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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第2章 友情の涙 (清華視点)
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2-24. 東御殿

柚葉さんの言葉に、お母様の顔が険しくなりました。

「そのお話は、この場にはそぐわないと思うわ」

「そうですね、また後でお話させてください」

柚葉さんも、この場でその話題を続けるつもりはなさそうでした。

「それじゃあさ、夕食までまだ時間があるから、清華ちゃんは、皆にこの敷地の中を案内してあげたら?あ、その前に荷物を部屋に置いてくると良いよ。二階の広間に皆の分の布団を用意してあるから、見ればわかるよ。佳林ちゃんもこっちに泊まっていくだろう?」

「はい、拓人様、お心遣いありがとうございます」

拓人さん、ないすフォローです。

「では、皆さん、二階に荷物を置きに行きましょう。そのあと、この敷地の中を案内しますね」

私は、学校の皆を引き連れて、二階の広間に移動しました。

そこで、ジュースを出してもらい、一息つきました。

「いやぁ、柚葉、大胆だよねぇ。いきなり清華のお母さんたちに喧嘩を吹っかけるのかと思って冷や冷やしちゃったよ」

「んー、そんなつもりじゃなかったんだよね。手っ取り早く、巫女の力のことについて話をする約束を取り付けたかっただけで」

「結果的にそうなったみたいだし、柚葉の作戦は成功ってところかな?」

「そうだね」

本当に、礼美さんの言う通りです。私も柚葉さんが皆の前で巫女の力の話を始めようとするのかと思い、一瞬どうなることかと心配になりましたから。


部屋に荷物を置いて、ひとしきり休憩した後、皆を連れて東の封印の地の中を案内しました。

「まずは、東御殿に行きましょうか」

母屋を出て、東御殿に向かいます。東御殿の中に入ると、柚葉さんが興味深そうに見回しています。

「造りは、南御殿と同じだね。でも、設置されている従者の像の姿勢が違うんだ」

柚葉さんは、4人の従者の像のところに行って、何やら調べているみたいです。

「ふーん、なるほどね」

調べた結果が思った通りだったのか、柚葉さんは満足そうに頷いています。

「ねえ、清華、像の裏の部屋に入っても良いかな?」

「ええどうぞ」

裏の部屋は板の間で、何もない部屋の筈だったけど、と思いながら、柚葉さんの好きにしてもらいましょうと承諾しました。

「ふーん」

何か部屋の隅を調べているような感じでしたが、何かを見つけたのでしょうか?

「ねえ、清華。封印の間にはどうやっていくの?」

「え?御殿の裏手に道があって、その道を歩いていきます」

「それだと、誰でも入れてしまわない?」

「入り口に鍵が付いているので、鍵を持っていないと入れませんよ」

「その鍵って普通の鍵だよね?」

「ええ」

柚葉さんの顔が思案げになりました。でも、長くは続かず、再び笑顔になりました。

「見せてくれてありがとう。参考になったよ」

広間の方に戻ると、皆も見終えた様子だったので、次に行くことにします。

「次は舞台に行きましょう」

皆を連れて、舞台に向かいます。舞台では、そう見るものもありませんが、控え室を見せ、舞台の上に実際に立ってもらったりしました。

「柚葉さん、私たちは夏祭りの時に舞台で舞いをするのですが、柚葉さんのところはどうなのですか?」

「同じだね。私たちも夏祭りの時に舞いをするよ」

「清華さんの舞いは、とても素敵でした」

佳林が去年のことを思い出していました。

「柚葉さんの舞いも見てみたいですね」

百合さんが水を向けると、柚葉さんは困ったような顔になりました。

「いやぁ、私のは…」

何かを言いかけて、でも思い直したのか、真面目な面持ちになりました。

「そうだね、また舞うことがあれば、心を込めて舞うから、皆に見て欲しいな」

何か気になる言い方ですが、柚葉さんの舞いは私も見てみたいですね。


それから皆を道場に連れていきました。取り立てて見るべきものがありませんけれど。

「せっかく道場に来たんだから、皆の訓練をやろうか?」

何だか柚葉さんがやる気です。

「いや、柚葉、もうすぐ夕食だからさ」

礼美さんが、柚葉さんを止めようとしてました。

「まあ、それもそっか。ねえ、清華、武器庫見せてもらっても良い?」

「ええ、構いませんよ」

皆を武器庫に連れていきました。

「色々な武器があるね」

礼美さんが武器庫の中を見渡しています。柚葉さんは、武器庫の中の通路を一通り歩いたあと、奥の方の棚に向かいました。そこには、使っていない剣が箱の中に納められています。

柚葉さんは、棚から箱を取り出しました。

「清華、箱の中を確認して良いかな?」

「良いですよ」

私の返事を受けて、柚葉さんは箱を開け、中を確認しました。

「他の箱も全部見ても良いかな?」

「お好きなだけ見ていただいて構いませんよ」

柚葉さんはニッコリ微笑むと、残りの箱もすべて開けて中を確認していました。

「清華、ありがとう」

どうやら、ここの調査もこれで十分そうですね。


そうこうしているうちに夕食の時間になり、皆で食堂に行きました。ここは山の奥ですが、港までそう遠くもありません。なので、海の幸も沢山食卓に並びました。私も伊豆の家にはしばらく帰って来てなかったので、久しぶりの新鮮なお刺身などを存分に堪能しました。

食後もしばらく食堂でお話していましたが、一段落すると柚葉さんがお母様たちにお話をしましょうと持ち掛けられていました。それで、申し訳なかったのですけれど、礼美さん達とは別行動することにして、佳林に礼美さんと百合さんをお風呂に連れていくようにお願いしてから、私はお母様たちと一緒にリビングに向かいました。

「それで柚葉さんはどんなお話をなさりたいの?」

リビングのソファに座りお母様は、柚葉さんを見ました。

「そうですね。昔からの伝承など家に伝わっているお話があれば、と。正直、南の地では殆ど何も残されていないんです」

「その伝承を集めてどうするの?」

お母様から質問を受けた柚葉さんは、思案顔になりました。そして、上目遣いにお母様の顔を伺うように切り出しました。

「あの、南の封印の地の封印に異変があったのは伝わっていると思うのですけど?」

「ええ、聞いているわ」

「その封印を元に戻したいんです。元々私が東京に来たのも、東に向かえば封印を元に戻す方法が見つかると言われたからなので」

「それを柚葉さんに言ったのはどなたなの?」

「分かりません。でも、私よりもずっと力があり、力の使い方も良く知っている人のように感じています。そして、少しでも力のことを知ってその人に近づくことが出来れば、また会えるんじゃないかって思うんです」

「だから、あなたは封印を戻す方法やどんな力の使い方があるかを調べようとしているということね」

「はい、そうです」

柚葉さんは、真剣な眼差しで、お母さんを見つめています。

「分かったわ」

お母様は、それまで硬くしていた表情をほぐして、薄く笑みを浮かべました。

「私たちの知っていることをお話しても良いですけれど、その前に質問させてもらえるかしら?」

「お答えできることでしたら、何でも」

「あなた、この辺りに魔獣はいないって言いましたけど、どの辺りまで視えているの?」

「そうですね。ここから伊豆半島全部でしょうか。見事に魔獣がいないですよね。来る途中の山奥では、ぽつぽつとハグレの魔獣がいたのに、こちらには一切いないのは不自然に思えたんです」

「それであたなはどう考えたの?」

「そうですね。一番簡単なのは、見つけた端から退治することですけれど、もしかしたら、魔獣避けの結界があったりしないかなぁとか。ただ、魔獣避けの結界だと、この地の周辺の地域に魔獣が増える筈だけど、それが無いのでやっぱり退治しているんじゃないかと思っています」

「まあ、その見立ては間違っていないわ。でも、実行しているのは私たちではなくて、私たちの母よ」

「お婆様なのですか?」

私は思わず話に割り込んで聞いてしまいました。

「そう、あなたのお婆様が、この辺りを巡回して、魔獣を斃して回っています。力の使い方についても、母の方が詳しいと思いますから、一度母に会いに行くと良いわ」

「会いに行くとは、どこに?」

「この先の山小屋に一人暮らししているの。あなたなら場所は分かると思うけど、突然一人で行ったら驚かれるから清華と一緒に行くと良いわ?清華、柚葉さんを連れていっておあげなさいな」

「はい、そうします」

「それで、あと一つお願いがあります」

「なんでしょうか」

「明日、封印の間を見せて貰えませんか?」

「良いでしょう。そちらも清華に案内して貰うといいわ」

「ありがとうございます」

そのあとは、柚葉さんが質問を受ける番になり、島のことなど話をしてくれましたが、封印に起きた異変については本部から口止めされているからとのことで話して貰えませんでした。


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