優しさと呪い
そろそろ敵陣営の話しなきゃ・・・。
だけど最終局面以外は一回片付けまそ。その後にやっときまそ。
今日はアルトリウス曇らせ回。
いやまぁ曇らせは直ぐに終わるんやけど。
・・・一応警告しておきます。最後の最後まで読まなければ今回の重要部分を大きく欠損する事になります。
鄭和はその宦官になる過程でトランスジェンダーに意図せずなってしまった、というのも敵側からされた行為で、タイミングが悪かった。。既存の趣味、行動に差は無いが、外見言葉遣い以外は全て男であった。しかし、その外見言葉遣い以外も女らしいと言われ、諦めた様に何も言いはしなかった。・・・イスラム教との付き合い、その際に自分の危険性を理解していた。
それを打破したのが未来で出会った田川福松・・・鄭成功だ。一目から全てを見抜いた様に言い、疑問の解消を度々やってくれる、良い友であった。
しかし、それ以上に大変な事もあった。
自分達は偶然人間の変化や進化を先取りしており、実質的な転生を果たしていた。それで以前の精神、以前と違う身体が噛み合い、トランスジェンダーが隠せるものでは無くなった物理的なホルモン量で不可能になったのだ。しかし彼はもっと質が悪く、統合失調症であった。薬で解消出来るものであったが、病院側のミスで過剰に投与しており、彼は笑顔を失った。
自分は日本という国に詳しかった彼の話を聞きつつ、現代を生きていた。学生時代に親交を深め、普通に生きようと誓った。金は広い、稼ぎ、無理に工面し、過ごした少年時代。労働を認められ、少しは余裕が出来た頃にその診断が下った。
障害者かつ短時間労働者、週二十~三十時間の労働を一ヶ月続け給料は漸く一万円。高くて一万五千円だ。とても暮らせるものでは無く、どこも受け入れはしないし、受け入れた所で地獄を見る事に変わりは無かった。
自分は稼ぎ続けた、彼の死んだ目を傍目に、一人労働を繰り返した。
自分の過失ではない、だが、彼の笑顔を取り戻せるのは自分一人であった。一万年の時を経て自分以外に居なかったのだ。
竜王の話を聞き、彼は目を興奮させ、見開こうとしていた。輝いていたのだ。・・・これならば、解決出来るのではないか、と。
彼は国を蘇らそうと、私は国を語り継ごうと。
互いの差異はこの顛末を迎えたのだ。
彼は半分の記憶しか持たない状態で、何とか自我を保った。私の様な共存が出来た例とは異なり、正常な思考が儘ならない中、自分の元の記憶を用いて正気を取り繕ったのだ。十年ももたなかったが、それでも良い方ではないかと思った。
ユウキは走る、その言葉を書き留め、その本を持ち、只管前に出る。弱き身体に倍の痛みが走り、空腹も満たせず、1mの段差を越えれば骨折しうる。ポメラニアンとかチワワと同レベルの強度しか無いのだ。辿り着いたのはアルトリウスの場所。
「・・・これを・・・。」
「何処に居たかとかは聞かない、俺はお前を見なかった、良いな?」
「・・・うん。」
怒れば彼には致命傷だ、と言うより怒る様な心理的外傷をミクロにした場合の物質の動きが倍になって返ってくる。供給過多で心臓病になる。
・・・その歴史書の先の記述を見ると、特に疑問に思う事無く、命令した。
「・・・コウキに送れ。彼奴にとって重要な思想だ。」
「情報ではなく?」
「間違えるか?」
「・・・了解です。」
今は安全地帯に居るから良い、直ぐに脱出するだろう。俺ならそうする、そうしなかった場合見損なうだろう。
科学班、毒仕込みのロタール直属の部下である。
あの夜叉に仕込まれていたのは、爆薬。溶断に弱い夜叉に対し電熱なんて打ち込めば即爆。
「・・・やっぱ遺体に仕込んでいたものがあったか。騙された・・・って所かな。」
「この火力で殺せるかと言われたら微妙ですけどね。」
「お前ら狙いだろ、まぁ、無意味だったが。アスタルトから警告はされていたし。」
「・・・問題なのはゴッドウィーンの娘さんにその思考は組み込まれていなかった事だ。」
「管轄ではない、気にする必要も無い。」
数十人、名前は列挙しないが、歴戦の猛者である。裏方でありながら殿、この国の歴史を考えれば、殿の連中は大体異常なスペックをしており、技術は死の数ではなく年数により洗練される。
「夜叉の回収は手間取りますから、その辺はおいておいて手順通り硫酸等が聞くか確かめましょう。」
「王水は足りんだろうなぁ。魔術とやらが使えれば水で完全に分解し切れると思ったが・・・。」
「魔術使える奴はこんな所に来ないでしょうし、使えたとしても隠すでしょうね。」
「・・・まぁ、そうだな。」
次の話に切り替わる、その対象は・・・悪魔局及び狂団である。
「・・・次は両脇に水酸化ナトリウムを流し込みますねー。」
「注射針は何mmが良いんだ?」
「戻さない様に細めが良いかな?体液もダバダバって出ちゃうの可哀想だし。」
「やり過ぎてまた一人死んだぞ。」
「記憶から実験記録の抽出と作成をするから交代お願い。」
「ああ、交代人員を出しといてくれ。」
「炭化チタン失敗、大幅に引き上げた方が良い。」
「炭素鋼、クロム鋼、マンガン鋼は無理だ。話の再現が出来ん。」
「ニッケルクロム鋼辺りはどうだ?」
「マンガンクロム鋼なら近い、硬度不足だ。」
「接合部はジルコニウム以上だ、ニッケルクロムモリブデン鋼以下のデータは?」
「鋳鉄だ、接合部は鋳鉄と同じ。」
「・・・サファイアガラス以上、接合部以外はサファイアガラス以上です。」
「・・・炭化ケイ素だな、これ。カイロウドウケツを改造した生物じゃないか?あの生物のガラス繊維間にアルミニウム等が混ざっている場合もある。」
「新災害の可能性アリって事ですかね。」
「・・・早期報告。」
「一人捕虜回せ、記憶注射の予備を使う。」
「ラジャ。」
「良し、実験データは十分。戦術開発部次第で実験を継続する。半数は拷問に移れ。目的は悪魔局全容の把握と狂団の残党或いは幹部の死体確保だ。」
彼等は彼等の仕事を全うする。侮蔑も嫌悪も構わない、そういう覚悟で彼等はやってきたのだから。
視点は切り替わってアルトリウス、野戦病院キャンプ、冷却用氷風呂。
「悪魔局は戦争の通信メインではなく、思想統制様のシステムか。逆に言えばそこさえ破壊したら戦意が崩れ、聖女の呪いに対抗し、処理に必要なリソースが減る。」
それ以上の問題、懸念事項の存在。寧ろ一番の脅威だ。彼は事情を知っており、例外が無ければ一般人の様な存在は出会えない筈。悪鬼羅刹の類しか未確認の対象には居ない筈だと知っている。・・・コウキも例外ではない。
「・・・問題は複数人、現代人の記憶を継承していた事。出自は確認出来ない。殺せ。」
悪用、乗っ取り、どちらでも良い。危険である、そして、不確定要素として大き過ぎる。技術の統制でギリギリまで誤魔化し、銃の存在も僅かしか漏らしていない現状、その均衡を崩されるのは不味い。他にも問題はあった。
「企業を作ってそれに気付くかでフェイクを試していた。恐らく誤魔化したのは創業年、書類の情報が入手し易いからそれを選んでいたが、選択する優先順位を確かめられていたな。」
アスタルトを誤魔化す研究を行っていた、現代の言葉を文書から並べた様に見せかけ、それにスパイを仕込むか、冗談と見過ごすか。アスタルトのフィルター機能も下手すればバレている。混乱が頭痛を酷くする。最悪の懸念は、アスタルトを騙す方法が確立され、それどころか事実上作戦が筒抜けになる。対抗策的な作戦をメインにしている為、被害は増える。
「第二戦、災害がそろそろ元に戻る。一次災害が同時に三つ出現する・・・だろうな。」
これが最後の懸念だ。倒す必要もあるが、最優先と言えない。確実に何処かで相手取る事になる、その状況で戦えるか。
「『騒がしき王』『奇怪なる剣』『貴方への愛』・・・問答無用で前者二つは敵になる。しかも手放しの状態にある人間共が統率される。次のは王のバックアップ、最後が確保可能だ。」
いや、勝機は兎も角、自分の復帰まで耐えるという方法で行こう。それ以外に手は打てない。悪意の玉座の様な本体性能が貧弱な個体ではない、産まぬ人間程のスペックもないが、双方の長所を程よく運用してくる。そんな奴等だ。
「前者二つをロタールとメルリウスで処理、最後の確保にチェルノボグを中心に行わせる。手が空いたら竜王の逐次報告、タイムリミットは十二時間、早急に移動せよ。」
一旦彼は眠る、早期の回復が最優先になる以上、眠れる時は一時でも多く眠りたい。・・・しかし、ある違和感が発生し、直ぐに起きる事になる。
王国の崩壊は目に見えていた。放射能汚染という不可視の害悪が風と共に広まる。アルトリウスに近い場所は水を求め、液体に変わっていく肌を地面に残しつつ、井戸に溺れる。互いが蕩けた身体を水分と思い込み、損傷した脳は血の熱さで互いを遠ざけ、集まっては離れを繰り返し、吐瀉物と腐敗臭が広まる。聖女の呪い、即ち放射能汚染。アルトリウスは出力を抑え、ある程度の害と不妊という損害で済ませる様に調整していた。・・・想定外があるとすれば、既に放射能汚染がされていて、それを悪化させた引き金にされた事だろうか。
「アスタルト・・・。」
「ごめん。」
「放射能汚染は理解出来る筈だ。なぁ。」
「・・・私は王国が嫌い、だからこうなってしまって良かった。」
「・・・。」
「きっと、この方が帝国民の支持は・・・。」
その言葉を発した時、軍法会議の略式決議を彼は実行した。話も聞かず、部下に抑えさせ、頭を下げさせる。肩を折り、肺を封じ込め、呼吸以外の機能を失わせる。
「アスタルトを追放処分に処す。キーイとヘカテーで魔女としての素質を封じ込めろ。」
話は聞かず、下がらせた。魔女としての価値は無くなった、しかし、次の代は現れないだろう。手法の分析は完全な継承でなければ不可能だ。・・・再現可能な技術、キーイに代表される法の魔女によってそれを行えなくしているだけだ。消すに値するか、どうか。
「・・・。」
次々と寿命は増えるばかり、子供が多い、寿命も余りが多い。その記憶を見る度に慣れた筈の苦痛がやってくる。蕩ける様な死を目撃せり、微睡む様な、いや、微睡まざるを得ない死を正気と覚醒によって嫌という程見せられる。バーベンハイマーを十度二十度繰り返すなら、未だマシな方だ。人の罪の象徴、魔女の技術に良く似た、究極の毒。死を引き起こす条件の調整が出来る代物としても、究極、そして優秀なものだ。・・・しかし、それは相手を問わない、天災が超背可能な筈が無い。それ以上に、人災が絡んでいれば尚更だった。
「最悪の戦争になったな。外交も、歴史も、揉み消す迄国を続けなきゃいけねぇって事かよ・・・。」
自分の立場ではなく、ハドリアヌスの使命に関して踏み込んだ悩みを吐露した。
「・・・俺は気付けたよな、俺は止めれたよな。・・・俺にしか、止められなかったよな・・・。・・・他にも気付けた場所は多かった。今考えりゃ、幾らでもあった。」
もう手遅れだ、寿命は増える。教育不足でも何でも・・・彼女の心理の摩耗に気付けなかった、説明するに十分な位、理由は提示された。端数だと言い切る事も出来るだろう、端数も改善出来なかった結果、数百万人の民間人の死者となる。
「表沙汰にも出来ない、責任も負えない・・・。」
どれにせよ、もう結果として変わる事は無い。彼の作った英雄という名前及び人望は他国に向けた恐怖と諦めを促す目的のもので、より怒らせてしまえば意味が無い。
平和的な作戦の失敗が、数百万人の死だけで済む訳が無い。戦争は継続され、敵味方問わず死者が出るその状況では戦争を如何に合理的に行うか・・・それしか手が浮かばない。
王国の人々はほぼ全員吐瀉物を流し、河川は汚れ、水路は機能を失い、産業革命時代の汚染に引けを取らない状況に変えた。足を動かせば汚物で満ち満ち、動くにも手間が掛かり、高い場所に集まると、落とされて落下死するか、人々の間で溺死する。悪意の玉座により生産された数億の人々は南北に散り、人身売買や訓練道具、妊娠しないからと性処理の役目を負わされる、麻酔も無い時代、瀉血が主流の時代に、水銀を流し込まれ、血を抜かれ、外科手術という仮説を研究される。王国の外科手術技術は未公開、その検証と再現の材料に必須なのだ。脅された捕虜が教え、脅された捕虜を実験台にする。地獄の様な環境だ。悪意の玉座により生産された人々はあのチェレンコフ光を信仰し、それは当然、アルトリウスに向く。その記憶も継がれるのだから、より心は痛む。いや、心しか痛む事は出来ない。
暫くの後、何も進展は無く、頭を冷そうと脳は揺らぎ続ける。音と共に無作法が侵入する、この足音は誰か、直ぐに察した。
「・・・コウキか。」
首は動かさず、表情を隠す。
「悪い、情けねぇとこ見せちまった。」
顔を拭い、何も無いと装うが、隠すのは無理だと諦めて伝えた。彼女に顔を向けた所、全身火傷が近い状態になっていた。
「・・・どうした、身体中傷だらけじゃないか。」
「・・・ん、走り回ってきた。」
話にくそうに喉を絞る。近寄って見てみると、遠慮して手を遠ざけてくる。近寄らないでと伝える様な動作で、手を握って離され、押された。
「・・・コンテナに危険物をまとめて、全部違う所に持っていったよ。船で。」
優のコウキの仕込み、それを見事に対策された訳だ。しかし優のコウキ自身はスパコンを内蔵した存在、寧ろ彼女の弱体化を狙っていた可能性を懸念され、彼女は撤退した。
「南部の死傷者、少ないでしょ?」
ふと言われれば、空の星を記憶から漁ると、ズレが少ない、ほぼ同じ位置にあり、何も変わらないと断定出来る程だ。
・・・更には船での輸送、だとすれば。これを出来るのは場所的に一人、河川と海を掌握している彼だ。
「・・・ローガンか。」
即座に言われて入ってきた、戦闘面の懸念を込めて来たであろう隻腕公、義手付きの完璧な状態だ。『隻腕じゃねぇのかよ!』と敵に言われるのが楽しいらしい。ローガンに恐らく王国の南方にある連合国に攻撃が下されたのだろう。先の影響を与え、捕虜狩りが横行しており、制裁を受けるにも誤魔化しようがあり、制裁も軽減される。武器の輸出入も横流しされ、近隣のテロ組織を総合すれば国家に匹敵する上、法的措置も難しい。
「貸し一つだ、大将。」
兵士は数人、大半は現在肉体作業中で、突然の事の為無理に引き裂かず、程良い数で効率的に、優しさに絆されたローガンの兵士達は事情を考えつつ、そして感情にも流されず、せこせこ作業を進めていた。
「そこの嬢ちゃんが急いで伝えてくれたからな、全部向こうの海に流しておいた。地産地消がお似合いってものさ。」
「出処は別か、処分が重かったかもしれん。」
「処刑じゃない分かなりマシだろ、電気椅子+市中引き回しに火葬ファラリスモンだぞ。欧州各地の戦争を引き起こしたナポレオンよりも重い。」
「火葬ファラリスってなんだよ。火葬ファラリスって。」
そんな冗談はさておき、ローガンは耳打ちを挟む。
「事情だけは聞いておけ、期待しているらしい。」
「ああ、分かった。」
一度流し、上半身の衣服を脱ぎ、絞る。後ろで響めきが起きると半笑いのジト目に凡そ馬鹿にしているとしか思えない顔をしていた。文句は言うまいとしつつも、邪魔していいものではない、昇給が掛かってる。頼んだぞよく分からんけど強い子供と祈っている。
「それで?実際どうだった?傷の修復はやる。」
「大丈夫、直ぐに治るから。」
「そうか、なら良い。・・・話してくれ。」
頷いて話始めた彼女に一旦魅入る、何かここから打てる手があるかもしれない。外交のカバー手段としても、放射能汚染の持ち込み主犯や、アスタルトを騙してそれを本人に脅した可能性も懸念する。だが、もう戻る事は無い。彼女を危険に巻き込めない以上、追放は取り消し不可である。・・・自分の出来る贖罪を求め、彼女に問うた。
敵の撃破中、将の所在を問うべく彼女は奔走していた。現在持ち主不明の畑で葡萄を漁って食べているが熟しておらず不味かったので野生動物を餌付けしている所である。
「・・・ふんふん、血の匂いがする子は向こう?」
『凄いな、産まぬ人間には動物とも会話する機能があるのか。』
「細菌にも話せるよ。」
『会話成立してなさそうだけどどうなんだそれ。』
「ありがとう!またあげるね!」
『(お前のじゃねぇよ。)』
「落ち穂拾い・・・これで生存出来る子も居るから、ね?」
『まぁいい、言われた通りに行ってみよう。正直、魔術は厄介だ。意識外からやっていくにも実力者が居たら即失敗だ、魔術は結局ゴリ押し正解の体術補助ツールって感じがする。』
「反動の無い銃、ブレの無い銃、極論弾頭だけで作動する銃。凝りようはあるけど王国も王国で技術を制限しているのか、知らない内に代償を払うとか、命もエネルギーの一瞬として用いるのか・・・制御出来れば肉体の成長をズラせて便利だよね、うんうん。」
『(邪だなぁ。)』
その先にあったのは死体・・・かと思ったが血の付着した鎧であった。血肉がこびり付いた、混ざった様な状態で、鎧も判別が付かない。鉄槌やモーニングスターの類だろうか。
『・・・いや、違うな、肌側が溶けている。』
「・・・え?」
『・・・これは解決案件だ。侵攻に支障が出る。若干戯曲の魔王っぽいよなって思ったが免疫や体質が弱い分持ってかれたか。ゼロって事は・・・。』
「分かった、彗星を使えば早く知らせられるんじゃないかな。」
『ああ、直ぐに頼んでみよう。』
「間違いなくコウキの仕業だよね?」
『災害の思考でやっちまうな。うん。』
「だよねー、分かる分かる。」
『記憶注射は昔から存在した、産まぬ人間では検証してない可能性がある。復元されたって訳だ。』
「私も手伝うから、でも、恥ずかしいから頑張って、そして威張っていい?」
『良いんじゃないか?・・・まぁ、こういうのの負い目なんざ後で考えれば良いさ。』
「やった!運送業でのバイト経験は?」
『国境越えて移民を密輸するバイトのスパイならやった事がある。』
「なら困った時説得しなくても良いね。」
『ああ、任せろ。』
その様に直ぐに決まった、野生動物のおかげというか、そこに悪意の玉座が不在であった幸運、或いは向こう側が産まぬ人間を避けた結果南部は保全されたか、と考えられる。
「・・・という感じで思ったよりあっさり聞いてくれたから困らなかったよ!ありがとうおじさん!」
「ああ、何時でも呼んでくれ。腰が痛くなきゃ何時でも行くとも。」
「お姉ちゃんも手伝うから、また会おうね!」
「うん!」
『(隠したり知識を借りてるだけで童心のまんまか。寧ろ自分の知識に毒されたと考えれば、少々痛ましい・・・。)』
一旦その会話は終え、ローガンの合流で戦略は広がった。その一方で逆に国境防衛が西部王だけ、各国の将を半数用いれば容易く終わらせられる。勝たなきゃ終わる、その状況にする事を許可された。最短一週間、それ以降は情報妨害も出来ない。・・・可能だ、全く以て可能である。
「しっかしなぁ・・・。」
アスタルトの言い分に関してだ、彼女の分析は事実だ、過去と未来に干渉するのは資料等の現物が無ければ不可能な彼女とはいえ、同じケースを何度も目撃し、妥当という判断をしていたのだろう。
「まぁ、人民は肯定するし、理解力があれば心労だと非難もしないだろう。」
結果、自分は責められない。狂信的な国家として機能してしまった結果、その様な悪徳が起きた訳だ。
「はぁ、気分が悪い。」
裏目裏目が出るのはデメリットとして百も承知、しかしこうも重なると、そして自分の立場や意義を理解している以上、これは最適な流れ、そして自分にとって最悪の流れなのだ。寧ろ彼自身が悪人でなかったが故にこの流れは成立した。弩級の悪人ならこの流れを目指して悪徳を尽くし、馬鹿にしていた存在によって足元を崩されるだろう。彼は違ったのだ。それをローガンは彼自身言葉で非難した。
「そりゃあ仕組み的に言えば牛と同じさ、牛肉と牛乳、肥料の生き備蓄である。牛肉需要、牛乳需要、肥料需要と好きな理由は存在するが牛を愛しているとは言い切れん。アイドルも可愛い女やカッコイイ男が振り向いて色々やってくれるからだ。恩恵ある英雄だからお前に目を向けているだけで恩恵なけりゃ価値は無いその単純な思考よ。経済的合理の思考と言った所か。」
彼は単純に返す、それにどんな思いがあるかと探るまでもなく、ポーカーフェイス振ったのだ。
「ひっでぇや。」
「現実は残酷だ、どれだけ向き合ったかで人の度合いなんて決まるもんさ。質・量は兎も角、向き合わなかった人間は成功しない。失敗するか、失敗と言える盤面に引き摺り下ろされる。」
「何も言えねー。」
「剣のデメリットで脳に影響が出てるからだろうな。・・・それはそれとして必要なのは新しい英雄だ、奔走し続け、一人一人に特別な価値を見い出せる、決して数は多くないが・・・一番理想的なのは英雄の英雄・・・と言った所か。」
自分がいつか忘れた、手に入れるべきもの。ナポレオンに対するダヴー元帥とかでも、船場吉兆のインタビュー耳打ちでも何でも良い、助けと言えるものが彼等には必要だ。狂信に毒された時、自分は誤ちを忘れてしまうのではないかと怯え、それを願った 。
「まぁ良いさ、勝手に埋まるものだろうよ。」
吐き捨てた彼は彼女についての質問に駒を進めた。恐らくその立場に最も近い彼女は、彼にとって脅威である。
「産まぬ人間の力。アレは彼女の場合内部に潜入するタイプの災害、問答無用で惚れさせたりしても違和感は無い。」
産まぬ人間は不死という特性がオマケに感じられる程柔軟性があり、人間のマインドコントロールが容易に出来る。かと言って心が読める訳では無い。車の気持ちは分からないが運転は出来る、みたいなものだ。
「戦時中なんてストレス塗れだしな、出生率も異様に増える。戦後敗戦しようと暫くしたら好景気になる事があるが、出生率の恩恵だろう、天文学的数字の賠償請求をしたところでそれは起きる。」
人間は戦争しないという選択をいつの時代もしなかったのでは無い、戦争という手段を取れなかった存在から淘汰し、戦争が選択肢として常にある国家しか残らなかった。そう考えれば、ヨーロッパはWW2でドイツを、アメリカは日本を去勢したと言える。戦争というストレスから解放し、結果、平和という重圧で出生率は地に落ちた。ビートルズの音楽は楽を促そうと、エアロスミスの様な情熱は得られない。エアロスミスが苛烈過ぎるだけだが、ビートルズが苛烈でないのも事実だ。
「去勢の技術、核兵器、狙いは何にせよ、断絶だ。現に国としては王国は数万年単位で不毛の地になる。死者は出ないが、これから産まれる未来は全て消える。自分達の国でも再現が起きる可能性がある。産まぬ人間の洗脳、核兵器の掘り出し、復活、放射能汚染を取り込んで撒き散らすとか。データ上は可能だった筈だ。」
戦争があるが故に、淘汰されない。大規模な合同訓練+生存競争。植民地として支配されていた国々も巻き込んだ時より激しくなったが、数が余りにも多く、その景気を起こされるだけで危険、そうである以上、去勢によるリソース配分の変更は不味い。目的は本来別のものだが、この視点に置いては軍事リソースを用いて虚像の需要を出してでも、国家の足を引っ張らなければいけない。国家というコミュ障をどう読み解くか、そして、それに合わせた災害の対抗策をどう作るか。王国南部でそれをする事になる。抑圧の種類を選ばなければいけなかった。
「帳消しにはならん、下手すりゃ生存させただけでそれ以外の問題においては悪化させたとも言える。・・・産まぬ人間は結局、災害だ。彼女自身が善人なだけで、その性質に逆らえる実力があるかは分からない。」
ローガンはそう考える。今の国家に最適な民意と言える意見を唱えたのだ。
「・・・大将、アンタはどうすんだ。それでも手を取るのか。情に絆されるなよ。経済的に正しい選択肢としてそれはアリか聞いている。」
産まぬ人間、何時でも放逐の準備は出来ていると今ならどうとでも出来る。恨みを買ってでもやれ、そう考えていた。災害で終わりが確定し、持続性のない王国残党として生き残る。彼女を信じ、平和に放り込まれる。
これは、一大実験だ。自分の理想は最適か、平和は、確かなものか。目的を変えるつもりはない。
戦争と、生存をさせてしまった、その責任として見守る必要がある。
「決めた、見守ろう。」
「おっ?そうしたか。」
ローガンは当然だろうなと椅子から立ち、そして彼の言葉を続けて聞く。
「神崎家と鷹鷲家が紐解いたそれを無しに、人は次の時代に進めやしない。」
「・・・?・・・。」
「俺が死んだ時、使命で察するだろう。誰も達成出来ず、俺に回ってきた救難信号。」
「・・・ああ、分かった。分かっちまった。やっぱ大将だわ。」
頭を抱えた、だが、笑った。何をするか、明確に理解した。ロタールが従う訳だ。
「・・・強引にだが、直ぐに動く。移動手段を用意しろ。復帰次第災害を狩る。放置すれば犠牲の拡大は避けられない。」
「殿はやっておく、災害戦に集中しろよ。」
「問題無い、どれにせよ最低三度別の個体を討伐した事がある。」
それなら安心だな、と手の力を抜く。
「ミア。」
皇帝ハドリアヌスの正体を見抜き、跪く。
「『勝利は目前だ、気を抜くな。』」
第一の言葉は戦況報告、彼女の経験則をベースに戦況を見極め、それの基準が彼自身と合致しているかを確認する。
「『英雄の名を信じて待っているぞ。』」
第二の言葉は激励であった。信頼でも、願いでもある。皇帝と英雄、相容れるべき名誉では無い。私はお前になれない、お前は私になれない、そんな彼女の痛ましい感情が目に見えて分かると言うもの。
「『これを託す、だが、使う時を間違えるな。』」
第三の言葉は警告であった。
「『朕の為に、何より、お前自身の為に。』」
彼女らしくない態度で、衣服が違う故に気が抜けているのか、抱き寄せて、顔を見せずに言う。熱さに耐え、冷そうと努力する。そして彼女が離れた時、結ばれた一本の剣があった。第二のウラヌスを手渡された・・・思い出す為の重い剣として機能し、蟠りもある一振となる。この剣に特別な意匠はないが、自分の記憶が意匠として熱を震え立たせ、熱を腹に送り込む。
「ああ、そうだ。ついさっきの話だが、お前の騒動を誤魔化す為に、ちょっと仕込みをした。」
話の流れが嫌気に変わる。ローガンが経験則から上司に丸投げして逃亡した。上司は逃げられない。
「王国の将をコウキに倒させろ。それで功績は足りる。」
次の瞬間、空気が凍り付く。
「だから全部祝う方向に持っていく為コウキから搾り取って今私は妊娠している。」
「・・・。」
「こうでもしないと暗い儘だろ?お前がこれから問題起こす度に私の子供が増えていくシステムにした。」
「・・・。」
「ストレス軽減と同程度に抑圧は優秀だ、皇帝・・・一国の経営者としての言葉だ、覚えておけポンコツ。」
アルトリウスの心情はストレス下から別のストレス下に放り込まれた。リセットには近い。ドアインザフェイスどころかドアを工具で外された。彼女の判断は間違っていると言えるものがない、とはいえこんな爆風消火でしか火を消せない消防士みたいな事をされても困る、という困惑が身を襲って、結局倒れたのであった。
「性行為、お前から聞いた時ほど気持ち良くなかった、痛かったし、気分が悪かった。・・・コウキにも迷惑を掛けたし。・・・でも、なんか吹っ切れた感じはした。」
互いにコウキに絆された、と言うべきか。片方は優しい彼女に救われ、目的を見つけた。もう片方は追い詰められている彼等の心情を考え、破天荒な無茶を打ち、自分の嫌気も我慢し、想定外により引っ掻き乱し、笑い話を無理に作った。アルトリウスには彼に合った適切な判断をする少女が、彼女には何時でも無茶をしてしまうが、それでも生き残る彼の様によって感化して、この様な手を打たせた。
群れる渇望という力は、災害でなくとも案外健在であった。
「自分でも、やりたかったんじゃないか?」
「んふふ、ぜーんぜん?」
「嘘付きやがってよぉこの女ァ!」
彼女も悪戯心からやっている訳では無い。コウキに触れ、彼の存在を認め、更にリーツィアの継承もしていた。それを事故で失う懸念が、不安が、自分の焦燥を煽る。恐怖し、怯えているからその様な結果になった事、先の出生率の様な話にはなるが、それが本質である事も忘れてはならない。アルトリウスはその可能性を見落とし、彼女も忘れる様努力した。優しい人間の呪いである。
アルトリウスには十個の広域破壊や殲滅戦を行う技があります。
第一に核分裂、第二に核融合、第三以降も決まってますが未公開という形で。
戦えないけど動けるので氷風呂に暫く放り込まれてます。今回の会話言及してないけど氷風呂から顔だけ出して会話してます。それ以外全部氷の下。
前回書くの忘れてたけどハドリアヌス自身はジョーの存在を把握しています。遠目からですが見た事もあったり。
サキュバスとか夢魔を通信のメインにしないのは気まぐれだから。メルリウス以外役立ずなのです。デリヘルとか風俗嬢みたいなもん。
蘇生装置が放射能耐性ある件については見なかった事にしてください。
ちなみにコウキは寝てるので何も知りません。知らせるつもりもないらしい。ハドリアヌス視点ではさっさと既成事実作って先に進めたかったのでコウキに人権なんて無いの精神でやってる。




