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銀の魔法の杖  作者: はるのいづみ
15/24

おじさんは心配ない。

もっと小さい時、母さんは私たちを育ててくれている。

そしてそれが世界のすべて…。




なぎさは夢を見た。

まわりはマーブルケーキのように、今までの風景と闇の暗さが入り混じって、目まいがした。

ドンとしりもちをつくと、ふいに引力から解放された。

何者にも触れない闇の中で、ひとりぼっちで意識だけの世界のようだ。

手も足も空を切る。


「光治君、お婆ちゃん」

叫んだけれど、なぎさは自分のの声さえ聞こえない。


「三人で冒険」と思ったら一人っきり。

頼りなさで、泣きそうだった。

闇の中から、何かがきらめいた。

大きな氷の塊が宙に浮いている。

その、九十パーセントが、海水の中に沈んでいる。潜在意識の中に入ろうとするかのように、小さな無数の泡になぎさは包まれた。

海中のアザラシのように、泡はなぎさごと中に運んだ。


「なぎさ なぎさ」

泡は、ささやくようになぎさの名前を呼んだ。

誰かが通信してきた。でもおばあちゃんでも光治君でもない。


「誰?」


お父さん? もしかして死んだの? 何も言わない、ただ佇んでいる。

その人の顔はおぼろげながら記憶にあった。

すまなそうな気持ちが伝わった。

なぎさの目から涙があふれてきた。


「父さんなの?」


「わたし、ずっと待ってたのよ~。迎えに来てって、働いて、お金貯めて、家族が住める家を建ててくれるって、ずっと待ってたのよ。

なのに、一人で死んじゃって、死ぬ前に少しは、わたしたちのこと想ってくれた?」

やせた相手はなにもいわない。首をうなだれて横に振った。


なぎさの右手に、いつの間にか、大きなグローブをはめていた。

父さんにカウンターパンチを食らわせた。

爆発した、怒りの噴火はとどまることを知らず、何回も何回も、ボコボコになぐり付ける。

段々になぎさの方の力が強くなった。


父さんは黒く小さく痩せていって、「ごめんな」土下座じて謝った。最後に空中分解して光を放った。

そして消えた。


「もう、とっくに許していた…」

目が覚めた。


新しい朝がやって来た。


母さんくらいたくましい、さばさばしたなぎさが…。

泣いたから、目やにがいっぱいくっついていた。


話は早い方がいいというので、さっそく母さんと、おばさんと三人で、銀行に行くことになった。

なぎさは学校のお昼時間に抜けるのだ。

午後の授業に遅れるかもしれないけど、お家の一大事なのだから仕方がない。


通帳は、家に置いてあるけど、ハンコは光治君の家に置きっぱなしになっていた。

あわてて電話すると、光治君のパパが学校まで届けてくれるという。

イラストレーターの大先生が…。


「申し訳ないです!ありがとうございます!ハンコを預けてたこと、内緒にお願いします!」

なぎさは、汗をかきながら何度もお礼をいった。


振り向くと、母さんがおばさんといっしょに立っていた。


「もう?」

「何してんの? なぎさ、その先生は?」

こんなことで大人を使って怒られる~。ハンコを、他人に預けていたのがバレル!

なぎさの首が、すくんだ。


「いやあ、この人がぼくの財布を拾ってくれてましてね~。

お礼をいいに来たんですよ~これ少ないけどお礼!」


光治君の父さんが、おっとりと、うまく芝居をしてくれて、財布を開けて二千円なぎさに渡した。


「いいえ…いいんです。困ります!」


「なぎさ、お礼をいいなさい!」


あんな、善人そうな人が、人を担ぐはずがないと思ったのか、母さんはすっかり、本気にした。


「ありがとうございます!」


「ありがとうございます。この子の母です!」


光治君の父さんは、親切過ぎて、銀行まで車に乗っけてくれた。


「え!イラストレーターなんですか?すっごい!」

母さんは、なぎさも実は、本を出しまして、なんてしゃべり出さないか、ひやひやした。


支払いを全部終わると、三人は力が抜けてしまった。

おじいちゃんは、母さんに一任していた。

特になぎさは、風が吹いてもよろけそうなぐらい。

確かに、お金がないと、人って力が抜ける。

不安に陥る。

大人って大変だ。

子供を一人養うのに、一人一千万円かかるという。

母さんはそんな中で、一人頑張っていたんだ。

偉いと思った。


「なぎさ、タクシーで学校に帰って、今日は本当にありがとうね!」

タクシーに乗ると、二人は車を見送った。


「なぎさちゃん、ありがとうございました」

おばさんも、深ぶかと頭を下げた。


おじさんからは、まだ連絡が来なかった。

「警察に電話した方が、良くない?」

母さんは、一日に一回ぐらいはそういった。


「大丈夫だって、明るかったもの」


おばさんは心配どころか、取り合わない。

姉貴が、なぎさにこっそりいった。「死んでくれた方が良かったのかしら」

「う…ん」

なぎさにも、おばさんのあの明るさが、分からなかった。



十日くらいして、一枚のポストカードが届いた。

ピンクの富士山の写真。おじさんからだ。


お元気ですか? 

ぼくはすっかり生まれ変わって、富士山の写真撮り続けています。

ケイタイの、伝言聞きました。

何から何まですっかりお世話になりました。

父さん、なぎさちゃん、ありがとうございました。

凛子、子供にも心配かけてすまなかった。

正美すっかり世話になってしまいました。

近いうちに落ち着き先が決まったら、連絡します。

            


波多野博之    




「よかった、生きてた。一安心だわね~」

おじいちゃんは、何も言わない。おばさんはもちろん、うれしそうだった。


母さんはほっとしていた。

本当になぎさはクラスメイトから、リッチだろうと思われていた。

税金もいっぱい納めていた。

でも、ふところ具合は木枯らし状態だった。


前にもまして、つつましく暮らしていた。

ノコからは、

「あの本、買いなよ、面白いよ!」

色んな本をいっぱい紹介してくれるけど、貧乏で買えなかった。

ノコにはそれがわからない。


光治君の父さんにもらったお金は、「財布と相談をして…」ありがたく、もらっちゃうことにした。


子供は親の保護の元で、安心して生活できる。

はずである。

でも、大人の事情で、そうとは限らない、こともある。

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