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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第2章 友情の涙 (清華視点)
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2-36. 魔獣の出現

水曜日、その日の放課後は、部活動はお休みして、柚葉さんと私は、調査に向かいました。

主には、出現候補地を絞るための工作がされているかの確認です。

まず、目黒に向かいました。

目黒の駅についてすぐ、柚葉さんは、何かに気がついたようです。

「清華、分かる?微かだけど、力の波動がする」

「そうですね、本当にごく僅かですけれど」

「あの魔道具を動かすとこうなるのかな?でも、魔道具一つじゃないね、これ」

「なぜそう思うのですか?」

「割りと広い範囲で均質みたいだから。だけど、ずれているところがあるね。あそこら辺」

そう言って、柚葉さんは、路地裏の方に入って行きました。

「ここ辺りだけど、あ、あった」

柚葉さんが指差しているところを見ると、確かに先日飯田橋で見たのと同じものがありました。

「ありましたね。それで、どうするのですか?」

「いや、何もしないよ。ここにこれがあるということは、ここには現れないということだから、それが確認できれば良いから」

「他のも探しますか?まだあるのですよね?」

「そうね、あと五つありそうだけど、場所の見当も付いているから良いよ。次に行こう」

それで、次に半蔵門に移動しました。

こちらも駅を出てから、微かに力の波動を感じます。

「柚葉さん、ここも同じみたいですね」

「そうだね、目黒と同じだね。さっきの感覚と同じなら、あっちの方だよね」

既に、二人とも何処に魔道具がありそうか、目星が付いていたので、一緒に一番近いところに向かいました。

「やっぱりだね」

こちらも、建物の塀の内側の隅の方にひっそりと魔道具が置いてありました。

「こういう場所だと、普通の人には気付けませんね」

「気付かれちゃうと、移動されるかも知れないから。もっとも、やり方が大雑把な気がするんだけど」

「大雑把なのですか?」

「そう思わない?こんなところに置いておくだけなんて。別に失敗しても良いよ、って感じがするんだけど。きっちりやるなら、隠蔽する何かと組み合わせると思うんだよね」

「隠蔽ですか?」

「そう、隠蔽か、認識阻害が、その辺はありそうな気がするんだけど」

「まだ、分かっていない力の使い方ということですか?」

「単なる勘」

「分かりました。それで、話を戻すと、これを設置した人は、最小限の手間しか掛けていないことになりますね」

「そう、割りと時間を掛けてるけど、手間は惜しんでる。何故かは良く分からない」

「ともかく次は渋谷が狙いですね。いまから渋谷に行きますか?」

「いや、渋谷に行くのは明日で良いんじゃないかな。今日は、帰ろ?」

柚葉さんの提案に従って、私たちは家に帰ることにしました。柚葉さんは、琴音さんのお店に寄って夕食を食べたそうです。



翌日の木曜日当日、柚葉さんは、予告通りに学校をお休みしました。私は、流石にお休みはできないので、普通に学校に行きました。ですけど、魔獣の現れる現場を見逃すのではないかと思うと、とても授業に身が入りませんでした。そして、6限の授業が終わるとすぐに連続転移で渋谷に向かいました。

柚葉さんは、ハチ公前の交差点に面したビルの屋上にいました。私が柚葉さんの隣に転移で出ると、柚葉さんがちらりと横目で私を見、やっと来たねって顔をしていました。

「まだ出てきてないけどもうすぐだと思う」

柚葉さんが渋谷のハチ公前の交差点を見つめながら言ってきました。

「気配を感じるのですか?」

「いや、タイミングがね」

「タイミング?」

何か柚葉さんは、魔獣とは違うものを見ようとしているのでしょうか。

私はしばらく柚葉さんと同じ方向を見ていましたが、特に何も変わることもない、いつもの渋谷駅前の光景が繰り広げられているだけでした。

「もしこの時間帯なら今しかないんだけど」

柚葉さんが呟いたのは、私に向けてなのか、独り言だったのかは分かりません。しかし、ちょうどそのとき、信号の変わる合間で何もいない交差点に、瞬間竜巻のようなものが巻き上がったかと思うと、そこに中型のオオカミのような魔獣が出現しました。

「魔獣が現れましたよ、柚葉さん」

「うん、凄い、ぴったりだね」

交差点を渡ろうとしていた人たちも魔獣に気が付きました。特に渋谷の駅側から渡ろうとしていた人たちは、自分たちの方に魔獣が向いていたので、慌てて逃げようとしてパニックになっていました。そして、皆逃げようとしている中で、一人転んでしまった女の子がいました。その傍らには女の子のお母さんと思しき人がいます。そこに向かって魔獣が動き始めたとき、魔獣と女の子の間に立ちはだかった人影がありました。

「え?あれって?」

「愛子さんだね」

琴音さんのお店の常連の愛子さんでした。愛子さんは、肩にかけていたポーチを振り回して魔獣を威嚇しようとしています。

「大丈夫でしょうか?」

「大丈夫、ほら、来たよ」

柚葉さんの言葉と同じくして、駅ビルの上に力を感じました。すると、そこに銀髪銀眼で、白と銀の巫女の衣装に身を包んだ女性が現れました。髪は後ろでまとめていて、髪に簪を何本か挿しています。まるで、以前柚葉さんに見せてもらった柚葉さんの舞いのときの姿によく似ていましたが、顔立ちは少しきつめの大人の女性と言った感じです。

その女性は、太ももに巻いたベルトに刺してあった小刀を右手で一本抜き取ると、その小刀を魔獣目掛けて投げつけました。小刀は魔獣の鼻先を掠めたので、魔獣が一瞬怯みました。

すると、女性はその場から下に向けて飛び降りると、魔獣に向けて走り始めました。そしていつの間にか右手に握っていた剣に力を乗せると、魔獣の首筋に向け剣を突き出し、そのまま刺し通して一撃で斃しました。女性はちらりと愛子さんの方を見たようですが、魔獣から剣を抜くと、傍に落ちていた小刀を拾い、私たちのいるビルとは道を挟んだ反対側のビルの屋上に飛び乗りました。そして、私たちの方に顔を向けました。女性と私たちはしばらく見合っていましたが、女性の方が視線を外して、ビル伝いに原宿方面に向かって行って消えました。

柚葉さんは女性が消えた後も、彼女が向かった方角を見続けていました。

「やっと見つけた。だけど、違うのかも」

柚葉さんは、思案気な顔をしていました。

「違うって何がですか?」

「あの女の人、前に会ったことがある人かなって思っていたんだけど、どうもそうじゃないみたいだなって」

「何か差があったのですか?」

「顔は凄い似ているんだよね。だけど、今の人の表情ってとても無機的だったじゃない。前に会った女の人はとても優しげな眼差しだったんだよね。そこがどうしても同じ人には見えなくて」

「だとすると、柚葉さんの探し人以外にも力を持っている人がいることになりますね」

「そう、それに今の人は、何か意図があって行動しているみたいだし。それはそれで放っておけないよね」

「そうですね。それで、これからどうしましょう?追いかけますか?」

「やめとく。結界を張ったみたいだしね。結果は明日になれば分かるから」

私は柚葉さんの言わんとすることを察しました。

「明日は私も一緒に琴音さんのお店に行っても良いですか?」

「良いと言えば良いけど、私の予想通りだと踏み込んじゃいけない領域に踏み込むことになるかもだよ?」

「柚葉さんは私のことを心配しているのですね。ありがとうございます。でも、私も東護院の一員ですから、出来るだけ多くのことを知っておきたいんです。もちろん、十分注意しますよ」

私は柚葉さんを安心させるように微笑んで見せました。柚葉さんも仕方がないといった表情で微笑んでいました。

そして翌日の放課後、私は約束通り柚葉さんと一緒に出かけました。それはそれで重要なことではあったのですが、私にはもっと大切なことがありました。


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