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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第2章 友情の涙 (清華視点)
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2-35. 情報と調査

事務局から家に帰ると、私は自室に入り、着替えもそこそこに柚葉さんに得られた情報をチャットで連絡しました。このチャットは、ダンジョン協会の会員用アプリの中に隠されている機能で、黎明殿の関係者だけが使えるものになっています。チャットのサーバはお父様の会社が管理していて安全性も確保されているので、黎明殿内の連絡にはこのチャットを使うようにと言われているのです。

私が有麗さんのファンの鉢巻の人から貰った情報は、魔獣の出現の日にちと場所を予告するネット上の呟きメッセージのアドレスでした。この呟きは魔獣が出現する前に書き込まれていて、出現日はまったくその通りになるのですが、出現場所については何故か三ヵ所書き込まれていて、実際に出現していたのはそのうちの一か所だけでした。なぜ三ヵ所なのかは分かりません。因みに、三月の秋葉原のときは東京と飯田橋も呟きに書かれていて、四月の新宿のときには池袋と四谷も含まれていました。

そして、既に次の出現についても呟かれていました。次は来週の木曜日で、場所は渋谷か目黒か半蔵門となっていました。

私がそれらの内容をチャットで伝えると、柚葉さんから帰ってきた返事は、今度の土曜日に調査したいから付き合って貰えないか、というものでした。土曜日は予定が入っていなかったので、了解の返事をしました。

翌日の金曜日は、柚葉さんは図書室に行くと言って部活を休んでいました。実際、下校時間近くまで柚葉さんは図書室にいましたが、その後、学校を出て一旦家に帰ってから、また出掛けたようです。


その翌日の土曜日の朝、私は柚葉さんと新宿で待ち合わせることにしました。と言っても、私は電車から降りる必要はありませんでした。私の乗った電車が新宿のホームに着いたとき、柚葉さんがドアの前で待っていて、電車に乗り込んで来たのです。

「清華、おはよう」

「柚葉さん、おはようございます。昨日、琴音さんのお店で情報収集できましたか?」

「え、ああ、清華には分かっちゃうよね」

「はい。通学路からも近いですし。わざわざ部活を休んで一人で行ったので調査か何かかなって。私の方は佳林などが一緒だったので、邪魔になるかと思って学校帰りに寄るのは止めておきました」

「気を使ってくれてありがとう。うん、まあ、情報収集できたよ。大体予想通りだったかな」

「それは良かったですけど、それで、場所が特定できたのですか?」

「うーん、それが本当に関係してるかまだ分からないんだよね。だから、飽くまで参考情報くらいで考えてるんだけど」

「そうですか」

確信が無いから、まだ私には言えないことみたいです。

「柚葉さん、それで、今日はどうしますか?」

「まずは秋葉原に行ってみて、それから別の候補だったところに行ってみたいかな?」

「何か手掛かりが残っているでしょうか?」

「分からない。基本残っていないと思った方が良さそうなんだけど。何か見つかればラッキーくらいで」

そうこうしているうちに、電車が神田川沿いに出ました。お茶の水で乗り換えて一駅、秋葉原で降りました。

秋葉原は昔は電気街一色だったようですが、いまは色々なものが混ざりあった街になっています。しかし、柚葉さんはそう言ったものには目をくれず、何か痕跡が無いかを探そうとしています。

今日は土曜日で歩行者天国ではないので、歩道を歩いて北に向かって歩いていきます。歩きながら、不審なものがないかを見て歩きましたが、特に見当たりませんでした。そうして歩いていると、いつの間にやら末広町の辺りまで来てしまいました。

「柚葉さん、末広町の駅ですね」

「あれ、もうここまで来ちゃったんだ。ここもまだ秋葉原と言えなくもないけど、もう御徒町が近くなっているよね。そうなると、捜索の範囲外かな。清華、反対側の歩道に移って戻ろう」

私も柚葉さんと同意見だったので、二人で道路を渡り、反対側の歩道に移ってから逆の南方向に戻り始めました。

「残念だけど、ここでは何も見付からなかったね」

南に下って、電車のガードレールを越えたところで、柚葉さんが諦めた顔になっていました。

「もう2ヶ月も前のことですし、何も見つからなくても仕方ないと思いますよ。ただ、まだ別の候補だった2ヶ所がありますよね」

「そうだね、そっちに行ってみよう」

柚葉さんと私は、電車に乗って東京に行きました。候補になっていたのは丸の内側だったそうなので、丸の内の周辺を一通り、それから念のために八重洲側も見て回りましたけれど、何も見付かりませんでした。

「なかなか無いですね」

「そうだね。お昼を食べたら、次に行こうか」

丁度お昼時になっていましたので、東京駅の辺りで食事をして、次の調査地の飯田橋に向かいました。

飯田橋では、駅前にある歩道橋の周りを調べて見ました。飯田橋の歩道橋はあちらこちらに階段があるので、一つ一つ調べていくのはそれなりに大変です。

「あれ?柚葉さん、あそこの一角、工事しているみたいですね」

「そうだね、柵で囲ってるね」

駅そばの歩道橋の階段の周りが、工事のために柵に囲われていました。

「見に行ってみよう」

柵の中には、工事に使うと思われるものか、色々置かれているようでした。

「工事用の資材置き場でしょうか?」

「そうだね。あれ?あっちの隅に何かある」

「何でしょうね?」

「転送で、持ってこられるかな?」

柚葉さんが転移陣を展開して、その物体を手元に転移させました。そして、それを良く観察しています。色は黒で、金属でできた薄い円筒形をしたものです。

「これ、魔道具じゃないかな?」

「魔道具ですか?」

「そう、ほら、ここに透明な石が嵌まってる」

確かに片一方の丸い断面の真ん中に透明な石が嵌まってます。

「少し力を込めてみるよ」

柚葉さんが透明な石に力を少し流し込みました。すると、作動陣が現れました。これまでに見たことがないものでした。

「これで、ここの魔獣の出現確率を下げたということでしょうか?」

「これだけでは断定は無理だけど、こんなものが偶然ここで見つかるとも思えないし、可能性はありそうだよね」

これまでの調査で何も収穫が無かったので、嬉しいことです。

「でも、どうしてここでだけ残っていたのでしょうね」

「元にあった場所から、工事の人が移動しちゃって、行方不明になったとか、想定外のことがあったんじゃないかな」

「設置した人には不運でしたけど、私たちにとっては幸運でしたね」

「まあ、そうだね」

私たちは、魔道具を仕舞い、次の四谷に向かいました。でも、四谷では何も見付かりませんでした。

「四谷には何もないですね」

「そうだね、まあ、無くて普通なんだと思うけど」

「残りは池袋と新宿ですね。どちらに先に行きましょうか」

「どちらでも良いけど、最後を新宿にしない?」

私たちは、池袋に行きました。池袋は西口が候補のようでしたが、念のため東口側も確認しました。しかし、どちらにも手掛かりになりそうなものは見つけりませんでした。

「じゃあ、最後に新宿に行こう」

新宿は東口に現れたとのことでした。その東口にも、西口にも、何かをしたような痕跡は見つけることができませんでした。

「柚葉さん、結局、飯田橋でしか、魔道具は見つからなかったですね」

「そうだけど、一つ見つかったおかげで、何を探せば良いかは分かったから、それだけでも良かったと思うよ」

「そうですね。それで、今日は遅くなってしまいましたけど、明日、次の出現候補地の確認をしに行きますか?」

「うーん、どうしようかな、と思ってる。木曜日の準備をもう始めているのかどうか確信がないから。確実さを考えるなら、前日の水曜日が良いかな、って」

「水曜日に学校をお休みしてですか?」

「水曜日は、放課後すぐに学校を出れば大丈夫じゃないかな。どちらかというと、木曜日当日の方が休む必要があるかも」

「そうなのですか?」

「そう、夕方早い時間か、真夜中か、どちらかだけど、確実なのは夕方の方かなと思うから」

「どうしてそんな時間帯なのですか?」

「私の勝手な憶測の話だから、あまり気にしないで」

いや、無茶苦茶気になるのですけど、柚葉さん。でも、柚葉さんは、それ以上は語らなかったので、私は追及を諦めるしかありませんでした。

そして、その日の調査は終わりとなり、柚葉さんとは、新宿でお別れしました。


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