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継承物語  作者: 伊阪 証
王国騒乱

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33/74

橙の光

カオルコのデザインをボンキュッボンにしようとした時の彼女との話。

「やめとけ、ボンキュッボン体型になるとな・・・。」

「(何だ・・・?)」

「あだ名が平行四辺形になる。」

という実体験がベースになりボンキュッボンは没になった。

古い話だ、数千年前、王国が基盤程度に存在し、レセップス家の面々が世界を蹂躙していた頃。

「頼みたい事が・・・。」

魔術の神、各地に存在する神秘は契約により行使出来ると聞き、レセップス家の一部、現王国の王族であるソロモン一族と対面していた。

「なら、悩み事を聞いてくれ。希望を聞きたい。」

話はトントン拍子に進む、というのも神格は身体のパーツを外見上変化こそないが質量は軽く、中身は少ない。その為無駄な知能を持っていないケースが多い。

「私の子は、外で生きたいと思っているのに魔術が使えない。」

その子供を抱え、魔術を行使する。傷は即座に治り、その技術に呆気を取られる。

「便利だろう、魔術。元々、この子を治す為の技術として探しに探して再現したものだ。」

だが、彼にも解決出来ない事があった。

「誰でも使える技術が、彼には出来ない。現人神の類になっているせいで、自分の設定出来る範囲に居ないのさ。」

という問題であった。それはコンプレックスであろう、そして、自分だけ身を守る手段が無いという危機である。その為、知恵や他者を借りるべきと考えたのだ。

「なら、封じてしまえば良いじゃないか、と思う訳だ。だが封じれば自分は死ぬ、半端に封じても世界が捨てる。その取捨選択を迷っていてね。」

「・・・我々の相談も、実はそれ関連でして・・・。」

結果、魔術は封印された。制限され、使えなくなった技術として脱却が進められ、無事に出れた彼の子を丁重に育てた。



復帰するに時間が掛かる、そう思う事二十分、自分は彼女を探していたが、やはり絶望的。場所は・・・竜王の付近だと受け止める。

「・・・不味い・・・不味い不味い不味い!!」

取り乱しながらも前に進む、一歩一歩が重い。

「食われている!?」

「産まぬ人間の継承が出来る存在なら、アレが不死になる可能性がある。そして消化迄の三時間がタイムリミットだ。」

「救出出来ても悲惨じゃないそれ。」

「治せる、肉片一個でも残せば再生してくる。」

「ナノボット系の生命って事?」

「産まぬ人間は・・・確かにそうだな。細胞に種類があって、不死細胞、中和細胞、形成細胞で構成され、後者二つは破損を起こせる。そして、不死細胞はカニバリズムによる継承範囲の対象だ。」

「・・・それ初めて聞いたんだけど。」

「災害としての知識だ。」

馬車の中から飛び降り、武器を確認し、弾丸を込める。

「私は遠距離からやっとくね、ちょっと脚に不安がある。」

「あるだけで遥かに良い。」

「頑張る・・・けど対策はある?」

「竜王出てきたら終わりだから二人用意した。ロタール、ローガンだ。」

「倒せそう。」

「それもそうだな。」

彼は挑む、森の中にいる、山の上にて待つ、ただ一人の存在。人の残骸の上に立つ召喚術を行使する邪悪。友に手を出し、人の心を失ったであろう存在。

「明は今も存続する!そう宣言しよう!!」

叫びと喝采は止まない、音圧と共に兵士が揺らぐ。

「我が名は永楽王、永楽王と再び名乗ろう!!」

召喚術で自国の兵士を次々に呼び出す。条件を整え、武具も用意する。先まで使っていなかった辺り、何かある。

「動かざる明の王、不動明王として君臨し、西部を支配するものだ!!」

そう高らかに宣言し、剣を天に向けると、竜王の剣は雲を引き裂き、快晴に戻るのだ。

「あらよっと!!」

快晴を竜一色に変える無作法者が一人、ロタールである。蹴りで竜を飛ばし、眷属を次々に殺す。脱皮の残りを処理し終え、地面に再び降り立つ。

「なんだって?哀れな王だ、国民ももっとマシな奴選べよ。人を見る目が無い。竜王だなんて大層な名前してる蜥蜴とかマジでねぇわ。」

ひょいっと背中を掴み、フクマツを奥の森へ叩き返す影、気付かれずに後ろに回ったローガンである。

「やっぱ戦争だ、待ってるとか性に合わねぇ。派手にやらせてもらうぜ。」

「地面に送り付けるから下から頼む。」

「応よ!」

一瞬で姿を消し、竜王は上空から地面に叩き付けられる。不意打ちが重なり、ダメージがある。とはいえ衝撃によるものが多く、切り傷や出血はほぼない。姿勢や格好としてはダメージがあるが、実際に死にかけているかと問われればそうでも無い、スタンしか出来ないという事だ。

「硬ってぇな、そりゃ倒し方用意するって言っただけあるわ。・・・よーし、暫くやっとくからお前もやっとけよー。」

「一応定期的に災害側見とかなきゃいかんから数分待っとけ。」

「ああ、問題無い。思ったより弱っちぃぞ。」

頭の上に胡座をかく、というのも竜王の弱点に何となく気が付いてしまったらしい。生物的には当然だが、こうもあっさりだと、飽きるというもの。

「コウキ!見てたか!存分に楽しめ!やれるだけやっとく、気にすんな。」

「なんだ・・・なんなのだお前は!!」

「俺か?ロタールだロタール。帝国最強の一角、対生物のエキスパート。そして今は新しい英雄を見守る役目もある。」

そう言い放ち、蹴り飛ばし、コウキの目の前まで送り付ける。そして座り直す。

「竜王は遠距離が基本、こういう近距離の技はない。そりゃあ、自分以外が雑魚ならそうなるよな。倶利伽羅剣も場所不明だしよぉ。」

当然の弱点ではあったが、違和感があると確認する。

「何か短ぇな此奴・・・あ。」

自分は一回上空を見に行ったが、再度飛んで確認してみよう。

「・・・マジか。これも眷属かよ。」

雲から上空に掛けて、空を満ち満ちと巻く竜が居た。にわかには信じ難い、有り得ないサイズと長さ。

「・・・これは・・・不味い。」

角を掴んでこれを武器にするかと持ち上げる。偶然、都合良く手に入って良かった。

「ヤバい、竜王の本体じゃねぇわアレ。」

『マジか、サイズはそれなりだろ?』

「目測最低一万kmだぞ。」

『・・・多分そっちが本物だな。大陸鉄道かよ。』

「地面に落とす、気を付けろ。」

『ああ。』

竜の眷属を手に持ち、数百kmの鞭として雲上に振る舞う。衝撃波と異音が重なり、その光景に釘付けになる。

恐怖の竜、雲より爪を覗かせ、その一本が遠目ですら一都市に比肩するサイズである。頭は最早端から端までギリギリ視界一杯に収められるサイズ。

「・・・これが竜王か。」

もう一度、繰り返した。

「これが!!竜王かっ!!!!」

彼は喜びに叫ぶ。迷いなく突撃を選び、素早い鉤爪を避け、胸の内を狙う。



低姿勢からのめり込む、二度の剣技は弾かれた。召喚術による未知の召喚、ランダムで何かを出してくる。知識が対応出来ない。出てからでは遅い場合もある。

音がした、光より先に音が来た。背後、死角位置、そこから音的に見れば土遁が来る。

抜刀、二度の回転で難なく振り払う。一度で出来なかった辺り、徐々に学習されている。しかし戻る事を余儀無くされ、戦況は依然向こうの優位だ。

「カメラワーク!」

「!?」

視界が自分の本体から外れる、外部のカメラの画質がゴミな視界に強制される。姿勢を大きく崩してしまう、視界から上下感覚が得られない。衝撃の昏倒

も残る。

「サウンドオンリー!」

聴覚と平衡感覚が没収される、何処かにマイクが落ちている筈だ。カメラと別位置に出されると厄介。ハンドガンで一度試験する。

15°差だ、サプレッサー無しで助かった。

撃ち抜き、そして決める。召喚された武器を振り払い、片手に視線を誘導させつつ順序を変え、猫騙しをド近距離で起こす。

「働き過ぎだ!こういう基礎戦闘が出来ない程なぁ!!」

ハンドスプリングに際し片手が鈍く感じ、恐らく再度骨折しただろうと諦め、左で補う。両足をブレーキに、左手を地に、右を隙あらば縛り、体勢を立て直す。

「ルックバック!!」

ライフルを構え、同タイミングで放つ。燃焼する金属が直線に木々を振り払う。

途中に召喚された無数の鏡を粉砕し、相手を砕くべく進む。

「・・・命中。」

多分、完全では無い。脚辺りだ。鏡の本能的恐怖は武器を揺らす。

遠くから聞こえる声は、自分が鏡を破った時にハッキリと聞こえる。

「カメラワーク&サウンドオンリー!」

そして、鏡を蹴破る土遁が最後に召喚された。

吹っ飛ばされた後、なんとか意識を取り戻し、右手を付け直し、動くか確認する。そして、振り返ると・・・。


悪意の玉座で生き残った人々が襲い掛かる、それを凌ごうにも、足りない。凡ゆる面で足りないのだ。一番の問題は、コウキが気付いていないという事。気付けば、迷わずこっちに来て自分を守る筈だ。英雄である彼はそうしてしまうだろう。そうすれば、タイムリミットは間に合わず、不死の竜が完成する可能性がある。

一度の失態、取るに足りないもの。その筈だ。連戦と道具の作成で不眠不休を幾日か。その結果、重傷と言えるギリギリのラインの怪我をした。そして、怪我を誤魔化している所を彼に見られた。

「エマ・・・?」

「大丈夫、確認してただけ。」

「・・・ああ。」

彼女を心配させない様に、自分は右手を左手で抑え、前に進む。

「俺は行ってくる、戦うよ。一人でも大丈夫だ。」

「そっか、頑張ってね。」

彼女は穏やかに返す、彼に状況を理解させない儘。

「ごめんね、騙しちゃって。」

彼には太刀打ち出来ないと、自分に寄せられる様にそれを握った。

今は駄目だ、今は。今刺激すると彼が巻き込まれる。彼女は諦める様に動かない。

エマは何かを刺され、盾として、囮として彼を守った。戦う力は大してない。だが、守る事は出来るのだと、ユウキの行動から考え、試した。断末魔を防ぐべく、自分の喉を掻っ切り、黙り込んで呑まれて行ったのだ。



鄭和の記憶を継いだ誰かは、特に知識が特別にある人物ではなく、戦火の中比較的逞しく育った子でしかない。己が鄭和の記憶を引っ張り出し、繕った。

というのも日記にはかなり本来の歴史と異なるものがあり、鄭和と鄭成功が出会ったのは鄭成功の生前に鄭和が誰かしらに継承されたからではないか?

統合失調症の考えは読めない、しかし、そこまでぶっ飛んでいる訳ではなく納得出来る範囲であった。

だが、今は相手を殺すまでだ。



もう一つの懸念、少し前の話。優側からの情報提供だ。ドローンで偵察した情報らしい。

自分は彼の立場を理解していた。そして、自分は役目があった。ユウキを王にするという方式の平和。ユウキの国で反乱が起きれば彼がフィードバックで死ぬ。全ての国に直ぐに伝達される。・・・その話が信憑性に足るかは正直、あまり言えない。

この世界において死ぬ理由は些細なものだ。何時誰が亡くなっても変だとは思わない。

死が何か特別なのでは無い、死んでしまっても誰かがやるという気の緩みがあるのだ。

「・・・あれ?」

コウキに関して、彼女は気付いてしまったのだ。

出来レースか、ミスリードか。

気の迷いが、彼女の剣を鈍らせる。

「・・・ごめん。」

『何をしている!?』

「・・・なんか・・・変。」

『・・・倶利伽羅剣の影響か!?』

対生物特効、罪ある者を容赦なく焼く炎を纏う剣なれば。災害には尚更効くというもの。

『・・・身体が制御効かねぇ・・・お前何を・・・。』

コウキは気付いた、これは彼女の分ではなく、自分の罪も重ねているが故の罪。その手で一人を手に掛け、数十億の命を殺す手法を導き、百億の人口を誇る文明を地に埋もれさせた罪である。

死ぬ事は無かった、されど熱は止まず。

「コウキ・・・助けて・・・。」

彼女は幼い心で耐え忍ぶ。血が滲む中でも、我慢した。

「・・・あ。」

竜王の頭が地面に食い込む。彼女は食われたのだ。

ロタールの言っていた遠距離攻撃、目視不可の何かであると言うのは分かった。



竜王に突撃するべく用意し、残りは部下に任せるつもりでいたが、不安通りというか、面倒事になりそうな話を要求された。

「うん?お前は・・・どうした?」

「死体を引き渡して。」

「目的は?」

「死体が不足してる、もう一度二次災害として顕現する為。」

「・・・駄目だ、却下する。それに関して禁止されていてな。エリニューエス関係だろ?」

彼女の方を見ずに答えた、相手は災害、色仕掛けに補正を掛けて来る可能性が高い。あのコウキも稀に惑わせてくる。

「そう進言したのはコウキだ。」

「・・・そう。」

その言葉を残念そうに聞いた、だが、それ以上に深みがある言葉で彼女は返す。

「・・・人として生きるんだ。」

涙ながらに続ける、だが、それでも振り向かない。

「私は、邪魔かな。」

「寧ろ愛されてるだろ、それ。愛されてなきゃそうはならないだろう。」

残酷に、冷酷に、外見上はそう受け取れる言い方で彼は言う。

「お前の事情や、元は知らん。それでも挑みたいなら、何も見なかった事にする。ただし、行動次第で即座に殺す、全部お前のミスにしておくからな。」

その言葉と責任感が背筋を立たせる。意識が回る、頭は痛む。その姿勢のふらつきを補う様に言葉を付け足される。

「やらかしたら戻ってこい、良いな?」

「うん。絶対に敵対しない。」

「なら結構だ。」

ローガンは一度去る、取りに行くべき武器があったらしい。

そして、船上は突如塗り替えられる。

「おっと、無防備にも。」

「え?」

「ブースター、オン!」

狂の方が自分の背中に括り付けたロケットエンジンボートで河川を駆ける。

「これ残り十分で爆発四散するからさっさと逃げるか。」

「何でそんなものを!?というか誰!?コウキと臭い若干違う!」

「私はちょい汗臭い、女性ホルモンは私の方が多いからな、水分量が多くはあるが筋力は同じだから排出される量が多い。柔軟性と体脂肪率の調整に使ったから腹筋ムキムキだけどちょっと柔らかく出来てる。」

「姿勢!姿勢戻させてよ川に沈んじゃう!!」

「大丈夫だ足場がある。」

「足場って言ってもローターの後ろだから流されちゃうって!!」

「150km/hの維持って結構難しいな。」

「ねぇ!聞いてる!?」

コウキはロープを引っ張り直し、ボート上に配置する。

「お前はお前のやりたい事をやれ。やったら回収して撤退だ。誓え、裏切るなよ。」

振り向かずに彼は、彼女に堂々と真実を告げた。

「・・・分かったか、災害種『貴方への愛』個体名リーツィア。」

彼女は顔を撫で、それを知る。ローガンと全く違う理由で彼は振り向かない。自分に配慮した視線なのだ。



戦闘は再開される、何も知らないコウキと、知る事の出来ないフクマツ。その差異は非常に大きい。

破壊する、召喚物を次々に破壊する。エマへの信頼一つで止め続ける。狙撃支援は無い、彼女にもすべき事がある、なら今は負担を掛けない様に。

抜刀、構え、脇を締め、腰を低く。剣に重さを託し、障害物を砕く。氷を砕き進む船の様に、万物の価値を忘れて砕くのだ。

剣を振るい、手を握り直す。右手の骨折も忘れた様に動かし続ける。どうせ後で治るなら、その手はどうとでもなる。千切れようと先に進むのだ。

「召喚はもう無しかぁ!?」

「ほざけっ!!」

挑発して、召喚を見せさせる。召喚には二パターン存在し、手印の様なものと、詠唱の様なものがそれぞれ存在する。

「見た、分かった。」

似非召喚術、キーは不明だが、鄭和が使っていなかった辺り、条件はかなり厳しい。恐らく『英雄誕』がキーになる。コストは不明、量も未知数。竜王を出している時点で相当の技術だ。

「来い!シーユーメイビー!!」

馬がフクマツの無防備な後頭部を蹴っ飛ばす。

血を放とうが彼は一切手を緩めない。

薩摩示現流、蜻蛉の構え。

一文字に近い体勢、最も火力をダイレクトに打ち込む斬り方。当たれば武器を封じるか即死か、その機を狙う一撃は放たれた。

「ぬぅうぅん!!」

「あああああぁぁぁ!!」

召喚術を体内に行使された、ナイフが下腹部にのめり込む、二発目が来る。その短刀を素早く見つけ、方向を絞る。フクマツが手に持った短刀を目視した。

起倒流、表十四本、谷落。

相手の攻撃に対し傾きを合わせ攻撃を回避、左方向へ引き転ばせる。

新陰流、無刀取り。

所謂真剣白刃取りである。召喚術こそあれ、この剣に関する技術は勝てると判断した。彼の身体が変わった頃に、そんな筋トレメインの行動をする筈が無い(というより出来なかった筈)。妄信的で、狂信的。故に、彼は副産物として鍛え上げられ、実際の所、何時までも働いて稼ぎ、模索するだけの人間だった。自分の見てきた経験がそれを悲しくも結び付け、弱点で無い事を祈り、結果殺せてしまうのだ。

「実力も経験も違う、甘えた覚えは俺には無い。」

その転倒した手から短刀を奪う、身の重心を低くし、衣服を握り込む。巴投げと共に転んだ際の刀を立ち上がる力で引き抜き、脱力する中で相手の心臓目掛けて狙う。

「田川福松・・・討ち取ったり。」

背面より正確に心の臓腑を射抜き、片手で直ぐに引き抜いて血を払い、鞘に戻す。彼なりの弔いであった。



体内のナイフを取り出し、内臓の出血を防ぐ。大したダメージは無いが、内出血が多く、打撲も多い。分からない、意識が混濁する。

「・・・彼は、死にましたか?」

「・・・心底悔しそうに死んでいたが、お前の顔を見た時に穏やかになっていた。」

「・・・そうですか。」

鄭和が、鄭和を名乗る誰かはそう言った。

「・・・私が強ければ・・・。」

「・・・。」

「・・・もっと、伝えなきゃいけない事があったのに・・・。」

遺体を持って去る、自分には邪魔する体力も、気力も無かった。



田川福松の視点では、鄭和よりも情報量が多い。

群れる渇望が乱した人間の進化論、継承という事実上の転生、それの被害者として、彼等は現代に迷い込んだ。しかし英雄誕はそれ以前から存在し、イレギュラーとしてその地位は隠された。

群れる渇望は災害として異常な点があり、しっぺ返しの様なシステム、例えば災害を殺すという法案を組んだら、人間に災害を混ぜ、殺させる。あくまでバッファーなのである。過激へのアンチテーゼ、戦争という手段に一度手を染めればそれを延々とリプレイさせる凶悪犯。

戦争をした彼を危険人物と看做し、それ相応の罰で干渉した。彼が能動的にした訳では無いが、呪いの様に降り注いだ。鄭和も鄭成功も戦争に参加した経験があり、互いにその罰を提供された。戦争をしたという多少の罪悪感に干渉し、支配するのだ。

被継承者が存在する、精神を半分にされる分、そして死のショック直後の為、基本的に精神は取り込まれる。意志は掻き消され、何一つ出来なくなる。

その筈だった。精神が弱った青年を継承した彼は、その境遇を直に見る事が出来た。


田川福松の転生先は何があったのか同姓同名、とはいえ血の繋がりは一切無い。

日記を厳重に読み込み、演技を繰り返し、平静を装い、全てを把握した。

彼の親は消えた、何があったかは分からない、借金等では無いが、持って行った物が希少品ばかり、案外下らない理由かもしれない、そう断定した。

しかし自分には未だバイト出来ない年齢の妹が居て、一歳下なだけだが、自分は退学、年齢を誤魔化し働いた。

ホストは割と都合が良い、グレーな経営も多く、給料は現金払いである事も多い。その影響で起きた事件もある。表のビジネスに対し裏がある、というのは恒例行事にすら思えて正義が疼く。しかし、命を支える為に我慢した。

嘘を代わりに言ってくれる医者が一人頼りになっただけ、起きない妹、誰かも分からない妹の為に働き続けた。

金があれば、彼女を助けられると信じて。


金が無い、誤魔化す資金も無い。医者は善人ではなく、金払いが良いから助けていただけであった。

金が無い頃に支援を打ち切り、見捨てた。誤魔化す資金が無いからというのも聞いたが、分からない。分かる筈もないし、分かりたくもない。

「こりゃあ脳死だ、植物状態で脳幹以外脳が機能してねぇのよ。・・・脳死は分かったか?医者に居たって言ったが・・・。」

「・・・。」

「いや、治し方で分かる、藪じゃねぇ、大事に扱ってる。伝えれなかったのさ。お前さんの経歴を見て。」

その言葉は、彼にとっては彼の重さにしかならない。だが、その医者にとっては復讐の方が重く、辛いと知っていた。

「助からん、それで?どうする?」

「・・・。」

何か手助けになるかの様に、彼にある文書を渡した。

「これが仮説を示す文書だ、公にしないという約束をした上で、隠し続けろ。」

未来の常識、継承について。それの初期、コウキによる異変についての総括である。

「・・・噂には聞いたが、人間の過剰な進化。それの失敗例か。」

その事実だけは伝えずにいた。患者は彼女だけではない、彼も対象だ。命として平等で、寧ろ世話出来る分彼の方が重要なのだ。だから、追い詰める選択肢をさせてでも、彼を生かす様に誘導する。



それが、どんな結果を産むとしても。

「・・・分かっている、殺してでも、継がせる。」

それが、どんな覚悟であったとしても。

「自分にしか出来ない、自分にしか出来ないんだ。」

それが、振り返れないと知っても。

「・・・。」

痛覚の記憶すらなく、馴染んでいった。



継承はやはり別の者へも届く。

「・・・何よこの記憶・・・気持ち悪い・・・。」

三度は吐いた、脳死の間の記憶は部分的に存在し、記憶の正体を知る。植え付けられた誰かの記憶。

「・・・昔居た・・・子よね。」

継承は一般的ではなく、知名度も無い当時、極普通の少女も対象に選ばれた。

「胡散臭いとも言えないし・・・。」

断片的に聞いた情報の文書をベースに、彼女なりの行動を始める。

「英雄誕?」

そう書かれた物が空から落ちてきていた。

だが、それ以上に飛行機がセットで落ちてきて、男もパラシュートで落下してきた。

「おっと危ねぇ、失礼した。誰だ?」

「名乗るのはそっちが先でしょ?」

「傭兵団所属のダグラス・ローガン・デメルだ。今核兵器が飛んでてへばりついてスイッチ解除に勤しんでいた。」

「・・・ごめんなさい、何を言ってるのか全く分からないわ。」

「だから核ミサイルののスイッチをへばりついて解除してたのよ。」

「本っ当に何を言ってるのかさっぱり分からないわ!!」

「そうか、じゃあ一回スイッチを・・・。」

「止めて?」

「だろう?信用するしないは兎も角、止めたくはなるって事さ。」

眠気の中で彼は葉巻を吸う、そして話を再開する。

「あと輸送機も落とした。テロリスト連中だな、偽造に引っ掛かった辺りは要修正って感じ。」

「・・・それ不味くない?」

「スクランブル発進した核弾頭搭載爆撃機よりは安全だ。約束する。」

「それは当然よ。」

輸送機が真横から突っ込んで来た、手を出すと丁度止まる。ほぼ計算ずくというか、被害が出なきゃ何をしても良いと思っている節すらあった。

「安全だ。貨物は無くなっただろうが、充分だろ。」

「何処が?」

彼は其の儘コンテナに入るが、ついて行こうとすると寄るなと言われる。火が上がっている中で探しているが、葉巻も消さずに作業しているとどうしても心配になる。

「内臓圧縮機材とインプラント、追加で内蔵武装。生産に難が無いのも良い。設計図もだ。」

内部をしれっと覗き、設計図を確認する。

「・・・こいつ、グローバル素材じゃねぇ。戦争法に違反するぞこれ・・・。」

なんて事を言って直ぐに飛行機で帰ろうとする。エンジンを掛けようとすると止められた。

「ああ待って!せめて私だけでも持ってきなさいよ!」

「え〜。仕方無いなぁ〜。」

「ここ安全じゃなさそうだし。・・・それに。」

扉をスライドさせると、彼女はもどかしくも目付きで語る。

「・・・ああ、そういう事か。それにしても動揺しなさ過ぎだろう。隠せてはいないが。」

「私の目標・・・ってだけよ。我慢して手に入ったら発散する、気持ち良いでしょう。」

「葉巻への当てつけか貴様。」

そして、彼女は現在のローガン所有する海軍の副将である。・・・その記憶に関する顛末を話してはくれたが、解決には役立てなかったかと落胆していた。



英雄誕を回収せずに、彼女は置いてしまった。それがある人物に渡る。

「太公望の英雄誕、これがあれば・・・出来るのではないか?」

北部の召喚術・・・現状彼限定の技術ではあるが、存在は明示しよう。



王国を導く彗星は、ある一言で大いに世を盛り上げた。

「英雄とは、人を変える力を持つ者だ。変化の善し悪しは問わん、正義にしようと悪にしようと、英雄は英雄だ。・・・さて、諸君、君達は英雄になった事はあるか?世界を変えられるか?一人でも良い、多ければ尚良い。それを世界全体で行えれば我々の世界が完成する。さぁ、手を伸ばせ。」

声は王都の隅々まで届く。地下でさえも。

「君達は英雄だ。」

国中に広がったその演説は、人々の衝動を問答無用で駆り立てた。人に手を出す者も、人を助ける者もいた。

それが王国の軍事力強化の起点であった、同時に王国の治安を決定付けた。

その結果生まれた風潮があった。

成功者は、すぐに殺される。

記憶を狙い、その手段を奪い、利益を横取りする。

王都と将はその保護の為に生まれた秩序である。

エルヴィン・ジーメンスはそれを守る。

平等にならない世ならば、せめて機会は奪わせぬ。

だが、その事態は一変する。

ルナの死だ。

成功者である彼が、成功者である彼女の生という最大の機会、又、ジョーという成功者の権利がある人間から彼女を奪った。

誰一人責めない、この矛盾を責めないのだ。

それが恐ろしい、故に信用が出来ない。

最初から自分は利益的存在であり信用の必要が無いとか、自分は見捨てられたという錯覚に陥る。乱心はせぬ、だが、自分は部下を二度と信用出来ない。

冠を正されぬ長に価値なぞあろうものか。破滅への道ではないか。

暫くの間シャーマンの国に滞在した彼は、再建したホテルにいた。

古臭く、虫入りの電気があった。暖色の明かり。

私はそれをホテルで見た時、深夜の黒い光が窓が入る度、儚く燃える電気を確かに美しいと感じた。

自分は車椅子を押す。硝子の僅かな光を道に、彼女を見つめる。高さが違う対面で彼女は見上げる事無く言った。

その光は、熱を感じない。僅かに燃える火だ。

あの光は時間の経過を既にした様に感じさせる。老夫婦にでもなったかの様に。結果を忘れ、終わる過程を見守る。

愛した人を呆然と見て、愛された事に自分を呪う。

私は暖色の電気と同じ、その終末的、諦めの地点。

彼女の茶色に近い、乳房を愛したのだ。

ルナ「マジか、私の乳房茶色かよ。」

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