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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第2章 友情の涙 (清華視点)
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2-28. ダンジョン大会

放課後の部室で、潤子さんから発表がありました。

「東京ダンジョンのダンジョン大会があるのを知っているかい?」

「いえ、どんなイベントなのですか?」

「まあ、ダンジョン管理協会主催のお祭りみたいなものなのだが、その中で魔獣狩り競争があるんだ」

「魔獣狩り競争?」

「そう、一定時間の間にどれだけ魔獣を狩ってこられるのかを競争するんだよ」

「面白そうですね」

「そうなんだ。ただ、誰でも参加できるというものではなくて、参加資格を満たした上で、抽選に当たらないといけない」

「そこまでは分かりましたけれど、何か言い辛いことがあるのですか?」

潤子さんは、苦しそうな顔をしていました。

「うむ。言い辛いのは、参加資格のことなのだが、今回は柚っちとサーヤが参加できないんだ」

「巫女だからですね?」

「そう、ダンジョン管理協会は、巫女のことを知っているしな。2人の参加は遠慮してほしいと言われたんだ」

「公平さを考えると、仕方がないですね。これまでも似たようなことはありましたし、仕方がないと思いますよ」

柚葉さんも同意するかのように頷いている。

「理解してもらえて嬉しいよ。それで、その条件でエントリーしたら、抽選に通ったんだ」

皆から、オーっと言う歓声が上がりました。

「と言うことで、レミー、ユーリ、カーリンは、よろしくな。柚っちとサーヤは、準備の支援をお願いしたい」

「分かりました。それで、ルールはどうなっているのでしょうか?」

「我々が出場するのは、高校生女子の部だ。持ち時間は45分で、その時間内に魔獣を斃して入口まで運ばないといけない。入口まで運んだ魔獣の総重量で勝ち負けが決まる。パーティーは、5人までだが、我々は4人で参加だ」

「単純ですね。持ち込む物に制限は無いのですか?」

「基本的に自分で持てるものだけだ。ただし、手押し車はサイズ内なら一台まで使える」

「つまり、魔獣を積めるだけ積んで、運んで帰るので良いのですね」

「そうなのだが。積みきれずにその場に置いていくのは失格になるから、注意が必要なんだ。安全の確保と不正行為がないことを確認するために、協会の指導員が1人付くことになっている」

潤子さんは、皆を見回した。

「それで、日程だが、次の次の日曜日だ」

「あまり日がないですね」

礼美さんが、部室の壁にかけてあるカレンダーを見ました。

「まあな。基本、お祭りの余興みたいなものだし、抽選の結果が分かったのが昨日だしな」

「でも、やるからには、少しは頑張りたいですね。勝つためのポイントはなんでしょうね」

百合さんがやる気になっています。

「ともかく、早く魔獣を見付けて、早く斃すしかないですよね?清華さんや柚葉さんがいれば、見つけるのは簡単でしたけど、私たちだと運任せですね」

佳林が残念そうにしていますが、私たちが入ってはダメですからね。

「魔獣を斃す速さを上げるには訓練しかないだろう。だけど、魔獣を見付けるのは、何手があるかもしれない」

「潤子さん、何か知っているんですか?」

「魔獣に関する研究を大学や企業がやっているんだ。その中に、魔獣を見付ける方法のようなものもあったと思う」

「それって、大学や企業に聞きに行くってことですか?」

「いや、もっと身近にいるだろう?」

皆一瞬、えっ?と言う顔になりました。

「先生だよ。特に物理の三枝先生は、大学時代に魔獣の研究をしていたそうだ」

「なぜ、そんなことを知っているんですか?」

「それはな、柚っち、三枝先生に聞いたことがあるからだ。何しろ三枝先生は、このミステリー研究部の顧問なんだから」

顧問の先生は、ミステリー研究部の活動には顔を見せたことがなかったので、その存在を意識したことが殆ど無かったですが、一年生のときにお名前は聞いたような気がします。すっかり忘れていました。


そうした経緯で、一度先生と話をしようと言うことになって、物理の先生の部屋に向かいました。学校には職員室もありますが、学科ごとの先生の部屋もあって、大抵の先生は学科の部屋にいます。

物理の先生の部屋は、物理の実験室の隣にある実験準備室のさらに隣にあります。潤子さんが部屋の前に立ち、扉を叩いてから開きました。

「三枝先生は、いらっしゃいますか?」

「ん?何だね?」

物理科の教官室には何人かの先生がいましたが、三枝先生は扉に一番近い席に座っていました。

「ダンジョン探索のことで、ご相談がありまして。お話させていても構いませんか?」

それにしても、いつもの潤子さんとは言葉遣いが違いますね。どちらかと言うと、先生の方が、いつもの潤子さんの口調みたいです。

「ああ、構わないよ。じゃあ、隣の準備室に行こうか」

先生に促されて、私たちは準備室に入りました。準備室には、実験用具の棚などが並んでいて、それほど広くはありませんが、作業用の机と、その周りに椅子が置いてあるところがあります。それぞれ椅子を取って、作業用の机の周りに座りました。

「それで、話がしたいことは何だね?」

「はい、今度、東京ダンジョンのダンジョン大会に出るのですが、そのときに使えそうな魔獣を見付ける道具のようなものがあればと思いまして」

「魔獣を見付ける道具か」

先生は、目を下に向けると何かを考える風になりました。

「そうだな、前に作ったものの中にそういうものがあったかな?」

顔を上げると、先生は立ち上がって、実験室の隅から、段ボール箱を2つ出してきました。先生が箱を開けると中には、道具らしきものが色々と入っているようでした。

「これ、全部先生が作られたのですか?」

「大体は、そうだな。あとは、他人に貰ったり、見付けた物もある。ああ、これなんかはどうだ?」

「これは何ですか?」

「超音波探知機の発信器兼受信器だ。これをパソコンに繋いで、専用の解析ソフトを使うと、音が届いた範囲の地図と物の場所が表示されるようになっている。残念なから、人と魔獣の区別は付かないがな」

「それでも、あると便利そうです。貸していただけますか?」

「良いとも。ソフトは、教官室のパソコンに入っているから、USBメモリに入れて渡そうか?」

「はい、それで、お願いいたします」

潤子さんが先生と話している横で、柚葉さんは、先生が箱から出した物を一つ一つ見ていました。そして、そのうちの一つに興味を持ったようです。

「先生、少し良いですか?これなんですけど」

柚葉さんが、手に持っていた物を先生に見せました。

「ああ、それは以前、たまたま立ち寄った古物商の店にあった物だったと思うが、どうかしたのか?」

「何かこれ、気になるのですが、借りても良いですか?」

「それは構わないが。君は?」

「私は、2Bの南森柚葉です」

「ああ、君が沖縄から来たという転校生か?」

「はい」

「良いだろう、貸してあげるよ。好きなように調べてみると良い」

「ありがとうございます、先生」

先生と話をしようとしていた目的を果たした私たちは、先生にお礼を言って、準備室を後にしました。潤子さんは教官室に寄って、ソフトを入れたUSBメモリを受け取っていました。


その日の学校の帰り、柚葉さんに耳打ちされました。

「清華、ちょっと家に寄ってかない?」

「え?良いですけど?」

突然の家へのお誘いに驚きつつも、特に用事はなかったことを頭の中で確認して、了解しました。そして、途中の分かれ道で皆と別れ、二人で柚葉さんの住む学生マンションに行きました。

柚葉さんの家に入れてもらうのは初めてのことだったので、どんな部屋なのかワクワクして入ってみたところ、質素な部屋でした。1LDKでしたけれど、リビングが広く、それにカウンターキッチンになっていて、使いやすそうな造りでした。中には、ベッドや引き出しやローテーブルなど必要最小限のものしかなく、カーテンこそピンク系ので揃っていて女の子っぽい感じでしたけれど、あっさりとした印象の部屋になっていました。

「清華、適当に座って」

柚葉さんに促されて、ローテーブルの周りに置いてあったローソファーに座ったら、柚葉さんがウーロン茶を出してくれました。

「急にどうしたのです?」

「うん、二人で話がしたかったから、どうしようか考えたんだけど、家に来てもらうのが早いかなって。琴音さんのところでも良かったけど、あっちだと、佳林ちゃんとか来るの止められないし、他の人がいるかも知れないし」

「巫女に関する話がしたかったってことですか?」

「さすが清華、話が早いね。そうなんだよ」

柚葉さんは鞄から、先程先生に借りた物を取り出しました。

「これなんだけど」

「これが何か柚葉さんは知っているのですか?」

「いや、具体的なところまでは分からないんだけど、これって魔道具なんじゃないかと思うんだよね」

「魔道具ですか?会話結界の魔道具のような?」

「そうそう、その魔道具。でも、何の魔道具かは分からないんだけど」

「どうしてそう思ったのですか?」

「何となく似ていると思って」

「似ているんですか?形、ではないですよね?」

柚葉さんが手にしているのは、武骨なデザインの脚の付いた置物のようなものです。会話結界の魔道具とは似ても似つかないものでした。

「うん、形じゃなくて、特徴が」

「特徴ですか?」

「そう。実を言えば、魔道具の定義も良く分かっていないんだけど、力を注ぐことで機能するものだと考えると、会話結界の魔道具以外にいくつか知っているものがあるんだよね。それは、南御殿の地下にあった、力で開く扉とか、この前東御殿の武器庫にあった転送できる剣とか」

「それらには、共通する特徴があったってことですか?」

「そうそう、清華、正解」

ピンポン、という音が聞こえたような気がしました。

「どんな特徴ですか?」

「それらにはどれも透明な石が付いていたんだ。そしてほら、これにも透明な石が付いているでしょ」

柚葉さんが指し示している先を見ると、確かに道具の真ん中の凹んだところに、透明な石が嵌っているように見えます。

「もし魔道具なら、軽く力を注ぐと、作動陣が現れると思うんだけど。良い?見てて」

柚葉さんは、道具の透明な石に力を少し流し込みました。すると、確かに作動陣が現れました。

「作動陣が出ましたね。この作動陣はどんなことをするものなのでしょう?」

「この作動陣は見たことが無いから分からない。でも、これでこれは魔道具だろうというのは確実だよね。何の魔道具かを知るには、もっと情報が必要だけど」

「そうですね。調べることがまた増えましたね」

「そうだね。でもまあ、この魔道具についての調査は急ぐ必要は無いかな」

その柚葉さんの意見には、私も賛成でした。この魔道具のことは、頭の隅には入れておくけれど、当面は棚上げしておくことにしましょう。


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