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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第2章 友情の涙 (清華視点)
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2-11. 雨の日のミステリー研究部

週明けの月曜日、生憎の雨です。訓練ができないので、私たちは部室に集まって話していました。柚葉さんは図書室に行っていて、部室には来ていません。

「柚葉さんは、いつもどんな本を借りているのでしょね」

百合さんは、気になるようです。でも、そうですね、柚葉さんに聞いてみたい気もしますね。

図書室にいる柚葉さんに電話を掛けるのも申し訳ないので、本を借りたら部室に来られませんか、とメッセージを送ってみました。そしたらそれからさして間を置かずに、もう借りる本を決めたから部室に行くね、との返事が来ました。

「柚葉さん、部室に来てくれるようですよ」

どんな本を持ってくるのだろうかと、皆楽しそうにしています。


「皆、お待たせ」

柚葉さんが部室にやってきました。

「柚葉さんが、図書室でどんな本を借りているのだろうって話になったのですよ。だから、今日何借りたのか、教えて貰っても良いですか?」

「え、いいけど」

柚葉さんは、鞄の中をゴソゴソして、本を四冊出しました。

「今日借りたのは、この四冊ね。一冊はパズル、もう一冊はファンタジーの物語、あと二冊は推理小説」

「柚っちはミステリー研究部だから、推理小説を?」

「いえ、元から好きなので。ここの学校は、推理小説が充実していて良いよね」

「うーん、読まないから良く分からないけど。柚葉さんは、どういうお話の本を読むの?」

礼美さんが、柚葉さんが広げた本を手に持って見ています。

「今読んでいるのは、名探偵が全国あちこちに旅して殺人事件を解決するっているシリーズもの。あちこちの名所や特産品の話なんかが出てきて面白いの」

「柚っちは推理の方より、各地の話の方に興味があると?」

「そうですね。もちろん、推理のところも好きですよ。でも、知らないところの色々なお話も面白いなって思うんです。沖縄だったらどんなところを紹介してあげようかな、とか」

「柚葉さんって、お話の世界に入ってみたいと思うんですか?」

百合さんの目が輝いているけど、共感しているのでしょうか。

「まあ、入ってみたいと言うか、私が一緒だったらどんな風に話が展開するかを想像するのが楽しいと言うか。私だったら名探偵より先に事件解決できたりしないかな、とか」

「いや、ゲストが主役の座を奪っては駄目なんじゃない?」

そうですね、礼美さん、そこ突っ込みどころですよね。

「たまにはそういうのもありと思うんだけどなぁ」

柚葉さんは、若干不満そうな顔をしています。

「そういえば、皆はどういう理由でミステリー研究部に入ったの?何かミステリーっぽいものが好きなのでしょ?」

「すみません、私はダンジョン探索に行けるからって入部しました」

「私も清華さんとダンジョンに行きたいと思って入部しました」

「あーまあ、今年の一年生はそういう理由なこともあるよね」

ええ、そういう勧誘をしていましたから。

「じゃあ、清華は?」

「私ですか?そうですね、私もミステリーには興味はありましたが、入部した理由で大きいのは、礼美さんに誘われたからのように思います」

「そうね、一年生のときは清華と同じクラスだったものね。清華とは高一のときすぐ気が合って、部活動を一緒に見て回っていたし、ここの仮入部も一緒にって私が清華を誘ったんだよね」

「その礼美は、なぜミステリー研究部に?」

柚葉さんのターゲットが礼美さんに移りました。

「ミステリー好きだから。学校の七不思議とか、この学校にあるんじゃないかなーと思って。きっとミステリー研究部になら何か話があるのではないかと思ったの」

「それでどうでした?」

「それがねぇ、残念なことに、そんなに話がなかったのよね。この一年間も、校内の色んなところで話を聞いてみたけど、それっぽい話はなかったし」

「礼美さん、同じクラスだったのに気が付きませんでしたが、私の知らないところで、とてもミステリー研究部らしい活動をしていたのですね」

「そんな大層な活動ではないけれどね」

私を見てちょっと照れている礼美さんは、可愛らしいです。

「じゃあ、最後に潤子さんが入部された理由を聞いても良いですか?」

「ああ、良いとも。もっとも、私の場合もレミーに近いけどな。特異な事象が好きだったからさ。UFOの目撃話や、ネッシーや、あとはまあ、地方の河童伝説なんかもね」

「潤子さんも真っ当なミステリー研究部員だったのですね。じゃあ、どうしてダンジョン探索を活動に入れようとしたのですか?清華が部員になったというのはあるのかもですが、それだけではないですよね?」

「そうだね。私はダンジョンも特異事象の一つのように考えていたから興味があったんだ。他の特異事象とは違って、自分の目で見ることもできるしね」

「なるほど、ダンジョンもミステリーの一種だということなんですね」

「そう、昔はダンジョンは無かったみたいだからね。そうであれば、ダンジョン探索が、ミステリー研究部の活動の一つであっても問題はないだろう?」

潤子さんがニッコリ笑った。

「でも、それだったら、潤子さんは、ダンジョンについて何か調べたいことがあったりするのですか?」

「ああ、まだ始められていないが、色々知りたいことはあるよ。例えば、ダンジョンはどうしてできるのか、魔獣はどうやって生まれているのか、ダンジョンを消滅させることはできるのか、ダンジョンや魔獣が発生しないようにできるのか」

「それはまた、なかなか難しそうな研究テーマですね」

柚葉さんが眉を寄せてしかめっ面になりました。

そう、それは難しい話です。ダンジョンや魔獣の発生を抑えるのは、私たち巫女の役割に関係しているのですが、その話は部外者にはできません。潤子さんがその研究テーマを追いかけていこうとすると、もしかしたら、いつか私たちが公にしていないことを掘り起こそうとして、私たちと対立することになるかも知れません。

「ねえ、潤子さん、難しい話は止めて、次のダンジョン探索の計画でも立てませんか?」

重苦しい雰囲気になりかかっていることに気付いたのか、百合さんが話題を変えようとしてくれました。百合さんありがとう。部活の最中ですから、重苦しい話はできればしたくないのです。

「ユーリ、そうだな、これからの部活動をどうするかの方が先だな」

そうして皆の会話は、ダンジョン探索の方に移っていきました。皆思い思いのことを楽しそうに話しています。

ところで、いまは一緒になって話したり笑ったりしていますけれど、柚葉さんは時折り、教室や部室で皆が会話しているのを眺めながら、寂しげな表情をすることがあります。そういうときは、何か皆の仲間になり切れていない、そんな雰囲気が醸されています。

そして柚葉さんは、たまに目の前を見ていないときがあります。それに気が付くのは、柚葉さんから微かな力の波動を感じたときで、意識が目の前のものに向いていないように見えるので、力を使ってどこか遠くを見ているのではないかと思っています。そうでなくても、柚葉さんは四六時中探知を使っているようですし、何が周りで起きているのかを常に把握しようと心がけているように見受けます。そんなことをしていたら、柚葉さんには休まるときが無いのではと心配になり、何か言った方が良いのではと思うこともありますが、そうだと言える確証はなく、どんな言葉を掛ければ良いのかも思いつけないでいます。

柚葉さんには自己中心的なところがなくて、皆を思いやる気持ちに溢れているように見えます。いまこうして周りの状況の把握に努めているだろうと思われる行為は、きっと皆の安全なりを考えてのことなのでしょう。

私も柚葉さんと同じ護りの巫女であり、同じ巫女の力を持つ者として、もっと力の使い方を覚えて、柚葉さんの代わりが務まるようになりたいと思うのでした。いや、せめて、柚葉さんからときたま感じる孤独感のようなものを和らげることができれば――ですが何となく見えない心の壁のようなものがある気がして、柚葉さんの心に近寄れないでいます。


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