3-18. 力を増す方法
私は柚葉ちゃんと別れてから、念話で藍寧さんに連絡を取った。相談事があるので会って話したいとお願いして、明日の火曜日の夜なら良いとのことで、その時間にした。
翌日の夜、私は藍寧さんと新宿で会った。内緒の話ということで、個室のある喫茶店に行った。藍寧さんは会話結界が使えるので、わざわざ個室にしなくても問題は無さそうだったけど、藍寧さんの希望に従ったのだ。
それぞれ珈琲とケーキをオーダーしたあと、私は藍寧さんに向き合った。
「呼び出してしまってごめんなさい、藍寧さん」
「いえ構いませんよ。愛子さんの様子も気になっていたので。それで、相談とは何でしょう?」
「お師匠様と訓練していたんですけど、思ったほど力が出てないってお師匠様に言われてしまったんです。それで、どうしたら力が出るようになるか相談したくて」
「ああ、そうなってしまったのですか」
「どうしてか分かりますか?」
「確実ではないですが、そうなりそうな理由として考えられることはあります」
「それは何ですか?」
藍寧さんは、右の手を頬に当て、左手で右の肘を支えて考えるような姿勢になった。どう言おうかを考えているようだった。
「あなたの身体は、力の通りが悪いのかも知れません」
「力の通りが悪いと、パワーが出ないのですか?」
「ええ。力の通りが悪いと、力のロスが大きくなって実際に使う力が小さくなったり、身体の負荷が高いことで身体を壊さないように力を抑えてしまったり、というようなことが起きたりします」
「それって何とかできますか?身体のせいだと直しようも無さそうですけど」
「できますよ。力の通りの良い身体に入れ替えれば良いのです」
「身体を入れ替えるのですか?え?私じゃなくなってしまうってこと?」
私の言葉を聞いた藍寧さんは、両手の掌をこちらに向けて振った。
「誤解させてしまったようでごめんなさい。愛子さんを別の人にしようってことではないんです。巫女の力を強くしたいときだけ、身体を入れ替えるのです」
「特撮ヒーローものとかの変身みたいなもの?」
「そうですね、変身に似ていますけど、戦闘用のスーツを装着するとかではなくて、文字通り身体の入れ替えなのですけれど」
「どうやって入れ替えるのですか?」
「別の身体を予め用意しておいて、必要な時にその身体と入れ替わるんです」
「その身体はどうやって用意するのですか?」
「巫女の力で作るのです。力で作った身体は、力の通りが良いので、持っている力を最大限に使えます」
「それじゃあ、今すぐに作りたいです。やり方を教えてください」
力が出ないという問題を無くせるのなら、やる以外の選択肢がある筈もなく、私は勢い込んで藍寧さんにお願いした。しかし、藍寧さんはそんな私に対して両手を上げて、ストップのジェスチャーをした。
「慌てないでください、愛子さん。まずはどんな身体を用意するかをきちんとイメージしないといけません」
「どんな身体、ですか?」
「あなたの想いが沢山詰まった身体の方が力の通りが良くなるのです。だから、良く考えてみてください」
「分かりました」
まあ、確かにどんな身体を用意するかを考えないと作ることもできないし、いまは何のアイディアもまとまっていない。これから考えねば。
私は藍寧さんと、身体を作るのをいつにするかを話し合って、金曜日の午後にしようと決めた。それまでに私はどんな身体を用意するかを決めないといけない。
藍寧さんと別れた私は、家に帰った。家は、中井の駅から歩いて6~7分のところにある古い1DKのマンションだ。東中野からも歩けるので、行く先によっては東中野から歩いて帰るけど、今日は新宿だったので、中井まで電車で来た。部屋に入ると灯りを点ける。探知を使うようになってから、灯りが無くても困らなかったけど、誰も住んでいないと思われるのは不用心なので、家に居るときは灯りを点けるようにしている。靴を脱いで中に上がったら、そのままベッドのところまで行き、その上に横になった。
「想いの詰まった身体かぁ」
それって何なのか、藍寧さんと話していたときは分かったような気になっていたが、改めて考えてみると、想像が付かなかった。
「お師匠様に相談してみるかなぁ」
思考の方向性が定まらず、柚葉ちゃんにアドバイスが貰えないかという考えが頭をよぎった。柚葉ちゃんは、もう寝ているのだろうか。念話で呼び掛けてみる。
『もしもし、お師匠様、ちょっと良いでしょうか』
『愛子さんですか。どうしました?』
『遅い時間で悪いのですけど、相談したいことがありまして』
『何でしょう?』
『力を強くするために、想いの詰まった身体を用意しないといけないんですけど、どういう身体が良いかなぁって』
『良く分からないので、直接話したいんですけど、愛子さんはいまお家ですね?』
『そうですけど?』
『では、いまから行きます。良いですよね?』
『え?まあ、良いですけど、どれくらい掛かりますか?』
「どれくらいって、転移を使えば一瞬ですよ」
「わわっ」
ベッドの横に柚葉ちゃんが立っていた。柚葉ちゃんは部屋着姿だった。
「ごめんなさい。吃驚させちゃいました?」
「いえ、大丈夫です。でも、転移が使えたんですね」
「ええ、愛子さんにはまだ教えてなかったですね。今度教えてあげます」
「ありがとうございます。あ、お師匠様、この椅子に座ってください。いまウーロン茶持ってきますから」
私はベッドの横にあったデスクの椅子を柚葉ちゃんに進めた。そしてキッチンに行き、戸棚からグラスを二つ取り出すと、冷蔵庫に入っていたウーロン茶のボトルからウーロン茶をグラスに注いだ。そしてグラスを持って柚葉ちゃんのところに戻り、柚葉ちゃんの分のグラスをデスクの上に置いた。そして、私は自分の分のグラスを持って、ベッドに腰掛ける。
「愛子さん、ありがとうございます」
「それでですね、相談したかったことなんですけど」
私は藍寧さんと話したことを、一通り柚葉ちゃんに伝えた。
「そんな訳で、想いの詰まった身体を用意することになったんですけど、どういう身体が良いのか分からなくて、お師匠様に相談しようと思ったんです」
柚葉ちゃんは、腕を組んで首を傾げた。
「うーん、結局は、愛子さんの心の中の問題のような気がするから、私は答えを出せないと思いますけど、アドバイスならできそうです」
「何でも良いのでお願いします」
「愛子さんは、想いの詰まった身体に詰まっている想いって、どんな想いだと思ってます?」
「どんな想い、ですか?」
「そう、どんな想いが詰まっている体なら、力を出せると思います?」
「強くなりたい想い、とか?」
「強くなることが愛子さんの目的でしょうか?私は強くなること自体は目的じゃなくて、手段なんだと思ってますけど。何かをするために強くなる。じゃあ、何をしたいのか。そのやりたいことを目指す心、それが想いなんじゃないかって」
「私が何をしたいのか、ですか」
「私が愛子さんに言えるのは、それくらいかな」
柚葉ちゃんは、グラスを手に取ると、ウーロン茶を口に運んだ。
私は考え込んでしまった。想いの詰まった身体がどんな身体かを考えようとしていたら、そもそもの想いって何かを考えるように言われたから。でも、柚葉ちゃんの言っていることは正しいように思えた。私がしたい何か、それをやりたいという想いがあるからこそ強くなれる、そんな気がした。
「愛子さん、考えられそうですか?」
「何となく分かったような気がする」
「それでは、今夜の私はお役御免ですね」
柚葉ちゃんは、ウーロン茶を飲んで、グラスを空にすると、机の上に置いた。そして、椅子から立ち上がると私に背を向けて歩いていこうとしかけて、私の方を振り返った。
「ウーロン茶ご馳走様でした。また悩むことがあったらいつでも呼んで貰って良いですよ。それじゃあ」
柚葉ちゃんは、前に向き直り、後ろ向きのまま手を振った後、転移して消えた。




