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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第3章 憧れに至る道 (姫愛視点)
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3-15. 探知陣

金曜日の午後、私は渋谷に向かった。藍寧さんから渋谷で会いたいと連絡があったからだ。

ハチ公口の改札を出たところで、私は藍寧さんの姿を見つけた。

「藍寧さん、こんにちは。お待たせしました」

「愛子さん、こんにちは。まだ待ち合わせの時間になってないですし、問題ないですよ」

二人で近くのカフェに入って、それぞれ注文した。私はミルフィーユのケーキセットだ。

「愛子さん、探知陣を知りたいってことでしたね?」

「そうですけど、ここでそんな話をしても大丈夫なのですか?」

藍寧さんが無造作に巫女の力の話を始めたので吃驚した。

「ああ、大丈夫ですよ。会話結界を張っていますからね」

「え?気が付きませんでした」

「分からないようにやっていますからね」

藍寧さんは微笑んだ。

凄いと言えば凄いけど、私に分かるように結界を張ってくれないと、逆に心配になってしまうだけど。

「これくらいでも気が付く人には分かってしまうんですよ。愛子さんも頑張ってください」

え?心の声が聞こえてた?

「はい、もっと上達するように頑張ります」

「ええ、その意気です」

「それで、今日なんですけど、探知陣と、あと、気になる人に印を付ける方法を教えて貰えないかと」

「なぜ探知陣を知りたいと思ったのですか?」

「え、いや、あの、お師匠様がきっとあるだろうからって」

「お師匠様?」

「お師匠様って、私に力の使い方を教えてくれている女の子です。柚葉ちゃんって言う」

「ああ、南森柚葉さんですね」

「お師匠様のこと知っているんですか?」

「お話したことはないですけど、お顔とお名前は知っていますよ。南の封印の地の巫女ですね」

「はい、そのお師匠様が、探知陣があると、効率が上がるだろうって言ってました」

藍寧さんは、腕を組んでしばらく考えこむような姿勢をした後で、顔を私に向けて笑みを見せた。

「探知陣のメリットは、効率が上がることだけではないのですよ。あなたのお師匠様は、きっとそれにも気が付いている筈です。でも、良いでしょう、教えますね」

藍寧さんは、テーブルの上に模様を描いた。

「愛子さん、これが探知陣です。良く覚えて、同じように力で描いてみてください」

私は、一旦いつも使っていた探知を止めて、藍寧さんが描いたのと同じものを力に描かせてみた。すると、いつもと同じような探知ができた。

「できたみたいです」

「はい。やってみて分かったと思いますけど、探知陣は探知を始めるトリガーでしかないので、探知を始めた以降は消してしまって大丈夫です。何を探知するかは、探知陣に書き足しても良いですし、自分の意志でコントロールしても良いです。効率のことを言えば探知陣に条件を書き足した方が効率は良いですけど、柔軟性がありません。それに、探知陣にどう書き足したら良いのかを、勉強しないといけません」

「その勉強って、どのくらいの難しいんですか?」

「そうですね、理論的にきっちり覚えるとなると、大学の数学レベルの難易度でしょうか」

それはまたちょっと難しすぎじゃないのかなぁ。

「自分の意志でコントロールします。それで、効率以外のメリットって何ですか?」

「探知陣がトリガになると言いましたけど、もう一つ、探知陣が探知の起点にもなるんです」

「それが何か嬉しいことなんですか?」

「そのことについては、あなたのお師匠様に聞いてみてください。きっと分かると思いますから」

何か釈然としないものを感じたが、柚葉ちゃんが知っているというのなら聞いてみようか。

「お師匠様が分からなかったら、教えてもらえるんですか?」

「分からないことは無いと思いますけど、もしも分からないという時には私が教えましょう」

「分かりました。それで、印を付けることについては教えて貰えますか?」

「まあそれについても、あなたのお師匠様が知っているとは思いますが、簡単なところは教えてあげますよ。気になる人やモノに、力で模様を作って、そこに埋め込むのです」

「そう、例えば、私があなたを気になるとして、こうして模様を作ってあなたの体に埋め込むのです」

藍寧さんは、実際に力で模様を作って私の体に埋め込んで見せた。

「埋め込むと、その印を探知したいと思えば、頭の中に地図が出てきて、場所もプロットされます。大きさは関係ないですよ。試しに私でやってみてください」

言われるままに、周りに目立たないように小さな印を作って藍寧さんの体に埋め込んでみた。そして、探知でその印を探してみると、目の前の藍寧さんが該当するものとして出て来た。

「藍寧さんが、探知に引っ掛かりました」

「できたようですね」

「ありがとうございます」

「これで愛子さんの用件は終わりですか?」

藍寧さんが早々に話を切り上げようとしているように見えたので、私は慌てて言葉を探した。私は藍寧さんともっと話がしたかったから。

「あの、探知陣については終わりで良いんですけど、もっとお話できませんか?」

「良いですけど、どんなお話がしたいのですか?」

「藍寧さんのことについて、もっと知りたいのですけど?」

「私のことですか。お話できる範囲の中でしか、お答えできませんよ」

「藍寧さんが、いつどこで生まれたとか?」

「そうですね。私は気が付いたら存在していたので、それ以前のことは何もないんです」

「存在していた?」

「そうです。私は本当に創られた存在なので、親もいませんし。最初からこの姿です」

「え?じゃあ、子供の頃もないんですか?」

「無いですね」

「すみません、そんなこととは知りませんでした」

「良いんですよ、そうしたことを気にする気持ちもありませんので」

いや、こっちの方が気にしてしまうのだ。

「でも、本当に創られたんですね」

「はい」

「誰に創られたとかは、教えてもらえるんですか?」

「構わないですよ。私を創ったのは、正確には人ではないのですけど、私は主様って呼んでいます」

「主様ですか?」

「ええ。私の体を作ったのも主様なら、私の使っている力も主様のものです。あなたの使っている力も主様のものなので、同じですね」

「その主様ってどこにいるんですか?」

「いまどこにいるのかは分かりません。主様が隠れようとすると、私では見つけられないのです」

「じゃあ、そうやって藍寧さんに指示を出しているのですか?」

「実のところずっと指示は貰っていないんですよ」

「それで困ったりしないのですか?」

「別に。私達の目的は一つですから。その目的に向けて何をするかは私達の自由です」

「目的って、世界を護ることですよね?」

「その通りです」

「それじゃ、私に力を与えてくれたのはどうしてですか?」

「まあ、いくつか理由はあるのですが」

「はい?」

「それは内緒です」

「内緒ですか」

「内緒ですね」

「えー、気になります」

「いつか分かるときが来るかも知れませんから、気長に待ってみてください」

「そんな日が来るんですか?」

「多分、としか言えませんけれど。ただ、一つだけ言えるのは、愛子さんなら力を与えても大丈夫かな、と思えたからです。良いと思わない人には他にどんな理由があっても力は与えないですから」

「それじゃ、私のどこが良いと思ったのかは教えて貰えます?」

「一言では言い難いですけど、例えば純粋なところですね」

「純粋、良い響きですね」

「そうですね。悪く言えば、単細胞とか、警戒心が無さ過ぎる、とか」

「そこで悪く言う必要があるんですか?」

「そういうノリの良いところも好きですよ」

私は揶揄われているのだろうか。

「分かりました。ともかく、藍寧さんは私を認めてくれたということですよね」

「そうです」

藍寧さんは頷いた。内緒の部分があるのは気にはなるけど、藍寧さんは私に対して真摯に向き合おうとしてくれているのは感じたので、ひとまずはそれで納得することにした。

「じゃあ、それで良いことにします」

次の話題をと思ったときに、お師匠様に言われたことを思い出した。

「そうそう、藍寧さん、この前言い忘れてしまったのですけれど、お師匠様が藍寧さんと話がしたいって言ってました」

「そうですか」

藍寧さんは、そっと目を伏せた。

「そうですね。きっと、柚葉さんとはそんなに遠くないうちに、お話することになると思います」

「そうなんですか?」

「ええ」

そう言うと、藍寧さんは顔を上げて私に向けて微笑んだ。

「きっとそうなると思います」


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