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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第2章 友情の涙 (清華視点)
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2-25. 東の封印の間

翌日、私はお母様に言われた通り、柚葉さんを封印の間とお婆様のところに連れていくことにしました。巫女の力のことが絡む話なので、礼美さん達をどうしようかと悩んでいたら、拓人さんが、観光地巡りに連れ出してくれました。拓人さんには色々お世話になってしまって、申し訳ない気持ちです。

拓人さんと礼美さん達が出かけた後、リビングで少しくつろいでから出かけようと言うときに、柚葉さんがお母様の方に向き直りました。

「あの、こちらでは転送できる武器のことは知っていますか?」

「転送できるって言うのは、転送して手元に持ってきたり出来るということ?」

「はい、転送で出し入れできる武器のことです。例えばこんな」

柚葉さんが手に力を籠めると、その手に剣が現れました。そして、もう一度力を籠めると、手から剣が消えました。

「知らなかったわ。それはどんな風になっているの?」

「利用者登録をして、指定の陣を描けば、その武器が転送できるようになるんです」

お母様は、叔母様と顔を見合わせました。

「そういう武器の話は知らなかったけど、なぜ今その話をしたのかしら?」

「昨日、見せてもらった中に、その武器があったので。清華が使えるようにすれば、清華も助かると思いますし」

「それは一本しかないの?」

「東御殿には一本だけみたいですが、武器庫には十本ありました」

「使い方を教えてもらっても?」

「はい、では武器庫に行きませんか」

私たちは連れ立って武器庫に行きました。柚葉さんは、武器庫の奥にある棚のところに行き、棚から箱を下ろしました。

「この箱に入っている剣が、転送できる剣です。柄の先にある透明な石に力を注ぐと利用者登録できるんです。そして、この箱の内側にある転移陣を描けば、剣を出し入れできます」

「面白そうですね。試してみましょうよ、姉様」

涼華さんが乗り気になっているみたいです。

「そうですね。十分人数分ありますし、一人一本登録してみましょう」

人数分の箱を下ろして、それぞれ剣の柄の先にある透明な石に力を注いでみます。沢山力を注ぐと、石が光りだしました。

「石が光るようになれば、利用者登録は完了です。その剣を箱の中に入れて、箱に中にある転移陣を自分の手の中に力で描いてみてください。ただ、最初はどこに出てくるか分からなくて危ないので、広い場所に出てやった方が良いと思います」

「そうね、道場に行ってみましょうか」

各自で箱を持ったまま、道場に行きました。

道場に着いたら、それぞれ離れた場所に移動しました。私は自分の持ってきた箱の中の転移陣を確認してから立つと、手の中に転移陣を描いてみました。すると剣の柄が見えたので、手元に転送するよう念じると、剣が手元に現れました。

「あ、できました」

成功して嬉しくなり、思わず声を上げてしまいました。

「私もできたわ」

涼華さんも剣を出し入れすることができるようになったようです。

「転移陣を描くと言うのが難しいのだけど」

お母様は、少し手こずっているようです。

「姉様、あまり自分で描くことを意識しないで、図形を思い浮かべて力の方に描くのを任せるのよ」

「そうなの?こうかしら?あ、できました」

涼華さんのアドバイスで、お母様もできるようになったみたいです。

「でも確かにこれは便利ね。持ち歩かなくたって、いつでも武器が使えるんだもの」

涼華さんは感心しながら、武器を出し入れしています。

私も何度か武器を転送していたのですが、ふと、疑問に思うことがあって、柚葉さんに尋ねました。

「あの、柚葉さん、剣を転送すると言っているのに、転移陣と呼んでいるのは何故ですか?転送陣ではなくて」

「え?まあ、転送陣って呼んでも良いんだけど、本質的に同じものだから転移陣って呼ぶことにしただけだよ」

「何と何が同じですって?」

柚葉さんと私の会話を聞いていた叔母様が質問してきました。

「清華の叔母様は、転移はできますか?」

「涼華で良いわよ。それで転移は知っているけど、あなたこそ知っているの?南の封印の地は教えるのが早いのね」

「私は自分で見つけました。だから我流なんです」

「そうなんだ。あなた凄いのね。それで転移がどうかしたの?」

柚葉さんは、転移陣を二つ描いて見せました。それは、今まで見た転移陣の中で一番単純な形をしていました。

「これが私が突き詰めてみた一番単純な転移陣です。これでもちゃんと機能します」

柚葉さんは、片方の転送陣の上に乗り、そこで力を籠めると反対側の転送陣の上に現れた。

「そんな簡単なものでも機能するの?」

「はい。普通使っているものは、これに自分のものだと区別したり、条件を加えたりしたものだと考えています」

「へー、柚葉ちゃんは凄いねぇ」

涼華さんは柚葉さんのことを気に入ったようです。

「私たちも転移陣は習ったけど、もっと複雑な形でしたね」

お母様にも新しい発見があったようです。

「あの、私はまだお母様から転移陣を習っていないのですけれど」

「そうね、学校を終えて、こちらに戻ってきたときに教えることになっていたから。私のときもそうだったのよ」

「ああ、そうだったのですね」

私に教えてくれるつもりがなかったのと一瞬心配になりましたが、そうではないことを聞いて安心しました。もっとも転移陣は既に柚葉さんから教わりましたけれど。

「そう言えば、柚葉さんから教わった転移陣は複雑なものでしたけど」

「ああ、清華には浮遊転移陣を教えてたね」

「え?柚葉ちゃん、浮遊転移陣て?」

「浮遊陣と転移陣を組み合わせて、両方の機能を持たせたものです」

言うなり、柚葉さんは自分の足下に浮遊転移陣を描きました。そして陣ごと床から浮き上がりました。

「この状態でもう一つ描けば、そちらに転移できます」

柚葉さんは自分の横に並べてもう一つ浮遊転移陣を描くと、次の瞬間そちらの方に転移しました。

「これだと転移先が水の上でも空中でも落ちないので安全なんです」

「そんなことができるんだ」

涼華さんが唖然としながら柚葉さんを見ていました。

「私は力の使い方には他にも色々あるだろうと思ってますけど、これまでに教えて貰えたことはごく僅かです。何か事情があるのかも知れないけど、私はもっと力のことを知りたいんです」

「なるほど、調べたい気持ちは良く分かったわ」

涼華さんは気を取り直して、腕組みすると柚葉さんの言葉に頷いていました。

「ねえ、柚葉ちゃんさぁ、御殿と武器庫でこれを調べていたってことは、封印の間でも何か調べようとしているってことだよね?」

「はい、いくつかあります」

「私も付いて行って良いかな?」

「ええ、もちろん」

どうやら叔母様は、柚葉さんの調べ物が気になるようです。

「そうですね。私も行きましょう」

お母様も興味を持ったようです。

私たちは、剣の箱を武器庫に戻すと、封印の間に向かいました。


封印の間は、東御殿の裏側から延びる道を歩いたところにある洞窟の中にあります。洞窟の入り口には鉄の扉があって、鍵を開けないと入れないようになっています。お母様が、鍵を使って扉を開けました。

洞窟の中は、真っ暗です。お母様が力で光を作って中を照らしました。

「少し登り坂になっているから、躓かないように気を付けてね」

力の光を頼りに、なだらかな登り坂を上がって行きます。30mほど歩いたところで、広い空間に出ました。封印の間です。目の前には球面状の半透明な封印の先端が見えています。

「ここの造りも、南の封印の間と同じですね」

柚葉さんが見比べてみて、南の封印の間と差異がなさそうです。

「浮遊陣を刻んだ石も、同じようにありますし」

柚葉さんは、直径1mほどの円形の平らな敷石のところに行きました。そして、そこで力を籠めると、敷石の上に模様が出てきました。しかし、柚葉さんは、それ以上何かするでもなく、力を開放し模様を消しました。

「二層構造になっているのも同じです。ここも下層への通路の入り口が閉じられているみたいですけど」

「下層?」

「ええ、下層には魔道具の制御装置があります。ただ、いまは封印の中だと思うので、下層に行く意味は無いですけど」

「あらそうなの」

お母様は、下層のことは置いておいて良いと考えたみたいです。

それから、柚葉さんは入ってきた入り口から左に数メートルのところの壁を指しました。

「そして、元々はここに、東御殿の地下にある転送陣と対になる転送陣の部屋があったと思うのですが、埋められているみたいです」

「そこは私が最初にここに来た時から埋まっていたわ」

「そうですね。随分と古い時代から埋められていたように見えますね。東御殿の方も、地下への階段が無くなっているみたいですし、過去に何かがあったのだろうと思います」

「お婆様ならご存知でしょうか」

「どうかしらね、相当古いように見えますけれど。まあ、何かご存知なら教えてくださるでしょうから、聞いてみれば良いと思うわ」

確かにお母様の言う通りかも知れませんが、お婆様に聞いてみようと思いました。

「それで調べ物はそれくらいなのかな?」

どうやら涼華さんはもっと色々な発見があることを期待していたみたいです。

「そうですね、いまはそれですべてです」

柚葉さんの言葉を受けて、私たちは封印の間を後にすることにしました。


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