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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第2章 友情の涙 (清華視点)
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2-18. 冬の巫女

「ええ、そうですよ」

柚葉さんの問い掛けは予想していたようで、彼女は冷静に応じていました。

「それで、南森ということは、あなたが夏の巫女なのですね。そして、あなたは春の巫女?」

「はい。東護院清華です。よろしくお願いいたします」

「ええ、こちらこそ。私のことは琴音って呼んでくださいな」

「では、私のことは清華で」

「じゃあ、私は柚葉ね」

「分かりました。清華ちゃんと柚葉ちゃんですね。お二人とも名前もだけど、可愛らしいわね」

「いえ、そんな」

面と向かって可愛いなんて言われてしまうと、照れてしまいます。

「さっきまで飲んでいたけど、何かもう一杯飲みますか?奢りますよ」

「ありがとうございます。では、私はブルーマウンテンをお願いします」

「私はダージリンティーで」

柚葉さん、ぶれませんね。

琴音さんが奥の方に向かった。カウンター越しに見ると、そこにはロマンスグレーの髪の男性がいて、琴音さんからのオーダーを受けて珈琲を淹れようとしていた。

琴音さんは、ダージリンティーのティーセットを持って戻ってきて、柚葉さんに出していた。

「あの奥の叔父様、素敵な方ですね」

「そう?あの人は四辻(よつじ)と言うのだけど、私の爺やみたいな人なのです。ずっと私の実家の仕事を手伝ってくれていたのですけれど、私がここにお店を出すと言ったら、一緒に来ると言って聞かなくて根負けしてしまいました」

「琴音さんのことが心配なのでしょうね。でも一緒に来てくれるなんて、ますます素敵に思えてきました」

「まあ、そうですね。実際助かっていますし、感謝もしています」

話をしているうちに私の珈琲も淹れ終わったようで、四辻さんがシナモンスティックを添えて、私に出してくれた。

「いただきます」

珈琲を一口飲んでみます。うーん、味も香りもとても良いです。

「とても美味しいです」

「ありがとうございます」

「ダージリンも美味しいよ」

柚葉さんも楽しげです。

「それでどうしてここに来たのですか?東護院の小母様に聞いて?」

「いえ、お母様からは何も。琴音さん、お母様にお話されたのですか?」

「ええ、だってここは春の巫女のテリトリーでしょう?お店を出す前に、一度会ってお話させていただいたのです。五年ほど前のことですけれど」

「そうだったのですか。私は小学生のころから東京に住んでいたので、会えなかったのですね」

「小学生の頃からお母さんと離れて生活しているなんて凄いですね」

「お父様やお兄様たちがこちらですから、寂しくは無かったですよ」

「そうなのですか。それで、どうしてここのことが分かりましたか?」

「柚葉さんが見つけたのですけど。柚葉さん、教えてもらえますか?」

「ん?簡単だよ、探知しただけ」

「え?でも、これだけ沢山の人がいるところで探知したら、区別するのは難しくはないの?」

「だから、力を持つ存在に絞って探知したんだよね。そんな風に絞り込めば、それなりに広い範囲で調べられるから。でも、思ったよりずっと近いところに反応があって吃驚したかな。琴音さんは全然力を隠していないし」

学校や柚葉さんの住んでいるマンションから探知したとき、この辺りは「ずっと近い」らしいことは分かりましたが、柚葉さんはどこまで探知できるのでしょうか。

「と言うことだそうです、琴音さん」

「分かりました。それで私が冬の巫女だってことは、どうして?」

「琴音さんのネームプレートに堂々と『北杉』って書いてあるじゃないですか。それに、秋の巫女は今年大学に入ったばかりだから喫茶店で働いているとかはないかなって思ったし、喫茶店の名前だってメゾンディヴェール(maison d’hiver)って確か『冬の家』って意味でしたよね」

「まあ、そうですね。ヒントが多すぎるくらいありましたね」

琴音さんは、お手上げというように両手を広げたジェスチャーをしました。

柚葉さんへの質問が一段落したようでしたので、今度は私の方から問いかけました。

「琴音さんは、どうして東京に来たのですか?」

「情報収集のため、ということで。実家の辺りでもダンジョンや魔獣の様子が変わってきていたのですけれど、うちの実家って山奥にあるでしょう?なかなか情報が手に入らないのです。それに、人の多いこちらの方が、何か起きそうなこともあって、だから家族と相談して東京に来ることにしたのです」

「そのために北杉家はわざわざ冬の巫女を派遣したのですか」

「そうですね。まあ、実家では母に祖母に曾祖母まで元気ですし、色々後押しがあって私が来ることになりました」

琴音さんが苦笑いしていた。

「柚葉ちゃんだって南の巫女でしょう?どうして東京に?」

「私の場合は、お告げのようなものがあったからです。『東に向かいなさい』って」

「お告げのようなもの、って?」

「それを言った存在がどんなものかが分からないから。神様なのか、人なのか。でも、私よりずっと力のある存在には間違いないです」

「顔は見たのですか?」

「いえ、そのときは声だけが聞こえていて、顔は見えてなかった。でも、それより前に会った人で、この人かもしれないって人はいます」

「その人ってどんな人ですか?」

「名前は分からないけど、スラリと背が高くて美しい女性。でも、アイツが女であるわけがない」

「え?どうして?」

「だって、アイツは私の胸のサイズを変えたんですよ。私に許可もなく、二つも。そりゃあ、標準の中でも控えめな方だったけど、だからってそんなの女性だったらしないでしょ、普通。だから絶対男です。ヤローです。顔に拳固を一発お見舞いしてやるんだから」

何だか柚葉さんが燃え上がっています。そんなことを言われてしまったら、意識してしまって思わず見てしまうではないですか。そうですか、その立派なモノにはそういう逸話があったのですか。聞かない方が良かったような気もしますけれど。

「それで、その人のことは見つけられそうなの?」

「そうですね。会ったときにマーキングはしてますけど、そのマークが消されずに残されているかは分からないです」

「こちらに来てからは?」

「いえ、見つけられてないです。ここにいないのか、私の探知から逃れているのか、どちらかなのだろうけど、ともかく私の探知には一度も引っ掛かったことがないんです」

「あら、それは残念ですね」

「はい、残念です。拳固がお見舞いできないのが、とっても」

柚葉さんの恨みは根深そうです。


そうして三人で話をしていると、一人の女性が店の中に入ってきたことに琴音さんが気付きました。琴音さんは魔道具を柚葉さんの席の前のカウンターの上に置き、女性に向けてこえを掛けました。

「あら、愛子さん、いらっしゃいませ」

「こんばんは、琴音さん」

愛子さんと呼ばれた女性は、髪はストレートのセミロングで、目がくりっとしていて快活そうな雰囲気を纏っていました。

「あ、あの人は」

私の隣で柚葉さんが呟いているのが聞こえました。

「あの人がどうかしたのですか?」

声のする方に向いて、柚葉さんの顔を見ました。

「え?いや、何でもない、清華。ごめん」

柚葉さんは愛子さんの顔を知っているのでしょうか。でも、いまは聞いても答えて貰えそうもないと思ったので、柚葉さんのことはそのままにして、入り口の方に向き直りました。

愛子さんは琴音さんに案内され、私の右側の一つ置いた向こう側のカウンター席に座りました。琴音さんが、水とおしぼりを出しています。

「ご注文はどうなさいますか?」

「いつものキリマンジャロで。あと、今日のお勧めパスタって何?」

「明太子のスパゲッティですね」

「じゃあ、それ一人前で」

「承知しました」

注文を受けた琴音さんがカウンター内に戻っていきます。

四辻さんが愛子さんのオーダーした珈琲を淹れ始め、琴音さんはパスタを茹でるためにお湯を沸かし始めています。

愛子さんは、おしぼりで手を拭いた後、手持ち無沙汰になったのか、店内を見回していましたが、ふと私の方に向いて問いかけてきました。

「あなたたち、高校生だよね?」

魔道具を持ったままだと返事をしても届かないことに思い至り、魔道具を柚葉さんに返しました。柚葉さんは私から魔道具を受け取ると、琴音さんに渡した分も含めて魔道具を容器に戻していました。

「ええ、そこの督黎学園の生徒です」

「ねえねえ、ダンジョンって行ったことある?魔獣を斃したりとか?」

「私たちは行ったことがありますよ。魔獣を斃したことも」

「え、凄いね。魔獣って怖くないの?」

「それは怖いと思うときもありますけど、斃さなければならない相手ですから、頑張るしかありません」

「あー、なるほど、そうかぁ」

何か愛子さんに感心されてしまっています。

「愛子さん、ご注文の珈琲です。あと、スパゲッティに付いているサラダになります。それで、どうしたのですか?魔獣のことを聞いたりして」

琴音さんが女性の注文した珈琲とサラダを女性の前に置きました。

「私って街中での魔獣との遭遇率が高いんですよね。で、いつも動けないの。だから魔獣が斃せる人って尊敬しちゃう」

「それなりに訓練すれば、街中に単独で出てくる魔獣は、斃せるようになりますよ」

「え、本当?私も訓練してみようかな?あ、そういえば琴音さん、前に街中に出現した魔獣を斃した人の話をしたよね?私、また見たんだ、その人。白と銀の和装に身を包んだ銀髪銀眼の女の人を」


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