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継承物語  作者: 伊阪 証
はじまり
3/73

人は騙るが歴史は騙らず

温泉、屋内に作られたそれは中央十字では水が良くないものとされた為、独自に発達したものが多い。その影響が為に衛生観念から全然違う。

「・・・おい、コウキ、英雄のケツばっか見るな。」

「四つに割れてるよ・・・?」

「鞍要らん位だしな。そもそも鞍が広まったのはつい最近だ、馬の年齢も背中で分かる位になっている。」

「それはそれとしてコウキは見続けるのを止めろ。」

「アランのしょぼいもん。」

「マセガキがよぉ調子乗んなよ。」

壁の向こうで彼女は一人ご満悦であった。一人ご満悦じゃない顔でユウキが存在する。彼は不利益を与えると己に報復が返ってくる為、そのデメリットを解消しやすいチェルノボグが適任である。元からの柔らかさと、彼女の対ギャンブル性等が特にそれに役立っている。

「・・・痛い。」

「指でやった方がいっか、はい、ばんじゃーい!」

「そんなのやらなくていい。」

「気にすんなよ、同い年だろ?」

「お姉ちゃんって呼べとか言ってくるのに?」

「趣味だ、周りが年上しかいないと可愛がれる奴もいない。」

「・・・本当に気持ち悪いよ・・・。」

「残念だな、気を付けろよ、人間はどちらにせよ異性に主導権を渡すとろくでもない生き物になる。

特に私みたいな自己肯定を惜しまない女程平等を崩しにかかる。」

「・・・。」

最早何も言えなかった、また、彼が本当に不味いと思う事を発言したりはしない。この肉体の所有者が彼女であるが為だ。

契約によって彼女の幸運で守られる事で、自分の傷を防ぐ、大半の死を回避出来るものである。しかし、報復の痛みは絶対に残り、その傷も存在する。

彼女の所有物になった為に身体を使う事も難しい、筋トレは出来ないのが特に痛い所だ。

「力んでないから信頼はしているんだろ?・・・本当に分かり易い奴。」

「・・・血を分けた仲だから・・・かな。」

少しその言葉から気が緩み、安心してもたれる。丁度彼女の胸に頭が蹲る位。そうすると彼女は彼を嘲笑う。そして通じたのねと若干嬉しく思い、痛みに喘ぎ苦しむ彼に、心地の良い苦しみや痛みを教える。常人より遥かに疲れやすい彼が気絶する様に寝込んでしまい、涙を零し言葉を漏らす。その後に彼女は起こさない様に温度を37度に抑えた温水で彼の汚れを流す。

「・・・ユウキの優しさを反映した様な体だな、いつも通り丹精込めて洗うか。」

チェルノボグは水を少し手に残しつつ石鹸を泡立てる。そしてその泡を自分の指で細やかに操作し、撫でては少し遊ぶ。白いままでいられるのは、案外彼女のおかげなのかもしれない。

それを知る事は無いが、少なくとも家畜動物の様な安心感を見せているのだ。

「・・・車椅子を押すより面倒だが、楽しさは段違いだな。」

少し頬を緩めていると、突然扉が開く。

「ダガン、少しは静かにね。」

「突然居て驚かれるよりはこっちの方が良いんじゃない?」

「そういえばダガンって温泉に入るとどうなるの?」

「形くっきりとお湯が逸れる。」

「見てみたいなぁ、それ。」

「嫌だよ、お前の母親共と胸のサイズ比べられるの。」

「そんなに気にしてないって。」

「ホントかぁ?」

「引き締まってスタイルが良い、賭ける?」

「・・・賭けるって聞かれるまで予想と思わんかった。」

「あらまぁ。」

「ユウキ相手にするとあの穏やかな方の母親に似るな、本当に。」

「デメテルの話?ティアマトも悪くないけど?」

「親バカではあるが誰に対しても優しい訳じゃないだろ?」

「・・・あれでも、頑張ってるのよ。死ぬほどね。」

「お前はどうやら優しい側らしい。銃持ってる時は凛々しいがな。これが発砲美人・・・。」

「は?」

「褒めたつもりだぜ?」

「アルトリウスに頼んでつまらないジョークを言ったら処刑する法を作るわ。」

「皇帝が最初の死人になりそうだな。」

「あの人そんな人なの?」

「匿名で作家してるっぽい、言葉遊び強めの本があるが多分それだ。」

「ああ、暗号のパターンが多い理由が分かった気がする。」

ダガンは話の中で洗い終わったのか湯船に浸かる。泡が浮いているという感じもなく、見ていなかったのが悔やまれる。彼女はユウキに声を掛けつつ、身体中の隅々まで洗い流すが、これ以上は傷になるかもと中断する。未だ他人の背中を流すのが難しく、少し時間が掛かってしまった。そのまま抱き上げ、細身の体であるせいか軽く感じながらも、走る事はなく、気を付けて運ぶ。

「もう少し体を流してから出るから、転びそうになったら助けてよ?」

「あーいあい、わーったよ。」

こうしてここにおいての二晩目は過ぎた。少し生活リズムがズレているせいで、飯の時間が変わり、日の傾きと共に軽食を食うのが若干雅であると感じ、また、様々な種類のものを食べているせいか、若干健康リズムが整えられた。


夜十一時頃に日は沈み、一気に冷え込み、座ろうとしても丸太の椅子は冷たく痛いのだ。

だから夜空を見に行っているアルトリウスの後ろ姿を追う事は出来ず、少し陰鬱になった。

アランが窓の方は冷えるだろうと問い掛けたが、顔を向けてその言葉を聞いた後にはどうでも良いと思い、無視した。ただ、話は続いていた。

「コウキ、お前は以前どんな所にいたんだ?」

「日本、福岡。たまに銃声とかグレネードの音がしてた。」

「日本にもそんな場所があるんだな、まぁ、統計から見て少なくなるとは到底思わんしな。」

「アランさんはどこにいたの?」

「フランス、ボルドー。パリにもいたが下宿先の友人の店が過激派に燃やされた。」

「よくある事だね。」

「あるあるだな。」

「パリ大学所属?多分だけど12?」

「ああ、パリ・ヴァル・ド・マルヌにあったからパリの外だがな。日本に帰って有名人になった人はあまり見ないが、誰か知ってるか?」

「西園寺公望。」

「古い、結構古い。」

「政治家とか目指したならグラン・ゼコールとかいくものじゃないの?」

「単純に実力には自信があるしもう一個やりたい事もあった。そして医者になったのは医者志望だったけど途中で研究者やりたくなった。そしたら日本で例の小保方が事件を起こしたのが原因でなるのをやめた。投資している連中は軒並み知識とか細かい情報を知らずに損切り、向こうの研究所に出資して運営できなくなった。そういう過程がある。」

「あー、それで、もう一つのやりたい事って?」

「手術用機械、ダヴィンチの後継機を作る事さ。」

「単純な需要だけじゃなくて軍需もあるもんね、あの機械。」

「空母とか軍艦が民間人保護に使える様になるから単純に助けれる人数も増える。物資の補給がどこまで出来るかに依存するが、プラスチックでも転用出来る機械であれば尚更良い。」

アランは麻酔銃ピストルの様なものを窓の反射で見せびらかす。

「これは軍用の止血剤、プラスチックを打ち込んで血管の傷を塞ぎつつ血に接触する事で固まる。アルミニウム8000系でやろうとしたら失敗したが、これはこの機械の少ない世界で功績を残した数少ないものだ。」

「・・・撃ってみてよ。」

「コスト考えろ馬鹿。」

「高いんだ。」

「素材はあるんだが製造ラインがな。」

「でも、凄いね。助ける事が出来たから誇ってるんでしょ?」

「嗚呼、勿論だとも。」

少し目を合わせなかったとコウキは察するが、気分を害さないように、もしかしたら今迄褒められた経験に乏しく、意表を突かれたと思っているのかもしれないとあまり触れなかったし、素振りも見せず、次の話に繋げる。

「そういえば、歴史の話をしてくれるんだっけ?」

「明日だ、流石に夜遅くに語るべきものじゃない。」

眠りについた彼等は、英雄の帰還とほぼ同じタイミングで寝た。扉から少しチェルノボグが見守っていた所、アランが寝ている事を確認したコウキが彼のベッドで、少し慰める様に撫でている所を目撃したが、微笑ましいなとすぐに扉を閉じた。


古代、亜古代、旧暦、古暦、中暦、新暦。

暦は中央十字トップの称号が変化する変わり、名称が付けられたのは凡そ百年前。

亜古代は歴史書が存在し始めた有史に該当するが、竜種(恐竜と同一の扱いで問題ない)が現存した為に文明が維持出来ず、同盟による共有財産として、帝国の前身である都市が神殿を建て、金庫及び納入を進めた。

その歴史書一つで考察が進み、それ以上はない。

帝国は大陸の大半を支配し安定させ、他の国々と同盟を結び支配した結果、神殿を中心に多神教が成立、しかし魔術という変わったもので属国の王国を反映させた『こじつけ王コンスタンティヌス』内戦の中で多数の大虐殺を引き起こしながら自国の強さを誇示し、国境の回復を目論んだ『後悔王レセップス』により安寧は崩され、『将軍筆頭メタクセス・サルマナザール』は現在の帝国を築く切っ掛けになるが、後悔王と同じく忌み嫌われ、同盟を組み、より内戦の悪化に繋がる。

『大公クラウディウス・スキピオ』と『皇妃アンナ・チャーチル』の不貞が原因で唆した部下と断定された十五歳程度にしか見えないが二十歳になるエレン・トゥールーンが処刑される『聖少女事件』の後、チャーチルに仕える若き騎士『エルンスト・ギスカール』の殺害が原因で民主制復活の要望が発生、この頃から転生者の加担により小さい国ですら危険なものになった。

不安が起こる中『哲学者エレミヤ・フォード』は皇帝の血筋である一方で賢明な人物の為大半から支持され、中央十字を設立、多数の国家が所属し、戦火は一気に止んだ。

復活帝政の『宰相エドワード・ウェルズリー』により講和条約における処断として凡そ五万人の死刑判決を出した。

しかしメタクセス卿は自身への不安から反逆、それに同調し、また、転生者を取り込むタカハシ家の人間を嫁に貰い、絆されたエレミヤが共に反逆、帝国が成立し、有力者がそれぞれ権利を持ち、戦場となった地は忌み嫌われ、誰も得なかった所を帝国が支配し、その土地が争われているのは優れていたから、そしてその後その土地に詳しくなり、戦場に選ぶ人々が増えたから戦地となった。よって改造すれば凄まじく良い土地になると演説し、開墾。経済格差は一気に埋まり、いち早く不況から脱出した。

しかしそうなると帝国に皺寄せが集まり、帝国へのテロが多発する。その過程と結果は以下のようになる。

帝国の属国である第二王国は各国の緩衝地にある。王都もそこに存在、大河が複数存在し仕事を求める水軍や乗船員がいた。

資本主義化を進めた人材により、力仕事差別が発生、また、上位種や妖精との混血といった力仕事の格差を加速させ、管理不足や治安の悪化による孤児増加、少年兵を発生させた。結果、評価されない実力者が集合し、また、嘘や策謀に追い詰められた良心ある貴族や有力者が集合、第二王国を無血開城、第二王国を旧王国として処断し、奴隷解放を行った。

貴族位は軍事行動を担い、医者は軍医、上院議員は将校としての役割を担う。これらは亜古代の将軍兼政治家に倣ったものである。

奴隷解放宣言以来国を評価する他国の学者と滅ぼす為に躍起になる他国という二大勢力に分離、中央十字がそれに乗じて一部学者を排除、革新に繋がった。

王国が血縁である第二王国奪還を目論み、各国と連携を進めている。一方で賢帝とも呼ばれる皇帝が治めている間、侵攻を認めず、その国に手を出さず、クーデターが起き、元老院が歴史書から排除した。


コウキには分かり難いかもしれないが、少しでも多くと勉強する。

「人間を復活させる手段というのが怪しい。先ずアルトリウスが言うには病人すら死人として扱われたそうだ。」

「『凍てつく姫』という童話があるのよ、禁書にされちゃったんだけど、生きているという希望を持てず氷を解く事を諦めてしまうというシーンがあるの。」

「へー。」

「王子が恋したのは氷漬けにされていた姫・・・というストーリーだ。氷漬けと言うから神秘的に感じるが培養液とかだったらイメージ全然違うだろうな。」

「ホルマリン漬けも、案外神秘的に映るものなんじゃない?」

「嫌だなぁなりたくねぇなぁその感性。」

「そういえばなんでカストゥス卿って言わなくなったの?」

「対外戦の時だけだ、アレは。」

「へー。」

「・・・あ、歴史と言ったらアレも説明しなきゃな。」

「何ー?」

コウキはまた何か面白い話しかと思ったが、そうでもなかった。

「この世界のちょっとしたシステムだ、殺しに際して別のルールが発生するんだ。」

過不足なく要約すると以下の様になる。

一人殺すとその人物の寿命と記憶をそれぞれ半分にし、殺した者と本人の希望した者に受け継がれる(一部成功しないケースがあったり、何も希望しない場合は自分の子へ受け継がれる)。それによって復讐心が芽生え、相手を殺し、真実を知るという童話まで存在する。

殺意を向けられる事が殺した者の条件で、集団リンチにあった場合は殺した人物以外、つまり命令した者に移る場合がある。

自殺の場合はどちらも誰に受け継がせるかを決められる。また、一人に移す事も可能である。宗教団体の教祖はこういう事を主にやっている。

ただし原初以来血縁が繋がっていない人物は不可能。このシステムの根本である古代の国家に住んでいた人物は確実に対象なので基本的に産まぬ人間位しか対象外はいない。また、肉食獣や草食獣等はキメラ生物でなければ継承出来ない。

寿命は心臓、記憶は脳、使命は血によって受け継がれる。捕食においても継承可能であり、より純度が高いが、霊的干渉によるものでは無い為効率や精神面に良いとは言えないし、拒絶反応を起こしうる為基本的に死んでしまう。

使命の発生条件は完全に不明で、産まれた頃から理解出来るものである。ある程度の発展を遂げた社会であれば産まれた頃に完遂可能で、その報酬として難易度に合った寿命を渡される。

寿命は継承可能な生物からの殺害を対象としておらず、一方で寿命による死は病気等のものであり、寿命の割合で成長度合いは変わり、老廃物の排出をするシステムが整備されておらず成人以前には戻らないし、老衰する事もない。そもそも寿命は最初に30年しか配布されない。

また、能という特殊な使命が存在し、『神に返還する』という使命の中に何らかの能力が含まれる。また、基本的に文面では『力』と表記される。寿命と中央十字教会の聖地までの距離と寿命の残りによってペナルティが与えられ、周辺に住んでいる者が多いせいで能による異常な軍事力が発生、他国の軍隊はマトモに戦えない場所となっている。

使命のペナルティは使命の達成が容易な程即死性が高く、一方で使命の達成が困難である場合はジワジワと殺される傾向にある。

転生者にも適用され、また、使命は脳にしっかりと残り、忘れる事は無い。

「・・・という感じだ。」

後ろにいつの間にかチェルノボグがいた、エプロン姿で調理器具を片手に、呆れた顔で見ている。

「おぉう。」

「信頼される上に戦場ばっかにいるアルトリウスは記憶も寿命も段違いに多いって訳だ。」

「『産まぬ人間』であるコウキはその寿命や使命を無視出来る、使命自体特殊だから狙われるの。」

「・・・カニバリズムで行けば使命も継承出来る、霊的略奪と物理的略奪の二つがあるって事だ。そして気を付けろって事よ。不死だからやられていいって訳じゃない、逃げる事に全力を注ぎ、気を付けて生きろ、って話。人類の奥の手みたいなものだ。」

コウキはこういう時には真剣な表情になる、偉いぞとコウキは撫でられるが、目を少し閉じ、若干三角気味な口が少し見えたくらいで表情に変化はあまりなく、集中しているとよく分かる。

「心配するな、大体はアルトリウスかダガンがやってくれる、敵を恐れる位なら、ちゃんと居ると言ってくれた方が安心出来る。子供一人守れないなんて英雄の恥だろうよ。」

アランはそう言って目を逸らす、彼は謙虚ではあるが、実力があるとは理解している。何か酷く陰鬱になる出来事があったかの様に。人格を分断し忘れる事で誤魔化しているのかと、幾つか疑ったが、これ以上思考しても意味が無いと諦めた。


戦争は人を狂わせる、それはどんな形であれ。

金に目が眩んだ豪商、戦争に怯えた新兵、工場で働く鉄の指輪をした女、大国を目指す独裁者、足を引っ張るべく工作する外交官、南瓜を育てる農家、戦火をものともしない英雄、苦悩する軍医。

PTSD、それが一つの答えである。

それは他人のものでも発生するのだ。


天揺らぐ、星は以前と全然異なる位置にあり、探す事が難しい。もしかしたら、明る過ぎるのかもしれない。少し場所を変えると、アランが暗い中、少し項垂れた声で語り始めた。

「・・・コウキ、私達が何をしているか明かそう。」

PTSDを発症した医者が、また一人。害意を感じない、医者として果たすべき目標を達成したいのだ。

然して語らん、彼の英雄の思い描くシナリオを。そしてその外道さを。

「使命の継承、それを利用してユウキの力を世界にばら撒き、特に王に与える。そして、コウキの力で蓋をして、完全に平和にする。

コウキの力は隅々まで制限される。人を騙して傷付けても報復を受けるし、人の家を歩く事にさえダメージが発生する。自分除く誰かの所有物であれば対象だ。誰かに損害を与えれない、という訳だ。

呼吸の様に炭素を与える事や寄生虫を繁殖させる場合の利益が発生し自分に損害がある場合は見逃される。

・・・体を鍛えると何かしら道具に負担を掛ける、そのダメージも返ってくるから体も鍛えれないし、昼に出ると日光で草木に損害を与えるから・・・とな。

アルトリウスはテロを完全に殲滅するべく動く、残りの敵を始末し続け、能力の及ばない範囲の彼等を抑え込む。」

まぁ、これが英雄たる理由なのだが。無情に殺しをしていたのが最近では笑顔で殺しをしている。怖がられて逃げられる人数が増やすという結果を出した。その程度だ。その一環に際し一大プロジェクトを作ったのだ。数人の犠牲により果たす、世界平和。

「・・・嫌なんだ、私は。その純粋な瞳から光を失わせる様な行動は。・・・だから、今なら逃げれば良い。」

勇気ある行動、されど恐怖から始まった語り。彼は英雄に賛同し得なかった。自分が一人殺された様に、彼を殺す事は出来ない。記憶や使命、寿命は引き継がれる。しかし、魂までは引き継がれない。

「不死を殺す方法は存在する、ティアマトが知っている。だから逃げれば殺される事は無い。」

記憶が人を作る、その説を支持した人物は、人の魂の存在を無視出来なかった。望遠鏡を覗いた昔、顕微鏡を除く今。似ている様で、全然違う。

聞きたくない言葉が聞こえ、彼の心が異様な叫びを唱えた。救えないと確定した時、最早その先にいた。

「良いよ、殺しても。どうせ死ぬなら、誰かの為が良い。」

これは彼の心を折る言葉。

「私を助けてくれたんだから、十分だよ。」

これは彼の医者としての矜恃を折る言葉。

再確認を重ねた、それでも変えないのであれば、彼は心を折ると覚悟して。

「・・・それで、後悔はしないのか?」

「後悔する頃には、とっくに死んでるよ。」

コウキの顔の縁に涙が見えた、星の光を取り込み、小さくとも目につく。それが、一番見たくなかったものだと心が段々と逃げ出そうとするのだ。

医者が殺す選択をしたのだ、楽にする為でもない、寧ろ苦しめる為の選択。どうにかできる立場でありながら、誰かを損させなければいけない立場にあるのだ。

「アランも、アルトリウスも、私は信じれるから。だから、心配しないで。」


「・・・こっちでも、アイツみたいに救えないか・・・。」

アランは絶望し、酒を空け、忘れようと必死に自分を誤魔化した。チェルノボグは彼を連れ帰り、聞く事はせず、言葉も聞かず、ベッドに寝かせた。

彼なりの、彼が故の行為だ、責めても彼を苦しめるだけだ。そう思い、少し慰める為のキスをした。だが、救いはしない。それが罰である。

コウキの死は今回の戦争の終わり、講和条約の前になるだろう。

ユウキの頼みに答えたアルトリウスは、生涯後悔すると決め、多くは語らなかった。

この世界で生きるには優し過ぎるアラン君の未来や如何に。

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