した。

そして・・・。

「・・・あれ?・・・。」

エリニューエスが倒れ、ダガンが介抱する。

「熱中症か?・・・怪我復帰したてでそんな事すればダメージはデカい。セルフで治しとけよ。」

「・・・はーい、寝るね。」

建物の中に避難し、自分とヘカテーだけになる。数本の視線が、自分への期待を示す。

「やるぞ、ヘカテー。」

『うん、頑張る!』

死体にある豊富なエネルギーを使って素早く立ち上がる。武器は無い、基本徒手空拳になる。コックピット剥き出し様に武器は持ってきたが、それの機会は無い事を祈ろう。

「来い!ぶっ殺してやる!」

軽く一歩で、都市は一部壊滅。数十年は使えないが、とっくに使えなくなる規模の攻撃が起きているから問題無い。

倶利伽羅剣は横に振るわれた、それを易々と受け止める事は出来ない。体積と質量を均等にしようと、向こうの方が老獪に攻めてくる。この剣、恐らく微細に動いている。高周波が排熱と共に襲ってくる。死体の突貫工事である以上、一部は失われ、血の波が滝として降り注ぐ。

「全然だな、痛覚には響かん。」

『損傷0.2%、全然。』

「剣を奪う方向で戦略を組む。」

『了解、でも相手の手を見るべく暫くは戦った方が良いかも。』

「そうだな。」

五歩進み、距離を詰める。一歩一歩で避難済みではあるが生活の跡が無くなっていく。壁だけの家が増える頃に、自分は竜王に届く事が出来た。

切れた胴体を掴み、それを地面に叩き付け、噛まれながらも抑え込む。損傷が悪化しようと、首を山に抑え込む。

「・・・何処だ・・・。」

殴れ、殴れ、殴れ。蹴たぐった所で吐きやしない敵を侮辱より先に吐かせ続ける。絶対に止める事はしない、彼女を引っ張り出して、助けられるまで。

追い詰めた、ロタールの言う通り、確かに遠距離攻撃ばかりだ。

分厚い胴体で首を奪い、遠くに投げ飛ばされる。順調かと思えたが、リセットされる。鉱山を踏み潰し、山が崩れ、最早無人の汚染された都市に踏みを入れる。

城壁を砕き、手に握り、一直線に投げて炸裂させた。軽く剣であしらわれるが、それ無視して空中スライディングを押し付け、体勢が崩れるギリギリで回避する。

「・・・届くか!?」

要塞を握り、頭に叩き込む。

やはり弱点は頭、頭が弱いだけじゃなく、何か仕込んである。遠距離攻撃の源だと断定出来る。だが、未だ剣の叩き付けが来ない、王都を崩壊させたあの攻撃が来ない。アレが来た瞬間身体がバラバラになる。

「仕込んではいるが特別来るって感じは無いな?クールタイムか?」

『予兆も無い、多分消耗してるから来ない。』

「体力はあるがスタミナが無いって感じだな。消耗戦はキツイぞ。」

『大技決めるとか、剣奪って叩くとかかな。』

とはいえ細身の腕の癖してサイズは段違い、自分の今の頭を握り潰せるサイズの手、無理矢理奪うには徹底攻撃を要求されるだろう。

「・・・来る、防ぐぞ!」

剣が空から唐突に雲を引き裂き降ってくる、山々は崩れ、爆散し、散っていく。重力を無視して土砂崩れが起き、泥の津波が押し寄せる。反対側の避難所は恐らく潰れ、使い物にならなくなっただろう。中身も、意味も無くなったのだ。

「ぐっ・・・!!」

『今っ!』

剣を奪いに手を伸ばす。土埃が立ち上る中で一心不乱に手を前に出す。

「・・・!」

掴めていない、剣が振るわれる、逃げろ。

腹筋で足腰を上に、そして胴体から腕を蹴飛ばす。

『・・・微妙っ!!』

「精一杯やってんだよこっちもぉ!!」

ヘカテーが意識を強制的に切り替えさせる。そして、危機を発し、次なる攻撃を避ける様に何度も送り付ける。

『・・・来る!!何か!!全く分かんないけど!!』

「距離あるからか!クソッ!!」

全身に、強烈な麻痺が走る。体内に異変が頻発するが、特に壊れていない。自分にダメージは無い、だが、何か衝撃波の様なものが走った。

『・・・ここだけ、周囲には特に影響無し。』

「避ける事は出来る・・・か。」

『うん、だけど当たったら不味い。』

「・・・半端にやっただけでこの威力か・・・。」

一瞬の混乱、その内に立ち上がって立て直す、傷らしい傷もない。だが、足の方で内出血が多少感覚的にある。折れてないなら全然セーフだが、ヘカテーが居なきゃ気付けない箇所が多い、思ったより相手がド陰湿な戦法を繰り返し反吐が出る。

来る、次が来る。スタンに対して襲い掛かる、殺意に満ちた燃える刃物。目測不可の超大型剣が大気圏を突き破って空気を引き裂き、重力に従って一直線に落ちてくる。

「・・・おっと、そういうのは止めてもらおうか。」

地面からほぼ上空に飛んだアルトリウスが間に入り、マクアウィトルで受け止め、剣を突き返す。

「・・・頑張れよ、これ以上は介入しねぇ。」

倶利伽羅剣は見事に真逆へ飛んでいく、大きく体勢を崩し、王国の向こうの国境ギリギリまで線を引く。

『今がチャンス!王国の大水道管を武器に出来る!』

「大丈夫かよそれ取っても!?」

『一生一緒に借金返そうね♡』

「案外前の生活と変わらんな・・・。」

地下から引き抜くは硬めの金属棒、引き抜いても一切壊れないあたり信用出来る代物だ。

「不味い、棒術は九鬼神流と柳生心眼流しか経験無いぞ・・・。」

『片方半棒術に突っ込んでるけど大丈夫?』

「仕方無い、折るか。」

膝で水道管を折り、斜めに切り、尖ったものにすると向こうで漸く敵は立ち上がる。

「・・・刺せる。」

立たれる前に立ち上がり、高速で投げ、首から下を地面に突き立てる。次の瞬間には竜王よりも上に立ち、胴体を踏み、首を抑える。

「消化まで・・・あと一時間。」

二本目を突き刺し、そして、竜王の喉に手を入れる。肩まで腕を伸ばし、抵抗を意ともせず寧ろ喉を突き破る。

もう片方の腕で腹を引き裂き、彼女を探し続ける。駄目だ、全然見つからない。

「何処だ・・・何処だ何処だ!!」

奥深くに手を伸ばして、それでも尚見つからない。普通よりは持つ筈だ、そう信じて開け続ける。

「応えろ!応えてくれ!」

その声は、決して届かない。二人の道を阻む竜王は、急変する。

『・・・駄目!ブレスが来る!!』

内臓に手を突っ込んだ状態で、蒼白に熱した炎が肩から焼き上げる、肌がごっそり持ってかれ、筋肉が露出する。

そして、ヘカテーがある情報を開示した。

『パパ朗報!消化器官と心肺機能が異変起こしてる!』

慌てているのか、情報が抽象的過ぎると言い直した。

『ブレスを吐かせ続ければ胃が逆流して出せるかも!』

「これがホントの胃炎ってか!?」

『もう!馬鹿!くたばれ還暦×五!!』

だが、目的は定まった。距離を作り、先の衝撃波を回避しつつブレスを撃たせる、耐えられる時間は最大十秒、彼女の算出時間は最低六十秒、五十秒は回避して持たせる必要がある。

「(・・・水道水自体はあるし、ポンプ機能が維持されている。それも使えばギリギリ何とかなるか。)」

『今からマーキングする場所は有毒ガスがあるっぽいから避けてね。』

「・・・結構多いな。」

『誰のせいだと思う?』

「え?俺?」

『だって自殺騒動の時結構見過ごしてたじゃん。』

「・・・有毒ガスの街中走ってたのか俺・・・。」

『先に引火させるのもアリだよ。』

「じゃあ手の内は決めた。」

水道管を蹴り上げ、水を全身に浴び、筋肉剥き出しの腕ともう片方で竜王のブレスを逸らす。火が散る、液体燃料を飛ばして発火しているらしく、引火効率自体はイマイチ、だが気化と誘爆が起きれば火力は相当、期待出来る。水を浴びた今、ある程度なら被害は軽減される筈とマーキングされたエリアに足を伸ばし、そして竜王の胴体を掴む。

「逃がすかってんだよ・・・!!」

火が燃え広がり、地面が赤く染まる、そして、期は来た、大気は引火し、爆熱と燃え盛る。素肌がほぼ使えない状態になる、体表は動きが鈍く、立つのを維持するのさえ難しい。

剣は、それでも手放さない。

「いや、これで良い。」

その剣を持つ右腕を、地面に抑え込む、そして、若干細身の腕を引き千切った。抵抗が鈍っていく手を、切り開けると確信してその手を伸ばす・・・。

だが、相手が一個上手に立つ、そも剣をもう片方の手に飛ばした。

「はぁ!?」

超重量の剣、それを軽々と飛ばしきったのだ。それも既に繋がっていない腕の力を振り絞り、もう片方の手に投げ飛ばしていた。

今迄の全てが音を立てて崩れ、ブレスが再び放たれる。向こうは上空から一方的に攻撃出来る、知性が特別ある訳じゃないからマシだが、陰湿さは知性なくとも変わらないのかと嫌気が差す。

頭部が燃焼し、融解する。段々と身体のパーツが失われるが、そこはまだマシな部分、今の所運動に影響があるのは肩への一撃だけ。それ以上はあまり困っていない。

真横に方向転換して走り出す、水道管を蹴り上げ、ブレスをズレながら妨害する。

「・・・来る!?」

王都を半壊させた、あの一撃を予感する。遙か上空に存在する倶利伽羅剣は、恒星の様に燃え盛り、地上の人々を強く焼く。存在するだけで体内組織へ害を与え、生身であれば直ぐに壊れる程の光。それが秒数経過と共に地上に向かう。弧を描き、上空に存在する全てを引き裂き、地上に入刀する様に容易く切り込まれる。大地は鳴動する、立つ事も許されない、そんな地上で走り回る事を強要される。

本震が、衝撃が来る。

地下がすっぽ抜ける、地面の組み方が崩れ、水が染み込み、川が崩れ、城塞は地面に揉み砕かれる。

それをギリギリで回避する、地震に際し二脚一腕で体勢を低くし、常に立ち上がる事が出来る姿勢で上を見た。

『・・・良し!これで!!』

自分は立ち上がり、竜王に再び突撃した・・・筈だった。

胴体と片脚の踏み込んだ部分を切られる、それも、一刀両断、身体が大きく落ちる。

完全にカードから切った、あの一撃をブラフにし、余波を当てるだけに留めたのだ。

「胴体がやられた!何割損傷した!?」

『不味い・・・2割やられた!』

意識の昏倒は無かった、だが、身体が動かない。

エリニューエスが駆け付けてくる。ダガンは居ない。不安な顔をした彼女は、息を荒くしつつも確実に前に進む。

「・・・うぅん・・・あれじゃあ・・・新鮮な・・・。」

絶望する様に、彼女は下着と白衣だけで来て、コウキの肌に触れる。眠気が彼女を許さない、緊急でロタールとローガンが動き、今は抑え込んでいる、だが、攻撃は通らない、ノックバックはするがサイズ的に決定打が生まれないのだ。

「私は犠牲になろう、そういう覚悟は出来ている。」

「俺もだ、アンタらが助けてくれたんだ、これ以上迷惑は掛けられねぇ。」

犠牲の立候補がどんどん出てくる、だが、それでも足りない。殺せはしない、そして・・・彼女が追いつく。

「・・・リーツィアの嬢ちゃんだ。」

彼女がエリニューエスに言い放つ。

「私の奥の手がある。」

「なんだって?」

民衆の中心人物は理由を探る、彼女を知る立場としては、もしかして・・・という期待があった。彼女は心優しい貴族、だから安心出来るという無条件で身勝手な信頼だ。

「そりゃあ、アンタの所の城塞崩壊してるしな・・・まさか。軍隊から引っ張ってきたのか。」

「・・・私達の出番は無さそうだな。啖呵は聞かなかった事にしてくれ。」

「聞いた事にはしておくよ。」

一旦民衆を落ち着かせ、帰らせる。

「ごめん、ごめんなさい。」

コウキに聞こえないとしても、巨体の彼に触れて彼女は言う。

「もう私は災害だから、もう後戻りは出来ないから。」

涙が、悲愴から喝破への変化する。灼熱する心臓が、彼女の愛情を手にする。二つの遺体を利用し、災害認定をされた彼女の火は、彼を焦がす。

「それでも・・・!」

蝶に謝り、息を吹き掛ける。膨張し、形成され、数万の人間と化し、彼女がそれを逃さない。一人一人を素材として紡ぎ、繋ぎ目を埋め合わせる。

そして、コウキに聞こえる声で彼女は叫ぶ。

「やって!コウキ!皆の為に!何より!貴方自身の為に!!」

彼に声は響く、コックピットの神経を強く引く。

「っしゃああああ!!真打ち登場!俺復活!!殺しに地獄から何度でも這い上がってやるぜ駄竜!!」

心拍数が急激に上昇し、心臓病のリスクが戦闘を上回る数となった。

それがどうした、次の心拍より先に倒せば良い話じゃないか。

ハイになった彼を止める人間は居ない、加速すれば加速するだけ歓声が上がる。

スライディングは無しだ、タックルで山に埋め、それでも前進する。衝突し、山が崩れ、二度三度同じ事を繰り返す。

「取れる!」

手が漸く緩んだ、そして、それを奪う。奪い返される前に高く蹴飛ばし、その剣を握る。下向きに重量が掛かり、腕が折れそうになる。

重い、落とせば避難しようと問答無用で死ぬ、この剣は異常だ、それでも、握らねばならない。

「根性おおおおおお!!!!」

握り直し、肩に持つ。そして、手を振りかぶる。

先の話に関しての考察だ、彼女が動けなかった原因は恐らく音波だ。マッコウクジラは音波を使い、場所を把握する。限界まで絞る事でダイオウイカを遠距離から麻痺させる事さえ出来る。理論上は人間も殺せるらしいが、深海に生身で行く人間は居ないのでそういう被害には基本遭わないのだろう。自分で一回試してみるかシャーマンとこからクローンを拝借するかしてみよう。継承で上手く分かる筈だ。

昔の自分なら海上は情報が交差し易い、広まり易いと懸念して行かなった。そういう知識や経験に欠けていたろう。・・・その結果、自分の考える事、後ろめたく思っている事を優先してしまったと思うのだ。

頭部を砕いた今、それは来ない。

そう安堵したからと言って手は緩めない、突撃も全て自分の力の足しにしかならない。

技がある、ならば足りる。

「・・・アンタは関係ねぇさ、だが、仕留めさせてくれ。俺の功績の為に。」

迦楼羅炎は全身の罪を焼く、そして、剣と接合する様に握らせた。ミスれば自分の責任だと火が煽る。

天高く構える、重き刃は地面に伝わり、足元が沈む。

単純で、緻密な狙い方であった。一文字で上から下へ振り下ろす。遅く見えるが、最速の剣。衝撃が周囲に影響を強く及ぼし、建物が崩れ落ちる。トドメを刺されたのだ。

より強く竜に入れる、後から力を増やし、出来る限りの最大を以て、打ち砕く。胴体以降を切り裂き、彼女を目で観測した。だが。

「・・・足りない。」

心臓を潰した感触はあった、だが、血の流れが早い。ペースを上げて余裕を作りやがった。

ブレスはもう打てない、音波も頭部の衝撃で封じた。彼女を拾い上げ、これで問題は無い、不安は全て一蹴された。

「頭部が逃げた!仕留めろダガン!!」

コウキは剣を片手で伸ばし、竜王迄の道を切り開く。

「仕込み芸だ!とくと喰らえクソ駄竜!!」

彼女は剣の上を進む、そして、鞘を捨て、作られた新たな剣を見せる。この時の為の、たった一度振られる為の剣を二振り、引き抜いた。

「最初で最後のお披露目だ、『永遠の0』リスペクトって奴だよ!」

硫酸ピッチの剣・・・固くはあるが、直ぐに崩れてしまう・・・アイスキャンディみたいなものだ。だが、それは崩れる前に目から奥に入り、柔肌が如く切り分けていく。一回限の剣、それを真下に叩き込む。

噛尾流 屠竜之技『五本裁』

それを繰り出す為の一連の基礎の積み重ね。

『空蝉』・・・曰く、回避の心得。

『天道』・・・曰く、剣の構え方。

『血越』・・・曰く、感覚の整理。

『日没』・・・曰く、心理の平衡。

『果断』・・・曰く、過去の用意。

五つの状況を用意し、難題に応える剣を向けた。この技はぶつける相手の居ない、役立ずの技だ。

使えるなら、使ってしまえ。相手の事を考える暇は無い。

「でりゃあああ!!」

五体を伸ばし、二刀を前に持っていく。

そして、竜王の頭部は砕かれ、沈黙する。

「・・・見事だ、少年。」

アルトリウスがダガンをお姫様抱っこで確保し、見事に着地、念の為と剣を刺し、死亡確認をして彼は言う。

「竜王はこの少年と我が右腕が討ち取った、お前達!讃えよ!!」

歓声は、王都の前に酷く響く。


彼は、彼女の居場所を必死に探す。もしかして、自分が潰したのか、いや、継承はされていない。未だ生きている。・・・あっちは大丈夫だ、だが、もう片方は安否確認すら出来ていない。


自分が気付いた頃に、彼女の両脚と片腕は既に喪失していた。

「・・・エマ・・・。」

「心配はしないで良いよ、君は私の浮気相手、悪いお姉さんに唆されたちょっと悪い男の子。」

止血、治療、それを繰り返そうと、彼女は手を解いてしまう。脱力し、背筋が崩れていく。

「見るのも、見ないのもいい、口を出しても、良いと思っても、侮蔑しても良い。・・・私の全て、記憶、寿命、価値。・・・託すよ。」

彼に、信頼と殺意を寄せた。全てを託せる様に。本当は殺意なんて向けたくない。我慢して、彼に向ける。

「アクセサリ、そしてちょっとした小道具だ。・・・良い劇を!・・・私はお役目ご苦労・・・となってしまうが。」

そんなんじゃ止血出来ない。それでもするのだ。

「・・・甘えん坊だなぁ、君・・・。」

倒れそうな彼を抱き締め、胸に収めると、満足して手を緩める。

「・・・皆、純粋だからすぐにこうなっちゃうんだ。私もそうだね、役目を全う出来た分、良いかな?」

意識が、ついに限界を迎える。数日の奔走、戦いの末に倒れる。エマは、彼が安心して帰ったと誤解し、眠りこける。血を流し続け、必死な彼を無意味にしてしまわない様にと思いつつも、億劫で動けない。


中々死なないと思い、一度目を開ける。

「・・・アルトリウス君・・・。」

「暇だったからな、時間の余裕はある。」

「・・・じゃあ、一つ聞かせて?」

「何だ?」

「・・・君は本気でユウキとコウキを殺すつもり?」

「義母ティアマトに誓って嘘は言わない。・・・殺すつもりは無い。」

「それ、彼女に言ったらどうなる?」

「彼女が殺すだろうな。」

「・・・愛されてるのねぇ、羨ましい。私みたいに浮気しちゃう事、なさそうね。」

会話の中で、彼が酷い目に会う事はなさそうだと安心し、心臓を緩める。

「・・・私の短い人生から君に・・・。」

「短くねぇよ、女の齢二十は男の齢五十に、女の齢四十は男の齢二十さ。」

「面白い言葉だね・・・。・・・それにしても、長いなぁ。」

「・・・ああ、それは俺の剣の影響だ。」

彼女は、儚げに言った。

「君に託すより、良い相手を見つけちゃったんだ。これが、恋って奴?」

愛とは違う、一瞬の衝動。現実の前で叩きのめされる様な、それでも何か、自分の心を歪める感情が芽生えた。

「・・・面倒事が減ったよ。」

「もっとマシな言い方にして欲しかったなぁ。」

泣きじゃくってでも彼を止めたい、自分が少しでも大人でありたいと言う情動すら無視して、その心は開こうとする。

「・・・ごめんね、本当にごめんね、コウキ・・・。」

彼は止められない、だから、せめて意地を張りたい。遺書を記憶に刻み、彼へ弁解してでも、この感情は隠したい。

「アルトリウス、私を殺して、最後の記憶を・・・誤魔化して・・・。」

「・・・そうか。」

「若い気分のせいで・・・一ヶ月も無かったのに・・・彼の事しか・・・。」

「・・・苦しまない様にする、目は閉じておけ、意識が数秒残る。」

「別に良い、当然の罰。」

そうして、心臓の隣を剣で刺された。

刺した儘、彼は去った。



工廠公は、少し遠くで見ていた。彼女の死を予感し、駆け付ける。

「・・・お前も辛そうだな。」

「正直、使い捨ての妻だったさ。理解してくれたが、彼女は100年ぽっちしか生きなかった人間だ。」

ロングスカートのメイド服で誤魔化すが、足元が泥塗れ、走ってきたのは明らかだ。

「使い捨て・・・いやまぁどっちがどっちか分かんないけどさ、彼女は弱さをずっと隠していた。でも、何処かでバレるって確信してた。」

ローガンに似た語り口で彼女は話す。

「・・・もう少し、自分が頑張れたら・・・って感じ。」

弱みは隠せない、彼女は大事だ。同性でも、妻にしたい位の良い人間だった。・・・何処か足りない、良い女。

「はぁ、もう。先に行っちゃうとかホント有り得ない。」

口調が戻らない、いつもの言葉にならない。

「人は直ぐに死ぬ、平和ボケで忘れた奴等にはショックな話だが、今日明日で友なんて変わるものさ。そういう事を忘れないからこそ英雄になれる。信頼され過ぎて、そして、実際は互いの実力を見れていなかった。エマは馬鹿だ。コウキもそうする事を知れない程度に馬鹿だ。」

皇帝も、遠くで同じ様に思う。

「エマが死んだ・・・と。」

「記憶を取れなかったのはやっぱキツいか?」

「いや、個人的なものだ。」

「良い女なのか?」

「ああ、良い女だとも。」

アルトリウスは諦めてはいない、だが、要求は断れない。後は希望に託すのみだ。

「手段さえあれば、だ。もう脳は損傷で復帰出来ない。一応保険で生かしてはあるが、到達出来るか。運ゲー、だな。」

笑いもせず、彼は葉巻に手を付ける、それを工廠公を止めはしなかった。

エマ・アンドレイ・ゴティクス

工廠公の妻にしてスパイ、篭絡や色仕掛けを昔はしていたが途中からそれ以外の才能があった事、単純に興味を無くした事、身内に敵が出来た事から中立に変わった。しかし生物的にもそうだが、真摯なコウキの姿に信頼を寄せ、死に行く中コウキを考え続けた、だが、コウキに自分の辛い記憶を向けてはならないと思い、アルトリウスの手を借りる。



継承で理解するよりマッコウクジラの妖精探した方が平和な筈なのに考える気が無いのがコウキという人間です。やっぱ戦闘狂。

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