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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第2章 友情の涙 (清華視点)
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2-26. 祖母の小屋

封印の間を出るころにはお昼時になっていたので、私たちは母屋に戻って昼食を取りました。それから、私は柚葉さんとお婆様の小屋に向かいました。

お婆様の小屋は、東御殿から大体2~3kmのところにありますが、山道なので普通なら1時間以上掛かるでしょうか。私たちは身体強化をして、治癒で回復しながら進んだので、ずっと早く着きそうです。そもそも転移を使ってしまえばあっという間なのですが、柚葉さんが途中の景色も楽しみたいから、ということで歩いていくことにしました。

季節柄、山の中も新しい葉や草が生えてきていて、新緑が眩しい感じです。森の匂いのする空気は爽やかで、楽しい気持ちにさせてくれます。小鳥のさえずりなどに耳を傾けながら歩いていると、お婆様の小屋が見えてきました。

お婆様の小屋は、森から少し外れた開けた場所に立っています。横には小さな畑もありましたが、この時期はまだ何も植えていないようです。

「こんにちは」

小屋の扉を開けて声を掛けましたが、返事がありません。御殿を出るときから人の気配はなさそうでしたが、小屋を開けて中を見ても誰も居ませんでした。

そのとき、ふと背中に人の気配を感じました。

「小屋の辺りに人がいると思って来てみたら、清華かい?」

振り返ると、お婆様が立っていました。

「はい、清華です。お婆様、ご無沙汰してます」

お婆様は、既に70歳になっていますが、若々しい姿でいます。ショートカットにした髪には、ちらほらと白髪が混じってはいるものの、まだ黒々としいて、年齢を感じさせません。

「お正月以来かしらね。それで、そちらのお嬢さんは南森の?」

「はい。南森柚葉と言います。初めまして」

「ええ、初めまして。良く来たわね。それで、清華、私のところに来たのはどうしてかしら?」

「お婆様に力の使い方について教えてもらえないかと思いまして」

「あら、そうなの?」

依頼の元が柚葉さんだろうと察したお婆様は、柚葉さんの目を見ました。

「ええ、その、あの、何てお呼びしたら?」

「あら、ごめんなさい、名乗っていなかったわね。私は、東護院和華(のどか)です。そうね、あなたには和華さんと呼んで欲しいわね」

「分かりました、和華さん。それで、和華さんに尋ねようとしていたのは、この伊豆で和華さんが魔獣を見つけて斃している方法と、それ以外にも他の力の使い方を知っていれば教えてもらえればって」

「そう、まあ、ともかくまずは、小屋に入りましょうか?お話するにも、座って落ち着いた方が良いでしょう?」

お婆様の言う通りだったので、皆で小屋に入りました。小屋の中は、置いてあるものは少なく、綺麗に片付けられていました。

私たちが一つだけあるテーブルの周りに椅子を置いて座ると、お婆様がお茶を煎れてくれました。

「それで、魔獣を見つけて斃す方法でしたっけ?それはあまり大したことしていないのよ。柚葉さん、あなた、いま伊豆に魔獣がいるか分かる?」

「はい、分かりますけど、いないですね」

「そうね、いれば分かるものね。それで見つけた後だけど、大体は他人任せね」

「他人任せですか?」

「そう、ダンジョン管理協会の伊豆支部に連絡して、何とかしてもらっているわ。そちらでどうにもならないって言われたときには手伝うこともあるけど」

「そんなやり方でとは思いませんでした」

「だって、何でもかんでも私たちがやってはいけないでしょう?私たちしか魔獣が倒せないということでもないし。やり過ぎは良くないのですよ」

「確かにその通りですね」

私も力で何とかしてしまっていると思っていましたので、目から鱗が落ちる感じでしたけれど、言われてみればそうだなって思えました。それは、正に伊豆に来る途中で柚葉さんと話していたことと同じことでしたから。きっと、柚葉さんも同じ気持ちだろうと思います。

「じゃあ、そちらはそれで良いわね」

お婆様は、柚葉さんと私を代わる代わる見つめると、柚葉さんが同意するように頷いた。

「次に力の使い方だけど、柚葉さんはいま何ができるの?」

柚葉さんが今まででできるようになったことについて、お婆様に一通り説明しました。お婆様は、一つ一つ頷きながら聞いていました。

「それで、あなたは、力の使い方について何か考えていることはあるの?」

「そうですね。大きくは二通りありますよね。意思でもって発動させるのと、転移陣や浮遊陣のように模様、仮に作動陣と呼びますけど、その作動陣で起動する方法です」

「ええ、それで?」

お婆様は、頷きながら先を促します。

「でも、使っているうちに、意思での発動と作動陣での発動には差が無いかもって。少し使い方の特性が違うだけで」

「なぜそう思うの?」

「転移って、最初は転移陣を描かないと使えないんですけど、慣れると転移陣を描こうと思うだけでも使えてしまうんです。思えば使えちゃうなら、意思で発動するのと変わらないじゃないですか?」

「そうね。それじゃあ、意思での発動と、その作動陣での発動の使い方の特性って?」

「意思での発動は不安定なんです。強さなんかがそのときの気分なんかで変わってしまう。でも、作動陣での発動は安定しています。あと、作動陣での発動は、発動条件を設定できますよね」

「なかなか良く考えているじゃないの?私が何かを教えることは無さそうだけど?」

「でも、肝心の作動陣の知識がありません。知っているのは、転移陣と浮遊陣だけですから」

「他に何があると思う?」

お婆様の微笑みが、柚葉さんを試すような顔に見えました。

「そうですね、意思で使えるものすべてにあると思うんです。光弾も、身体強化も、防御障壁も、探知も、治癒も。そしてあるかも知れないのが隠蔽や気配遮断でしょうか」

「隠蔽や気配遮断?」

「はい、調査などの際には隠密行動が必要ですけど、それを支援するものはあるのではと」

「そう?それで、あなたはそれを知ってどうするの?」

「もちろん、皆を護るために、護れるように強くなるんです」

「でも、強くなることは良いことばかりではないのよ?」

お婆様は、柚葉さんに問い掛けるような目線をぶつけました。

「はい、分かっています。でも、以前、私は力不足で一度命を落としかけました。下手をしたら、島の人たちを救えなかったかも知れない。そこから生き延びた今、思うんです。私はもっと強くならなくちゃって。本当に皆を護れるように」

柚葉さんの目は、強い意志で輝いていました。

お婆様は目を閉じて、柚葉さんの言葉を吟味するかのように上を向き、何かを決心したかのように目を開けると前を向きなおして柚葉さんの目を見返しました。

「いま、私があなたにしてあげられるのは、二つかしらね。一つは作動陣を一つ教えてあげましょう。あと一つはアドバイスかしら?」

「アドバイス?」

「ええ、私のような年寄りの巫女と話しなさい。大抵一つくらいは何か知っているでしょう。あなたは他の地の年寄りの巫女と、このことは話したことがあって?」

「いいえ、ありません」

「では試してごらんなさい。他にも道が拓けるかもしれません」

「分かりました。アドバイス、ありがとうございます」

「どういたしまして。では、私の知っている作動陣のことだけど、外に出た方が良いわね。良い?」

「はい、もちろん」

柚葉さんは嬉しそうに立ち上がりました。私もお婆様の知っている作動陣について、興味津々です。

三人で小屋の外に出ると、お婆様は、小屋の側にある大きな石に向けて右手の人差し指を出しました。

「二人とも、良く見てなさい。これが光星陣です」

お婆様の人差し指の先に、丸い力の模様が描かれました。そして、その中心から光線が放たれ、大きな石に当たり、石の一部を砕きました。

「光星陣は、光星砲を放つ作動陣です。籠める力を多くすれば威力は大きくなるけれど、巫女に掛かる負荷も増えますからね。まあ、これ単体で使う限りは大事にはならないでしょう。だけど、前に他の陣と組み合わせた子が大怪我したことがあるから、十分に気を付けるのですよ。二人とも」

「分かりました。お婆様」

そうですね。無理は禁物です。気を付けましょう。

「和華さん、光星陣を教えてくれてありがとうございます」

柚葉さんは、嬉しそうにしています。この顔は、いずれ何かと組み合わせるつもりの顔だと思いましたが、いつものことなので黙っていることにしました。

「ところで、お婆様。一つ聞きたいことがあるのですけど」

「清華、何でしょう?」

「五十年くらい前にいた阿寧という名前の本部の巫女に心当たりありませんか?」

お婆様は考え込むような仕草を見せました。

「うーん、記憶に無いわねぇ。五十年前は本部の巫女との交流は全然無かったから、いたかも知れないけど、私には分かりません」

「そうですか」

残念です。

「あの、五十年前は、と言ったのは、いまは交流があるということですか?」

「そうね、柚葉さん。たまにだけど長老会に行くようになってからは会うときがありますね」

「なるほど、長老会ですか」

長老会とは、名前の通り黎明殿の巫女の年寄りの集まりなのですが、黎明殿として何か決めなければならないときは、長老会で決めることになっていると聞いています。

「当時の長老会に出ていた人ならご存知かもしれないけど、今もご存命の人がいるかどうか分からないわ」

何しろ五十年前に長老会に参加するほどのお年寄りですからね。巫女は長生きと言われていますけれど、難しそうに思います。このことについては、別のところで尋ねることにしましょう。


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