祝祭
今回で王国編第二章は終わります。
一時の幸あれ!
駆け足気味じゃないと量が多過ぎる件。
「作戦開始!」
・・・当作戦を説明しよう。
死人に報いる為に記憶を確保し自我を掘り出す、ヘカテー管轄で行う。
身体を貸すのは継承者、準備はしてある。エリニューエスとヘカテーによる補正を加え外見は変えておく。そして使命のデメリットを一時的に消す。
・・・とはいえパーティ会場から外れれば効果は無いので民間人を巻き込める様に人集りを選ぶ。
聖女の婚約という大々的な発表、国が危険だと定めた為、それが伝わる頃にはエルヴィンが嫉妬したと馬鹿にされる事になる・・・というコウキに対して個人的な恨みを持つ切っ掛けもあった。
それに関しては粗方終わらせた。・・・タキシードとドレスの受け取り、ヘカテーとエリニューエスによる使命のデメリットを一時的に帳消しにする事。現在休憩を挟む旅に乳酸が身体を氷漬けにしてくる状況で、走り続けること80キロオーバー、ドーピングマシマシでも戦闘を挟んだり、武道寄りの身体を作っている影響があって難しい。
『ジョーの記憶から自我を掘り出す・・・ね、了解了解、人使い荒いパパったらもう・・・。』
「うるせぇな!子育てが熊殺し道場の類にしか思えねぇんだよ!」
『流石にその価値観はどうかと思うの。・・・そして二つ言っておくわ。』
ヘカテーは少し継承に関してを補足する。
『使命、記憶、寿命。この継承は封じられた進化、昔から存在していたけど、復讐の材料にしかならないから消されたの。血の繋がりというワードによって誤魔化したかったんでしょうね、憎悪の証。』
こんな会話だが、整えた場所が少し遠かった。
箱根駅伝が比にならない、パルクール混じりのマラソン開始だ、何十kmか分からない超長距離。
「交代だ、後は任せろ。」
姿を一視留めぬ、羽毛の如き一度の足音に気付く事は無い。
『壁!太っちょ頭!カウボーイ肩!』
「分かりにくいんだよ!!」
街の方向が急に変わる。建物の間が空いた。
「殺しに来てやったぞクソ野郎共!!」
『何やってんのこの馬鹿ぁ!!』
「飛び道具を足場にする!」
ナイフとロープを奪い、それを壁に引っ掛け、刺す訳ではなく、隙間に一度嵌め込み、一度引っ張れば外れる、それを使い追うにも姿を常に基準としなければいけない、広い道では識別にも苦労する、揺さぶられた人々は転び、少なくとも一人二人は死んだだろう。ちゃんとした人間なら助かっただろう。
「次の街で聖女ファンが結婚式の衣服を作っておいた奴がいる。厄介じゃないからちゃんと受け取る、見た目は完成した、ヘカテーは一度誤魔化せるか試験的に行う。」
「「『了解!』」」
彼女、コウキ、ヘカテーが呼応し、交換分の金銭とばら撒く用のチラシを受け取る。
「ヘリでばら撒くのが夢だったけど出来なかったなぁ・・・。」
「爆撃機に偽札を積んで他国の紙幣価値を落とすとかありかもね。」
「そんな遠くなかったな、戻るのに二時間は掛かる、エリニューエス、どうにか出来ないか?」
「乳酸改善、エネルギー補給の肉、胃液で荒れないように直接身体にぶち込む。自分自身は常に操作してるから問題無い。」
「助かる!」
普通の人間はコウキだけだ、不死とか魔女のサポートを受けなければやってられない。とはいえミクロな作業は極力拒否、時間が無い上、肉の数も多くない。整形で消耗する分と筋トレという側面が無意味になってしまう事。肉離れは最低限カバーしているが、走った分の50%は無駄になっただろう。何をしても三大欲求が食欲、筋トレ、瞑想に置き換えられる。
街中を走る、痛覚が急激に作用しようと、立つのは止めない。聖女の顔を見た職人が挨拶を一応待ちつつ、弟子に紙袋で詰めるように指示する。
「「受け取りに来ました新婚カップルでーす!!」」
「あいよー。」
果物を入れそうな紙袋にタキシードとドレス、黒色のドレスが特に良い。『貴方以外には染まりません』というメッセージが篭っている。
「大坂みたいなテンポで進んだな。トラブルが起きる事を期待していた。」
『トラブルをこれ以上起こさせない所存。』
「少しは任せてくれても良いんだぞ?」
『遠回りな方法は駄目!』
「あーい。」
道中特にトラブルは無く、借りた馬で駆ける、妖精は発達したが車輪はあまり作られず、魔術で分散する事で対策している。サラブレッドでも長距離を走行出来る上、予後不良も起きない。先の戦争後開発されたとはいえ、定着するのは早かった。・・・誰が裏切ったかは分からないが、電撃戦を仕掛けられる訳だ。
ヘカテーの仕事が一個増えたが予め休みは取らせた、そこまで問題は無い筈だ。追い込み作業とか、納期と同じだ。
当の会場に着いた。
タキシードの準備は終えた、残りはドレスを着る彼女を待つだけ。エリニューエスによる記憶の一部改変により刷り込まれた聖女の婚約。情報統制の結果異端であると伝わるよりも先にこの様な催事が起きた。中流階級は中央十字が焦り、結婚に関して不都合がある、放窓事件と結びついた陰謀論の著書、不思議と射抜いたのだ。菓子類、酒類の販売が大々的に行われた、突然の水逆流事件、戦争時から継続する雨、水を保存の為に麦酒にし、供給量は圧倒的に多かった。スラムは自殺者に溢れる中、その経済的な影響を初日から大きく受け、遺体は弔われ、地面深くに埋められると約束された。忌み嫌う地がなくなり森の木を利用したからである。・・・コンテナは一部を除き爆発に巻き込まれており、場合によっては放射能汚染の可能性がある。・・・エリニューエスは王国民を信じた、他の街を汚染する自殺者とは、他の街にいる人間と信頼し合う関係にいるという事だ。結局の所、この作戦は王国民の善悪問わない性質が呼んだものである。
それを賛辞し、
「・・・ジョーに一度、託してやれ。」
『問題無い、相手の誤認も出来る様にしておいた。』
「便利だな、それ。」
『んふふ、産んでくれた分、大盤振る舞いしちゃうからねー。使命の副作用、一時的に解除しちゃうよー!』
「益々良い女過ぎて、誰が親か分からねぇ。」
『それはまだ教えない、そうしなきゃ本来の私が再現出来なくなっちゃうからねー。』
一度意識を集中力を高める様にして沈める。意識から無駄なものを削ぎ落とし、時間を長く感じる様にする。情報源を其の儘に、ピントをぼかす事で即時判断視点を要求し、又、気が散るような動きに仕立て上げる。
『ジョー、一時的に使命のデメリットは帳消しにした。殺した奴、自殺した奴の分も全部回収して記憶が残っている状況にし、自我を修復した。・・・しかしルナが不幸の儘だと嫌だろう? だからこれから聖女の結婚式を執り行う。見た目はエリニューエスがやってくれた、せめて彼奴を幸せにしてやれよ、良いな。』
「・・・ああ。」
いつもの一言は無かった。感謝よりも先に、自分は彼女への関心を思い出す。
起きた時、目前にルナが居た。教会の聖女を肯定する人物が漸く鬱憤を晴らし、導く。
「・・・ルナ!」
「・・・ジョー?」
それよりも先に、喜びを分かち合う。
「結婚式、及びパーティの開会式を終わります。私はこの日の為に大学の教科書を売り払い、豪邸ひとつ立てられる金銭を得ました。今日一日は数量限定で無料と致しましょう。・・・では。」
歓声が上がる、礼儀としては有り得ないが、流石のルナも笑いを我慢出来なかったらしい。
「・・・エリニューエス・・・。」
「・・・。」
「誰?」
「私を守る為に必死だった、性格が悪いと頑張って取り繕う努力がマトモだったり変な方向に行ったりする人さ。」
「・・・ぇ・・・。」
「見に来てくれているかどうかは分からないが・・・感謝と謝罪だけはしておきたかった・・・。」
「・・・っ・・・。」
エリニューエスは確かにその言葉を聞き届けていた。自分の未練を終わらせた。感謝と謝罪は寧ろ自分がすべきものであったのに。
人は皆、外で祝っていたとしても。彼女は教会に留まり、彼に姿を見せず、泣き続ける。エマが慰めて彼女の気持ちを少しでも理解する。
彼等が外の出た時、手を引かれたルナは元気というあまり見ないジョーの一面に、直ぐに顔を上げる。
「・・・デートって奴か。」
「ええ、そんな感じね。」
タイムスケジュールは凡そ一日、低予算新婚旅行と思えば良い。爆薬や火薬が大量に転がって居た所、ルナの街はそれを花火に転用した。夜に合わせるらしいが、間に合うかどうかは分からない。
酒とパンが大量に、好機だと売り込みに来るとか、聖女を祝うとか、利己・利他的問わず商品を持ち寄った。
「・・・美味い、こんな物は食べた事が無い。」
勢い良く食べ、喉に詰まらせる。笑いもあったが、自分は少し重い言葉に聞こえた。倹約を心がけた結果、彼女には料理の才能は無い。自分が解決すれば、少しは喜んでくれただろうか。
本来は彼がそうする事等は有り得ない。・・・彼は未だ、死装束である様々な記憶、感情の制御の反動があった。無邪気にそれが映った時、気の緩みと考え直す。
食事の技術は、隠せなかった。王国の被差別階級では良くも悪くも肉料理が発達し、それ以外にもあった。娯楽として忘れられない、芸術の一つにもなる。モダンアートは後の時代において絵が下手な時代としてしか捉えられないだろう、個性や多様性と言った話題と一括りに出来る、決して技術の発達と言えないものである。美を磨く事を怠りつつも、革新的を称し価値を希求するのだ。
「こりゃあ新作の飯だ、発酵させる迄待てねぇってうるせぇ奴が居たんだが、生でもうめぇって言っててよ、生で出してやったのさ。」
「・・・美味い、そして柔らかい。肉もこういうのはあるのか?」
「やめとけって医者を名乗るねーちゃんが言ってたからな、あとレアよりミディアムの方が柔らかい場合もあるらしいから食感に関しちゃ同じだぜ。」
「成程成程、ルナもどうだ?塩漬けじゃない肉、鯵とかいう海岸でしか食えない魚、どっちも美味いぞ。」
「鯵は足が付きやすい、ニシンに食い飽きた連中が食うから結構高ぇぞ?」
「奢りか、ありがとう。」
「ケェッ!あんちゃん良い性格してんなぁ!」
喉に再び物を詰まらせると、流石に背中を押され、食い過ぎは良くないと笑いながら怒られ、そろそろ次の場所に行こうと赴く。
「はぁ、食った。重い。」
「食べ過ぎ、お水飲んで少しは流したら?」
「ああ、ありがとう。」
瓢箪の水を飲み干し、突き返すと彼女の胸にうっかり触れる所か掴みかける。
「おっと、済まない。」
「ドレス、私が思ったより痩せてるせいですぐ落ちるの。次同じ事したら私のビンタが待ってるからね!」
「・・・反省、してます。」
「分かってるから、そんな固くならないの。」
「よーし次の場所に行こう!何だっけ。」
「オペラかサーカス、吟遊詩人も来ているらしいけど。」
「オペラが良い、シェイクスピアという作家の作品が面白くてなぁ、見てみたいんだ。若しかしたら其れかもしれない。」
「良いわね、行ってみましょう?」
オペラ劇場は五つ隣の通り、昔は演説も同じ会場で行われていたらしいが、民主主義が消滅して以降はオペラ劇場、その他劇の為にしか使われないらしい。
「・・・ボックス席まで使わせてくれるのか。」
「ボックス席、私は一回使った事があるというか、子供の頃に見せられたわね。」
「ボックス席は本来観客も見渡す為とあったが・・・真ん中なのは周りから進展を見る為だろうな。逆に利用された訳だ。」
「私は見慣れてるけど・・・貴方は違うものね。」
「劇なのに劇を見ない・・・少し自分も老いたのか、物見する正確なのか。・・・若干疑問になるな。」
「貴方が劇を作るなら、どんな劇をやるの?」
彼に少し、意地悪な質問をした。自分は彼の心の奥底に知りたいものがあった。
「・・・。」
理解はしている筈だ、過去は思い出されるのだ。・・・これは反省と無念、後悔も又然り、自分は何処までも自分の事しか考えていなかった。神に祈り己を罰するべきと乞う程に。しかし、言えなかった。自分が後悔ばかりしているとなれば、それは反省や無念を帳消しにした只の憐れみの乞食だ。
彼は的確に弱みを突く、そう思っていない筈だ。彼の聖書は歴史を理解したもので、それ相応の扱いというものを身に付けている。
敬意が故の重み、互いが互いを未だ理解出来ていないのだ。謙虚と謙虚では関係性は崩れてしまう。師匠と弟子の様な関係であって偶々話題に出来る結婚では良くない。
迷う内に外に出ていた。迷う自分は周りの人にどう映るだろうか。誤魔化す様に彼に身を寄せる。
やがて夜、花火が始まる。爆薬を転用するその祝いは、戦争の終わりとして並々ならぬ人気はあった。
人が居るという感触に気分は上がり、串焼きを受け取り、次々に完食する。
「鶏肉は雑食だから住処の周りの場所では鶏を見掛けたら護衛するというルールがあるらしい。それがこの様な文化を産んでいると思うと歴史を感じる。塩を振り掛けただけかと思ったが調味料も取れるんだな。反面豆が無かったり、特殊な環境らしい。・・・どうした?」
「うぅん、なんでもない。」
「鼻水か、風邪かもしれない。身体は冷やさない方が良いぞ。」
『(ジョークで言ってる・・・。)』
「あ、あのね・・・。」
言い出せなかった、串焼きを貰い、食べる。聖書を取り入れたは取り入れたが食肉は規制されない。母体を作るのに全ての食は重要視される。少し多めに、ヤケに食べる。彼は今迄食べた事が無い為であった・・・それに影響したかと誤認する。
「若し、このまま君と結婚して続きがあるとして。この一日の様な幻想が続いた時、君は子供とか、どうしたい?」
「・・・ぇ・・・それは・・・。」
「私は名前も考えてみようかなと思っていたんだ。」
「・・・ちょちょっと待って・・・ジョー・・・。」
「どうかしたのか?」
「・・・少し、本当に少しで良いから、私も話したい事が沢山あるの。」
覚悟を決めるのはそう難しくなかった。・・・しかし、罪悪感は別に存在するのだ。
「・・・ごめんなさい、ジョー。私はルナの娘。貴方が愛した人とは親子関係の別人。」
驚愕した彼の手を握り、続きを語る。
「貴方とルナの娘で、お母さんは窓の外に捨てられた。エルヴィンが怒り、追い詰められて・・・自殺を選んだの。死にかけたお母さんは、それでも頑張って私を産んだ。私を産んで何時絶命してもおかしくなかった・・・それでも、助けてくれた人が居たの。」
一度安堵し、再考時に安堵するのはおかしいと思い、何時やったのか聞いたが、知らないとだけ言われた。何度も何度も聞かれるが、その時ばかりは肩を揺さぶられようと、目を合わせすらしなかった。
「貴方との大事な記憶は半分、無いの。大事と思ってしまって・・・ずっと、辛かった。」
ルナの最大の後悔は、未来ではなく、過去であった。自分の記憶は大半はジョーについてだが、大事な所が幾つも欠けているのだ。それが辛いのだ、思い出したいと思っても、不可能・・・それを探ろうにも、伝える事が出来なかった。自分が若し、彼にルナで無い事を伝えれば、彼は生きているか分からなかった、自分であれば自殺してしまうだろう。母の記憶の終わりに刻まれた言葉で、精神を保ち、生きていた。
「私は君が戻って来た時、一晩、眠っていなかった。」
彼は串焼きを食い尽くしていた、半分食べて、差し出した。自分が少し話すという合図だ。
「・・・今がそうなら、過去の事を気にする必要なんてないさ。」
どう考えて言っているのかは分からない、記憶の半分が暴力に満ちた過去であるかもしれない。
「今、君がどういう理由であれ私に愛情を向けている、それだけで有り難い。・・・あと、ルナと名乗り続けてくれたら嬉しい。」
自我が発掘された別人とジョーは理解している。ルナはそれを理解しては居ない。ジョーはルナが生存していると思っている。彼は何処までも自分だ、だが、ルナという人間の姿だけを借りた自分は、何を以か生かされていた。もう隠しはしないでいこう。気持ちに嘘をついてはこの祝祭も意味が無い。・・・少し遠回りに攻めようと動いた。先に聞けなかった事がある。それは、彼に対し聞きたかった一言。
「ジョー、一つ良いかしら。」
「断る事は無い。」
オペラでは無い、短い文中でその言葉を聞く。軽快に染み入る言葉こそ、重く辛いものである。
「・・・私の使命は、とっくの昔に終わってた・・・途中から、好意だけで耐えて、会い続けてた。」
ルナが本来向き合うべきであった問題を。何度も何度も言葉を止め、涙の内に話す事が出来なかった。
「ごめんなさい・・・私は一度も謝罪出来なかった、貴方は本来正義感で殺すつもりだった。聖書に心を動かされて、使命に止められた。全部、神様のお陰なの。」
涙を忍ぶ事は出来なかった。自分は、彼をどう思っているかは正直に言いたかった。それが心残りだった。言葉を重ねて、もう終わったのだ。涙は何の感情のものかは自分では理解出来なかった。
「・・・大好き、箍が外れたみたいに、好意が隠せない。モヤモヤももう無い・・・。私達、乗り越えたのかな? 十何年も・・・辛かった。でも、貴方はもっと・・・。」
自分よりも辛い立場の人間であるからこそ、相手を思って考えた。彼はきっと、自分を重んじない。
「・・・私は、そんなに気にしていない。前も、今も、大人びていく君が変わって、柔らかくなって、好意的になっていく・・・変わったのは君だ、私は何一つ買われていなかったが、もしかしたら君に帰られたんじゃないか?と思っているよ。」
それがいつも通り、彼はずっと私との行為に詰め込まれた状態。魅力を信じて、ベタベタに甘える彼を受け止める。
「ふふ・・・ありがとう。」
花火が終わり、教会に赴き、終わりを告げる。・・・熱気が溢れ過ぎて、二度目の開会式にもなっていたが。
残酷な使命と残酷な仕組み、その果てにたった一度の幸せがあった、報われぬ死で、彼の魂に送れないとしても。
「敬虔なるルナがよく知らんがそこら辺の良い男とくっ付いたぞー!!」
「祝え!祝え!」
「おめでとう!ルナ!」
そうして振り向いた彼女は言った。
「ありがとう!」
ドレスアップの後、現代的なものは子供の憧れになっただろう、助けられた子供が、近くに見えた、手を振ると目を輝かせて返す、もっと返したいとも思ったが、自分は先に行かねばならない、迎えて、そして送り出す、そんな些細なものでしかないのだ。
だけれど、自分はどうして些細なもので感動出来ているのだろうか、望んでも、願ってもない、幸せな日々、ただこの一時は死後の記憶として心に留めた。いつもと違う視点や、考え等に走る事はあったが、自分にとっては新しい彼の良い所を発見出来た気がする。
そして、自分の好意は最初こそ使命や正義であったが、途中からは正義と恋である事を何よりも嬉しく思っていた。自分自身の研鑽は文化史的背景等は兎も角、どの様な宗教形態であれ、自分にとって最も価値のあるものである。彼女は自分のすべき事を果たし、未練を終わらせ、安らかに眠るだろう。その不安が無くなった時、漸く彼は未練が終わるのだ。
・・・数人の女共・・・裏方仕事を頑張ったが売れ残ったみたいな風格を見せつつも若く見えるからそうなだけで実際は母親目線の人物もいる。
『・・・私、あんまり仕事出来なかったなぁ。』
「はぁ、本当疲れた。裏方仕事なんて嫌だ嫌だ。これ見れなきゃ液体に還してやった所だ。」
「あら、エリニューエス、どうしたの?」
「そろそろ亡命時かと思ってな、良い研究材料を見つけたんだよ。とっ捕まえられてしがみつかれて土下座されて、流石に受け入れた。お前はもっと私情まみれに受け入れてそうだがな。」
『つーん、貴女と違ってチャンスがあるもーん。』
「シバくぞこのガキィ!!」
『やれるもんならやってみろ地面に頭だけ出したままにしてやるよ!!』
「こーら、止めなさい。」
「エマ!お前まだ逃げてなかったのか・・・。」
「・・・ええ、私もこの国の終わり位は見届けようかなって。」
・・・彼女等は一度の協力から、どちらに着くべきかを考えた、身の保身でも、好みでも、享楽でも良い。・・・一人、面白い奴がいた。それがどれ程の愚行であれ、彼をどうにかしてみる、或いは助けるという役目を負ってみようと考えたからだ。
精鋭は集う、彼等はアルトリウス叩き上げの部隊、この国の持つ最高戦力・・・全作戦、全武器の非公開の徹底、数を抑える事で犠牲を減らし、攻撃すら無意味にする。
号令や命令は無い、既存の軍隊に混ぜ、維持を行なう。
祝祭の騒ぎは、やがて阿鼻叫喚に変わる。祝う対象は既に失せ、何も無い所を祝い続ける。
使命が無い、忌み嫌われもしないジョーの遺体とルナの遺体は、少しでも深く、貴金属の棺桶に仕舞われ、底深くに埋められる。
ソロモンの死はその後に漸く発覚、エリニューエスは行方不明。・・・王国の滅亡時間しか、王国は変える事が出来ないと確定した瞬間である。
『主要要塞五つ陥落』
『自由都市含めた街凡そ五十が連絡不能』
『未確認の飛行物体が移動開始、阻止は不可能』
『第一から第十二防衛部隊沈黙』
『逃亡或いは撤退した兵士・民間人が谷底で圧死、救助部隊は全滅』
『北部・南部に侵入者を確認』
『帝国軍は粛清剣・西部王の軍勢、数は十万満たず』
『犠牲者は推定七十万人』
「くだらないニュースだ、数を盛るのが大好きらしい。」
西部王ギュスターヴ・スタニスラス・メッテラ、公爵にして尚余る功績により全制限を免除、一個の独立国を任される程の信頼を得た人物。
アルトリウスは信頼と同時に危険性を持ち、何時でも己が軍を滅ぼせる様にと制限を掛けている為、王位継承権が付与された公爵位と定義された大公位に留まっている。
豪胆な大男では無い、雌の目をした男・・・、他国の宦官であった人間だ。特に優れていたのは一人一人へ説得を仕掛けて政権を覆しうる人徳である。
「防衛を捨てた決死の侵攻作戦、兵站は足りている、だが、災害の対策は薄い。王国の条約不履行に関する主張、相談役という存在・・・終わらせる事が最大の罠だぞ?」
「いや、そこまで悩む事は無い。相談役はどうせ一人心当たりがある奴だけ。あの飛行要塞の所有者だ。そしてシャーマンとか言う奴、心当たりがある。」
作戦会議は少し後へ、彼等はしばし会話を続けた。
眠った後、見た目を戻し、自我を一度凍結する。幸福の余韻が自分にも伝わる。気振って騒ごうとしたが流石に止められた。
「・・・結局、ジョーを連れ去った女神って何なんだ?」
『サンタ・ムエルテ、メキシコにあった死を聖者化して信仰した文化だね。』
「聖者と神は違わないか?」
『本質的には同じさ。・・・今も同じではあるが意味合いが違う、二元論的神格だから今は同じ、本質どころか名称以外ほぼ同じ・・・って訳。』
「どうして、の場合は?」
『・・・全く、だけどこれだけは言っておく。・・・人に魂は無い、記憶のみが人を形成する。1ドル強盗みたいに盗む事じゃなくて罰のシステムが目当てなんじゃない?』
「・・・罰のシステム・・・。」
『他に可能性があるとすれば、その人が災害を封じ込めて殺す様に目印を立てたとか。』
「それは無い、感覚的に理解出来る。」
『やっぱり前者だ、これは罰の逆利用だ。』
「・・・分からない分は一度置いておけ、どうしようもない。」
一日を終え、超回復の為に寝る。彗星が引き継ぎ、帝国の潜入兵が合流、穏やかそうな見た目だが、ヘカテーが力を解除しても顔色一つ変えず、敵意すら見せない。・・・精神力が人間のものではない。妖精混ざりでもそうはならない、混ざっているのかもしれないが・・・と褒める事しか出来ない。
第二章終わり!
死の話と死の先の話。
未だ情報不足な位コウキに関しては開示していないのでペースとしては良いかもしれない。
予定では三部毎に主人公は代わります。




