覚悟は破滅と共に
アクションシーンばっか書いてると物語が進まなくてアイデアが離れていくので調整中。
心の無い様な言葉を告げた、いや、今の彼にどう言おうが心無いものと受け取るだろう。その手は緩まない。弛まない、少女を相手にした所で緩む訳が無い。
「私は騙されたフリをしていた、父はお前を信じぬ様に、言いつけた。私と戦え、少しでも戦い、時間を稼ぐ。」
「その口を使うなクソ野郎、テメェの遺体はこれから焼いて豚に食わせてやるつもりだ。」
「・・・。」
手の内は明かされていた、リーツィアに継がせて支配する。・・・リーツィアの気を弱くしてしまったのは自分の責任だ、自分さえ居なければこんな事にはならなかったろう。
ナイフを手に取ってない。若しかしたら、彼女ではないのではないか。そう確信した。
・・・つまり彼女の記憶は混じりあっていない。優しく丸くなった彼女は取り込むに値しないと・・・。
「・・・好機だな。コウキだけに。」
だが、どれだけの割合かは分からない。
気絶を狙うなら、空気が良い。しかし魔術がある以上、彼女には使えない。魔術が存在する以上、エネルギーは危険物なのだ。変換は一度のみ処理され、使い回されないのでそれが制限かと思ったが二人以上で回されていたら・・・と考えると敵の人間を把握する様な脳になる。気配に敏感になり、耳が震える。
昏倒を狙う、速度は足りるだろうか。向こうが耐えるか、こっちが絶えるか、その勝負に持ち込む。銃を抱き込み、コッキングレバーを放る。トリガーに手を掛け、無音が本棚を燃やし、崩す。ハッタリ程度に横を掠める超速の破片。マッハ4で髪横を通過し、ベージュの先端が落ちる。
足元が荒れていく、本棚を利用されない様にトラップを崩し、滑り込んでいく本は足元を奪う。
ジャンプをしてみたがエネルギー制御に関しては無理だ、リアルタイムで反映され、その未来の分は使うが、過去の分は使えない。その前からやると不発になる・・・ショボい威力ならこっちの方が良いかと妥協する。
だが、それ以上に怖い。リーツィアの敬意ある行動を見てきて、自分は手を出す事を躊躇わざるを得なかった。そうでもしないと彼女の命がどうなるか分からない。自分は未だに自分の殺傷能力を知らない、その影響で手を出せないのだ。
その程度で英雄を名乗ろうなんざ、愚かでしかない。愚かでも良いから英雄になったのか?英雄である時、愚かでも良いのか?
「・・・違う、俺は。」
自分の熱く望む事を果たすべく奔走し、戦い続けたいんだ。だから手は抜けない。鈍ってしまう程度の力など、役立たずだ。
切っ先を捉え、握っては血を流そうと緩めない。突っ掛かっていた何かが解ける。そして・・・。
刃物を昇らせ、返す。萎縮されはしないだろうが、眼光が三本に変わり、歪み、戻る。
「シュタウフェン家に栄光あれ。」
自分は此処で思ったよりも状況は深刻であると理解したのだ。
彼女の記憶はある、意志によって分離を保ち、支配に抗うが、身体の主導権は無いのだ。
自分が突き付けられたのは殺しでは無い、彼女の精神を引き上げ、主導権を握り返し、エリニューエスを用いて排除する。
当の本人は眠らされており、起こすのは難しい。やはりエリニューエスには手を出せない、状況次第では盾にする。
逆に言えば動きの甘さは元々・・・つまりこれ以上強化される事は無い。
ナイフを一本、構える。サバイバルナイフよりのもので、先に試したのだが本棚に差し込める程度には強いし便利だ。
相手の武器は剣、何か特別なものは感じないが、魔術による強化はしている。近付けば時間無く斬られる。
攻撃する意思を感じない、殺させるつもりか、リーツィアの抵抗か、全く予想が出来ない。
「リーツィア・・・まさか。」
最早自分では無いと示す為に、強く抵抗しないのだ。そう確信した時、ナイフを持つ手が緩む。
裂傷が瞬間的に刻まれる。立ち眩みも起きない威力だが、血が減ると同時に気分が狂う。
時間が飛ぼうと気にしない、どう来るかを先読みして確実に受ける。出血量は増え、魔術による修復が済む。
「・・・そうだったなぁ。」
吐き気がした、自分が嫌いになってきた。
「俺はお前に助けられたけど、その時から人じゃなかったなぁ・・・。」
そうして自分は嫌気を我慢する。向き合っても直らないなら、諦めよう。
「・・・殺す事に躊躇いがあったものの、コウキだけじゃねぇか。・・・俺にはそんなもの最初っから無かった・・・。」
ナイフに意味は無い、暴力に意味は無い。その頃から殺すつもりしかねぇのも事実なのだ。
「未だ全然俺人間じゃねぇわ、すっげぇ腹立って来た。」
自分がやる事はせめて貫こう。そして、後悔しない選択を。リーツィアを殺すつもりは無い。だが、殺さざるを得ないなら殺すしかない。
殺しへの恐怖を払い、英雄の道を選ぶ。アルトリウスは時間を捨てて英雄に、ロタールは毒によって一人以外を捨てて英雄になった。自分は自分を捨てて英雄となり、自分を最も信用せねばならない。人の為に、その引き金を引かねばならない。
「リーツィア!」
体内の水を鳴らす、気味の良い音が鳴る。股関節を解し、気分を均す。覚悟し、手を向ける。
「全力で耐えろ。お願いだ。」
剣に合わせ、ほぼ同時に蹴りを入れると同時に破壊される。使い物にならないどころか破片として飛び散る。人に傷を付けるためだけの道具として機能し出す。
一歩一歩が破壊的な火力と殲滅力を有している、全て仕込んでいるのだ。
「この階以外は燃焼耐性が微妙だ、英雄誕以外は大した価値がないかのように、或いは、隠蔽の為にケチらざるを得なかったとか。隠蔽の予算は莫大だ。こうなる事も想定していない。魔術頼りで忘れているからこうなる。」
もう相手の声は届かない、コウキの殺意が目覚め、相手の心理を心底どうでもいいと吐き捨てた。絶望と失意が酷い程に自分の声となる。自滅的になり、考えは全て自分を中心に回る。相手への配慮を捨て、覚悟をする。実力は元からあるもので十分だ。
「空気の量が少ない、火は空気を求めて殺しに来るぞ?身体は果たして持つかな?」
嘲る様に、他者を、そして、最も己に向けて言う。
「魔術なんて使っちゃいない。」
だが、コウキにはこの構造の把握タイミングがない・・・即ち。
「これは元々お前が考案した・・・ああ、いや、リーツィアの案じゃないか。」
コウキは相手の攻撃を忘れていた。覚える必要性を感じなかった。軌道も軌跡も無く、結果だけが残る斬撃。自分にとっては途中式のない計算式に過ぎない。故に価値は無く、取るに足りない。
「少し策は変えた、心中覚悟は出来た。なぁ、良いよな?おい?覚悟してるんだろう?」
侵入経路はダクトのみ。恐らく入れば魔術範囲外でエネルギーが回らない。ここに居なければいけないが、妨害と変換は同時に出来ない。
もう戦闘なんて終わりだ、大した実力者でもない相手に構う暇なんて無い。気分を悪くするだけだ。
気絶を狙う一打一打が有効になってきた。暴力行為に過ぎないそれを見る者は居ない。エリニューエスは止めもせず、また、姿すら見せていない。
「戻ってくれよ!なぁ!なぁ!」
犠牲は許容出来ない、殺すよりも大事な彼女という存在を見出した、自分はそうしたかった。
「リーツィア!答えろ!居るなら答えて何も握るな!」
馬鹿みたいにキスをしても彼女は靡かない・・・言葉にしか載せれないのだ。
自分に人の心を、人に愛を伝え、価値を想像させ、強く、心温まる声を・・・願い、そして、自分は笑いかける。・・・これ以上辛くあって良いものかと、アリアを想う。
情熱一気に身を焼かれ、その沈む心が恋心となる。彼女が死にかけて、漸く自分は惚れ込んでいた事を知る。
短い時間を語れ、それが勝利への筋道だ。
諦める様に脱力し、それに気付いて手を近付ける。
「・・・リーツィア。」
彼女が震えているのか、自分が震えているのか分からなかった。
「・・・俺は・・・何も知らないんだ。初めて見て、初めて知った。善悪とか分からなかった。俺はお前に教えて貰ったんだ・・・悪業を振り返り、それを反省しているのを・・・自分は何故か確信出来たんだ。」
引き込んでも目は覚めない、呼吸も心拍も確かだ。薄れる意識、それが平等になった時に天秤は整う。
「リーツィア!」
手を握ると、その微動と開閉は彼女の抵抗を示す。
億劫で、微細な動きだ。握り返すと目覚める様に力が戻ってくる。
「コウキ・・・私を・・・。」
目覚めた時は彼女の身体も脆く、自分は魔術の調整で彼女に再生するエネルギーを手渡し、無理にでも満たす。自分が持ち込んだ物、足りなければ斬られた血肉で補う。だが、彼女はそうしない。
「コウキ、私を殺して。」
弱々しい声ではなかった、怯える様な声でも無かった。清々しい程に澄んだ絶望の言葉。
自分の手で正義を掴み取った彼女が、自分の手で自分を善に目覚めさせた彼女を殺すのは・・・あまりにも不憫ではないか。
「これは、私への罰。当然の事。」
喜びは怒りにノンステップで変わる、そこに悲しみは無かった。ストレートに気持ちが変わったのだ。
「何がお前への罰だ!お前程度の悪人が罰されれば、全人類は地獄に行く事になる!!」
ロタールは後にこう言った。
「英雄がそう簡単に人を救える訳じゃない。心意気と言った筈だ。彼女を頑強な精神に出来れば、こんな事にはならなかった、罪悪感を思う人間なら想定しておくべきだな。・・・それで、お前はどう考える?」
彼は即決即断で答えていた。
こうなると分かっていた、いや、何時かは分からないが人生の通過点として向き合わなければいけなかった。
「俺はこんな些事で、心が折れそうになってしまうのか。」
結局、自分は未だ弱い儘なのだ。覚悟が甘い、実力を無意味にした、愚かこの上ない存在なのだ。
「・・・俺は弱いのか・・・。」
記憶が霧散する様に手掴みの感覚が消えていく。
そうだ、彼は一年も経っていない、記憶が入れられただけの少年。赤ん坊から成長し、物心を手に入れた・・・それだけではないか。
コウキは応えない。記憶が漏れ出た影響こそあれ、彼という存在は力を貸さないのだ。
彼女が変わらないなら、いっそ・・・自分で変えよう。最初は自殺により彼女を変えれるかと思い込んだが、コウキという身体はそれを許さないだろう。その次に、子供の無知な幻想を相対的に僅かなヒントから探し当てる。
「あの施設は何処だ・・・?」
分かっているのだ、記憶だけ同じ物にして、全て変えてしまう事の愚かさも。分かっているから自分はせめて記憶だけでも救わなければいけない。
ヘカテーは記憶を消さずに残しておいた道を。
リーツィアを、高い身分である彼女が自分を対等に置くという事を敬意ある行動で示した彼女を死なす訳にはいかなかった。
・・・どうやって行くべきか。扉は温度で狂い、開いている。そこに駆け込むと・・・。
「・・・危ない、漸く間に合った。」
カオルコは裏の応援を駆逐し、辿り着く。
「・・・頼めるか。」
「・・・ええ。」
何処かで、自分はその目標に向き合わなければいけない。だが、もう少し先延ばしにさせてくれたりはしないだろうか。そう願って彼女に先行させ、傷を塞ぐべく背中に支えられた中で、脚に板と包帯を巻く。
ここには誰も来ない・・・と言えるなら司書のもう一人を拘束し、自分と同じ外見にしよう。
「・・・彼は安全地帯で、私はソロモンの分を果たさなければいけない・・・か。」
ジョーが死んだならこんな場所に価値は無い。
王都を焼き尽くす為の魔術を準備する。正直、必要量が多過ぎる。自然災害を数回分用意しなければ崩せない。
「リーツィアは実力的に問題無い筈。・・・何より・・・。」
今は語る必要が無いと切り捨て、南方を目指す。
「・・・直径が倍あれば、国境近くを覆える。」
結論から言おう、王都を破壊するには王国民の協力が不可欠である。技術の制限下で破壊する技術が存在しない、そして魔術の防衛網と、夜叉の生産。
「・・・通信・・・アスタルト?」
『チェルノボグがコウキ二人の確保に向かい、現在接敵中、未報告の戦力あり。』
「・・・被害状況もセットで見える・・・けど妨害されてるのかイマイチな情報だ・・・。あの子の目の精度は悪くない筈だけど・・・。」
『推定するなら・・・ソロモンの継承者。』
「・・・!しまった!てっきりトップに継がれたと思えば・・・!」
彼女にとっては想定外であった、ソロモンと中央十字は仲自体は良くない。しかし、ここまで険悪とは思わなかった。二人とも王国を維持する志はある、優れた人間だった。・・・しかし、干渉は出来なかった。主治医の位ではあったが、脳を損傷させる可能性や、魔術の才を失う可能性があるのだ。
「チェルノボグの支援・・・かな。」
コウキは一旦後回し、ソロモンの危険性を知っており、ある程度被害が存在し、下手すりゃ手練だ。彼女は赴く以外選択肢を取れなかったのだ。
人の音が消え、爆発音が起きた・・・近いは近い、だが、もっと危険な・・・。
「ソロモンの火力・・・向こう側が寄ってくれたなら結構!」
デモ隊の音は続く。そして、エリニューエスにも魔の手が伸びる、首の後ろに掴まれては、引き込まれ、刃物の束に埋められる。
鐘は誰の為に鳴る
金は誰の為になる
鐘は誰の為に鳴る
金は誰の為になる
もう、ウンザリだ。
ソロモンの隠し子・・・庶民に混ざり、貧困を生きた少年が居た。
スローガンは身分の差を段々と食い潰す、悪意の玉座は虫を学習させた。衣服やものが略奪される。物は足りない、食う希望は無い。しかし、彼等は食いに来る。
自分は身を守る術としてそれを手に入れてしまった。
死を以って死を制し、目の前の虫を払い続ける。
「収縮、崩壊。」
魔術を単純化し、心臓だけを潰す流れ作業になった。弾を作り、勢いを込め、心臓に刺し、爆破させる。大動脈を確実に切り裂き、血の海を作り上げる。
最初こそ楽しかった、自分の初恋の相手は自分に縋り、助ける度に仲良くなり、最近は殺す事の苦痛を理解し、癒してくれた。
守れはしなかったが。心臓を無理矢理動かし、眠りを再現し、言いたい事を言わせる事しか出来やしないのだ。散った血肉を戻す事は叶わず、再生した頃には息絶えていた。
それはそれとして・・・。
「あんの馬鹿共どこ行きやがった畜生・・・!!」
チェルノボグが殴り込みに来た。王国深部まで来たが、方向的に見れば北と南でガッツリ違う。アスタルトは邪魔してはいけないとエリニューエスを観測し、その影響で居ないのだ。
「・・・誰だ!」
「そっちこそ誰だよ、私は馬鹿共を探してる。そこそこちびっこいのと私と同じ位の奴。」
「・・・信用に値しない。」
「ハッ!そうかよ。」
何時もとの豹変具合が凄まじいと思ってしまう声の荒らげ方をする頃には、彼女の平穏さは無い。
銃弾によって示されたその挑戦に、答えなければいけないのだ。
二発の銃弾が飛び交うが、魔術の範囲が上手く定まらない。
分かる筈も無い、相手は運を狙ってくる者・・・確実なものでなければ届く事は無い。
手には届く。当てるつもりなら、手で受け止める。エネルギーを殺し、それを変換に割り当てる。
拳に回して手を伸ばす、銃弾をカウンターした威力・・・訓練用ゴム弾がボクサーのストレートと同じ程度・・・だが、中途半端な威力でも商船を崩壊させる威力の代物だ。
「ふんッ!!」
「はぁ!?」
自分でも有り得ない威力と思った決定打が、僅かな痕を残す程度まで殺された。それもそうだ、大砲数門を一発の弾丸に込め、途中から加速する事無い武器・・・反動も凄まじい。
「ゴリウーかよ畜生・・・!!」
「失礼だなガキンチョ、地面に埋めてやる。生前葬って奴だ。」
・・・言うて、同い年なのだが・・・。
とはいえどこか高揚する、重圧に近いものと同時に安堵を振りまく、悪い奴では無いと言うのが、一周回って怖くなる。
しとりしとり、迫るは足、何歩目で打たれる。意識外から、認識がブレて被弾する。銃弾は適用されない為、返す事は可能である。その一方でそれ以外の防戦は出来ない。ハイアベレージ相手に切り札を封じた所で、それ以外で圧倒される。
自分は試されている、舐められている。手を抜かれている。・・・いや、何か変だ。
魔術に関してエネルギーの観測法は既存の儘であり、数字で覚えなければいけない。大した範囲でもなければ出力が足りない分を食らう結果になる事もある。入力が足りなければ身体は瞬間的に枯渇する。
備えてエネルギーをエネルギーでピッタリ消失させる、瞬間的にカウンター出来なければ確実に死ぬ。エネルギーの利用で結果である打撃の到達が起きるのだ。
稀に狙いがブレる、しかし回避はギリギリ出来る、慣れてきて理不尽に感じない。とはいえ銃弾の出力が差ばかり、同じ弾丸が一つも飛んでこない。全てがバラバラな上、弾速もランダムで予想出来ない。とはいえオーバーに出力しても範囲が解決する。
「・・・がっ・・・!!」
入力のミスが起きた。胸部を狙ったものと思いそこに向けた筈だが、実際は腕を掴む為のものであった。結果として腕が掴まれた状態になり、ゴシックロリータのメイド服風の何かに引き込まれる。・・・いや、不味い。彼女相手の場合は自然状態という状況が一番不味い。速攻で殺される。
「・・・畜生・・・ここまでか・・・!?」
「お前程度にやられる程戦闘経験は少ない訳じゃなえんだ。」
「・・・!」
腕を加速させればいける、腕が吹き飛ぶ可能性はある。だが、心肺停止は蘇生のチャンスがある限り問題無い。
動きが見えるが、単調なものが多い、運頼りなそれは反動等己に向くものに特化している。攻撃はしているが、その実防御が本領なのだ。
魔術で観測した所、少し怪しいものがあった。
生命エネルギーの稼動量が一般より多い、火力の理由が何となく察せられたが、常人の数倍は違う。ライオンの類でも人に変えられたか、とはいえ力はかなり弱まる。多い位にしかならない筈だ。
振りが遅い、生命エネルギーが桁違いとはいえ本業では無さそうだ、銃の腕は確実にプロだが、それ以外はあまり良しと言えない。その隙をどうにか突く事が出来れば良いが。
好機は回ってくる、数度の交わし合いの中で下方向に打ち出された相手の腕を精度が高く確保出来た。
行ける、下腹部に蹴りを叩き込める。殺れる。
違和感は再起する。
「・・・っ!」
幼き日の信仰を、思い出す様に・・・。
王国の者は子供には手を出せない・・・。
彼女は妊娠しているのでは無いかという疑惑が手を止めさせた。
そこだけ緩めていたのだ、真田丸の様に、攻めやすい場所に罠を置き、そこに誘導させたのだ。
だが彼女は手を緩めないだろう。顔面を砕き、自分は死の手前まで行く事になる。
「・・・ここまでか・・・。」
手を読まれる様に足を止められ、崩れた姿勢を引っ張られる。
「殺しには興味無い、良い戦いだった。」
「・・・。」
「確実な距離に誘っただけ。」
「・・・。」
呼吸が戻るのに数分時間が掛かる。気分は悪かった。生きていた気がしない。
「お前の名前は?」
「エレミアだ。ファミリーネームは無い。」
「私はチェルノボグ、本名はアイリッシュ・ティアマト・カストゥス。アイリで良い。」
「年齢は?」
「こう見えて14だ。」
「奇遇だな、こう見えて14さ。」
「割と馴れ馴れしいね。」
「どうでも良いのさ、そんな事。」
チェルノボグは親譲りの母親が持つ勘により違和感を持った。その事は置いておき、無駄に生き延びた分をどうしようかと迷う。正直何かをしたい気分では無いが、相手に対し心配の感情がある程度ある。
「それで?誰を探している?」
「王都を滅ぼせば分かる。」
「・・・そうか、ああ、うん。どうでも良いからな、滅ぼす決定打に使ってくれ。」
「考えとく・・・。捕虜を使うのはあんまりやりたくないんだけどね。」
「・・・そりゃあ、大変だ。忙しそうだな。」
「気にすんな。暇だからやってるだけだ。」
身体を委ねてしまう程度には疲れていたし、痛んでいた。暫くは考えも回らない。会話位は出来るが、啖呵も返せなさそうだ。
「ああ、そうそう。ゴリウーってどういう事だ?1回聞かせてもらおうか。」
地面を這い蹲る勇気も無い、釈明をやる気のない言葉で交わしたが、どうも彼女の近くは落ち着くのだ
「騙されていたが妊娠はしてない、出産経験もない。」
「生まれつき?」
「生命エネルギーは母親由来だな・・・というか母からしか遺伝しない。」
「・・・そうなのか、初めて知った。」
「ミトコンドリアとかは母親から遺伝する。」
「そうなのか。・・・はぁ、本っ当に良かった。」
「んふふ、騙されてたね。」
「それ以上に安心した。殺しにならなくて良かった。」
「・・・良い子じゃん、さっきの言葉が馬鹿みたい。」
その言葉を聞くと、目を逸らされた。
「そんな事は無い。」
「・・・ん?」
「・・・俺は・・・こんな力があっても大事な女の子を守れなかった。」
蹲る様に丸まり、頭を抱える様に悲痛な声が出てきた。
「・・・彼奴の記憶は、無かった。最初っから上っ面でしか信じていなかったんだ。」
怒りはより苛烈になるが、物に当たる事は無い、それを懸念していたチェルノボグは一旦止めず、頷く様にして続きを促す。
「クソ女が!クソ女が!余計な事ばっかする癖して上っ面だけの見返りを得て貢ぐだけのクソ女が!!彼奴は本命の為に信頼を集めて自分の物にした後に託すつもりなんだ!」
彼が生き延びたのでは無い、彼以外は我欲で死んだのだ。守るべく力を持って自分の重要性を理解し、感情に動かされなかった。
「・・・よしよし、悪い女に誑かされていただけだ、気にすんな。」
彼女は少し段取りを考える、不安を解消するという目的において、誘うのを先か、その問題を解消するのを先かと迷う・・・とはいえ少し気が立っている。間に挟もう。
「女はクズで男もクズだ。私と周りは例外だ。」
暴論な気もするが、きっぱりと言える姿勢や、指の方向で嫌味に聞こえない。寧ろそうあって欲しいとさえ思った。
「後そこで騙されるのはちょっといかんなぁ・・・とはいえ・・・唆る。良い子だよ、ホント。」
我慢する様に聞いていたが、逆に目立った怒りに次々と切り替わり、冷静故に罪の適切な判断が出来る様になったのだ。より過剰になる怒りは、冷静を通して固まり、王国破壊の理由になっていく。
「性欲は大丈夫か?」
「エネルギーに変換した。」
「残しておいた方が良いぞ、これからは。」
彼女は離れずに、耳に語り掛ける。上半身だけで礼節を示す。
「帝国にようこそ、ソロモンの後継者。
三大欲求を存分に満たし、理想の家庭と理想の金、理想の隣人と理想の全てを手に入れるべく形成された唯一無二の国、全ての技術を凌駕した国へ。」
・・・と言っても考えの回らない今は刷り込んでおくだけで良い。
「探し人は大丈夫か?」
「先行に早い奴がいんのよ、そいつに任せてある。」
「なら良いか。」
一旦落ち着いて自分にある程度信頼が出来た所で切り込みを入れようとした。・・・しかし相手側から動き、言葉を練り直す。
「アンタは強いからさ、分かってくれるか?」
先の戦闘では一貫して彼女が優勢であった。手玉に取っていたのだ。それ故に頼った。
「強い事って、慕われる事よりも良い事なのか?」
自分は偶然力を手に下に過ぎない。生き延びはしたが、親無しとして捨てられ、見捨てていた親によって忌むべき力を託された。嫌だった。こんな遅いタイミングで償う気が知れない。
「俺には分からない。」
力に経験が伴わない、記憶を嫌い、認知せずに遠ざけた彼は無力でもあった。コウキの様に。だが、違うとすれば、犠牲者への共感である。
チェルノボグは返す。彼の怯えを解く様に、その一方で、心を強く握られた。
「女の子を守れた時、どう思った?」
「・・・頗る・・・気持ち良かった。」
その気持ちは真に迫るものだ・・・。真実は不都合である様に、彼の感情に迫った結果、良いとは言えないものになった。
「快感の徒じゃない、俺は・・・。」
心の闇、自らと自らが向き合う様にしてしまった、そうなるかなと予想していたチェルノボグは呆れつつ元に戻る。
「心の問題に外部からの干渉なんて混ぜてどうするのさ・・・最初に女の子を助けたいって思って助けたなら、それはもう他人の為に命を賭けられる立派な人よ。」
顔の両頬に手を通し、顔を近付ける。
「理屈の不完全?一貫してない精神?一時的な良心?側から見れば偽善?欲望に塗れている?」
言われてきた風評に踏み込み、その言葉に疑問符を付ける。それだけで勇気付けられた。
「やったもん勝ちでしょ、後付けの文句の価値なんて眉唾に過ぎない。」
天衣無縫を地で行った言葉だ、自身と勇気は魔女という侮蔑から、魔女をシンデレラストーリーの少女達に変えた一人として。
「自分の事以外を軽く見れば痛い目を見るけど、自分の事を軽く見たら将来的にもっと痛い目を見るよ。・・・どうあっても、自分の出来る事を忘れないでね。」
心は射抜かれていたが、どうせ無理だ、愛せないと根底にある以上、良い友人が出来たという程度のももになった。
「私はそういう弱い子の敵にはなりたくないからさ?ね?」
彼女の優しい言葉に気を許すと、脱力した様に力が抜ける。眠りにつく。・・・脳を行使し、守る為だけに数日間も薄い眠りで居たのだ。いや、眠っていないのかもしれない。錯乱状態の様な気もしたが、話が通じる程には耐性があり、優れた人間なのだ。信用して問題無いかと、胸を撫で・・・突っかかって下ろせなかった。
コウキのAKIRAは考えていた訳ではなく偶然です。
無意識下の場合は分からん。
ロタールの過去はこれからなんでまだでーす。




