抑圧と演技
コウキの本体は薄気味悪い環境に警戒し進めない内に彼女は離れる、荒れたスラムに踏み込み、必要なもの・・・強いて言うなら情報の類を買いに行く、値段はタダか、相手の一時の安全かだ。・・・さて、その前に一つ。
目的を全員で合わせる事が出来ない状況下、取り敢えずで合流しようという方向性はあるが、方向性が一致した所で直ぐに離散する結果になる。変則的な目標変更は難しく、計画的なプレイングは厳しい。
「・・・本来のコウキは不在か。奪還以降はエマが一時確保・・・そこまでは良い。」
『・・・えーと、五感から情報組み立ててみるね。』
「消耗はギリギリで頼む。」
ショットガンの状態を確認する、スラッグとバックショットそれぞれ十発、試験用の弾薬で散り具合と弾速を見る。秒単位以下を直感で予想し、凡そ・・・と割り出す。
『しれっとやってるけど他の人の脳でそんな動き見た事ないよ?』
「職人気質のジジイが居る工場で働いた事があってね、0.0002mmを削れる異常者だった。」
『どっちもおかしいよ?』
「火薬の煙の量、二発の別の弾毎の音量と銃の構造から判断出来る凡その音、地面に接着して抉れ具合を見る。どれでも良い、複合して予想する。」
『ああ、一応補足しておくけど私は存在の設定が娘ってだけで記憶は殆ど無い・・・だから未来予知に期待しないで。霊的継承の類じゃないの。』
「オーケー、つまらない戦いにはしないさ。」
『・・・死なれると困るのだけど。』
「逃亡第一、エマも生贄にする算段さ。」
『それはやめてあげてね?』
「悪いな、だが、お前の方が遥かに大事なんだ。」
『・・・そうね、その気持ちは嫌いじゃないから否定は撤回するわ。』
「無理難題の方が挑み甲斐があるってものさ。・・・一応準備運動をしておくわその間に確認頼む、今から地図と三角比で考える限り10キロ程度、中距離マラソンだ。」
『乳酸の分は緩和する?』
「距離調整に必要だ、休憩時に減らす。」
『分かった、覚えておく。』
関節を少し動かしておき、柔軟運動を最低限出来る様にしておく。岩の壁を使って脚を限界迄伸ばす。
『・・・新体操?』
「柔らかさは最も初歩的なものだ、だからといって筋力を手抜きにすれば相手を動かせない、柔道の場合最近のルールなら指導で相手を反則負けにさせれるが、力あれば圧勝、つまり説得力と迫力を与えられる。・・・商業の上手さとはこういう所から始まる。あと教育もだ。」
『未だ実体が無いからこういうのはよく分からないけど、練習しているのね。』
「ああ、する事一つ無い時代が懐かしいとも。暇は有効活用すべきものさ、その結果がこれだ。農業、工業、初歩的な運動、高校生までの範囲の学習。」
『今の内に記憶をコピーしておこう。どこ行っても便利だねぇ。』
「そんなに軽い気持ちでコピー出来るのか?」
『一から文明を築く様なものだよ?最初はランダムで人の内部に入れられて、偶々理解のあるチェルノボグの記憶に出てきた、複製の為には脳の具体的な欠片を指定しなければいけないし、実体が無いから持ち運ぶ上限もある。・・・二元論的神格に全く物質を与えなかった場合みたいなものだね。・・・でも今は少しアルトリウスの一部とパパの体の半分を使っているから余裕があるかな。』
「遺伝は相性が良いのか・・・。」
『未知の学問は無意味だ。ラマヌジャンを陰謀論レベルに暴論で繋げる位でしなければそもそも始まりすらしないよ。』
「・・・そりゃあ、絶望的だ。」
脚を開いたまま地面に腹を密着させ、腕もついでに伸ばす。最早驚きもしないヘカテーは話を再開する。
『王国の教会は貢ぎ物の地、使命、特に能の類の人も集まる。・・・それだけは覚えておいて。』
「噫、分かった。少しは手応えがありそうだ。」
『折角だから血液パックも用意したけど治療に使うべきものでは無いかも。・・・だけど、一つだけ付け足すならこれは特殊なもの。』
「見りゃ分かる、酸素と結合してない。」
『アーマーの下に紛れ込ませたりして破り次第酸素を吸わせるみたいな運用も出来る。』
「数値的にはショボそうだなそれ。火の方が気流を考えれる分使い勝手は良いか。水と混ざったら使い物にならなそうだが。」
『火は魔術だと良く使われる、チープで陳腐だし。』
「偽造か、捨てたりした方がハッタリとしては適切な気もするが・・・。」
『酸素を電気分解で得たりする可能性もあるから酸欠狙いも悪手かな。』
「・・・そうかぁ。」
『単純に肉弾戦が良いかもね、そういう時は。』
「治りが早いなら武器も忌憚無く使えるものだ。・・・少し待て、ちょっと思い返してみたんだが・・・。」
『何?』
「大質量落下についての話があっただろ?・・・魔術の仕組みを聞いたが落下はいつまで有効なんだ?」
『・・・空気の濃度や密度に影響を及ぼす事で重力の増加や高濃度の状態にして有毒にする。』
「それが可能な場合がある。・・・と言うより原因が特定出来ないせいでそっちの方が問題になっているんだがな。スパイにも何にもないそうだ。」
『・・・私も使える範囲で調べておくから・・・それに関しては心配しないで。』
一旦彼は準備を終える、スラムに向かわない、と言うよりエマが推奨していない。その点では彗星や他協力者が役に立つであろう。・・・取り敢えずはそっちの、と離れてしまったのだ。
スラムは死に満ち溢れている、いつ死ぬか分からぬ、嘗てテスカトリポカが信仰されていた場所でサンタ・ムエルテは信仰された。異端として切り捨てたが、変わる筈が無い、信仰心に従い従属した彼等を、信仰対象を変える事を強制した上で焼き払い、金銀財宝全てを奪った。今も尚富を奪う、悪辣は延々と続く。・・・人類等その程度なのだ。この街も例外では無い、悪に満ちているかと問われれば、邪ではなく悪いという状態を指す言葉に収束する。
煉瓦造りと硝子の窓は、荒廃したスチームパンクに変わる。人を詰め、赤ん坊の死体が一つ二つ、川底に落ちている。昨日見掛けりゃ明日は死体、二度目を合わせている時に生きている保証は無いのだ。
四体液説の信じられている中で瀉血というホメオパシーと同程度に役立たず、治療の正反対を勧めていた。血という温もりが常に響く、熱のある街だ。
現在自我は交代して彼女の掌の上にある。見たくないものを見た、それが彼女を狂わせる。
「・・・肉が週休の十分の一・・・。」
全裸の少年少女が鎖に繋がれて並んでいる。
建物の上から見ている自分にも目が合った。
体の部位を周囲の人物は述べる。
尻だ!尻を寄越せ!
吐き気が、悪寒がした。
「・・・コウキ・・・。」
美しくもない光景だ、反吐も出ない、息を呑めない。・・・だが、駄目だ、自分がやらねば。コウキは必死に止め、お前がやる位ならと言うが、彼では解決出来ないだろう。
殺すべきと腹を決めて、行動は始まる。
第一、ナイフを基軸に三度一人目を刺す。静脈と関節を支える節々を射抜く。第二を単純なストレートで脳震盪を起こす。横からの一蹴で邪魔な身体と取っ払う。店員目掛けて倒れ掛けた土台を踏み躙る。走破した先に迷いなく目を狙い、殺さずに使い物にならない姿を見せる。肉断ち包丁で脚を切り捨て、焼いて止血し、客に投げ渡した。ぶよぶよとしている一方で、身の詰まった最も欲しがるものである。
硝子にトドメが刺されるとその商品がどんどん奪われる、店員はもう逃げた、鎖の元を断ち、泣き崩れた一部・・・二人は少し重いが何とか出来る・・・そして逃げた。
血に混じる大量の涙、そして畑すらないみっちりと埋まる街道。彼がその意味に気付いた時、此処が治安最悪の街である理由を知った。治安最悪の真相は、魔術の為に、畑も作れない街に収容される。魔術の化学現象の再現は物質に及ぶかその点においては絶望的だ。
人の出産と死を以って命を繋ぐ、其れが何れ程の愚行であれ、彼女のやる事は殺しによって止める事である。
彼女に思考が行き渡らないように抑制し、サポートにより頭を回らない様に抑えつつも、脊髄反射だけである程度を進める。
死体に群がる人々は、何を求めているのだろうか。手が後ろから後ろから出てくる、男女問わず、又、生死も。
自我を交代させる、手を切り落とす、ナイフ一つでは無理がある、刃物と刃物で斬れ味を削り維持する、刺す武器は出血効果で実際のダメージと乖離させつつ、確実な停止を狙える。二三分続け、体積的に停止したと判断し、土台に使い立ち上がる。瀉血を否定した時、同じ様な道具を使った医者は敵意を向けられ、吊るし上られるだろう。恐らくこれで五人は死ぬ、医療技術的にも無理だ、祈る時間もない、諦めて見捨てるべきと判断し終えた。
ジョーの下に気絶した二人を運び込む、彼は快諾し、治療を施す。嫌な顔一つしない彼に経緯を払いたい。・・・とはいえ彼が内心どう思っているかは判断しかねる所があり、今は何も言わない事にした。
「・・・治した、彼等は早く連れて行った方が良いだろう。」
ジョーはそれがどれだけ酷い扱いをした人間か知った上で治す。・・・彼には酷い仕打ち等、そもそも良い状態が彼女といる事以外に無いのだ。
連れ出し、声を掛け、何があったかをフェイク混じりに話した、彼等が良い人間であることを信じたい。・・・もし、そうでなければと言う時の為に顔を覚える。とはいえスラム以外に帰る事になるだろう。
今日は歴史を聞いた、王国の崩壊具合についてだ。これはあくまで約束の履行で、彼を楽しませるものでは無い。
彼は話す、この現代技術を保管するコンテナ群は、燃やされた様々な物の中で耐火性があったり、対策されていたり、水に沈んでいたものであった。人口爆発も起きなかった場所が故に、忌み嫌われた地として誰も住まない。
・・・だが、此処に住む男は言った。彼はこの資料を知り尽くし、現代技術を徐々に解明している。
「この世界は昔こうではなかった、短かった成長、続けばどうなっていただろう、遥かに豊かで、喜びに満ちていた。」
比喩的な表現、特に暗喩が読み解くべきかどうかを理解出来なかった彼は事実と幻想を混ぜた儘、それでもバイアス掛りの大筋は正確なものだった。
「中央十字は古い教えを元に作られたもの。」
寿命と記憶は、人の明日を支えるものであった、強者が生き残り、死んだ強者はより強い者の中で生きる。食い物でしか無かった、その時代において愛情と価値から次の世代を存続させるべく立ち上がった中央十字、彼等は激しい競走は突然崩れ、蹂躙されると思い知っている。それが吸血種や妖精の出現である。いつ競走で抜かれるか分からない相手、いつ自分が負けるか分からない相手を見下さなかった。・・・現在は、アルトリウス等帝国を見下した為に滅びかけている訳だが、少なくとも昔はそういった行動は無かったのだ。
とはいえ、調子に乗り始めた結果は、こうだった。
「・・・それが偽物の歴史と知っているアルトリウスは、反旗を翻した。帝国は圧倒的に優れている、知っているのだ。偽物と嘘程犠牲を出す物は無い、実際に、王国は計略によって帝国を滅ぼそうとした。その時にアルトリウスと対立し、虐殺は戦争に変わった。差別された地は経済の都市となり、恨みと自身の否定を信じなかった。」
彼の知る知識と照らし合わせた結果、この様な歴史が完成した。帝国は恨み辛みを持つ人物が多く、歪んでしまう。研究所なら同じ書物が完成する可能性があるが、二人で完成する程度の代物が、態々ここまで掛かる次点で最早笑い話だ。
「いぇーい!共同作業成功!」
「そうだな、辻褄が合う納得感は何にも代え難い。」
自分にとっては何ともない物だが、彼にとっては素晴らしい記憶であった。不幸の中尚神学を学ぶ彼、そして一度の死の中で彼に魅了された彼女。この世界は全視点から俯瞰出来ないからこそ美しいものを作れるのだ。
只一歩動いたものであったとしても、その一歩は見くびられているだけで奇跡の積み重ねである。・・・世界を観測する望遠鏡のレンズを変えた。
彼は、使命を否定しない。死を選ばなかった結果、使命は終わりに向かう。・・・ならば、彼の何処か暗い言葉は何が由来なのであろうか、宗教に対する信仰心、彼女への渇望、そんな所であろうか。
・・・だが、一つ。・・・若し、彼が抱く暗きが女神という存在が姿を現さないものとしたら。
聖書には様々な天使と悪魔、聖人の名が刻まれている・・・その中で、彼女がどの様な概念であるか考えたのだ。最低でも死後には存在する事になる、しかし、其処迄にしか間に合わなかった存在としたら・・・。猶予の意味合いを別視点から捉える、それは彼女への慈悲であろうか。・・・それとも、記憶にのみ残る既に死んだ父。それで他人の存在を知り、女神もまた他人であると希望的観測を抱いた妄想であろうか。ルナは何処か我慢していた、黙り込む様に、変化すら誤魔化す。彼は産まれてから数年は男と女、子供と大人の区別を知らず、今は知ってはいるが全く使わない為に半ば忘れていた。
記憶の奥底にある他人という、古く幻想的な喜びに充てられた。
スラムから逃亡した貴族の子が、治療を施された後に解放された。その治療が未知であり、その確保、そして怒り、恐怖した貴族は命令した。
「スラム一帯を滅ぼすべきでしょう。」
議会からの意見、批判は一つ無かった。涙する子供と、怒れる父のスラムへの怒り。
全ては成り上がるべく娘を用いた男が始めた物語、格差を覆さんとした、幸福を望み、享楽を分け与え、一つの街、家族や友、仲の良い者全てに向けての気持ちであった。
・・・その結果、全体が貧しいと言える程の格差が残った儘で、彼以外の場所は格差を広げた。借金が横行した、土地が担保にされ、奪われた。・・・最後に、追い出され、専用の場所も作られた。
・・・ならば、最初から自分達の責任であると考えなかったのだろうか。白々しい。議会は腐っている、家族を盾にし、精霊を人質に聖職を司る者共だ。・・・アルトリウスは剣を手に取る。それが滅びになるのだ。彼等がした事を忘れぬ様に、永遠の傷跡にしてしまおう。
・・・天罰、それ以外の何者にも見えない。
「ルナの聖書は危険だ、ルナは殺せないがこれは間違い無く奴のものでは無い。彼奴の養父を殺せ。」
さぁ、議会は満場一致だ、パラドックスの話等誰もしない、スラムよ焼けろ、悪業をしたのだから、報復が待っている。
・・・だが、忘れてはならない。滅びの切っ掛けは見え透いている。
これが最後通牒、王国の土地を消滅させる戦争を継続するかどうかに関してのものだ。
歴史書の後、帰り、暫くは来ないであろうルナはさておき、ジョーは少し使命の与太話をする。彼が一番直感的に理解出来る訳で、それを信じるしかないのだが。
「神を同一の個体と考える人間は多い。それは思念体がベースにある、二元論的神格も似ているからで紐付けられたが、本質的には違う、もっと上位概念的なものだ。」
「・・・。」
「単一の独立した生命でも良いとは思うが、際限なく増える生物だったらどっちの方が優れていて、尚且つ現実的だと思う?」
「具合次第だが盤面がある状況だと後者。掌握率が弱ければ不死なんて役立ず。」
・・・僻み、そして、崇敬であった。
「神が神であった所以は、最上位の人類である事以外に、繁殖能力があった事だ。終着点が無い生物なんだ。その一つが死の神、人の命の価値を明確にするという役目を持った人物だ。」
人類は死によって生の価値を高めている、金銭の需要に対し、供給を不平等にする事で価値を釣り上げる様に、神は人の生に価値を持たせるべく短くし、延命法を与えた。
「人の世に落とした結果、当時誰も管理しなかった為に災いが起き、人の世は荒れていた。死にかけの人々が、豊満な死にかけの人を見つけ、死んだと錯覚して死体を解体。特に脳や心臓は争われ、美味とされた。」
・・・その結果、スラムはスペースが出来ないし、出来なくても明日は食える。その安心が無駄な犠牲を産む。・・・そうでもしてまで狂わなければ、この街では暮らせはしないさ。
「病や飢えで死なぬ世界を築いた・・・は、人々を極限まで苦しませ、とうとう死を与えた。・・・それがこの世界の死というものが曖昧な由来だ。・・・君は死なない、そして、差別対象だ。私とは味方じゃない、同じ境遇の仲間じゃない、コウキに罪は存在しないのだから。」
死という概念が重く伸し掛る、その中で災害の残滓でさえ食す事が出来る様になる訳で。使命や記憶は残酷なものではあるが、それと同時に人を兵器へと換装する、対災害のものにする。死という試行回数に最も最適化された概念は、依然変わらず殺しを加速する。その果てに、互いが互いを殺し合う様な人間が生き残る様になった。・・・それは、今の時代にも変わった事では無い、過剰な競争、戦争の加担、差別廃止を目論んだだけの実質的な差別と排除行為。人は廃棄を以て進化の道を選び、それが間違っているかどうか等、考える事はしなかった。
日和見主義で平和ボケした日本人という概念はいつかは潰える、ただ一つ、外部から観測する立場に近付けば、それは回避出来るが。・・・だが、そう出来なかった。国々はそれを皮切りに崩壊した。平和ボケ・・・つまり相対的な平和主義者は既に居なくなった。食らいつくした獲物の次は同じ立場を食らう。
・・・その結果、文明は全て滅びた。
逆に言えば、それはダウングレードや規模の縮小化、同じ理屈による国の崩壊が見込める。・・・彼女以外に愛着を持たぬ国、自分を良く思ってくれる人に軍を送る為に意思を固めさせる道具である自分。
そして、恨み辛みを向ける帝国であれば、信じる相手が向こうにしか居ない、なんて起きないだろう。
・・・変わってしまった、ならば死を覚悟すべし。
「だから、せめて逃げなさい。・・・不死は痛みあるもの、君が言った訳ではないが、同じ縁よ。・・・もし捕まれば、私の事を洗いざらい吐き、悪名を広め、戸惑う内に逃げなさい。」
・・・彼は意見を変えていた、絶望か、許しか。・・・最早彼自身が世界の終わる理由になっても良いのだ。・・・彼はルナが皆から崇められる聖女だとは知らない。自分に尽くしてしまい、現実を忘れた様に生きている女にしか見えなかったのだ。彼女の人間不信が故にそれを見逃していた。
・・・許すべからず。この油断ともう言い切れない油断が彼を襲う。
彼女が追うは危険の影、太陽が陰る頃に起きた一大件、遠距離武器による狙撃、技術的に足りないと思われていたが、運と実力を以て捕まんと人は成長した!
たった一人の冤罪は、技術と成長を促す。
神は死んだ、役立ずの神に価値等なければ、存在しないも同然だ。彼は守られず、一発の凶弾に沈む。稚拙な黒色火薬の臭い、出鱈目な裂傷、硝子の肌が砕け、肉片として地面に付着した時、その弾力が漸くそれが人であったものと確信出来る様になる。ある種究極の殺しだ、殺した事を認知させるが、それを遅れさせた、それだけで充分過ぎる。殺意の為に銃手がどうなろうと構わない、製作者又は銃手の殺意の証明、感動すら覚える。
「・・・ジョー!!」
「・・・なっ・・・!?」
誰だ、いや、誰でもない。上手くもない射撃、頂上に彼は倒れ、それを何とかして掴む。
「・・・駄目だ・・・近寄るな、生きる為に・・・そして、私の使命を継がぬ為に。」
血の混ざる唾を吐く、それを切っ掛けに血が流れる。喀血は止まず、即死と理解出来る。
「・・・ルナ・・・。」
涙ながらに彼は言う、履いたものを戻す程気が狂っている訳でも苦しんでいる訳でも無い。恨みや悔しさがある訳では無い、只、夢が果たせず、半ばで死ぬ、終わりは想定していた、どうするべきか理解していた。・・・だから、彼はこう言った。怨恨に満ちた気持ちに演技一つで塗り替える、それが、落ちた涙に込めた本来の気持ちの最後を告げる。・・・これ以降は、全く彼の気持ちでは無い。
「私は・・・ルナが・・・大嫌いだった・・・。」
その言葉は、全くの嘘だろう。
この世界は信頼と殺しによって継がれる。
継いでしまうのだ。
だから、彼は嫌った、最愛の人にこの呪いを送らぬ為に。己の意志を否定し、嫌ったまま死んだ。
その涙と顔の歪みは、到底怒りとは思えないものであった。
ジョーの遺体を抱え逃亡した彼女、命令が発動される前に彗星を止める、この遺体は帝国に送り、研究用と言いつつも正しく弔われる可能性に欠ける為、マシな方に送る。その為からっきしになっていたコンテナ内に、突入した数人は気絶させ拘束する。
とはいえ期待すべき人は誰も居なかった。
「エマも肉弾戦は割といけるのか。」
「武器だけはあるからね、刀使って気絶で抑える手腕の方には追いつけないだろうけど。」
斬れ味が良い、切り落としてもあっさり治せる傷にする、逆に中途半端にした場合がダメージが大きくなる可能性がある。脳を使う酷な作業だが、痛みで支配された脳よりは軽かろうと思うコウキにとっては何とも無かった。
「・・・そうだな、どうして自分でもこうなったかは分からない・・・だが、憂さ晴らしが原因だったのは確かだ。」
「・・・そう。」
「あと戦利品として全身脱がせて使えそうなのは全部持ってく。」
「殺さない理由が性格が悪いからに訂正するべきかい?」
「材質が悪い、小便の臭いがする。」
「製法の問題がこっちにはあるからねぇ。」
衛生観念は最悪だと捨てる結果になった。彼等は一体どうやって帰るかは期待しない方が良いだろう。
「ジョー・クレイトンの日記・・・言語習得からキッチリやってんだな・・・。あれ。」
日記を読み込み、エマが補足する。産まぬ人間の時はするする入ってきたが、断片的な記憶からしか生成出来ない。クローンが言語野ポンコツの可能性がある分より解決に困る。
「おっかしいな、これ。アルトリウスは27歳と言っていたが3年分無いぞ? ルナへの惚気を書いてるが結構年齢差有るんだな。」
「ルナは16、どうでも良いからそんな事・・・え?」
「・・・ギリギリ、だな。」
コウキも、エマも気付いた。・・・その年齢であれば合点が行く。
「王都の放窓事件で死んだ人間は・・・ルナじゃないか?」
「・・・記憶を半分にした結果、そして巻き込まれない様にした結果・・・。」
「敬虔な信徒がこんなビッチな真似するか!?」
「それに関してはするよ?」
「ヘカテー似の女に心当たりが無さ過ぎる・・・。」
「落ち着け!清楚な子を望んでも0.01%しか存在しないぞそんな子!!」
「ヘカテーって清楚キャラなのか・・・。解放されてからも稀に出会う位だったのは確かだが。」
『おい。』
「解放って何さ。」
アルトリウスから伝え聞いていた彼の話を照らし合わせ、その詳細を知る。
「学校は小学校の途中から停学だ、母親の命令で。」
「え・・・そんな事帝国にも無いよ?」
「あと父親は調べたが確認出来ない、そもそも病院どころか戸籍すらない。DNA検査は禁止された。」
『(でも目がアース・アイだから交配してないとおかしいのよね・・・。・・・私の与えられた情報には無いかな・・・。)』
「・・・逃げて、韓国行きの船に隠れて言った、流石に下の方はチェックされなかった。・・・普通死ぬしな。・・・そして他の国で生き続けた、金は工場のジジイが海外の貴族に自分の作ったものを全部売り払って作った金だ。・・・アメリカでアリアに出会った、そこまでの道程で何人も証拠を消す為に殺した。」
端的ではあった、そして真実を言って若干快く思った。・・・何せ自分はコウキの形をしただけのコウキ以外、だとすれば他人の話をしただけ、だが、こういう恩恵はあった。ヘカテーは理解していたから何も言わない。只、癒しを僅かに与え、無駄な心配をしていた。
「ジョーは、自分と同じだ。・・・だから、ちょっと感情移入した。・・・その程度で同期にしちゃ充分だろう?」
・・・彼は先の軍事行動を見て最悪の状態を確信した、まぁ、壁に血痕がある、それも派手に金属片も刺さっている。
「・・・このままでは終わらせない、記憶から自我が掘り出せるならやりようはある。」
心意気を固め、ここにいない彼女の行動を予測する。・・・それは、間違いない。美しいものを求める彼女は、こうするであろう。単純で、可愛らしい。
「・・・これからジョーの記憶と使命を奪う、少し難題だ、エマは巻き込まれる可能性がある、見た目が良いからな。」
「わぁお本心?」
「巻き込まれない様にというのが本心だ、見た目が良いはお世辞と説得の補足だ。」
「は?」
まだ何処か誤魔化す気配があった、罪悪感が本当にあるのならコウキを保持はしない、彼女を見捨て、不死であるからと解き放って良い理由は無い。・・・寧ろどうして彼女は居ないのか、少し前迄は自分を認識出来ていなかったが、今は違う。
「・・・エマ、本来のコウキの居場所は何処だ?」
・・・エマは気絶していた、分かる筈も無い、だから、一度役を降ろす、責め立てる様に仕向け、より苦しい状況であると示す。・・・そうして、彼女を信じた抑圧は功を奏す。
「分からない、私は・・・。」
彼女は、漸く心に向き合えた。百年生きた所で、彼女は完璧ではなかったのだ。・・・立ち直り、そして、彼を見る。・・・悩みというより、ヤケだ。限界が偶々来ただけだ。・・・彼女はプライドがあった、そして、納得する理由もあった。諦めが最良と信じていたが、彼に託した銃、それは職人の技を重ねたもの。・・・ほんの少しの童心であった。
「帝国に殺されかけている、アルトリウスに接触するか、王国以外に居なければ殺される。・・・君が逃がした、本来助かる条件として君を提示された、だけど裏切られた。・・・本来はもう死んでいるべきだから、おかしいんだ。」
・・・さて、これは呪いであろうか、それとも本心であろうか。しかし彼は応えよう、英雄では無い、だが、殺された女でさえ彼を好ましく思っている・・・彼女は例外だが、一応の事実だ。
「何だ、そんな事か。・・・任せろ、俺もやってやるさ。」
・・・溺れる者、藁を知らず。藁であると認知する事を欠きつつも、彼に縋るのだ。こうでもしなければ英雄は演じれない、それだけが心残りだ。
人類は地獄を封じた、埋めて、埋めて、埋めつくした。しかし地獄の王は神に挑まん、聖書を持たぬ、古き帝国の軍人。北海帝国は焼き尽くされた、薬が燃え、疫病の厄災を耐える事は出来なかった。
さぁ、新たなる夜明けだ、身内争いの内に終わった人類、その生き残りを串刺しにしよう!
我等は新たなる人類、災害を殺し、食す新たなる生命である。




