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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第2章 友情の涙 (清華視点)
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2-20. 柚葉の来訪

翌日の土曜日、私は柚葉さんを家に招待しました。琴音さんの喫茶店では話しきれなかった、巫女の力のことなどについて二人で話したいと思い、喫茶店からの帰り道で柚葉さんに誘いかけました。柚葉さんは快諾してくれて、話はすぐに決まりました。

柚葉さんは学生用マンションで一人暮らしなので、食事もなるべく一緒が良いかなと、お昼前に三鷹の駅の改札で待ち合わせることにしました。

「清華、こんにちは。今日はご招待ありがとう」

「いえいえ、楽しみにしていましたよ」

「そう言えば、昨日の夜は少し遅くなってしまったけど、問題なかった?」

琴音さんの喫茶店に長居してしまって、家に帰るのが遅くなってしまったことを心配してくれたみたいです。

「ええ、琴音さんが家に電話してくれましたので、何も言われませんでした」

「それなら良かった」

私は柚葉さんを連れて、家に向かって歩き始めました。今日も天気は晴れていて、ぽかぽかしています。柚葉さんは、ピンクのシャツにデニムのスカートです。万が一立ち回りしなければならなくなったときのことを考えてか、黒のレギンスを下に履いていました。髪は、学校に行くときと同じように頭の後ろで巻いて簪を挿しています。


駅から10分ほど歩いて私の家に着きました。

玄関から入って柚葉さんに家に上がって貰い、私の部屋に案内しました。部屋にはベッドや勉強机やタンスなどがありますが、空いたスペースには絨毯を敷いて、ローテーブルが置いてあり、何人かで座布団に座って話ができるようになっています。

「ここが清華の部屋なの?広いね」

「ええ、お友達とゆっくりお話できると良いなって思って」

「なるほど、確かにゆっくりお話できそうだね」

「好きなところに座ってくださいね」

「じゃあ、遠慮なく」

柚葉さんは、ローテーブルの前の座布団の上に座りました。私も柚葉さんの向かい側に座ります。

「今日、柚葉さんに家に来て貰ったのは、昨日の夜にお話した通り、それぞれの知っている巫女の力について情報交換したかったからです。もっとも、柚葉さんの方が多くのことを知っているような気がしていますので、教えていただく一方になってしまうかも知れませんけれど」

「私からもお願いしたいことはあるから、清華が心配することは無いよ」

「そうなのですか?」

「うん、いくつかお願いがあるのだけど、このお屋敷に武器庫と、巫女にまつわる古い書物があれば見せて欲しいのと、あと、今度清華の実家に連れていって欲しいんだ」

「東の封印の地ですね?」

「そう、春の巫女の封印の地がどうなっているのか、東御殿やその他どんなものがあるのか、実際に自分の目で見て確かめたいんだよね」

「分かりました。それくらい簡単です。柚葉さんの都合が良ければ、今度のゴールデンウイークのときは如何ですか?せっかくなので、泊りがけで行きませんか?」

「是非とも。清華、ありがとう。お休みの日は基本的に予定が無いし、喜んでお呼ばれしちゃうよ」

柚葉さんは嬉しそうに微笑みました。二人で連休の予定を決めたところで、お昼ご飯の支度ができたとの連絡がありました。


連絡を受けた私達は食堂に向かいました。いつも不在がちなお父様が、今日はたまたま家に居て、柚葉さんと再会の挨拶をしていました。柚葉さんが、こちらの高校に行きたいと相談に来た時以来だったようです。

お昼の献立は、ヒレカツでした。一人暮らしで、なかなか美味しい揚げ物が食べられないと言う柚葉さんのリクエストを受けて瑠里にお願いして用意して貰ったものです。柚葉さんは「とても美味しい」と言って食べてくれました。

食後、柚葉さんと私は食堂に残り、二人だけで話をしました。

「清華は、力の使い方のうち、身体強化、治癒、防御障壁、光弾、力の刃、近接探知は知っているんだよね?」

「ええ」

「後は、遠隔探知、転移、浮遊、掌底破弾だけど、それらは何れも?」

「どれも知らないですね」

「じゃあ、全部教えるけど、訓練するのに良い場所が無いかな?道場みたいな?ダンジョンでも良いけど」

「この家の地下に道場がありますから、そちらはどうですか?行ってみますか?」

「そうだね、行こうか」

私は柚葉さんを地下の道場に案内しました。柚葉さんは道場に入ると、中を見渡しました。

「うん、ここで良さそうだね。足りなかったら、後は今度戸山ダンジョンでやれば良いし」

「それでは、私、着替えてきます」

私は一旦部屋に戻り、動きやすい服装に着替えて道場にいきました。

道場に戻ってみると、柚葉さんはそこに飾られている鎧の前にいました。

「柚葉さん、その鎧がどうかしたのですか?」

私の声に反応して、柚葉さんは私の方を見ました。

「清華はこの鎧が何か知っているの?」

「え?お父様の会社で作っている鎧の最新作だと思うのですけど」

「ふーん」

柚葉さんは再び鎧の方に視線を移しました。そして、鎧を見ながら何か考えている風でした。

「ねえ、清華。本部の巫女って何処にいるのか管理しないといけないんだよね?」

「ええ、そうですけど。それがどうかしましたか?」

柚葉さんは唐突に本部の巫女のことを質問してきました。

「最近、ダンジョンの下層に行ったって話は無い?」

「下層って五層より下にですか?そういう話は聞いていないですね。単にダンジョンに入ったかどうかでしたら、ダンジョン協会に聞けば分かると思いますけど」

ダンジョンは五層から大型の魔獣が出現するようになります。ただ五層の場合、大型の魔獣は単体でしか出現せず、普通の人でもまだ対処が可能なので中層の位置付けです。六層以上になると大型の魔獣が群れを成している場合があって、余程の猛者でないと行きません。それが下層なのです。本部の巫女は、未踏査の階層を探索した場合には本部の方に報告するよう指示が出ているのですが、それ以外の場合には報告の義務がありません。なので通常、本部の巫女がダンジョンに入ったかは事務局は把握できていません。その一方、ダンジョン協会はダンジョンへの入退場は常に管理しているので、ダンジョンに入ったかどうかであればダンジョン協会の方が正確に把握しているのです。

「そうだね、分かった」

柚葉さんは鎧に対する興味を失ったように視線を逸らすと、私の方に向き直りました。

「待たせちゃってごめん、清華。力の使い方を教えないとだね」

そして柚葉さんは、私に力の使い方を教えてくれました。

「遠隔探知は、頭の中で地図を描くようにね」

「転移陣は二つの形を正確に同じように」

「浮遊陣は落ちることは無いんだから、慌てずに」

「掌底破弾は、気合とタイミングが大事だよ」

柚葉さんは、他の人にも教えていたとのことで、教え方が上手く、ほどなく私も柚葉さんに教えて貰った技が使えるようになりました。

「清華は覚えが良いね。教えやすかったよ」

「ありがとうございます。柚葉さんが分かりやすく教えてくれたからですよ。まあ、使えるようにはなりましたが、使いこなすにはまだまだ訓練が必要ですね」

「まあ、それは仕方がないよね。何度も練習して、実戦でも使っていかないと。上達するのに早道はないから」

「そうですね」

私たちは互いに笑みを見せ合いました。その後、柚葉さんが真剣な顏になりました。

「あ、そうだ、清華、分かっているとは思うけど、転移と浮遊は人の前では使わないでね」

「はい、そうではないかと思っていました」

「お母さんから言われているんだよね。人には見せるなって。万が一使わないといけなくなったときには、魔道具を使ってやっているように見せなさいとも言われているんだ」

「なるほど。自分一人ではできないことのように見せかけるということですね」

「そう。巫女が力を使って色々なことができるのは、あまり知らせるべきではないって」

「柚葉さんのお母様の心配は良く分かります。私も注意しますね」

魔獣と戦うには強い方が良いのですけれど、強ければ強いほど世間一般の人達との力のギャップが広がり過ぎて、危険だということなのでしょう。確かにその通りだろうと思いました。学校でも、防御障壁と身体強化を使うだけで十分過ぎるほど差が出てしまうのですから。


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