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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第2章 友情の涙 (清華視点)
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2-10. 戸山ダンジョン・後

「それじゃあ、佳林さんと百合さんは、これに魔獣を詰めて」

柚葉さんは、背負っていたナップサックから、頑丈そうな袋を取り出して、佳林と百合さんに渡しました。二人が魔獣を袋に詰めると、柚葉さんはさらにナップサックから伸縮式のポールを取り出し、魔獣の入った袋を吊り下げました。

「はい、これを二人で担いで持っていってね」

「分かりました」

佳林と百合さんは素直に担ぎます。私は二人が少しでも楽できるようにと、身体強化をかけてあげました。

「皆、準備は良い?次の魔獣に向かって進むよ」

柚葉さんは、皆を見回して準備ができていることを確認すると、また先頭に立って歩き始めました。

地図を見ると、確かに入り口方向に向かっています。ただ、来た時とは別のルートですね。


しばらく歩くと、柚葉さんが止まって振り返りました。

「この先に魔獣が1頭いるんだけど、残念ながら、目当ての魔獣ではないのだよね。できれば回避したかったんだけど、このルートしかないので、戦うしかないの。と言うことで、ここは清華と私で対応します」

柚葉さん、ヤル気満々ですね。私もですが。

「それで、この先にいる魔獣はどの種類なのですか?」

「ええとね、清華、中型と言っても大きめのクマみたいなのかな?」

「分かりましたけど、どのように戦いますか?」

「そうね、最初に私が魔獣の動きを止めるから、清華は脚の腱を切ってもらえるかな?そしたら、倒れると思うので、止めを刺す」

柚葉さんは、勢いよくチョップするジェスチャーをしました。

「あの、柚葉さん、もしかして素手で戦おうとしてますか?」

「うん、まあ、このサイズなら行けるかなって。ちゃんといざという場合の手段もあるから、心配しなくて大丈夫だよ」

まあ、聞く限り、私一人でも問題なさそうなので、柚葉さんの好きにさせておきます。

「分かりました。では、行きましょうか」

柚葉さんは、ニコッと微笑むと、振り返って前に進み始めました。私を殿に皆が付いていきます。そして、ほどなく魔獣を見つけました。柚葉さんが振り返って私を見ます。

「清華、良い?」

「ええ。他の人は、ここで待機で」

指示を出すと私も前に出ました。

魔獣もこちらに気がついて、立ち上がって威嚇してきます。柚葉さんは、魔獣に対して左に寄った位置で近づき、右手の掌を魔獣の腹に当てると、力を打ち込んだようです。

その一撃で、魔獣の動きが一瞬止まりましたので、魔獣の右寄りから近づいていた私が、右手の剣に力の刃を乗せ、身体強化した上で、魔獣の脚に切りつけました。

「あら」

脚の腱を切るつもりが、脚を丸ごと斬り落としてしまいました。

「清華、ナイス」

魔獣のお腹に攻撃したあと、そこから離脱していた柚葉さんが、もう一度左手から近付きます。左脚を斬られた魔獣は倒れ込みながら、爪を出した右手を柚葉さんの上から振り下ろしますが、柚葉さんが右方向に回転しながら、かわします。そして魔獣の右手が下におりたところで、柚葉さんは、ちょうど魔獣に背中を見せる向きになり、そのまま上半身を後ろに倒しながら後ろ向きにジャンプします。柚葉さんは、右手で手刀を作り、そこに力の刃を乗せ、続いている回転の力も合わせて勢いよく魔獣の首筋に手刀を打ち付け、そのまま力の刃を打ち込みました。

急所を切られた魔獣は、そのまま倒れて動かなくなりました。

「柚葉さん、お見事です」

「清華も力入ってたね」

私は、思わず柚葉さんとハイタッチしてしまいました。

「柚葉さんの戦い方に刺激を受けてしまって。手刀に力の刃を乗せられるとは思いませんでした」

「まあ、刃物じゃなくてもできるんじゃないかな、と思ってやってみたらできただけだけどね。あ、でも、やっぱりこれは使わない方が良いのかも知れないね」

「どうしてですか?」

「力の刃を使うときは、必ず武器を持っているときにしなさいって言われていたんだった。忘れていたのを今思い出した」

「それって駄目なのでは?」

「いや、何かこう思いつくと、ついやっちゃうんだよね。でも気を付けるよ」

「そうしてください」

力の刃を手刀に乗せるなんて私は考えたことはなくて、柚葉さんは私の知らない力の使い方を良く知っているなと思ったのですが、単なる思い付きだったのですね。柚葉さんは探求心が強いのかも知れません。

「清華さん、楽しそうです」

佳林から見ても、私の気持ちが表情に出ているようです。

そんな喜びに浸った後、ふと問題に気がつきました。

「柚葉さん、この魔獣の移動はどうするのですか?」

「やっぱりそう思うよね。一応は準備してきたけど」

柚葉さんは、大きめの袋を出して、そこにクマみたいな魔獣の体を入れました。そして、引手の付いた折り畳み式の超小型の台車を出して、その上に袋を載せました。

「これで引っ張っては行けるけど、この台車の車輪の大きさだと、ダンジョン内のでこぼこには対応できないんだよね」

皆がウンウンと頷いている。

「と言うことで、ちょっとズルします。皆、ナイショでお願いね」

柚葉さんが台車の引手から少し力を流し入れるのが見えたと思ったら、台車が少し浮きました。

「浮遊ですか?」

「うん、清華、その通り。他の人にはあまり見せたくないのよね」

まあ、そうでしょうね。

「えー、柚葉さん、私たちのにも浮遊使ってくださいよぉ」

百合さんが、頬を膨らませている。

「何を言っているの。始めたばかりから横着を覚えちゃダメ。私は何年も自分で背負って運んでいたんだよ。それで鍛えられたところもあるんだから、あなたたちも訓練と思って自分の力で運びなさい」

「うー、分かりました。訓練と思って頑張ります」

柚葉さんの反論を受けて、百合さんも楽するのは諦めたようです。そうそう、私だって、自分で背負って運んだものです。


そこから少し歩いたところで、目的の魔獣のところに着いた。

「さあ、それじゃ、今度は潤子さんと礼美ね。準備は良い?」

「ああ、いいよ。レミー、盾役を任せるよ」

「承知しました、潤子さん」

「二人に、身体強化を掛けないとね」

柚葉さんが二人に力を注ぎます。身体強化は大体30分間は維持されます。それは柚葉さんも私も同じでした。どうやら力の強弱は身体強化の継続時間には関係しないようです。

「レミー、行くよ」

「はい」

潤子さんと礼美さんの作戦も、佳林と百合さんのものと同じでした。片方が盾で防いでいる間に、もう片方が剣で斬りつける。それを辛抱強く繰り返します。盾役である礼美さんのヘイトコントロールがうまくいかずに、ときたま潤子さんにターゲットが移ってしまうことがありましたが、潤子さんはうまく対処して戦いを継続していました。

そうして、ようやく魔獣を斃しました。

「9分47秒でした」

「教えてくれてありがとう、カーリン。それにしても、2分半ほども差がついてしまったか」

「初心者二人にしては、良くやったと思うから。最初はうまく剣を振れないし、及び腰になってしまって力も十分出せないから、こんなものだと思うよ」

落ち込みつつある潤子さんを柚葉さんがフォローしていました。

それから、潤子さん達が斃した魔獣も袋に入れてから伸縮ポールにぶら下げ、潤子さんと礼美さんが背負いました。そして、元来た道を途中まで戻ってから、柚葉さんは入り口の方に進路を取りました。

入り口近くになると足下が平らになってきたので、柚葉さんは台車の浮遊を解除して、ゴロゴロとタイヤを回しながら引っ張り始めました。そうした柚葉さんを先頭に隊列を組んで進みましたが、その後、入り口に辿り着くまで、すれ違う人などいませんでした。

入り口から出て、魔獣買取カウンターで魔獣を引き渡した後、今回の隊長だった柚葉さんが皆の前に立って、総括しました。

「皆、お疲れ様。今日はそれぞれ二人一組で魔獣を斃すことができて良かったと思います。また機会があればダンジョンに入ってみたいけど、それまで日々の訓練は欠かさずにやってね。清華からは何かある?」

「私からはありません」

「はい、じゃあ、今日のダンジョン探索は終了です」

柚葉さんの挨拶が終わり、皆で移動しようとしたところで、佳林が何か見つけました。

「あ、あそこにアイスの自販機があるから、食べましょうよ。私たち奢ってもらえるのですよね?」

「ああ、カーリン、奢るよ。自販機のアイスで良いのかい?」

「はい、私はいま食べたいですから」

百合さんも同じ意見のようです。

「そう言えば、私は先日の打ち合いのときのアイスをまだ柚葉さんに奢っていなかったですね。いま奢るのでも良いですか?」

「うん、いいよ。今日のタイムレースの負け分として、私も清華に奢るね」

結局、柚葉さんとはお互いに奢りっこになりました。潤子さんと礼美さんは、佳林たちに奢りながら、自腹で自分の分も買っていました。

皆、それぞれアイスを食べて満足そうな笑顔になっていました。


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