3-17. 成長の壁
週末はまた仕事だった。柚葉ちゃんに会えたのは、月曜日になってからだった。
月曜日の放課後、私は柚葉ちゃんと戸山ダンジョンに潜った。
「愛子さん、今日は、力を使った攻撃をやりたいと思います」
「はい、よろしくお願いします、お師匠様」
柚葉ちゃんを先頭にダンジョンの中を進む。二人とも明かりを使わず探知だけで周囲の状況を確認しながら進んでいく。いつものように防具と剣を持っているのは私だけだ。勿論、私も防御障壁が使えるから防具は無くても良いんだけど、それだと怪しまれるのでカモフラージュのために持っている。だから、戦うときには防具は外して使っていない。
ダンジョンの洞窟を進んで、少し開けたところに出たところで、柚葉ちゃんが止まった。
「ここで少し練習しましょう。他の人が来たら、すぐ止めるようにね」
「はい、お師匠様」
私は頷いた。探知を磨いたおかげで、このエリアにどこから人が近づこうが、分かるようになったのだ。
「最初は、剣に力を乗せてみてください。前に教えましたよね」
「大丈夫、やれます」
私は剣に力を乗せた。剣の刃のところが銀色の光に包まれている。
「うん、それで良いです。じゃあ、そのまま剣を振って」
剣に力を乗せたまま剣を振った。
「それじゃ、次。剣を振ったときに、遠心力で飛んだみたいに力の刃を前の方に飛ばせる?」
私はもう一度剣を振り、振った勢いて剣に乗せていた力の刃を自分の前方に飛ばしてみせた。
「うん、飛ばせますね。じゃあ、今度は力を乗せた剣を、私の防御障壁にぶつけて、ぶつけた勢いで剣に乗った力の刃を防御障壁を破るように押し込んでみて」
そう私に指示をすると、柚葉ちゃんは防御障壁を作った。
その防御障壁に向けて、力を乗せた剣を振り、ぶつかったらその勢いのまま力を押し込もうとした。けれど、力は防御障壁に弾かれてしまった。
「硬すぎた?少し弱めますか。もう一度やって」
言われて、再度力を乗せた剣を振って、その勢いで力を押し込んでみた。今度は、剣が入ったところよりも奥の方まで力で斬ることができた。
「まあ、こんなところでしょうか。あとは、力を乗せた剣を構えた状態から、剣を飛ばす方法がありますけど、やったことはある?」
「いえ、無いです」
「それじゃ、やってみせますから、剣を貸してください」
「はい」
柚葉ちゃんは剣を受け取り、左手を右前方に出して剣先を乗せた。その状態で力を剣に乗せると、剣の刃のところが銀色に光輝き始める。眩しくなったところで、柚葉ちゃんが気合を入れると、銀色に輝いていた力の刃が前方に飛び、その先の壁に当たり、当たったところの周囲を吹き飛ばした。
「おー、お師匠様、凄いです」
「はい、剣を返すからやってみて」
「分かりました」
剣を柚葉ちゃんから受け取ると、先程柚葉ちゃんがやったように左手を右前に出して、そこに剣先を乗せた。その状態で力を乗せ、さらに強めていく。強まってはいるものの、柚葉ちゃんほどには輝いていない。
しかし、それ以上輝きが強くなるようにも見えなかったので、その状態で力を前に飛ばそうとすると、力の刃が前方に飛んでいった。そして、ダンジョンの壁にぶつかり、ぶつかった辺りを吹き飛ばした。しかし、その吹き飛ばされた量も柚葉ちゃんがやったのより少ないように見えた。
「できましたけど、お師匠様のより威力が弱いですね」
「そうだね、これがいまの愛子さんの最大なのかなぁ」
柚葉ちゃんが、少し残念そうな顔をしていた。
「まだまだです」
悔しいので、何度か繰り返したんだけど、強さはあまり変わらなかった。
「愛子さん、まずは良いよ。次、光弾陣に行くよ」
「はい」
柚葉ちゃんが、光弾陣の形を見せてくれた。その形を覚えて、人差し指の前に陣を描く。するとその陣の前に光の弾が現れた。
「それを前の方に撃って」
指先に力を蓄えて光弾を撃った。光弾は、壁に当たり、爆発して当たった部分の壁を抉った。
「やり方は分かったと思うから、実戦で使ってみようか」
私は探知で引っ掛かっていた魔獣の方に向けて歩いていった。
「愛子さん、今回は遠隔から光弾陣を使うのは無しでやってね」
「遠隔で?」
「ほら、作動陣は何処にでも出せちゃうでしょ。光弾陣も遠くに出せるから、自分に注意が行かないように戦えてしまうの。それだと訓練にならないから無しってことで」
「なるほど、確かにそれじゃ訓練にならないですね。分かりました」
要は、魔獣の注意を自分に引き付けながら、それでも勝つようにってこと。誰かを護りながら戦うなら、そうするのが普通だよね。
私は、目当ての魔獣が視界に入るところまでたどり着いた。魔獣は、イノシシみたいなのだ。
剣を構え、身体強化し、剣に力を乗せて魔獣めがけてダッシュする。魔獣もこちらに気が付き、突進してきた。私は素早く避けて剣を叩き込もうとしたけど、その前に魔獣に駆け抜けられて、空振りしてしまった。
魔獣が旋回して、再び突進してくる。その勢いを止められないかと、頭目掛けて光弾を撃った。しかし、魔獣の足を止めるには至らず、私は再び突進を避けて力を乗せた剣を振るった。今度は攻撃が入ったけど、入ったのは胴体で、まだ浅い。
このままだと埒があかないので、私は左前足に攻撃を絞ることにして、魔獣が遠くに離れているときには光弾を当て、近づいたら突進攻撃を避けながら剣で切りつけるを繰り返した。その甲斐あって、左前足でびっこを引くようになり、魔獣の突進が弱まった。
そこで、今度は右前足を攻撃して動けなくし、力を乗せた剣で首筋を狙って止めを指した。
「お師匠様、倒しました」
「うん、倒せたけど、どうだった?」
「盾を使って戦ったときより苦労しました」
「そうですよね。どうしてなのかは、分かっていますね?」
「はい、防御障壁を使わなかったから」
「どうして使わなかったの?」
「破られると思ったから」
「そう、その判断は間違っていなかったと思うんだけど、使わなかったら、どれくらい強さが足りないのかも分かりませんよね。だから、どのみち避けるつもりで防御障壁を張った方が良かったです」
「はい、次はそうします」
「あとは、もう少し攻撃方法を工夫したいですね」
「工夫ですか?」
「盾も持ってなくて身軽なんですから、もう少し自由に動けると思うのですが?」
「例えば、どんな風にですか?」
「やってみせましょうか」
柚葉ちゃんが、ダンジョンの中を歩き始めた。右に行き、左に行きとどこに向かうのかと探知を使いながら考えていると、前の方に、さっきの魔獣と同じものが一体いることに気が付いた。どうやら同じ魔獣でやってみせてくれるらしい。
「愛子さん、剣を貸してくれますか?」
「はい、どうぞ」
魔獣が見えてきたところで、柚葉ちゃんは私から剣を受け取った。そしてそのまま魔獣に向かって駆けていく。
魔獣の方も柚葉ちゃんに気が付いて、突進してきた。柚葉ちゃんは剣に力を乗せると、魔獣の突進をジャンプして躱し、前方に半回転したかと思うと、魔獣の背中の首筋あたりに剣を差し込み、そのまま剣に乗せた力の刃を押し込んだ。そして、柚葉ちゃんはさらに半回転すると、魔獣の後ろに降り立った。首筋を切られた魔獣は、その場で斃れた。
「愛子さん、自由な動きって、こんな感じですけど分かりました?」
「良く分かりました」
それほど強い力を使うでもなく、一撃で中型の魔獣を斃してしまった。流石はお師匠様という感じだ。もっともっと戦い方を覚えないといけない。
「まあ、中型の魔獣なら、色々工夫することで斃せるようになるとは思いますが、やっぱり愛子さん、パワー不足ですよね」
「やっぱりそうですか」
私が力を使ったときの柚葉ちゃんの反応を見て、期待ほどではなかったのではと思っていたけど、どうやらその通りだったらしい。
「まだどこに原因があるのか分からないですが、一度藍寧さんに相談してみて貰えますか?」
「何て相談すれば良いかな?」
「単純に、思ったほど力が出ないみたいだけど、何か力が出るようにする方法が無いかって聞いてみればと思います」
「分かりました。聞いてみる」
「はい、では、今日はあと何体か中型魔獣と戦ってみましょう」
私はその後、四体の魔獣と戦って斃した。その四体と戦う中で立ち回りを工夫してみることはできたが、残念ながら、力が強くなることはなかった。
 




