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銀の魔法の杖  作者: はるのいづみ
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母さんの恋のゆくえ

子供って、大人が考えているより大人で、

大人って意外と子供なの。



 学校ではみんな、白亜の豪邸が建ったら風間さんが転校して行くだろうと思っていた。

でもいつまでたっても行かなかった。


「高田さんが、教えてくれたんだけど…」

陽子が聞いた話だ。


「風間さんのお母さんのエステサロン、以前ほど美容効果がなくなったって、評判がガタ落ちになったらしいよ。

会員数が激減して、『化粧品も返品の山らしいよ』やっぱり、なんか、あるのかな?」


なぎさは、思い当たるどころか、

「やっぱり…」と言ってしまった。


呉羽お婆ちゃんの骨壷のテーブルには、白いテーブルクロスが掛けられてあった。

その下に隠してあった、ケース入りの『魔法の杖』を取り出した。


「わあ、すごい」


「本物の輝きだ」


「ね、触ってもいい」


「いいよ」


なぎさは、呉羽お婆ちゃんの遺言を説明した。

今回は、『なぎさの家』リニューアルオープンのために使ってしまいましたが、世の中のために使ってほしいと願っていると思う。

「『グリーンジャック』も引き続きやって行きたいし、NPO法人立ち上げて、みんなにアイディアをいっぱい出してもらいたいと思う。よろしくお願いします」

パチパチ拍手が起こった。


「インターネットは繋がっているし、ホームページも開設してあるの。

でも、波多野家では、まだやったことないから、誰か得意な人管理お願いします」

杏樹が手をあげた。


「家でも、やっているけど、ここでNPOとしてやってもいい。チャットも早いし自信ある」

「じゃあ、杏樹にお願いします」


「その、イラスト部分、私がやりたい」

「そうだよ、なぎさの家一発で採用になったんだもの、可奈のイラストには、パワーがある。賛成」


「じゃあ、光治君とノコは、徹底的に調査、検索お願いします。いい案も期待しているから」


「なぎさは、何するの?」

「さあ、なにできるか…」


「やっぱり、なぎさが代表だよね。この会の責任を持ってもらう」


「ハイ、重いけど頑張ります。それに南山さん親子が、弁護士だし、いざとなったら、大人の智恵も出してくれると思う。会が正式に決まったら顧問なんか頼むつもりだから」


「ふー。すごいね」


「万理はどうすればいい?」


「何かの時に、行動を起こしてもらう。現地にいって、コーディネートするとか」

「ハイ、わかりました。一生懸命やります」


「グリーンジャックの人との連絡係は?」


「今日は来てないけど、春香に声かけてみようか? 春香、花、好きだよ」


「あ、それから個人的なことだけど」

なぎさが、ためらった。


「何?」


「私の母と光治君のパパが交際しているらしい」


「え~、じゃあ結婚したら一緒に暮らすんだ~」

これは、異口同音に叫んだ。


「なぎさのお爺ちゃんの時みたいに、また皆で、お祝いしよう」

「万理、タロットカード持っている? 」

「持っているよ。なんで?」


「占ってみてよ、この前なんだっけ? やらなかった占い」

「ノコのケイタイを隠した犯人」


「そうだった」


「やっぱり、高田さん入れなくて良かったよ、なぎさ、風間さんの家がもしかしたら傾くかもって、話する時の、高田さん嬉しそうだった」


「まあ、それが人の心理ってもんよ」


「じゃあ、やって見てよ、万理」


万理は、精神を統一して、両手でかき回し、カードを縦に並べ、横に並べ、最後に四枚ワキに並べた。

塔にかみなりが落ちて逆様になっている人や、小さな荷物を持っている人や、象徴的なイラストで、カードが語ってくれるらしい。

これが出たのも偶然だけど、その時に何を思っていたのかも、偶然なのだ。


「あ、ダメみたい隠者と、死神だもん」


「どちらかが、死ぬってこと?」

「そうじゃ、ないけど、そもそも合わない二人ってこと」


「そうだ、占いといえば、呉羽お婆ちゃんも、占い凝っていたらしくて、今度見つかったら、テキストあげるよ。中国四千年のコイン占いらしい。コインの表裏でイエスかノーか、出るらしい」


「うん、ありがとう」


「きっと、マスターするの大変だと思うけど」


他の人は黙りこくちゃってる。


「どうしたの?」

「人の不幸を、笑っちゃあいけないような気がしてさ、なぎさ平気なの?」

可奈は、あくまで人の幸せを思う。


「気にしない。今の占い、聞かなかったことにするから、ダメになるぞダメになるぞって、知っていて、応援するふりって難しいもんね…なるようになる、ならないものはならない」


なぎさは、ふと高田さんみたいに、なぎさの母さんの失恋を喜んでいるのだろうか? と思った。


「大人の恋は、子供がああだ、こうだ言っても仕方がないことだもの。私のママだって、結婚する時は、応援しようが、反対しようが、平気で自分のやりたいようにやるんだから、それに悪いけど、大人って打算入ってない?」


ノコは、なぎさの肩を持った。

なぎさの母さんと光治君のパパが一緒に歩いているのを目撃しているし、なぎさのお金を吸い上げられていることも知っている。

杏樹も、うすうす知っている。

光治君も知っている。


だからって、誰も言わない。


「なぎさのお母さんは、可奈の考えているようなお母さんじゃないよ」って。







☆☆☆☆





 母さんは、一人気付かずにいた。幸せの絶頂で、ピリオドが付けられるまで。

いつものように、お店で働いて、早番で終わって、おしゃれして出かける。

やっと私にも幸せが訪れると期待して。

一方、光治君のパパも出掛ける時には、美術館とか映画館とか、お芝居とか、芸術的なインスピレーションをもらえる場所を好んだ。


だから、池袋の芸術劇場で『バッハのマタイ受難曲』のかったるいイタリア語のオペラを、なぎさの母さんが、軽いイビキをかきながら寝てしまった事も気にはならなかった。


「ゲッセマの園から始まったから、丁度場面と合っている」

とイヤミでなくジョークでかわした。


その後、小さなロシア料理のレストランに入った。

母さんは、どうせなら、フランス料理にして欲しかったのに、と内心思っていた。

父さんと、早くに結婚して子供が出来て、こんな夢は味わった事がなかったのだ。


光治君のパパとしては安らげる空間なら何処でも良かった。

だから、違和感が少しあった。


「一度、こんな贅沢な店に来て見たかったのよね~。何にしましょうか」

なぎさの母さんの声は、見栄っ張りに響いた。


ピロシキ、赤ワイン、ビーフシチュー、サラダ、イチゴジャムのはいった、ロシアンティー。

「Aセット」

と光治君のパパは簡単に決めた。


「じゃあ~、私はBセット」

つぼ焼きのついている方だ。

中はクリームシチューが入っていて、カップの上にパイ生地がのっていて、オーブンで焼くのだ。


前々から一度食べてみたかった。

母さんは上機嫌でメニューをのぞき込む。

その表情を見て、光治君のパパは、亡き妻の事を思い出した。

今の人気イラストレーターの地位になるまで、決して平坦ではなかった。

最初は、貧乏絵描きだったのだ。


光治君のママは、光治君のパパが好きでついてきた。

両親の反対を説き伏せて、だから、ひなびた店でも、小汚いラーメン屋でも、にっこり笑って、二人でいられるだけでこんなに幸せだという顔をしてくれた。

苦労させてしまった。


ツーと涙がこぼれた。

あわてて、手でごまかして、トイレに行った。

トイレから帰ってくると、目の前にいるのは、元気な生命力あふれる、どちらかというとたくましい人。

最初、妻には無い、このエネルギッシュさは何だろうと惹かれた。

それは、家族のためにいきいきと頑張る人間の姿だったのだ。


「大変ですよね、母親一人で、二人の娘さんを、立派に育ててらっしゃる。うちも男の子一人だけれど、やっぱり片親っていうのは、片手落ちっていうか、力不足を感じます。うちの光治は、平凡なやつですが、なぎさちゃんは、あの年で、もう本を出版されたんですよね…あの時」


光治君のパパはその当時のことを思い出していた。

なぎさの母さんは、つい娘を自慢したくなって、あの時を知らないのでさえぎった。


「なぎさは、文学の才能があって、学校の宿題の作文を読みまして、もっと書くように応援しました。そしたら、たまたま本になりましてね、少しばかりですが、そのお金は、娘の将来のために、一円も使わず、母親の私が管理しているんですよ」

なんで、こんな言葉が口から出たのか母さんにもわからない。


美味しい赤ワインのせいで気持ち良くなったのかも知れない。

ただ、いい母親ぶりをアピールしたかっただけなのだ。


「え?」


「なぎさが、大学へ行って…将来」

なぎさの母さんは、続けて言った。


光治君のパパは、明きらかに態度を変えた。


「なぎさちゃんの、お母さん、あなたはウソをついている。その時のことを私はよ~く知っているんだ。娘さんのお金を一円も残らず使っていることも、家庭のためにだから仕方がない。だからといって…喜んでそうしているとでも? 子供の心を全くわかっていないんだ」


君のパパは席を立った。

「失礼する」


料理が運ばれる前だった。

そんなことはどうでも良かった。

こんなウソつきとはごめんだという、生理的なものだ。


なぎさの母さんは、食事代は光治君のパパの財布をあてにして、持ち合わせていなかった。

カードで買い物も嫌いだったので、持たなかった。

席を離れる訳にもいかず、周りの視線を感じながら、薄暗い間接照明の明かりの中でじっと床の一点を見つめていた。


気の済むまで、今何が起こったのか、一人で考えたかった。



☆☆☆


母さんの恋は一瞬にして砕けて散った。

だからと言って、娘として、なぎさはどう言っていいのかわからなかった。

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