2-13. 魔獣の群れとの闘い
襲い掛かってくる魔獣を見ても、柚葉さんは動じることなく力を乗せた槍の穂先を、最初の一体の顔面目掛けて突き出しました。そしてその勢いで力の刃を射出、力の刃は狙いから外れることなく一体目の顔面に突き刺さりました。それが致命傷となり一頭目が斃れて地面に横たわります。瞬時に一頭目を撃破した柚葉さんは、そのすぐ後を来ていた二体目の額に左手の掌を当てました。そんな風に額に手を当てても押し留められないし反撃されて危ないのではと思いましたが、次の瞬間、柚葉さんの掌から力が放出されるのを感じました。それによって何が起きたのかは分かりませんでしたが、そのまま二体目も力なく倒れ込んだので、柚葉さんが勝ったのだと知れました。でももうそのときは柚葉さんの目は二体目を見ておらず、その後方から来る魔獣を睨み付けていました。ただ二頭目の直後にいた三体目と四体目は既に柚葉さんの目の前にいて、柚葉さん攻撃の準備は間に合わなさそうでした。柚葉さんも同様に考えたらしく、それらを無理して迎撃することはせずに躱して避けるだけに留めました。そして避けながらも態勢を整えて、その後に来た五体目の頭には再び槍の穂先に乗せた力の刃をぶち当てます。その結果、五体目も柚葉さんに一撃で斃されたのでした。
そうした柚葉さんの動きを見て、六体目から後の魔獣たちが怯んで一瞬動きを止めました。そして、周囲を見渡して他にも人がいることを確認すると、柚葉さんを避けて、遠足の隊列の前方に向かって進路を変えて走りだしました。それらが向かう先には沢の谷から逃げずに足を止めて柚葉さんの戦いを見ていたクラスメイト達がいましたが、私からは遠くて防御障壁をそこまで伸ばすことができません。そこにいたクラスメイト達は、悲鳴を上げて逃げ始めました。
一方、先程柚葉さんが攻撃を避けた二体は、私の障壁にぶつかり、先に進めないことを悟ると踵を翻して再び柚葉さんに向かっていきました。柚葉さんは逃げ始めたクラスメイト達を護るために、そちらに向かって走り始めていたため、二体に背中を見せる形になってしまいました。二体の魔獣は、勢いよく走り、柚葉さんの背中目掛け飛び掛かっていきます。
柚葉さんが危ない、と思った瞬間に柚葉さんの体が左にずれ、柚葉さんの右の脇の下から力の刃の乗った穂先が突き出されました。その穂先は、柚葉さんの真後ろにいた魔獣の喉元に突き刺さり、放たれた力の刃が魔獣の喉を切り裂き首の骨も切ったようで、魔獣の頭が垂れ下がり、そのまま魔獣は倒れました。柚葉さんはそこでくるりと半回転して後ろから迫っていた魔獣の方を向き、槍を持ちなおして斃れた魔獣から抜き、改めて力の刃を穂先に乗せて、魔獣の首筋に向けて槍を振りました。素早い振りに魔獣は躱しきれず、穂先は見事に魔獣の首筋を捉え、切り裂きました。柚葉さんはその勢いのまま再度反転し、逃げまどっているクラスメイト達の方に全速力で駆けていきます。いや、駆けるというより高速の連続ジャンプのようなものでした。身体強化をフルに掛けたに違いありません。
魔獣二体の相手をしていた分の遅れも取り戻して、他の魔獣が到達する前に、柚葉さんはクラスメイト達のところに到着しました。
「ここから動かないで」
柚葉さんは一言言い置くと、クラスメイト達の周りに防御障壁を展開しました。そして向かってくる魔獣達に向き合うと、足を一歩前に踏み出しつつ力を放出し魔獣たちを威嚇します。その威嚇で魔獣たちが怯んでいる隙に、素早く魔獣に近づき、先頭の魔獣の頭を穂先に乗せた力の刃で分断したあと、続けて次の魔獣の頭に左手を当てて力を打ち込んで撃破しました。さらに、その攻撃を見て逃げ腰になっていた次の一体の後ろの首筋に穂先に乗せた力の刃を打ち込んで斃しました。残りの四頭は、そんな状況から不利と考えたのか、逃げ始めます。柚葉さんは、逃げる魔獣の後ろに向けて、槍の穂先から力の刃を二回飛ばし、後ろ二体の足を止めます。そして高速の連続ジャンプで素早く前方に移動して、先頭を切って逃げていた二体も力の刃で追撃して動けなくしました。四頭とも逃げられないよう足止めができると、先頭の方から槍で止めを刺して回り、すべての魔獣の討伐を完了させました。
すべてが一気に行われ、あっという間のことでした。私は防御障壁を張りながら見ていることしかできず、柚葉さんと自分の実力差をひしと感じていました。
その後も柚葉さんは、息を切らせることなく歩き回り、魔獣の死を確認して周り、完了すると槍を振って穂先の血を飛ばしました。その後、柚葉さんの手の中から槍が消えました。槍を転送させたのでしょう。
それから柚葉さんは、スマホを取り出して現場の写真を撮り始めました。一通り撮影したあと、私たちの方に戻ってきました。
「須賀先生」
「え?あ、南森さん」
柚葉さんの言葉で、呆然としていた須賀先生が我に返ったようです。
「先生も現場の写真を撮りますか?魔獣をこのままにはしておけないので、処理したいのですけど、先生方が記録を残したいのでしたら、その間は待っていようかと思いまして」
「そうですね。記録は残したいのですけど、まずは生徒達の無事を確認しないといけませんね。ねえ、山際先生?」
「はい、生徒の無事の確認が先ですね」
山際先生は、礼美さんのいる2Cのクラス担任の先生です。魔獣が来る前、須賀先生と話しているところで後ろから追い付いてきていました。
「先生方、分かりました。確かに安全確認が先だと思いますし、私は待っていますから、安全確認を終わらせてください」
「ありがとう。南森さん、少し待っていてね」
先生方は、スマートフォンを取り出すと、生徒達の安全確認を始めました。先生のスマートフォンの画面を見ると、学年全員の名簿になっているようです。しかも他の先生と情報共有できるようになっていて、名前の横にチェックを入れると、チェックを入れた先生の名前が表示されるようになっています。須賀先生と山際先生は、私の後ろに集まっていた生徒達の名前と無事を確認すると二手に分かれて確認を進めていきました。
一方、先生方との話を終えた柚葉さんは、先程防御障壁を張ったクラスメイト達のところに歩いて行きました。
「魔獣は斃したから、もう大丈夫だよ」
クラスメイト達を安心させるように言って、防御障壁を解除します。
「ありがとう、南森さん」
まだ先程の恐怖から立ち直れないでいるのか、立ち上がれない子もいましたが、皆口々に柚葉さんに感謝の意を示しているようでした。そんな皆からの言葉に、柚葉さんは笑顔で応えていました。そしてひとしきり話をして、クラスメイト達が落ち着いて来たのを見計らってから、柚葉さんは先生たちのいる方へ向かいました。
先生方は、生徒達の無事の確認は早々に完了したようで、続けて現場の撮影を始めていました。先生方が作業しているのを待っている合間、柚葉さんは、スマホでどこかに電話をしていました。どうやら、魔獣を引き取ってもらえるよう依頼しているようです。その相談はうまくいったのか、満足そうに電話を終えました。そして、先生方の作業が終わると、柚葉さんは魔獣の死体を順番にどこかに転送しました。
その後、遠足をどうするかという話し合いが先生達の間で持たれましたが、行程も既に半ばを過ぎてしまっていたこと、帰りはロープウェイで一気に降りることになっていたことから、前に進むことになりました。しかし、お弁当は山頂では食べられず、ロープウェイで下に降りたレストハウスで食べることになりました。眺めの良いところでお弁当を食べることができなくなって残念でしたが、魔獣に襲われてしまったので仕方がありません。
 




