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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第3章 憧れに至る道 (姫愛視点)
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3-19. 私の想い

柚葉ちゃんが帰ってから、私は再びベッドの上で横になり、物思いに耽った。

私が力を欲しかったのは何故だったのか。他人を助けたいと思ったからだよね。

心の中で、悪い自分が捻くれたことを言う。単に他者より優位に立って優越感に浸りたかっただけではないかと。

そんなことではなかったともう一人の自分が言う。純粋に困っている人を助けたかったのだと。

世の中に絶対的な正義なんて無いのは分かっている。自分が正しいと思っていることも、別の視点から見れば、正しくないかもしれない。いくら自分に力があったって、助けられるのはごく一部だ。そんな一部の人たちだけを助けたところで、それは単なる自己満足に過ぎないかも知れない。

でも、と思う。それでも私は助けたいんだ。他の人が泣くのは見たくない。皆が笑顔になるのは難しいのかも知れないけど、泣く人だけは出したくない。そのために必要なのは力だけではないかも知れないけど、力があれば助けになると信じている。

それが私の考えの基本なんだ、と思う。子供のころから持っていた想い。

何となく頭の整理ができたように思った私は、ベッドから起き上がった。帰ってからまだ着替えもしていない状態だったことを思い出し、化粧を落としてシャワーを浴び、部屋着を着た。考え続けたせいか、何となくお酒が飲みたくなって、冷蔵庫から酎ハイの缶を取り出して飲んだ。そして部屋の灯りを消して、早々とベッドに入ってしまった。




翌朝、前の晩に早く寝てしまった私は、早くに目が覚めてしまった。仕事は午後からなので、午前中どうしようかと考えて、ダンジョンに行くことにした。いままで一人で入ったことがないので、ここで一度試してみたいと思ったからだ。もちろん、力不足は実感しているので、危ないところに行くつもりはない。動き易いようにシャツとパンツを着て、物入れとしてナップサックを出し、仕事に行くときの服の着替えと、いつも持ち歩いている肩掛け鞄もナップサックの中に入れてまとめて背負った。

私が向かったのは井の頭公園だった。いままで行ったことは無かったけど、そこにダンジョンがあるのはネットで調べて知っていた。協会の売店で、魔獣を運ぶための大きくて厚手のビニール袋を買い、レンタルのヘルメットと剣と盾と借りた。

井の頭公園のダンジョンも、戸山ダンジョンと同じ中型のダンジョンだ。なので、第一層から出てくる魔獣は中型となっている。

ダンジョンの中に入って探知する。手前の方には魔獣はおらず、奥の方に分散しているらしいことが分かった。人の数も少ないようだ。こんな平日の朝では当たり前か。

私は先日の雪辱を果たすため、イノシシのような魔獣の気配を探り、そちらの方に向かった。辿り着いた先には、探知で探っていた通りに、イノシシのような魔獣がいた。私は、ヘルメットを脱いで盾とともに脇に寄せておいた。そして剣だけを持って魔獣に近づく。すると魔獣の方も私に気が付いて、突進してきた。

私は、力を体に満たして、身体強化をすると同時に、前面に防御障壁を張った。一つでは防ぎ切れないと思ったので、二重に張ってみた。そして、魔獣が防御障壁にぶつかろうかというところでジャンプして防御障壁を飛び越え、魔獣の首筋に向けて力を乗せた剣を突き出した。魔獣は、最初の防御障壁は易々と破ったがそこで勢いがそがれたためか、二つ目の防御障壁では一旦止まった。そのお蔭で、剣は意図した通りに魔獣の首筋に刺さった。そこで、剣に乗せた力の刃を射出し、私は剣を引き抜いて前側に一回転して魔獣の後ろに着地した。

後ろに振り返って魔獣を確認してみたが、無事に斃せていた。柚葉ちゃんの真似ではあるけど、苦労していたイノシシみたいな魔獣を素早く斃すことができて満足した。

私はヘルメットをかぶり直し、斃した魔獣を袋に入れて入り口まで持って行くために担いだ。柚葉ちゃんは浮遊を使って袋を軽くできるみたいだけど、早くから楽することを覚えてはいけないと言われて、私はまだ教えて貰えていない。だから、身体強化を可能な限りかけて、かつ治癒もかけ、しかも余分な盾も持ちながら、えっちらおっちら入り口まで背負っていった。ダンジョンの魔獣買取窓口まで持って行ったら、良く一人で持ってきたと言って驚かれた。

そして再びダンジョンに戻った。魔獣を背負って入り口に向かっているときも、もちろん探知をしていたのだけれど、魔獣が不穏な動き方をしているようなのが気になっていた。それで、今回はその気になる動きをしていた方に向かった。そこでは、男女のペアが魔獣と戦っていた。その魔獣は瀕死の状態で、あと一息で斃せるところまで来ていたようだったけど、問題なのはそこではなかった。

「あのぅ、お取込み中にすみません、ここに別の魔獣が向かって来ているのですが、気が付いていらっしゃるでしょうか?」

私は魔獣を横取りする意思が無いことを示すように、剣から手を放して近づいて、丁寧な口調で話してみた。

「別の魔獣が来ているって?」

男の人の方が、私の言葉に反応してくれた。

「はい、しかも二体ですけど、あちらとそちらの方から近づいています」

「そう言って避難させて、この魔獣を持って行くとかではないのか?」

「いえいえ、トンでもないです。他人の斃した魔獣を取りたいなんて思っていないですよ。ほらもうそこに見えているじゃないですか、迎え撃つなら準備した方がよいですよ。もし、差し支えないようでしたら、片方は私が受け持ちますけれど」

男女は顔を見合わせていたが、男の人の方が意を決したのか、私の方を向いた。

「では済まないが、左の方を頼む、右の方は僕たちで斃すから」

「分かりました」

やってきたのはどちらもハイエナのような魔獣だった。戦いで流れた魔獣の血の匂いに惹かれて来たのかも知れない。魔獣を斃すのに時間が掛かっていたのだとすると、二人の技量はそれほど高くないことになる。

人前で力を使うわけにもいかないので、私は身体強化だけをし、盾を持ったまま左側の魔獣に向かった。そして、攻撃を盾で受けて剣で反撃することを繰り返した。魔獣の動きを良く見ながら前足の付け根を狙って攻撃を続けたら、割と早く動きを止めることができた。そこで剣を勢いよく振り下ろして、止めを刺した。

自分の方が片付いたので、振り返って二人の方を見たが、そちらも魔獣を斃せそうな状況になっていた。

「ありがとう、助かった」

「ありがとうございます。あそこで不意打ちされていたら危なかったです。教えていただいて助かりました」

後から来た二体の魔獣を斃したあと、男女からお礼を言われた。

「いえいえ、お役に立てて良かったです。でも、たまにこうして魔獣が寄ってきてしまうことがあるので、注意しておくと良いですよ」

私は見知らぬ二人に挨拶すると、自分が斃した魔獣を袋に入れ、盾と一緒に担いでその場を離れた。探知によれば、近くにはもう魔獣の姿は無さそうなので、このまま二人が入り口に戻れば襲われることも無いだろう。人助けができたという意味では満足なことだった。

それで考える。これが私の思い描いていた他人を助けることだったのかと。あそこで私が警告しなければ、どちらかが、最悪は二人ともが怪我をするなどして泣くことになったかもしれない。それを阻止できたことは、良かったことだ。とはいえ、私が今日ここに居たのは偶々だった。二人の素性もまったく知らない。人助けは良いことだが、これが私が本来したかったことだったのか、いま一つ胸の内でハッキリとしなかった。


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