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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第3章 憧れに至る道 (姫愛視点)
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3-2. 女子高生たちとの出会い

白銀の巫女を新宿で目撃した二日後の金曜日、私は仕事前にいつもの喫茶店に向かった。その喫茶店は大久保と新大久保の間にあるのだが、私のお気に入りで毎週通っている。そのお店を見つけたのは偶然だった。

私の相棒である西神(にしがみ)陽夏には、謎が多い。仕事は仲良くやっていたが、プライベートは明かさなかったし、他人との関わりでは、一定以上の距離を保とうとしているようだった。何か昔の出来事が影響しているらしいことを漏らしたことがあったけど、それ以上のことは話して貰えていなかった。とは言え、仕事帰りはいつも一緒に食事処や喫茶店に行って、食べたり飲んだりしながら他愛のない会話をするのが普通だったし、仲も悪くなかった。

私たちの仕事は、大体曜日で仕事場が変わっていた。金曜日は新宿で、しかも開始が夕方から夜にかけての時間だった。なので、金曜日は夕方早めに新宿に行って、軽くお腹にたべものを入れてから仕事に行くことにしていた。そのとある金曜日、大久保の駅に電車が到着したとき、出口への階段を降りる陽夏の姿を見つけた。

「陽夏?」

私は電車を降りて陽夏の見えた階段の方に行ったら、階段を下りきって改札に向かうミディアムの髪型の後ろ姿が見えたので、慌てて追いかけた。そして改札のところまで行くと、大通りを歩いているのが見えたのでそちらの方に行ったのだが、大通りから曲がったところで見失ってしまった。直前まで付けられていることに気付いた素振りも無かったので、何か見間違えたかと周辺を歩き回っているときに、そのお店を見つけた。お店の名前は、喫茶店メゾンディヴェール。何故か気になって入り、出てきた珈琲とパスタが美味しくて、それ以来常連になった。

その店に何度か出入りを繰り返しているうちに、お店の人たちとも親しくなり、店長の琴音さんとは名前で呼び合う仲になったし、四辻さんから珈琲の美味しい煎れ方を教わったりもした。日替わりのパスタも美味しいので、新宿での仕事のときは、良く仕事前の食事を取りに寄る。

今日も、バスタは何かなと思いつつお店の扉を開き、店の中に入っていった。

「あら、愛子さん、いらっしゃいませ」

「こんばんは、また来ました」

愛子は私の本名だ。このお店は仕事には関係していないので、琴音さんには本名の方を教えている。

店のカウンターには、珍しく近くの学校の女子高生が二人座っていた。琴音さんは、私をその女子高生から一つ置いた右側の席に案内して、水とおしぼりを出してくれた。

「ご注文はどうなさいますか?」

「いつものキリマンジャロで。あと、今日のお勧めパスタって何?」

「明太子のスパゲッティですね」

「じゃあ、それ一人前で」

「承知しました」

注文を受けた琴音さんは、カウンター内に戻っていった。そして四辻さんが珈琲を淹れ始め、琴音さんはパスタを茹でるためにお湯を沸かし始めた。

食事が出てくるまで、しばらく時間があるなと思ったとき、私の頭は自然と一昨日目撃した白銀の巫女のことを思い出していた。そのときふとこの辺りの高校生は魔獣のことをどう感じているのか気になって、隣の女子高生に話し掛けてみた。

「あなたたち、高校生だよね?」

「ええ、そこの督黎学園の生徒です」

「ねえねえ、ダンジョンって行ったことある?魔獣を斃したりとか?」

「私たちは行ったことがありますよ。魔獣を斃したことも」

「え、凄いね。魔獣って怖くないの?」

「それは怖いと思うときもありますけど、斃さなければならない相手ですから、頑張るしかありません」

「あー、なるほど、そうかぁ」

この子達は、もう魔獣と戦っていると言う話を聞いて、凄いなと思った。

「愛子さん、ご注文の珈琲です。あと、スパゲッティに付いているサラダをどうぞ。それで、どうしたのですか?魔獣のこと聞いたりして」

琴音さんが話し掛けながら、注文した珈琲とサラダを私の前に置きました。

「私って街中での魔獣との遭遇率が高いんですよ。で、いつも動けないの。だから魔獣が斃せる人って尊敬しちゃう」

「それなりに訓練すれば、街中に単独で出てくる魔獣は、斃せるようになりますよ」

「え、本当?私も訓練してみようかな?」

女子高生ができると言うなら、私にもできそうな気がしてきた。話の流れで、一昨日のことを話してみようと思った。

「あ、そういえば琴音さん、前に街中に出現した魔獣を斃した人の話をしたよね?私、また見たんだ、その人。白と銀の和装に身を包んだ白い銀髪黒い銀眼の女の人を」

「白と銀の和装に身を包んだ銀髪銀眼の女の人を見たのですか?」

それまで黙って話を聞いていたもう一人の女子高生が会話に入ってきた。

「そうそう、綺麗な人だったなぁ。そして強かった。魔獣を一撃で斃すと、ポーンってジャンプして遠くに消えていっちゃうんだよね。だから一瞬しか見られないんだけど」

「そんな人を二度も見たのですね?同じ人でした?」

「うーん、同じだったような気がするなぁ。二度とも同じ髪型で簪していたし」

「簪をしていたんだ。目撃したのは、いつどこでですか?」

「どうしたの?やけにこの話題への食いつきがいいんだけど?」

ん?何だ何だ?何かこの話題で関心を引くことがあるのだろうか?

「あ、驚かせてしまったのでしたら、ごめんなさい。私たち高校でミステリー研究部に所属していて、特異なこととかに興味があるのです。それで、その銀髪銀眼の女の人のことが気になってしまって」

隣に座っていた女子高生が慌てたようにフォローしていた。なるほど、その手の話が元々好きなのか。

「あー、それでなんだ。分かった。一度目は、一か月くらい前に秋葉原で、二度目は一昨日の水曜日に新宿でだよ」

「一昨日の水曜日に目撃したのは何時ころですか?」

「そうだね、えーと、お昼を食べる前だったかな」

「情報ありがとうございます」

話題に食い付いてきた女子高生は、聞きたいことが一通り終わったようだった。

「あの、それでできればお願いしたいことがあるのですけど」

「何かな?」

「もし、また目撃することがあったら、お話していただけますか?」

「それくらい構わないけど、どうやって教えれば良いかな?」

「琴音さんに伝言してもらって良いですか?私たちたまにここに来ますので」

「うん、分かった」

話を終えたタイミングで、琴音さんが注文していたスパゲッティを持って来てくれた。

「愛子さん、これからお仕事なのではない?お時間大丈夫?」

それほど長居もしていないし、大丈夫だろうと思いつつ、念のためスマホで時間を確認した。あれ?今日の集合時間がいつもより30分早い。余裕をもって出てきたので大丈夫だけど。

「んー、まだ大丈夫だけど、少し急いだ方が良いかな。じゃあ、失礼していただきます」

私は話を切り上げて、琴音さんの作ってくれたスパゲッティを食べ始めました。うん、今日のも美味しい。もう少しゆっくり食べたかったかな。

それから10分くらいの間で、私はスパゲッティを食べ終え、珈琲も飲み切った。そしてそのままレジに向かった。

「今度はゆっくりしていってくださいね」

琴音さんに見送られながら、私は店を出た。



そこから今夜の仕事場であるスタジオは、歩いていける距離だった。私がスタジオに着いたときには、陽夏は既にスタジオ入りしており、撮影の準備に入っていた。今日もロゼマリの動画撮影だ。

「あら、姫愛、おはよう。遅かったわね」

「あ、うん、ちょっと時間間違えてて。でも、間に合っているよね?」

「大丈夫、間に合っているよ」

いつものように気安いやり取りを交わして、私も撮影の準備に入った。

「陽夏、今日の撮影って何やるのだっけ?」

「えーと、ゲーム実況だっけかな?」

「まさかホラゲーじゃないよね?」

「さあ、どうだろうねぇ?」

陽夏がこういう顔をするときは、きっと何かある。嫌な予感しかしない。

そして、その予感は的中してしまった。だからホラゲーは駄目なんだってばさ。

撮影後、楽屋に戻っても、私はまだ撮影時のショックが尾を引いていた。

「うう、ホラゲーだったよ」

「ホラゲーだったね」

「知ってた癖にぃ」

「いやー、ごめんごめん。姫愛には言うなって口止めされててさ。まあ、気を取り直して、何か食べて帰ろうよ」

渋々ながらも、私は陽夏に従うことにした。スタジオに来るときに着ていた服に着替え、コンタクトを眼鏡に替えて陽夏とともにスタジオを出た。

「姫愛、どこにいこうか?」

「そうね、スタジオに来るときに食べちゃったから、まだ余りお腹が空いていないかな。ケーキセットとかスイーツ系が良いかな。でも、陽夏はそれで良いの?」

「全然問題ないよ。じゃあ、新宿のフルーツパーラーに行ってみようか」

「いいね、それ」

二人で新宿まで歩いて、フルーツパーラーのお店に入った。

それぞれ注文すると、グラスの水を飲みながら、撮影のときの話をした。

「それにしてもホラゲーは苦手だなぁ」

「姫愛ってさ、どうしてホラゲーが苦手なの?」

「うーん、怖いところ?」

「怖いのが?でも、この前、魔獣で怖い思いしたときは、そんなに騒いでいなかったよね」

「この前っていうか、一昨日ね。確かに魔獣は怖いけど、ホラゲーに出てくるゾンビみたいな怖さは無いというか」

「え、でも、ゾンビみたいな魔獣もいるかもよ」

「嫌だ、それは駄目だ」

今までゾンビみたいな魔獣には出会っていないけど、それが出たらきっと駄目だ私。

「姫愛は、魔獣を一撃で斃した女の人みたくなりたいようなこと言っていたけど、それじゃ無理じゃない?」

「ゾンビじゃなければ大丈夫。さっき別のお店で会った女子高生は、魔獣斃しているって言ってたもん。私だってやればきっとできるんだ」

「魔獣との戦いって、そんなに燃えるような話なのかねぇ」

陽夏の目線に呆れたような気配を感じたけど、それくらいじゃへこたれないよ。注文していたフルーツパフェを頬張りながら、私は決意を新たにした。


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