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銀の魔法の杖  作者: はるのいづみ
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友達できちゃった!

憂鬱な新学期。

中学生になって、一番の悩みは

友達ができるかな?

 桜の花吹雪が舞いあがり、入学式も終わって、なぎさは中学一年になった。

人見知りする性格が災いして、友達ができない。

またまた不安な季節がやって来た。


担任の先生は、数学の吉川伸介先生だった。

数学は特に苦手だった。すごく背が高くてエラがはっている。

かくんかくんとあごを振ってしゃべる。ロボットみたい。

これでこの一年の過ごし方も決まった。

なぎさは、ソロバン塾にでも行っていたら、もうちょっと算数のテストだってできたのにと思う。


「うちはお金がないから」

母さんのいつもこの言葉が、すべてを諦めさせる。


おしゃれに決めているクラスの風間さんみたいな子だと、ちょっと尊敬されたり取り巻きがいたりする。

波多野家では、流行なんて永遠に追いつけない。


TVゲームもないし、ケイタイ電話もない。

放課後の部活動も、なぎさが晩ご飯を作るからやらない。


なぎさのこんな淋しい気持を、母さんは知らない。

姉貴は同じ環境なのに、欲しい物はちゃんと友達みたいに母さんにねだる。


しかし、今年は何かが違っていた。


なぎさが音楽室に移動する時、教室でまだ残っている女子がいた。

その子の机をふと見ると、天使の形をした消しゴムが目に止まった。

なぎさが反射的に言った。


「見せて!わ~かわいい!」

「どうぞ」

思わず、手に取った。

「でしょ!彫ったの」

その子がほほ笑んだ。

彼女の名前は北原杏珠。


アンジュってフランス語で天使って意味だ。

なぎさの天使も作ってくれた。

真っ黒いつやつやのロングヘヤーが色白をいっそう際立たせていた。


「ありがとう杏珠さん」


「杏珠でいいよ」


それがきっかけで、友達になった。


それからどこに行くにも一緒に行った。


しかも、杏珠はおしゃれで、頭もいいときている。

おまけに友達もいっぱいいた。


「なぎさって? 海の近くで生まれたの?」

「うううん、生まれも育ちも埼玉だよ。母さんが昔、ピンクレディーのファンだったの、それでついたみたい」


「ふ~ん。なぎさのシンドバット?」


「うん、あの曲が流れると踊るの」

大笑いだ。


「ふふ、ひょうきんなお母さん」

杏珠たちも笑った。


「六年生の卒業式の作文ね。あれは、海の近くに住んでいた人にしか書けない文だ!って人がいてね。てっきりそうかと、思ってた。それだけ」

あれ? 杏珠とは、別の小学校だったから、知らないはずなのに、なぎさは聞いた。


「なんでそのこと知ってるの?」


「アハ、今は言わない、いつか私んちに遊びに来てよ。ね?」


「うん!」


絶対、行くつもりだ。



 翌日、学校で杏珠たちと休みの日は何して過ごしているかをしゃべっていた。

「私? 昼まで寝てるわ」杏珠が言った。


「そういえば今朝、風船みたいに浮かんだ夢を見ちゃった。部屋の天井にくっついて…」

「へ~面白い!」

松下可奈が割り込んできた。

こういう話が大好きらしい。

「可奈なんか夢で、死んだお婆ちゃんに二度も!会ったわよ」

とのってくる。


「きゃ~。それって霊界につながっているってこと?」

「で、何話したの?未来の予言とか言ったりしなかった? 」

耳をダンボにして聞いていた、遥香も興味深々だ。


「何にも。ってゆうか、忘れた」


「あ~夢って、朝すぐ起きてメモらなければ忘れてしまうよねぇ」

万理は残念そうだ。


「そうそう起きるタイミングも、難しいね」

それはみんなも、同じだ。


「私なんかさ、ストーリーちゃんとメモってるよ!」


「本当?遥香」


「ストーリーはハチャメチャだけどね、だんたん残せるようになる。ちゃんと、手を伸ばせば、取れるところにメモとペン置いといて」


「へ~」


加奈は、まめだ。そこまできない。


みんなも、夢が不思議でしょうがない!


「なぎさは?不思議な夢は?」


杏珠の声に、さっきから黙って聞いているだけの、なぎさにみんなが注目した。

なぎさは不思議な子だから、おもしろい夢を見るだろうみたいに。


「今日、知らないところへ行った夢見たの。青い海に岬がつき出てた。すぐ崖がせまっていて、そこにね、西洋風のとんがり屋根の家が、斜面に沿ってポツンポツンと建ってるの。それが、前にも夢で来たことがあるの」 


「面白~い。夢のデジャブーだね」


万理が、のってきた。


「そこって、だいたいの場所わかる?なぎさ」

と万理。


「どこかな、南側の斜面が海に向いてた」

「ああ、もうひとつ、二回見た夢がある」


「どんな夢?」

可奈が聞く。


「海辺の広~い砂浜があって、そのはるか上空に、長い長い滑り台があって、みんな順番を待っているんだけれど、私の前に四才ぐらいの男の子が滑っていて、途中で…はずれて落ちちゃうの」


みんな、思わず目をつぶった。


「ああ、次は私の番だ。で目が覚めちゃったの。長い長い滑り台って二回目なの」

「へ~」

みんな感心して聞いている。


「なぎさ、それって!生まれる前ってことじゃない!」


「それって、天国? 」


天使オタクの杏珠が、叫んだとき、なぎさの目に涙がにじんできた。


「ううん、万理も、杏珠も、可奈も遥香も、みんな天国から来たんだよ」

まわりも、シーンとなった。


こういう話大好き少女がそこに集まったのだ。

たった今、深い絆が結ばれたみたいに不思議な感覚だった。


「ねえねぇ、妖精って…」

万理が言ったところで、クラスの男子たちが不思議そうに、見ているのでその話は立ち切れになった。


グループの中心に、なぎさがいる。

こんなことは、今まで一度もなかった。

暗闇の中に、一筋のスポットライトが当たったら、なぎさはそっと避けていたタイプだったのに。


◇◇


ささやかな晩ご飯の時に母さんが聞いた。

「中学校は?どう?」

「しごく、順調」となぎさが答えた。


「意外と、モテるんだよ」

姉貴がつけ加えた。


「彼氏? 」

 母さんが、反射的に聞いてくる。


お爺ちゃんがチラッとなぎさを見た。


「エェ~そんないつ、誰がモテんのよ~勝手に作らないでよ!」


なぎさは、マジで抗議した。どうやったら『彼』ができるのか、聞きたいぐらいだ。


「あら、そういうウワサが、私の耳にも届いているわよ…隠さない 隠さない!」

姉貴は、きっぱりといい切った。


なぎさは、口をつぐんだ。

そこにいる全員『姉貴の作り話』を信じたのだ。


なぎさは、不快な感情を抱えたまま、まっすぐトイレに、ハウス状態…つまり閉じこもった。

なぎさの、心の奥のデリケートな部分、それをみんなの前で姉貴は平気でからかう。

悪気はないにしても、恥ずかしいし、うんと傷つく。

心の奥の方は、なぎさの聖域なのに。

真実なんてこの家は、どうでもいいのだから。


「おじゃまぁ~使いたいんだけど…」

ずい分時間がたってから、母さんがノックした。


トイレからなぎさが出て行くと、そのすれ違いざま、

「ふーん、オクテのなぎさがネェ」

母さんがつぶやいた。

「…もう!」


何でだぁ、本人がはっきり否定しているのに、噂の方を信じてしまう。

恐ろしい世界だ。


「自分のお城が欲しい!」

切実な願いだ。


なぎさは、フッと思いついた。魔法の杖にお願いしてみる? 

ダメダメ!今、こんなに私怒っている。

きれいな心ではない。


それに、どうやって、取り出す?

どうやったら、一人になれる? 


難問だった。


◇ ◇


ばんざ~い

ステキな友達ができちゃった。

話が合いそうなグループも

それに担任はとってもいい先生!

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