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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第2章 友情の涙 (清華視点)
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2-14. 異端者

山頂まで行くという方針が決まり登山が再開されましたが、魔獣が上ってきた沢の辺りにいて、実際に魔獣を目撃した人達は、まだそのショックから覚めきれずに口数も少なく黙々と歩を進めていました。

私は登山を始めた時から一緒だった遠野さんに柚葉さん、そして魔獣の襲撃の時に合流した礼美さんとの四人で歩いていました。遠野さんは、魔獣を目撃した他の生徒同様に、先程までとは打って変わって無口になってしまいましたが、礼美さんはそれほどでもないらしく、私たちに話しかけてきました。

「いやぁ、さっきの魔獣は凄かったよね。あれって、ダンジョンの中でも下層に行くと同じような感じになるの?」

「そうだね。戸山ダンジョンも一層はどの魔獣も単独行動だけど、二層三層になると群れになってくるし」

「え?柚葉さんは戸山ダンジョンの二層や三層にも行ったことがあるの?」

「ええ、一応。部の皆と戸山ダンジョンに行く前に、どのようなところか下見をしておこうと思って」

「あー、なるほど。って、それ一人でダンジョンの下層に行ったってこと?」

「そう。勿論、そんなに深くまでは行ってないよ。そんなところまで皆を連れていこうとは思っていないし」

当然ですね。通常、ダンジョンの中で一般人が行けるのは二層か三層までと言われています。それ以上は、魔獣の群れが大きくなったり大型の魔獣もいたりで、装備が充実した人でないと危険になるのです。以前、私も大型の魔獣は見ておかないといけないと言われて、お母様達にダンジョンの五層まで連れて行って貰いましたけど、下に降りるほど魔獣の数が増え、強さも増して大変でした。

「そうなの?柚葉さんくらい強ければ、もっと下層でも連れて行って貰えそうに思ったんだけど」

「一人ならまだしも、大勢になると難しいかな。特にバラけてしまうと、護り切れなくなる気がする」

「そっか」

「ところで礼美さん、さっきのは怖くなかったの?」

「え?怖かったと言えば怖かったけど、清華が護ってくれていたし、柚葉さんが戦っていたからね。任せておけば大丈夫だと思ってた」

「礼美さん、度胸ありますね」

「そうでもないよ。ほら、この前、自分で魔獣と戦ったし、柚葉が戦うところも見ていたから、どれくらいの危なさなのか掴めていたと言うか。だから大丈夫かなって思っただけ」

「そういうもの?」

「うん、そういうもの」

「だったら、皆一度はダンジョンに潜って、魔獣討伐を経験しておいた方が良いってことかも知れないね」

「そうだね。それをアピールして、どんどん部員を増やそうよ」

「え?そっち?」

私もまさか礼美さんが部員を増やそうと言い出すとは思っていませんでした。

礼美さんの言葉に柚葉さんが絶句し、絶句した柚葉さんを楽しそうに礼美さんが見ているところで、話題を変えても良いかなと思って会話に割り込みました。

「ねぇ、柚葉さん」

「何?清華」

「さっきの魔獣達は、何処から来たと思いますか?」

「はぐれの魔獣にしては数が多すぎるから、新しいダンジョンが出来たんじゃないかと思ってる」

「やっぱりそうなんですね」

「まあ、確証は無いけど、可能性は高いと思うからダンジョン協会に連絡入れた方が良いですよ、って先生に言っておいたよ。それを先生達がダンジョン協会に伝えたら、ダンジョン協会は調査をしますって返事をしたって」

「調べて貰えるなら安心ですね」

「そうだね。他の方にも魔獣が行くかも知れないし、早いうちに調べて欲しいよね」

柚葉さんは言いながらニッコリ微笑みました。

その笑みの意味するところが良く分からず、質問を重ねようとしたところで、柚葉さんに腕を掴まれてグイっと引っ張られました。

「え?」

私が驚いていると、柚葉さんが私の耳に口を近づけました。

「それ以上の質問は、帰りのバスの中で良いかな?」

私は会話が危険な領域に入りそうになっていることを悟って、柚葉さんの言葉にコクコク頷いて同意を示しました。

その後も礼美さんや遠野さんも交えて無難な会話を続けながら、山頂まで歩いて行きました。



私たちは全員が山頂に着くと、点呼を取ってからクラスごとに順番にロープウェイに乗って下山しました。ロープウェイはフル回転で運転していましたが、それでも8分間隔だったので学年7クラス全部が下山するのに一時間近く掛かりました。

下山したクラスから、レストハウスでお弁当を食べ、食べ終わった人は帰りの集合時間までは自由になって、お土産などを買いに行ったりしていました。

帰りの集合時間には、それぞれのバスに乗っているようにとの指示でした。私は、柚葉さんと行動を共にして、一緒にバスに乗り、隣同士で座ることに成功しました。

バスが発車してしばらく経つと、柚葉さんは膝の上に乗せていたポーチから薄い円筒形の白色の容器を取り出しました。その蓋を開けると、中には艶のある黒色の正三角柱の形をした物体が六個、正六角形の形に並べられて入っています。柚葉さんはそこから二つを取り出すと、容器の蓋を閉じてポーチに仕舞い、取り出した二つを握りしめました。その握りしめた手から弱い力の波動を感じたので、力を籠めようとしているのだと思います。柚葉さんは、黙って私の手を取ると、一つを私の掌に乗せ、握らせようとしました。色は違いましたが、見覚えのあるそれは、私の持っているものと同じではないかと思いました。なので、柚葉さんに促されるまま、その物体を握りました。

私が物体を握っていることを確認すると、柚葉さんが口を開きました。

「清華、聞こえてる?」

「はい、これは会話結界の魔道具ですね?」

「そうだよ、知ってた?」

「私も持っていますから」

「なるほど」

この魔道具は、これを握っている人の声は、同じものを握っている人にしか聞こえず、他の人からは口の動きも分からないようにする効果を持つものです。形は正三角柱ですが、角は強めに取ってあって痛くないようになっています。正三角形の面の片側の中央に、透明な石が埋め込まれていて、力を籠めると、この石が光ります。そして、石が光っている間は、効力が持続するようになっています。

「柚葉さんも持っていたのですね」

「高校に入るときにお母さんに貰ったんだ。巫女のことは他の人には知られない方が良いことが色々あるから、島の外で必要な時に使いなさいって。もっとも高一のときは、親しい友達もできなかったし使うことが無かったんだけど」

「そうですか。私も高校入学のときにお母様から貰いました。ですが、私も使ったことが無いですね」

「それなら同じだね」

「ええ」

私たちは向き合って互いに微笑みました。でも、柚葉さんはすぐに真面目な顔になって続けました。

「でも、これからはこれを使う機会が増えるかも知れない」

「何故そう思うのですか?」

「最近、魔獣の動きが活発になっているし、今日みたいなことがまたあるかも知れない。そして、清華と私と巫女が二人いれば、どうしてもその手の話題になってしまうでしょ?」

「まあ、そうかも知れませんね」

「だけど、これは頻繁には使わない方が良いとも思うんだよね。巫女たちがコソコソ秘密の話をしているって思われたくないから。いまは、皆疲れて寝ているし、気付かれないと思うから良いんだけど」

「柚葉さんは、随分と気にしているのですね」

柚葉さんは、私の言葉にしばらく黙って私を見つめてから口を開きました。

「清華は、他の人から巫女ってどんな存在に見えていると思う?」

「え?魔獣を斃してくれる人?」

「そういう人もいるかも知れないけど、私、お母さんから言われたんだ。他の人にとって、巫女は異端者だって。だから気を付けなさいって」

「異端者ですか。確かにそうかも知れませんけれど、柚葉さんのお母様は昔何か嫌な経験をされたのですか?」

「ううん。お母さんじゃなくてお婆さんがそういう経験をしたらしいんだ。それを何度もお母さんに言っていたって」

「お婆様は柚葉さんに直接は言わなかったのですか?」

「お婆さんは、私が小学校に上がる前に島を出ちゃったからね。だからお婆さんの記憶はあまり無いんだ」

「そうなのですか?普通、封印の地の巫女は、封印の地からはあまり離れないようにしていますよね?」

「うん、まあ、普通はそうだと思うけど、お婆さんは違ったみたいで。島にはお母さんと私に瑞希もいるし、いざとなれば守護神もいるから大丈夫って」

「守護神?島の護り神ですか?」

「分からない。ううん、分からなかったんだけど、もしかしたらいるのかもって思うことがあったんだ」

「何かあったんですか?」

「もう私死んじゃうってときに、助かったことがあって。もしかして、それがお婆さんの言っていた守護神のお蔭なのかもって」

「不思議な体験をしたのですね」

「そうだね」

柚葉さんは、バスのシートに寄りかかって遠くを見ているようでいて実際には見ておらず、何かを思い出している様子でした。

しばらくそのままでしたが、柚葉さんは何かを思い出したように起き上がり、私の方を向きました。

「そう言えば、清華は、何か私に聞きたいことがあったんじゃなかったっけ?」

「あ、そうでした」

忘れていました。


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