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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第2章 友情の涙 (清華視点)
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2-12. 遠足

水曜日の朝、快晴です。清々しい春の空気が気持ち良いです。

今日は、新しいクラスの親睦を兼ねた二年生の遠足です。いつもより早い時間に学校に集合し、バスで移動して、いまは登山口にある駐車場でクラスごとに並んでいるところです。

そこで、校長先生のお話を聞いたり、先生の注意事項を聞いたりしていました。

そんな退屈な時間が終わると、A組から順番に登山道に入っていきます。私たちはB組なのでA組のすぐ後です。

「東護院さん一緒に行かない?」

登山道に入ってすぐ、遠野さんが私に声を掛けてくれました。

「ええ、柚葉さんも一緒で良いですか?」

「いいわよ。それで、南森さんはまだ後ろの方?」

「そうですね。並ぶとき後ろだったので、まだ後ろでしょう」

歩く速度を落として、後から来た人に抜いて行ってもらうと、柚葉さんが追い付いて来ました。

「清華、待っていてくれたの?ありがとう」

「いえ、どういたしまして。遠野さんも一緒に歩きたいそうですけど?」

「もちろん。よろしくね、遠野さん」

「はい、よろしくです、南森さん」

「では、二人とも行きましょう」

私たちは三人並んで歩き始めました。歩き始めたばかりですが、天気が良いせいか、少し汗ばんできました。でも、坂道を歩いていくと、どんどん高くなり、遠くの景色まで見えるようになって楽しいです。

「今日の陽気だと、歩いていると汗をかいてしまいますね」

遠野さんは、少しぽっちゃりしているので、汗をかきやすいのかも知れません。それに、薄手のジャンパーも着ていますし。

「ええ、汗をかいた後に冷えると体に良くないですから、注意しないといけないですね。汗をかきそうになったら、早めに上着を脱いだ方が良いですよ」

「そうですね」

一方、柚葉さんは、半そでのポロシャツに短パンだけ、というすっきりした格好です。

「柚葉さんは、その格好で寒くないのですか?」

「ん?大丈夫だよ」

まあ、確かに平気そうな顔をしていますので、大丈夫なのでしょう。

そのまま話ながら歩いていくと、道が森の中に入っていきました。森の中だと、陽の光がさえぎられて、少しひんやりとしています。風がそよぐと、そのひんやりした空気が体を通り抜けて、気持ち良いです。

「そういえば、南森さんは沖縄の島の出身でしたよね?南森さんの島では登山とかしたことあるのですか?」

遠野さんは興味津々のようです。

「うーん、私の住んでいた島にも山はあったけど、それほど高くはなかったんだよね。でも、高校のあった石垣島では登山ができたし、遠足もあったよ」

「ああ、確かに石垣島なら登山できますよね。山に登ると、海が見えたりするのですか?そういう景色も見てみたいなぁ」

「うん、山の上からなら、遠くの島も見えるし、海も綺麗だし、一度見においでよ」

「そうですね、チャンスがあったら行きたいです」

話を聞いていて、私も行ってみたいと思いました。

40分ほど歩いてから、一度全体休憩があり、5分程度休んでいました。遠野さんは近くにあった木の根の上に腰掛けて休んでいましたが、私は巫女の力で回復していたので休まなくても大丈夫なのです。他の人からみればズルかも知れませんけど。柚葉さんも私と同じで休む必要はなさそうで、辺りを見回しながら体を伸ばしたりしていました。

「山登りは疲れるけど、気持ちが良いね」

遠野さんが座ったまま声を掛けてきました。

「そうですね。こうして自然の中を歩くのは気持ちが良いものですね」

私が同意を示すと、遠野さんは微笑みました。

そして休憩時間が終わり、再び山頂に向かって歩き始めます。私たちは、話をしながら歩きました。一番疲れている筈の遠野さんが一番口数が多くて、大体は私がそれに応じているのですけど、たまに柚葉さんが合いの手を入れたり、楽しい道中です。

「あなたたち、おしゃべりも良いけど、ちゃんと足を前に出して歩いてね」

話をしていて歩くペースが落ちたのか、気が付いたらクラスの中で最後になってしまっていて、クラスの最後尾を歩いていた須賀先生に追い付かれていました。

「はーい」

三人の声がハモりました。そして、歩くペースを少し早めます。


しばらくすると、沢に出ました。流れている水は、多くはないですけれど、とても綺麗に見えます。手を浸けると、ひんやりとした感触が伝わってきて、気持ち良いです。

足が濡れないように、どの石の上を通って行けば良いかな、と考えていると、柚葉さんが真剣な面持ちになりました。そして、すぐ後ろを歩いていて須賀先生のところに行きました。

「須賀先生、あの、少しの間、隊列から離れて沢を下りてはいけないでしょうか」

「南森さん、何かあったのですか?」

「魔獣の群れが、この沢を上ってきているんです。だから、早めに斃したいのですけど」

「そう言われても、生徒を危険な目に合わせるような許可は出せませんよ」

「だったら、皆を早く沢の向こうまで移動させられませんか?」

「どれくらい、時間的な余裕があるのですか?」

「うーん、10分くらいと思います」

「いままだC組が差し掛かったばかりで、学年は全部でG組まであるから、あと10分では間に合わないでしょう」

須賀先生と柚葉さんが真剣に悩んでいます。

「あれ?柚葉、どうしたの?」

C組の礼美さんが追い付いて来ました。

「あ、礼美。えーと、魔獣がこの沢を上ってきているんだけど、どうしようかって相談をしているところ」

「え?沢山いるの?1体くらいなら私たちで斃しちゃうとか」

「いや、礼美、武器とか持ってないでしょ。それに1体じゃなくて、中型のオオカミみたいなのが12体だよ」

まさかそれだけの数の魔獣が近づいているとは思わなかったのか、須賀先生の顔が青ざめています。

「でも何で分かるのです?確証は無いでしょう?」

「先生、柚葉がそういうなら100%確実に来ます」

礼美さんが太鼓判を押してくれました。

そのとき、風が吹きました。沢の川上から川下に向けて、空気が流れていきます。

「まずい、こちらが風上になってしまうと、人の匂いが魔獣に届いてしまう」

柚葉さんの懸念は、すぐに現実のものになりました。

「魔獣が加速した。もうあと3分もない」

沢の下流の方を見ながら、柚葉さんは臨戦態勢に入っています。

「私が出るから、清華は防御障壁をお願い。なるべく隊列を護るように障壁を展開して」

「分かりました」

柚葉さんから力の気配を感じると、いつの間にか柚葉さんの右手に槍が握られていました。どこからか転送したのでしょうか、まだ私の知らない力の使い方を柚葉さんは知っているようです。

「ほら、あそこに見えて来た」

柚葉さんが指し示す方を見ると、確かに沢の下流に何か黒い影が見えました。私たちのやり取りを聞いていたのか他の生徒も気が付いたようで、ざわめき始めました。

「皆慌てないで。散らばっていると危ないから、この谷から出られる人は早く出て、あとは私の後ろに固まってください」

私は周りの人に聞こえるように大きな声で叫びました。それから登山道の下流側に立ち、防御障壁を張るための態勢を整えました。後ろでは礼美さんが私の意を汲んで、人を集めてくれています。そうしている間にも黒い影は近づいて来て、魔獣であることが見て取れるようになりました。柚葉さんの言っていた通り、オオカミのような中型の魔獣の群れでした。

「さあ来るよ。五、四、三、ニ、清華、障壁を」

柚葉さんは登山道から飛び出し、下流の方に少し進んだところで槍を構えました。槍の穂先が薄く光っているようなので、力の刃を乗せているのでしょう。

そして沢の下流から駆け上ってきた魔獣たちが、次々と柚葉さんに襲い掛かっていきました。


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