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銀の魔法の杖  作者: はるのいづみ
24/24

和解

姉貴から助けてくれのメッセージ。

家に入れてもいいかなと思ったのに、

いつにも増して、刺々しい姉貴の言葉、

何で入れちゃんたんだろう、後悔するばかり。


 姉貴から、真夜中に珍しく電話がかかってきた。


「今晩、そっちに泊まりに来てもいい?」

何かすねたような声だ、よっぽどの事が何か、あったんだ。

「こんな時間に? いい…けど」

嫌な予感がした。

時計を見ると十二時だった。

商店街に来てから近くはなった。



姉貴がやって来た。

「母さんが、手~付けられない状態。ストライキを起こした」

という。

「で、どんな様子?」


「酒飲んでさ~。くだまいてさ。あんたたちの生まれる時は~って親爺の悪口から始まって、澤井さんの悪口、おじいちゃんの悪口、おじさんの悪口、当然…私やなぎさもいたお陰で、自分の幸せ後回しにした。自分ほど自己を犠牲にした人間は、いないのに」


「どうして、幸せになれないのか」


「そう~。どうして自分だけ、貧乏くじを引く羽目になるのか?神様なんかいない」


「とうとう、姉貴にも言ったの?」

「面と向かって、あんたがお腹の中に入る頃、父親は自分だけステーキを外で食って、請求書だけ、家に寄こしたんだ。心の底から、この男を軽蔑したね~。あんたが生まれたら、少しは良くなるかと、期待したけど、変わらなかった」

中を見据えてなぎさを、向いた。

「私はまだ、いいわよ。…なぎさなんか、産むのをやめようかと思ったって。身を粉にして働いても、親を見捨てるんなら産まなきゃよかったって言っているよ。ひどい母親でしょ?」

「つまり堕胎」

「ひどいよね、思っていても、親からは聞きたくなかったセリフ。一生私忘れないんだから。それをいうなら、こっちだって、もっといい親の元に生まれたかったよね。もっと、金持ちで、子供に優しい~親」


「姉貴はこんな、こというためにわざわざ来たんだ。私が傷つくところ見たいんだ、姉貴は、いつもそうだね。自分はこんなに傷つくのが嫌なのに、妹は傷ついてもいいと思っているんだから…基本的には母さんと同じDNAが流れているんだね」


「なぎさ、だってそうじゃん。あのロクデナシと同じ血が流れているのよ、母さんに昔よく言われていたよね、父親とそっくりだって。ロクデナシとロクでも無い母親との間にできた子だよ」

「それは、お互い様でしょう。同じ遺伝でもスイッチがあって、その中でもいいのだけ受け取っているって私は思う。私は姉貴とは違うもん、八つ当たりしないで! 出て行って! 二度と来るな!」

なぎさは、姉貴を力いっぱい押し出して、ドアの所まで行って、締め出した。姉貴は、酔っているので力なく、なぎさでも動かせた。 

悲しみではなく、怒りが込み上げてきた。 

「いつだって私を傷つける、自分がされて嫌なこと、人にするな! 最低!」

聞きたくない。もめごとは、一晩頭を冷やせばいいのよ。今はそんなに寒くない。


なぎさは、もう、母親や、姉に向かってひどい言葉を投げつけたことで、後悔なんかしないと思った。私は人に愛され、友人に囲まれ、十分に幸せなのだから。


酔っ払って自分を失うほどにならなければ、本当の気持ちが言えないなんて、カッコ悪い。これを、言っちゃあ、お終いだよって言葉を、母さんは言ってしまう。

なぎさがあの場にいたら、作家になっていても、なぎさに当たっていたかもしれない。

当たる人がいないから、姉貴にとばっちりが来たのだろう。


母さんは器が大きいんじゃなく、器が小さかったのだ。

いつも、無理をしていたんだ。

ストレス抱えて、だから、幼い時ずっと、なぎさに意地悪なことをいっていた。

なぎさは小さい時、母さんとの暮らしが世界の全てだったから、わからなかった。


姉貴も『これを、いうと相手が傷つく』から、自分の胸の内だけに納めて置く事ができない。

思いやりは桃代さんが誰よりもある。

母さんを育てた、おじいちゃんや、おばあちゃんだって、勉強のできる長男を猫かわいがりして、妹には、冷たかったみたい。

母さんは、親に好かれたかったんだ。

でも、家が居心地悪かったから、早くあの家出たかったんだ。

早く、結婚してしまった。


母さんは、父さんを愛していたのだろうか? 

母さんは、自分を愛してくれる人が、ほしかっただけじゃないのか。


父さんは、子供たちは愛した…と信じたい。

なぎさの覚えている父さんは、なぎさを可愛がってくれた。

母さんはひどい男だとしか言わないけれど。

ただ、ひとつ言えることは、なぎさの『料理を作るのが好きなこと』は父似だ。

母さんや、姉貴にはない。


母さんは『自分の不幸はみんな人のせい』にするところ、ぜんぜん気が付いてない。

自分が選んだ人生なのに。

ただ、運に見放されただけのこと。


姉貴は、高校生だけど、缶チューハイを少し飲んでいた。

「ジュースみたいで、飲みやすい」

と言っているし、店にいくらでもある。


気が大きくなって本音が出たんだ。


なぎさだって、ウソ発見器にかければ本音が、出て来るだろう。

何が出てくるのか恐ろしい。

さっきの姉貴の目は怯えで、荒んでいた。

忘れられない目をしていた。

なぎさも、眠れなかった。


「こんなふうに、居場所をなくした子供達が、夜中にうろついて、事件に巻き込まれていったりする…」と思う。


「でも、それはなぎさの家族から出したのじゃ、いけないよね」

なぎさは、上着を着て探しに行かなければと思った。

でも、体は重くて向えに行く気力もなかった。

自分がこんなにボロボロなのにどうして人が救えるのだろう。

いじめっ子の心理。

なぎさが小学校の時、よくいじめられた。

相手は風間さんか

らだった。勝ち誇ったように…リボンの付いたおしゃれなドレスを着ていた。


「どうして、体操服黄色いの?」


「…」

「貧乏な家の子は、買えないからだって」


みんな、新学期は真っ白い体操服を着ていた。

なぎさのは、姉貴のお下がりだった。

洗濯を何回もして、縮んで黄ばんでいた。

大勢で体操していると、一人だけ気後れするような色だった。


「どうして、姉妹なのに、名字が違うの?」


「知らない」

離婚して、姉貴だけ手続きをして、母親の姓に変わったのに、なぎさの苗字はしばらく違っていた。


子供だから、疑問に思ったことは、素直に聞くことはある。

でも、多くの場合そこの家族が言っていることを、そのまま子供が口にするのだ。

ただ、風間さんは、学校で意地悪をしても、家では大人しいと聞いたことがあった。


担任の先生が、あなたの家のお父さんは、どんなお仕事をしていますか? と、生徒に席の順番にしゃべらせた。


「いません」


たったその一言が、最初の方に当たっていたら、簡単に言えたのに、「八百屋さん」「サラリーマン」「銀行員」

ずい分後になったから、立ったまま、涙声でいえなかった。

小学二年ぐらいだろうか?

母さんとその先生は家同志、仲が悪いらしい。

子供は、大事にされてない子供のことを敏感に感じ取る。

先生がそうなら、生徒も真似をする。

手も足も伸ばせないで縮こまっている。


なぎさがあの頃を思い出すとき、みじめさに襲われる。


何を糧に生きていたかといえば、本や、想像力だ。父親がいつか迎えに来てくれることや、本気でシンデレラの中に入って行けた。


いい子にしているのに、イジメられる『シンデレラ』であって、決してオイタをした悪い子であっても許されるセンダックの『怪獣たちのいるところ』ではない。


陽子に出会わなかったら…まだ、みじめなまんまかもしれない。

なぎさは部屋の隅で毛布に包まって座っていた。いつの間にかそのまま寝てしまった。


朝になって、なぎさは、姉貴を探しに行った。

姉貴は、24時間営業のファミレスにいた。


「とにかく、帰ろう」

なぎさが甘~いココアを入れると、何年振りかで、二人でお茶して飲んだ。

姉貴は、ベッドにもぐりこみ、昼過ぎまでこんこんと眠った。



自分の命が、どれだけ大切なのかという自分を肯定する気持ちがあって。

はじめて、他人を大切にすることが出来る。



目を覚ました時に、姉貴が、紙とペンを探して書いた言葉だ。


「なぎさ、変わったね。ちゃんと自分を守れるようになった」



姉貴は再生した。生まれ変わった。

姉貴は優しい人になった。

「たった一杯のココアが、人生を変える事だってあるのよ」と言った。

なぎさは、ゆうべ、ひどいことを言われたのをしっかり覚えていたし、まだ、姉貴を恨んでいたし、今までの姉貴を知っていたから信用できなかった。


けど、姉貴の晴れ晴れとした、笑顔を見て信じていいかなと思った。


「姉貴はおじさんにお金を貸すことに、反対してくれていたから。あれは、店の方が大事だったからと言えば、それまでだけど、母さんより、なぎさの味方をしてくれた」


ふいになぎさの口がしゃべっていた。

「姉貴、一緒に住む? もし良かったらだけど」

「ありがとう、なぎさ~」

姉貴は本当に、うれしそうに抱きついてきた。


姉貴なりに、遠慮があったのだ。

姉貴もまた、自分を大切にできないでいた。強いものに巻かれろで、母親の顔色をうかがって生きていたらしかった。子供は天国に一番近いから、何が正しいか本能的に知っていた。だけど、強いものに迎合するうちに自分を見失っていた…らしい。


「なぎさも、ずいぶんと自分を虐げていたことになるのよ。だけど、出会ったのよ。心から信頼のできる親友に。存在を大切に思ってくれる人々に。いいよね。羨ましいよ」


「そうよ、私の宝ものだよ」

「それに、私も宝ものだったんだよ、今までは、大事にしてなかったけど」

それは、銀の杖があらわれて示してくれたように。

なぎさ丸ごと宝物だよって、時空を超えて教えに来てくれたんだと。


「まるで、子供の共和国だね」


「大人の、被害から守る」


「まあ、子供だから、勉強しようね」


「ハイハイ」




いじめられっ子って多いと思います。

だけど、なぜ、どうしてやられるの?

どうしたらいいの?

渦の中にいる時には、解決方法がまったく見えない。

たった一つ、自分を大切に思ってあげてください。

自分で自分をイジメないで、自分の好きなことを見つけて、

なりふり構わず生きてください。

見つけてください、あなたの『銀の魔法の杖』を!!

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