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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第2章 友情の涙 (清華視点)
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2-9. 戸山ダンジョン・前

私たちは、結局、二週に渡って訓練を続けました。その間、ときたま柚葉さんは図書室に行くと言って部活動を休んだりしていました。まあ、その方が、本来のミステリー研究部の活動に近い気もしますが、他の皆はダンジョン探索に向けた訓練をしていました。柚葉さんがお休みのときは、私が指導役です。その私も、たまに部活を休んで、黎明殿本部の事務局に行き、資料整理のお手伝いをしに行っていました。

そうして、毎日訓練を続けた甲斐があって、潤子さん達初心者組も、訓練する姿がダンジョン探索者のそれらしくなってきました。そして、二週目には、ダンジョンでの魔獣との戦い方などの練習も始めました。

そうしたことから、柚葉さんと私は、ダンジョン探索の準備としては及第点と判断して、週末の土曜日に、皆で戸山ダンジョンに行くことにしました。


その土曜日、私たちは部室に集合しました。私たちの学校は、土曜日は隔週で午前に授業がありますけど、この日は授業がありませんでした。授業のあるなしに関わらず、土曜日の部活動は許可されています。剣や盾は部室に保管しているので、部室に集合できるのは、私たちにとってとても好都合です。

部室で体操着に着替えて、校舎の裏手に行き、柔軟をします。皆は柚葉さんからの指示でジャージを着用しています。私と柚葉さんは、サポート役なので、半袖短パンの軽装です。

「柔軟も終わったし、戸山ダンジョンに行こう」

今日の隊長は、柚葉さんです。

戸山ダンジョンに着いて、入り口での手続きが終わると、入る前の最後の確認です。と言っても、潤子さんたちは、ライト付きのヘルメットに、剣と盾だけの格好です。柚葉さんは、武器を持たず、討伐に必要な道具を入れてあると思われるナップサックを背負っていました。私は、一応自分の剣を帯剣して、必要と思われるものを詰めたデイパックを背負っています。

「じゃあ、これから戸山ダンジョンに入りますけど、その前に班分けします。ひとつの班は、2人と巫女1人の3人です。じゃんけんでも良いのだけど、今日は私が決めちゃうね」

柚葉さんは、皆を見渡します。

「班分けだけど、佳林さんと百合さんの組に清華、潤子さんと礼美さんの組に私が付きます。佳林さんと百合さんは、清華の指示に従ってね」

「はい」

2人の揃った返事に柚葉さんが満足そうに頷く。

「それで、ただ魔獣と戦っても味気ないと思うので、チーム対抗戦にしようと思ってます。何で競うか悩んだけど、同種類の魔獣の討伐時間にしようかな、と」

「確かに同じダンジョンには同種の魔獣はいるでしょうけれど、そう簡単には見つからなくはないですか?」

私は、思わず柚葉さんの顔を見てしまいました。

「そうなんだけど、まあ、何とかなると思うから」

「柚葉さんが何とかなると言うのでしたら、お任せします」

「うん、清華、ありがとう。それで、時間を測るのは、見ている側のチームで、それから、負けた方は買った方にアイスを奢るってことで」

「柚葉さん、景品がアイスのときが多くないですか?」

「あー、私がアイス好きだからかな。アイス以外が良かった?」

「いえ、今日はアイスで良いですよ」

「ありがと」

柚葉さんが、ニッコリとほほ笑みました。可愛いです。

「あと、皆、倒した魔獣は倒したチームで運ぶってことでよろしくね」

「それだと先に倒した方が、魔獣を運ぶ距離が長くなって大変ですね」

「そうなんだよね。だから、最初に遠い方の魔獣を狙うことにしようと思ってる」

「それって、どこに魔獣がいるか分かると言ってます?」

「いや、言ってないけど何とかなるかなぁって」

「そうですか」

何かアヤシイ発言ですが、追及するのは止めておきます。柚葉さんは、私たちの知らない力の使い方を知っているのでしょうけど、ここで巫女の力の話をするのは、差し障りがありそうでしたので。

「分かりました。いつまでも入り口で話をしているのも何ですし、ダンジョンに入ってみましょうか」


私たちは、隊列を組んでダンジョンに入りました。今回は、先頭が柚葉さん、そのあとに柚葉さんとチームを組んでいる潤子さんと礼美さん、佳林さんと百合さんと続き、殿が私です。

最初の辺りは、それなりに人の出入りがあるのか、魔獣は居ないようです。入ってしばらくして、私たちが立ち止まっても他の人の邪魔にならないくらいの空間に出たところで、柚葉さんが立ち止まって振り返り、私たちの方を見ました。

「皆良いかな?今日は、この階層を探索します。魔獣だけど、お手頃そうなのは、中型のトラっぽいの?」

「なぜ疑問形なのですか?」

「いや、清華、どれも最初だと心配な部分があって悩ましくて。カバみたいなのは固いし、イノシシみたいなのは突進して来たときの対処を間違えると怪我するし、トラっぽいのは速いからね。まあ、どれも訓練の中で対策は考えて練習はしたけど、最初で躓きたくないからね。そうしたときに、トラっぽいのが一番マシかなって」

「まあ、その中でと言われると、そうなりそうですね」

「でしょ?よし、トラっぽいのってことで行こう。他の魔獣を避けるために少し遠回りになるけど、許してね。じゃあ、行くから、さっきの並びで付いてきて」

柚葉さんが歩き始めました。進む経路が頭の中に入っているようです。私は、一応地図を持って確認しながら進んでいますが、柚葉さんからはぐれたら魔獣にかち合うかも知れず、離されないように歩いています。でも、そうして歩いているうちに、柚葉さんは後ろに目が付いているかのように、私たちが遅れないように速度を調整しながら歩いている気がしてきました。それは、私がどんな歩き方をしていても、列の前方との距離が変わらなかったからです。私も、気配察知はできますが、そこまで正確な距離は分からないので、別の方法があるのでしょう。今度、私にもできるようになるのか、聞いてみましょうか。

「あまり大きな音を立てないで聞いて。この先に目当ての魔獣がいるの。まずは、経験者のいる清華、佳林さん、百合さんのチームに任せたいのだけど、良い?」

「はい」

佳林と百合さんは、真剣な表情で頷いています。

「うん、じゃあ、清華、サポートお願い。訓練通りに、最初は身体強化から」

「ええ、2人ともやりますよ」

2人とも緊張しているようです。まずは、治癒でここまで歩いてきた疲れを癒してから、身体強化を掛けました。

「そこの角を右に曲がった先に魔獣が見えるから」

「分かりました。私から行きます。百合さん付いてきてください」

経験者の佳林が先頭に立って進みます。

「礼美、時間計測お願い」

「大丈夫、準備できてるよ」

予め決めてあったので、柚葉さんが声をかける前に礼美さんは準備していたみたいです。

「じゃあ、私が計測開始と言ったら、始めてね」

先に言った2人に続いて、サポート役の私も進みます。

角を曲がったら、向こうの方に魔獣の影が見えました。柚葉さんの言っていた通りです。

「百合さん、訓練のこと覚えていますか?」

「はい、トラっぽいの魔獣は、私が盾で足止めして、佳林さんに攻撃を任せる、でした」

「その通りです。できますか?」

「清華さんに強化してもらいましたし、やってみます」

「佳林さんと魔獣の動きを良く見てね」

「はい」

佳林が魔獣の後ろに回り込めるように百合さんから距離を取って進みます。百合さんは魔獣の前方から盾を構えて近づきます。魔獣は百合さんに気が付き、唸りながら百合さんに近づいていきます。

「計測開始」

魔獣がこちらに気付いたところで、時間計測を始めることになっていましたが、柚葉さんはきちんとそのタイミングを見ていました。

百合さんは剣を抜いて、魔獣が盾の脇に出て来た時に備えました。私も、いつでも百合さんの周りに防御障壁を張れるように準備します。

魔獣は百合さんの方に近づいて行きます。体中が黒い上に、体から黒い湯気のようなものが出ていて、不気味な雰囲気を纏っています。魔獣が目前まで迫ったのを見た百合さんは、盾に体重を掛けて盾ごと魔獣にぶつかりました。盾がぶつかった勢いで魔獣が一瞬怯んだすきに、魔獣の後ろから佳林が近づき、魔獣の下半身に打ち込みます。攻撃は成功しましたが、残念ながら深手を負わすには至りませんでした。

攻撃を受けたため、魔獣の注意が佳林の方に向かい、体の向きを変えようとしたところへ、百合さんが再び盾でぶつかりました。すると、魔獣の注意が戻り、魔獣は再び百合さんの方に向き直ります。

それで最初の状態に戻りましたので、再び佳林が仕掛けます。そして百合さんが盾ごとぶつかりますが、今度は魔獣の注意を惹けませんでした。佳林の方が魔獣の攻撃を受け、盾で防ぎます。そこで魔獣の注意が逸れていることを良いことに、百合さんの方が剣を打ち込みました。こうした攻撃の繰り返しを佳林と百合さんが続けると、流石に魔獣の後ろ足が動かなくなりました。魔獣の動きも鈍くなってきたため、佳林と百合さんは前足での攻撃に注意しながら二人掛かりで打ち込みを行い、ようやく魔獣を斃すことができました。

「計測終了」

「7分18秒です」

「ありがとう、礼美。佳林さん、百合さん、清華、お疲れ様」

7分であれば、それほど長い時間ではないですが、佳林と百合さんの息は上がっているようです。

「佳林さん、斃せましたね」

「そうね、百合さん、訓練の通りにできましたね」

二人もこれで自信が付くでしょう。私は出番がほとんどありませんでしたが、二人が討伐に成功したのを見て、嬉しく思いました。


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