濁流
今月中に終わらせたいのと後半時間掛ける意味無いからってことで後半駆け足気味。
互いに知らんぷりをして通り抜け、互いに背を向けた時、西部劇の様に動きが起きる。魔術を警戒しショットガンを右手辺りに、バレルを掴む。外れた際に戻し、引っ込めると同時に撃つと決めた、反動の余力を残し、二発目は無しとする。
初手は互いの拳で始まる、外すと確信したコウキは先の血液パックを使い、向こうが力を掛けると理解し、それを使って後ろに跳び、ショットガンで撃ち抜く。
鉄パイプで重力に従う血液の妨害から身を守る頭蓋を叩き、近接武器の不足を嘲笑う。
人の家の水道管なのは置いておき、後でエマに所感を聞くとしよう。
向こうも同じく拳ではあったが、姿勢は標準的、元に戻っている。自然体に復帰するのが若干早かったが、崩れた辺り、不意打ちは有効打であると考えた。
「・・・違うな。」
敢えて攻撃を受け、ダメージ無くすべく魔術に回している、意味が無い、武器で出血するかどうかで確認するべきか。
・・・しかし、武器は防がれる。
「うおいっ・・・!!」
雷霆が下された。雷はエネルギーに量が膨大であるが、軽いものでもスタンに、何より自動追尾性がある。
「武器を降ろせよ、分が悪いぞ。」
「何言ってんだ、数度のハッタリだろ?」
両腕一度締めると目がギリギリ認知は出来るが残像が僅かに映る程度、神経を走る電流よりも早く拳が飛んできた。
「・・・っ!」
幻覚を混ぜただけ、実際の速度とは違う、自身の腕に負担が掛かるのだ。
向こうもエネルギーが代替出来ない、他人から直にエネルギーは補給出来ない・・・生贄が居る魔術があると聞いた時点でそう予想はしていた。
「お前がこれから苦しめる人間の数が増えるだけだぞ。」
狙いは外さない、確りと持たないが、軍隊式では反動より狙いを重視する為、敢えて外す場合は独自に撃つべきである。低姿勢、自然体よりも深く構える。
「助けるべき人間は多い程楽しいってもんだろ?・・・そしてお前が助けるべき人間も多いらしい。」
さて、別行動のエマの手を開示しよう。
「前回の地震を利用した魔術の行使、ここから全て弾き出した。」
反転攻勢の頃合だ、自然体に戻し、弾倉に銃弾の無い状況を凌ぐ。ベルトを外し多少リーチのある武器にして殴り掛かる。
「王ならば安心させるだろうという確信があったからこそ、意識を奪われた時の不意が全体に波及する。」
重さは金属バットを上回るかどうか、その程度の威力、不良に殴られた時と同じ程度の威力しか無い筈だ。・・・違う、騎士に並ぶ軌道と破壊力をしている。相手は単なるスラムの人間じゃない、確信して切り替え、魔術の本格的な準備をする。しかし彼は話し続ける。
「水道管があった、技術は魔術でカバーすれば事足りる、悪徳ビジネスへの対抗として一部の街では下水も整備してあった。・・・スラムはそうでは無かったが。」
火と雷光、ガス爆発の音。フラッシュは対策不可と察したが、爆破は本人も被害を免れない、相手も止まるだろうとソロモンは考えた。石に推進力を付与したものだけ用意し、耳の位置に狙いを構える。その為の動作は要らない、風を殺し、空気抵抗を無くす。生物のエネルギーは基本的に利用出来ないが、血縁があれば話は違う。忌み地の話はその辺に絡むのだが、今は置いておこう。
戦いに正当であればある程、そう来ると思っていた。・・・しかし、この狂気の存在は全く違うのだ。
「王が完璧であればという自信があったんだろう?」
彼は目の前に来た、幅を詰め、顔面を捕まれ、柔軟に脚を曲げて肩、そして腹部に足を乗せる。石は届かぬ、眼光は月の様に眩い、そして猫的なのだ。
首の折れる音がした。
「残念だが、地道な学習を怠った結果が出たらしい、ここの住民は下水を整備した場所で、軍人等高等な身分の人間の可能性が高い。赤と黒という奴だな。結果安寧によって忘れてしまった破傷風というものがやって来た。」
首の折られた分のエネルギーを利用し、修復する。そして物に頼っては彼には勝てないだろう。一方的な戦い、狩りを得意とする立ち振る舞いを見せる。
「大事な奴には眠って貰った、これでこの街は数日持てば良い方だろうな。」
「おのれ・・・!」
「良いじゃねぇか!ノッて来たぜぇ!!」
残響が届き、終わりを告げる。導火線が届いた。街ひとつ消し飛ばす爆薬全てのエネルギーを貯蓄し、利用する。
「装填完了。」
魔術の大質量落下を小型にしたもの、仮想の剣。エネルギーの濁流。高周波のペースで駆動するチェンソーを小型ナイフ程度の重さの上で扱える。空気の流動だけで殺せるのだ。
銃が両断された、手が急に内側に向いた、気付き、そして金属片を刺した。
互いに攻撃を交わせた、初めての瞬間である。
首筋は直ぐに止血されて二撃目への捨て駒にしかならなかった、同じ事をもう一度出来るかどうか、二度目で見切る、防御としては攻撃対策に転用出来るが、破壊度合いの確認としては微妙、リーチも読めない。喰らわない前提、掴みはNG、切り札はあるが場所に依る、暫くは運と身体任せの作戦に身を任せよう。
刹那、腕に激痛が走る、無意識に右に動いた為に心臓には当たらなかった。左腕が音より後に落ち、血が垂れる。無茶苦茶に切れた痕、失血が凄まじい中で耐え忍ぶ。飛んで来た火で神経は戻らないが形だけでも接合する。
二度目は当らん、そう言わんばかりに残った銃を突きより短く直ぐに引っ込める。
「所詮は剣だ、方向は予想出来る、手首の動きでも隠したらどうだ?」
銃身の鋭利な部分を三回刺して示す、ここの主導権をチラつかせ、力に見合った実力を出せていないと示す、片腕しか使えない人間の戯言、その程度にしか思えなかった。魔術によるエネルギー貯蓄を解放、酸素含む空気の濃度を薄くし、徐々に徐々に殺す。身体にエネルギーを強制出来る此方の方が有利だ。・・・そう少しでも多く自分を優位にする言葉と策を用いる。しかし相手は悠然としている。勝てる気がしないのだ。剣が散る、何も攻撃はされない。
雷霆が己を貫く前に逃げたのだ。
「・・・残念だ!本当に残念だ!錬金術も知らないお前に期待すべきじゃなかった!」
水の逆流、逃げれば建物に雷は優先され、水が電気分解を起こす。
「アーク放電も混ぜてきたな、予想はしておいて良かった。」
打ち切る様に唆す、馬鹿な真似ばかりしていたら相手にチャンスを与えるだけだと見せつける。ハッタリ混じりだが、コウキはハッタリを起こす程度には余裕がある・・・そして、相手が聞いているかどうかを再確認していた。空気の濃度が薄くなれば音量が変わる、それを警戒していたのだ。
そして雷の時間が長い、相手の実力を考慮して災害混じりの可能性や、アルトリウスが変装している可能性等を踏まえて多少帯電する様にしている。心臓上を通れば即死、但し、空中ならばその限りでは無い。
銃を投げる、雷が誘導され、帯電する、追い付くべく走る相手の隙は走るからこそ現れる。街の住民は何処にも居ない、雷に感電した人物もいるだろう、この王は恐らく人々へ警告をした、普段ならば下水の罠を見抜ける筈だ、だが、彼はそれよりも優先すべき事があった。この街を守り、そして中央十字の関係者含んだ排除すべき人間を殺す。即席の罠はあまり効果無し、とはいえ酸素補給にはなった。
敬意を払おう、コウキは誓う。
だが、それと同時に殺意を明確にする。
目的の為では無い、彼の名誉を打ち、どれ程の恥を抱えようと、そのままにする。だが、その為に、正々堂々戦うが為に殺意は必要なのだ。
建物を蹴り、飛び伝う。そして脚を空に伸ばす。この一度の天への反逆、天を足蹴にし、中央十字の教義を嘲笑う。
帯電した銃が超高速で叩き込まれるのだ。
「俺は新しい毘沙門天、荒廃する世界で軍神のルーツになろうと志した人間だ、オーディーン、テスカトリポカ、アレス、何でも良い、寧ろ何でもでなければいけない。」
足を引き、腰を落とす。恐らく太極拳ベースの極めれば殺人拳として機能させられる、常に上向きの脳震盪特化の拳。防御と回避に徹した足と片腕、そして攻撃は片手に絞る。それによって火力と安定性を実現する。組み付く技が多いコウキの防御形態とも言える。・・・一つは囮にしか使えないが。
「この程度と侮るな、未だ俺は本気じゃない。」
それに答えたソロモンは、雷を散らそうとしたがからっきし、出力が不足していた。
「銃の作り方を覚えている奴が品質の悪い火薬を見抜けない訳があるか。山の反対方向に転がしておいたさ。」
案外、呆気ない抵抗であった。勝因は見え透いていた。そして、自分の実力の程度を知った。
奮起した。例え敵わないとしてもやけくそに赴く、しかし仕返しの様に腕を斬られた、エネルギーを奪い、それを斬撃に変える。
エネルギー変換後、再利用しないという法則性からコウキは叩き落とす。否定しない事、容認する事が大事・・・それが魔術ではないかと予感した。
「もう良い、実力不足が調子に乗っていただけか。道理で戦争にも出てこない訳だ。」
コウキは飽きた、覚悟は来るものがあったが、それ以外は全く、面白くもなかった。
少し確認したい事がある、教会に走り、難なく応戦する。彼は教会関係に関しては手を出して居なかった。中央十字勢力とは敵対しているが、一部の人間とは友好的であると思われる。
コウキは反則ギリギリのゲームプレイを楽しむ人間だ、アイデアバトルなぞその過程に過ぎない、実力とやりたい事を足したものでしかない。正々堂々はルールの上であれば何でもする、と言い換えても良い。戦術がナーフされたとか、禁止されたとか、強いが故に対策された。
電流も火炎も斬撃も小石も水流も、小賢しいだけの化学実験、どうするかに興味を持ったが、所詮は王だ。
素手の力を見せてやろう、先ずは相手を騙し、一度目を疑わせる。両手で胸部及び腹部を叩く。
「神経も切った筈では・・・ないのか!?」
「さぁてな、お前の知らない絡繰でもあんだろ、忘れた・・・いや、忘れさせたものだが。」
その神経に信号を通す。止まった。ならば足りる、残り少しの間の隙を縫う。渇いた破裂音。鮮明に理解した時、脚が揺らぐ。
猫騙し、単純ではあるが拘束する技としては最上位の効果を持つ。相手の調子に合わせ、心理的な動きを先読みした集中力の分散と急激な減少による隙を狙うのも良い。
・・・彼流の猫騙しは頭蓋骨に影響を及ぼす、耳には耳石という身体のバランスを整える器官が存在し、聴覚障害者には時々平衡感覚が悪い人物が居る。
そして鼓膜の破壊等は瞬間的な音量では難しい、長期的なダメージ、イヤホンで一時間音楽を聞くとか、そういう手法の方がダメージが出る。そうでなければスタングレネードが捕虜の確保に際して尋問する相手を確保出来なくなる。その面でも瞬間的というものは取り回しが良い。
逆に長期的ダメージにして相手に消耗を強いる場合はどうなるだろうか。
騒音であればある程食事の量が増え、味を感じにくくする・・・確実に言えるのは五感に対し確実な影響を持ち、特に聴覚が直に、心理的なものとして味覚触覚が狂う。
水を飲む、魔術の行使はエネルギーの影響が届き、暑さや寒さ等が僅かにある。聖水を教会はその補助、転じて儀式道具として売る。自販機は古い時代から存在し、貨幣の重さによって口が開き、水が出てくる・・・というものであった。
使命は血を以て継承される。
彼が逃げた先に、自販機は置かれていた。口の部分に予め詰めておいた血。錬金術を排除したが為に硝子の器具は発達せず、瓢箪が流行して代用出来た。中身の見えない容器に入れられたのだ。・・・味覚は誤魔化され、最初の一口の内に気付けない・・・。
「アルトリウスの血、どれだけ殺したか分からない奴の、膨大な使命が詰まった、在り方や生き方、すべき事を詰め合わせたもの。・・・ダメージは分量次第だから減るが、それでも一瞬惑わせれるなら充分だ。」
催眠術は細かい理論を組んだもの、ミクロ視点であればあるほどスパゲッティの様に絡まった理屈を見られる。人間は創造主になる事を目指す、そうした際にマクロな視点を目指してしまう訳で・・・その結果、専門性を失い、ミクロを手放してしまう。より騙されやすく、より妄信的になる。マクロに居座り続けた王であれば尚更だ。使える人物を広めるのを想定された魔術、一方で自身の経験から組み立てた緻密な我流。結果は見えていたのだ。
一秒あれば充分、顔面に一度、頭蓋を壊す一撃を、鼻っ柱を折り、目を開けない様にする一撃を。
二度三度に繋げ、最後は蹴って捨てる。教会のステンドグラスは出血に繋がり、守り切れない・・・と言うより単純に切れた。魔術には意識が関係しているのだろうか。
・・・さて、エマの場所を再確認しよう。
「・・・残念だったな。」
教会の真下、ケルンに劣らぬ高い塔から、一つ鉄球が飛んできた。結果的な豪速球、階段すらない場所を登り、涼しいのか、冷や汗位はあるか、若干不安ではあるが抑えた顔を見せた。
「・・・エネルギー変換を警戒して逆に気付くギリギリを試してみた訳だ。真上じゃ尚更気付かねぇ。教会の連中に怯えてる奴なら尚更、破壊一つしねぇ時点でどういう奴か知れるってものよ。ステンドグラスを避けて魔術で緩和しようとしていたが出来なかったらしい。」
相手はやがて死ぬだろう、無意味に人生を終わらせた後悔を知る由は無い。・・・もっと有意義に死ねる人生を、復讐の為に捨てたのだ。
「俺は殺してねぇ、だが、アンタは俺にとっちゃ都合が悪い奴でしかない。・・・そして、俺は殺しを手段として忌み嫌っているだけで必要とあらば取る。・・・そして何より、ジョー及びルナの殺害を停めなかった上、彼奴に手を出した。」
彼は、己の手で殺さなければどうでもいい、これがマクロ視点を見ない者、何処までも享楽的で、その楽しみを多少損なうとしか考えない者だ。
「良いか、相手を選べ。人を殺す時は自分以外に損失を与える行為である、それをカバー出来る人間もいるが、出来ない人間の方が世の中には多い。それだけお前にゃ敵が多かった、もう少し常識的な手段を使えば、こんな事にはならんかっただろうな。」
・・・一つ、大きな間違いがある。安らかに逝ける訳が無い、それを決定的にする事実を突きつけられた。
「・・・コウキであればそう言うだろう・・・なぁ?」
ショットガンは放たれた、コウキの外見が変化し、服装に合わない、小さくも豊満、聖書を否定する、大人要素を数多く持ち合わせた子供。舌は簡易的に感情を示す、しかし目は葬礼の様に曇天である。
「ジョーの生存は契約条件の筈だ、ルナの姉として履行する。お前を確実に殺し、現実には返さん。」
『なっ・・・!?』
記憶の一片でさえある程度再現されたコウキ、一体何時入れ替わったのだ、そう思っただろう。本来設計するのが難しい部分だが、ヘカテーから情報を引っ張り出したのだろう。
「ヘカテー、エマ、北に行け、コウキは自殺者を追い続けている。そろそろ確保出来ただろう。私の身体を貸す、戻すまで時間が掛かる、暫くは応答しない。」
指を指して彼女は、コウキに協力したエリニューエスは言った。彼女がいつ入れ替わったのかは分かっていない。ほぼ同行していたエマでさえ理解していない。
少し前にエリニューエスに野望や目標を語り、自分の様な記憶の総量が少なく、弱体化はしているが再現し易いであろう身体を彼女は欲しがった。・・・何より彼女はジョーの死に気付き、非常に慌てていたのだ。記憶から見た野望を知って、加担する。
エマが彗星を修復していた時迄に再現して入れ替わり、ヘカテーを託しバトンタッチ、そして今に至る。心情的な動きはもっと複雑だが、取り敢えずこれだけという事にしておこう。エリニューエスからの作戦提案・・・それが自殺者救助の為に一度妨害し、信頼を寄せた所で予定調和をさせつつ生き残るマニュアルを作っておいておいた。この時以外使う事は無さそうだが。
死体の臭いはやはり鼻につく。孤独死の様なおぞましさこそ無いが、人が人を否定する様な、尊厳に対する重みがあった。
「・・・キツイなこれ。」
コウキの殺人経験はこういう時に使える、目の前の死体の山は、ジョーを苦しめてきた者達だ。生きる価値がある云々はおいておき、支える意義は無かった。とはいえ死ぬ前に救助して託してくれる輩は居ないだろうか。
・・・この問題、一人目は問題無い。一人目は使命の継承が起きていない状況になるが、二人目はどうしようもないのだ。ヘカテーは流石に連れて行けない、と言うよりは連れて行ってエマを失う方がキツい。エリニューエスとの契約は恐らく彼女の方にも伝わっている。酷い話だが、寿命も増えた。
また、タイムリミットもある、自殺前に殺された場合、どんどん増える事になる訳で・・・。
「・・・さぁて、見つける所から始めよう。」
自殺者は右から左に進行していく、其方に何かあると思えば、何も無い。寧ろ何も無いので、安心して高所から落下出来る。この街はかなり人口は多いので、半端に時間はある。し
「差別していた割に、どいつもこいつもあっさり死にやがる。」
それはそうだ、圧力を掛け続けた結果、こうなった。命は無価値になるが、命の周辺、つまり絆等は価値を持ち続ける。その同族意識が警戒心を呼んだのだ。
少しでも高くありたいのでは無い、少しでも価値のある同族という存在を守りたいという意識なのだ。
彼の記憶は、思考を鈍らせる、元は彼の感性だから問題無いが、継承者は彼の感性で調整されたものを体験する事になる。
恐らく自分は自殺者の記憶も追加された状態で受け継ぐ事になる、その分の覚悟をしなければならない。
只、覚悟はどうでもいい、一度そう振り払った。
馬鹿な真似である、とはいえ、悩んでいる方が不味い。正解の行動であると言って差し支えない。
走る、死体の山がどれだけのものであれ、耐えろ。
・・・一人見つけた、恐らくアレが片割れだ。現在二度失敗していたが、今回は良い感じのサイズの女の子、夢見心地の内にポックリ逝ってくれそうだ。微妙に生き残ってしまったり落下が速いとどうしようもない。
だが、一つ問題があった。それは彼女の場所、崖
上から・・・つまり低い所から壁を登ってジャンプという訳にはいかない。ボルダリングには良い地形なので下からのアプローチの方がマシである。・・・しかしソロモンの状況が分からない。ならば、其の儘行ってしまおう。・・・崖は目測100メートルだ。
「・・・あ・・・えっと、貴方は・・・大丈夫なの?」
「おうとも、だから安心して身を託してくれ。世界が敵になるなら逃げるぞ、世界に人が居ない場所なんて幾らでもある。」
「ありがとう・・・でも私は・・・。」
「気にすんな、ちょっとだけ頑張るさ。」
さぁ、崖下凡そ100メートル、雪が積もっている分マシだが、五点着地は出来る様にしたい。ムササビスーツは作って居ない、割と打つ手がない。雪がある中で、針葉樹ばかりなのでクリスマスツリーに干物か漢方の素材の様なデコレーションをした様な状態になるだろう。既になり掛けている。
「・・・よし決めた。」
自分は姿勢を直し、一時の夢にする。僅かに暖かな後を残して去った。五点着地は出来る、だが、彼女が迫るだろう。
一度目のショックで気絶出来るか否かが最も重要、確実にするのは二度目三度目にするべきだ。
雪が降りしきる中、彼は落ちる。
ほぼ確率というのが現状だが、逆に高いが為にスピードを抑える事が出来る。そもそも一定速度以上にはならない分高さはあまり関係無い。壁を蹴った分が何とかこの蛮行を正気なものにする。
「・・・やっぱり、助けれなかったか。」
一時的な低血圧が眠りと永眠を呼んだ、教会で数百メートルの着地練習をしておけば良かったと後悔している。
鮮血の塗れた場所に、彼は何も思わない。何時か見慣れる光景に愛着を持つ筈も無い。
彼は去る、しかし逃げとは違う。たった今より彼は人間としての生を放棄した事を約束された。
さて、目的の半分は達成した、字面だけならその程度だが実際は違う。この使命のデメリットを継いだ状況でもう片方を入手しなければならない。街中にあるもので作戦が順調である事を理解した。エリニューエスが余分にやってくれたらしい。
この使命は恐らく同じ使命を持っていたとしても効果を持つ、一度街の間を走り、その状況次第で判断する。
記憶自体は探らなければ良い、信用されて継いだ記憶、それ自体を信用してしまうのは仕方ない。
「・・・とはいえ多少は吐き気がするな、便利な記憶があるかもしれない。落下を試す為のデータにもなる。」
雷鳴を聞き、その終焉を見届ける。記憶を探る為に時間を取っていた為進展がなかった。達成出来なかった時用のサブプラン、ヘカテーを用いて誤魔化すに移行する。とはいえ合流を早くする必要がある。
合流指定箇所は三つ予定し、二つは潰れた。残り一箇所に辿り着くまで、敵は恐らく気配や憎悪を頼りに探して来るだろう。殺したかどうかの確認法である遺体が無い、本来は燃やすべく突入した筈だ・・・だとすれば、突入失敗、遺体の回収は未完である。・・・よって行うべきはその怪しい気配を問答無用で殺してしまえば良い、となる。
「・・・っ!」
頭痛がした、恐らく此方が射殺した銃手だ。記憶が半強制的に思い出される。ムラサキカガミの呪いの様に。忘れる事を意識する事で逆に思い出してしまうのだ。
走っている中でも、それは掘り返される。
聖女ルナに関しての性欲の限りが綴られた記憶、おどろおどろしく気味が悪い。と言うよりあまり鮮明でない、思春期の戯言に過ぎない。
・・・ジョーがルナを洗脳した、手篭めにした、そういう仮定を流布した。
正気ではある、だが、考えが足りない、面白くもない。王国の正義は良い、しかしそれ等は抵抗とは違う、諦観だ。くたびれただけの人間を何度も何度も見せられるこっちの気分にもなってくれ。
共感出来ない、この戦闘に転用出来ないクソみたいな記憶をどうやって使えば良いのだろうか。
過去の栄光が失われた時、その責任を偏らせる事で耐え、そのアドバンテージを些とも軍にも研究にも費やさない。剣も頭も無い人間に価値を感じる訳が無い。
・・・一人違うとすれば、エリニューエスだ。現地の人間、帝国側ではなかったが力が便利、他国に逃げようと魔女の名を剥奪されない人間であった。
先の僅かな接触であったが、何処か運命的であった。恋人的なものでは無い、同志、盟友との邂逅であると確信出来た。
エマはあまりその様な感覚はしない、挑戦する者に興味を持ち、見込みある弱き者を助ける。本当に戦神的思考をするのが彼だ。
「不味い・・・!」
予想だにしないトラブルが起きた、自殺者数が先より多くなっている、恐らく継承者が殺された、見えていない所で何か起きている、軍の可能性と家族間の無駄な情愛だ。自我の掘り出しは全部の記憶が無ければ難しい、記憶の量が無ければ再現は易いが、彼の異質さの場合話が違う、飴細工の様な構造をしているのだ。
「ヘカテー!間に合ったか!」
『馬鹿な真似をしたのは良いとして現状はどう!?何か臭くてます私の存在が否定され掛けているけど!』
「頑張ってギリギリな女の子を狙ってる。・・・と言うより女ばっかだな。・・・徴兵されてんのか。」
『ナンパね。七面鳥も誘えなさそうなパパに代わってやっておくから。』
「なんだとぅ!?」
『嘘嘘、でもさ、私が産まれない方向性に行かれると凄い困る、確定した瞬間から消失するからさぁ。恋愛感情持たせてはおくけど夢の様に済ませるから。』
「それ一人しか選ばない前提じゃないか?」
『・・・私はそっちの方が良い結果になるって知ってるから。』
「お前が言うならそうするよ。あと二人だ。」
『総量的には半分、殺されたか。』
「お前ら親子で遊ぶな、そろそろ北部、南部から厄介なのが来る。」
「何だ?」
「彗星はコキ使って放置、だから連絡は届く。・・・今、王国は三国の宣戦布告を受理した。中央十字の連中が二国を用いて帝国軍を壊すつもりだ。だからそれに敢えて乗る。」
一度咳込みをするのを聞き、痰でも絡まっているのか?と聞くとデコピンで突っ返される。
「『汚濁の津波』作戦、王国を滅ぼし、技術制限を解除、旧初千九百の技術迄を許可。但し航空機やカノン砲は重力の問題で封印。・・・全方位攻勢を行い、狂団対策としてランダムで侵攻、軍事的な要素は完全に無視。」
そして気味の悪い笑いを浮かべると、似合ってないぞと突き返せば言葉を止め、やり直す。時間が無いと説明したのを忘れたのか。化粧と同じ感覚がする。
「そして、王の爵位が最大限の報酬とする。これを狙う。エマの守護はこれが最適だ。」
「良し分かった、既定路線で行動する。」
面白い話を聞いた、自分の使命の処理法の為に無人の区域を作る必要がどの道あった。ならばこれは避けて通れない。
「一つ聞かせてくれ、記憶や使命は再現出来ないのか?」
「遺伝情報から摘出するものでは無い、再現しても使命は継がれない、天与のものだから。記憶は出来るけど面倒くさい。だから丸ごと書き換えるのが一番容易。付け足す事は可能ではある。」
「・・・うーん、いや、どうも言えないか。10才辺りの記憶が無いんだよな、後々の行動的にはここが大事なんだが・・・。」
「・・・その記憶は・・・。」
「どうした?」
「・・・駄目、それだけは・・・。」
どうやら嫌らしい、二三歩引き、一度ヘカテーとの会話に切り替える。
「ヘカテー、彼奴は今、大ジハードの最中にいる。」
『・・・うん。』
「人間は百年生きようと多少の変化しかしない。急激に変化し、それをどうするか、そしてそれを真に受け過ぎないか。そうして人間は形成される。・・・精神、頭脳、肉体、何一つ欠けてはいけない、だが、二度三度同じ悩みに直面する事は何時でも起こりうる。酷く興奮する、ここまで気分が昂る事は無い。」
『ド変態。』
「鋭く感じるんだ、諦めて自殺の中に、家族を守る為に自殺するのが数人いる・・・訳も分からずどうにかしたともまた別の状態の奴がいる・・・それだけで気分が良い。」
上から横へ視線を変える。
「ヘカテー、この思考は直感で構成されたものだが、代わりに使えるか?」
『分かった、ド変態性癖サーチレーダーって命名しておくね。』
「お前の母になる人物だったとしてもか?」
『どうせ知る事は無いから。』
「よし来た、じゃあ運動関係は全部やっておく、母親選びはお前に任せる。」
『ん、おっけ。』
目的は使命の回収と自我の掘り出し用の記憶を回収、手段は自殺時の信頼撹乱、リカバリはなし、成功するまで繰り返す限り失敗では無い。
一度街に戻る、寿命が縮む所か増えている中、スピーディに事を終わらせよう。
「よう!我が同胞!気分はどうだ!」
『(思考の起動率0.1%にすると共産主義者みたいな会話するんだ。)』
背後から迫りキツい抱き締め方の様に首を絞める。殺しと同時に信頼を得ればそれは最早自殺に等しい、落下死を試みたが脳幹が上手く壊れなかった、どうせ死ぬ身、より苦しむ前に殺そう。・・・誓いは強制では無い、とはいえもう少し抗う姿は見ておきたかった。自分は誓いというものより善性という彼女と分かたれてからもう少し大切なものがあると考えた、その結果、自分は何を優先するか考え直していた。最早自分は死人では無い、コウキの遺志を持った誰か、戸惑いの中で殺しをした。重くも辛くもない、成長の実感が異質になっただけだった。
「信頼は貰ったフォーエバー同胞!」
『Best Friend Forever生き続ける限り!』
「良しこれで一人回収あと一人だ最短五分か?」
『見つけた!文面整理したからマニュアルで捩じ込む!方程式の解って楽しいね!』
「良し走るぞ!」
性癖レーダーが思っていたよりも有効だったらしい。自分も何処か踏ん切りがついた。殺しと不殺の双方を両立し、漸く自分はこの境地に辿り着けた。自分はコウキの記憶や自我に囚われた人間でないと確信出来た。人の弱い所を見る、それによって自分の存在の矮小さを知り、そして、勇気を渇望する彼等を見た。互いを苦しめ合うが為にその力強さや信心、正誤ではない、覚悟が見えた。
自分は決別しなければいけない、コウキという他人に縋るのではなく彼女に縋る訳でもない。
・・・戦神になるべく、人間を鍛え、自分も磨くコウキ。自分は今、とんでもない事をしている。ここまでで自分は主導権を握れなかったのだ。・・・だからこそ言葉として、告げた。様々な意図がそこにあり、誰が誰を思い言ったかを問えば、心当たりばかりである。
「・・・君の信頼、私に預けて。」
黙らせて、摘み取った。僅かな期間を用いた洗脳、生涯に渡った人間としての行為を放棄する事になる。
そのまま落下する少女の手を離し、壁の煉瓦を掴む靴に引っ掛け、屋上に戻る。自身は違った道程の中、人である事を書類上放棄する。
「目的は全て達成した、一世一代の大芝居といこう。人を惑わせ、楽しませ、そして狂わせる。」
自我の掘り出しを急速に終わらせる、次は衣装を整える時間だ。
誤飲させるのは流石に無理があるんじゃないかなぁ!
戦闘配分がほぼプリキ〇ア
コウキが無駄な情愛と言っているのは家族と因縁があるからです。嫌っているとは違い、あまり有効なものでは無いって思っているだけです。
王国編でまだ登場していない人物達について。
王国の将軍位:十数人
ハルノブ・フジワラ
コンスタンティノス・サルマナザール(コンスタンティノス12世)
反貴族ジョルジュ
悪意の玉座
終局的愚行
悪魔局
辺りがメインになります。銓君の出番は当分ありません。
エリニューエスの力に関してのお話。
他の魔女と同じく世界のバグ技、肉体の情報変更で、今あるものからしか変えられない。
模写による再現を行い、大まかに書いても可能だが、ミクロな所まで再現すると質が良くなる。
別に知識量で使えなくなる等は無い。
質量が本来のもの以下であると不可能だが、複数の人間で巨人を作ったり等は可能、死体の再利用等も可能である。先代の生命の魔女が忌み嫌い、ティアマトと協力し駆逐、その後逃亡した。
言い忘れてたけどジョーの使命って完遂しても寿命増えないのでデメリットしかないよ。




