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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第2章 友情の涙 (清華視点)
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2-7. 部活でのダンジョン探索準備

「さて、どこのダンジョンに行くかだが。サーヤは何かアドバイスはあるか?」

「そうですね。まだ最初なので、特にこだわらずに手近な中型ダンジョンで良いのではないかと思います」

「手近な中型ダンジョンと言えば、戸山ダンジョンだね」

戸山ダンジョンは、学校のそばにある戸山公園の中にあります。中型ダンジョンではあるものの、戸山ダンジョンの入り口にあるダンジョン管理協会では、装備品の貸し出しをしていますし、魔獣の買取りもしていただけますし、それなりにサービスが充実しています。

「戸山ダンジョンは、中型ダンジョンにしては色々便利なサービスがありますから、ちょうど良いですね」

「そうだな、では、次の週末に戸山ダンジョンに行くとするか」

と、潤子さんがまとめようとしたところで、柚葉さんが手を挙げた。

「あのー」

「どうした、柚っち?」

「ダンジョンに行く日を決める前に確認したいことがあるのですが、ちょっと良いですか?」

「ああ、どうぞ」

潤子さんが、柚葉さんに先を促した。

「この中で、前に講習会以外でダンジョンに入ったことがある人は手を挙げてもらえますか?」

柚葉さんが尋ねました。 手を挙げたのは、佳林さんと百合さんと私でした。

「清華は何度も入っていると思うから良いけど、佳林ちゃんは何回くらい入ったことがある?」

「清華さんと一緒に10回以上入っています」

「あ、清華と同じ出身なんだね。なら問題ないね。百合ちゃんは?」

「実はライセンスを取ったのが、高校受験後で、そのあと父に連れられて一度だけ入りました」

「そうすると半分以上初心者ですよね。そうならば、行く前に訓練しておいた方が良いと思います」

確かに、柚葉さんの言うことに一理ありますね。

「柚葉さんの言う通りと思います。潤子さん、まずは訓練しましょう」

「訓練か、どこでできるかな?」

「できそうなのは、校舎の裏か、屋上くらいでしょうか?」

悩ましげな顔で、礼美さんが言いました。

「あと、訓練用に木剣も欲しいですね」

柚葉さんが言いました。

「そうか、そういえば装備の準備も必要だな。どうしたものだろうか?」

潤子さんが尋ねました。私は少し考えてみたのですが、悩ましいと思いました。

「戸山ダンジョンで借りることもできますけれど、高校生にはちょっと厳しい金額ですものね」

「そうなのだよね。学校から支給される活動費では、ちょっと厳しいし」

「潤子さん、活動費の増額はお願いできるのですか?」

「レミー、もう今年度の予算は決まっているから、増額されても来年度になってしまうのだよ」

なかなか厳しい状況みたいです。

「父に、ダンジョン管理協会に中古品を融通してもらえるか、聞いてみましょうか?」

「ああ、ユーリ、もし可能なら聞いてもらえると助かる」

「分かりました。今夜聞いてみます」

「私も、家にあるもので、お譲りできるものがあるか、お父様に聞いてみましょう」

せっかくの部活動なので、貢献できるのであるなら貢献したいと思います。

「ライト付きのヘルメットは全員自分のものは自分で用意して持ってきてくれ給え」

「はい」


その日の夜、私はお父様が帰宅して一段落したところを見計らって、相談してみました。そのとき、お父様はラフな格好に着替え、リビングで経済誌に目を通していました。

「中古の盾と剣のセットだね。いくつ必要なのかい?」

「そうですね。柚葉さんと私の分は不要と思いますので、4セットでしょうか。他に訓練用の木剣が6本」

「いま、この家にはそれだけの予備はないだろうね。伊豆の彩華に相談してみたらどうかな?あそこなら何とかなるかも知れないよ」

「アドバイスありがとうございます。お母様に電話してみようと思います」

そして私は部屋に戻り、スマートフォンでお母様に電話を掛けました。

『もしもし、清華?』

「はい、お母様、お久しぶりです」

『そうね、お久しぶりね。お元気してる?』

「はい、お蔭様で。それで、お母様にご相談があるのですが」

『あら、なんでしょう。私にお手伝いできることかしら?』

「ええ。あの、私がミステリー研究部に入部していることはお話しましたよね?」

『そうね』

「それで、そのミステリー研究部が今年からダンジョン探索の活動を始めることにしたのです。それで準備をしているのですが、武器と防具が無くて困っているのです。剣と盾を4セットと訓練用の木剣を6本探しているのですが、格安でお譲りできるものか、あるいは貸し出しできるものってあるでしょうか?」

『剣と盾を4セットと木剣6本なら、何とかなると思うわ。いつまでに必要なの?』

「できれば今週末に使いたいのですが」

『分かったわ。誰かに頼んで、そちらの家に持って行っていただきましょう。明日中にはそちらに届くようにします』

「ありがとうございます、お母様。皆喜びますわ」

『道具は貸して差し上げますが、道具の手入れは自分たちできちんとしてね。それから、くれぐれも大きな怪我をしように注意してくださいな』

「はい、分かりました」

そのあとは、互いに近況の報告をしたり世間話をしたりしました。こういう機会でもないとなかなか話すタイミングがありません。


翌日の放課後、百合さんと私が、それぞれの首尾について、報告していました。百合さんの方は、残念ながら、いまいまは払い下げできるものがなかったとのことでした。でも、そういう話が出て来た時には教えてもらえることになったそうです。

私は、昨晩のお母様との会話の内容をお話しました。と、その時、私のスマートフォンのベルが鳴りました。

「もしもし?」

『あ、清華か?拓人だけど、お久しぶり』

「お久しぶりです。拓人さん。何かあったのですか?」

『義姉さんに、剣と盾を清華のところに持っていくように言われてきたんだ。学校で使うって話だったから、学校に持って来たんだけど、受け取ってもらえないか?』

「え?いま学校に来ているのですか?」

『そう、駐車場のところにいるよ。白いバンだ』

「分かりました。いますぐ行きます」

私はスマートフォンの通話を切りました。

「どうしたんだ?」

「潤子さん、叔父が剣と盾を持ってきてくれたようです。いま、学校の駐車場だから取りに来てほしいと」

「それは早速行かないと。さあ、皆で行こう」

潤子さんの言葉にしがたい、部の皆で駐車場に向かいました。

駐車場には、電話で言われた通り、白いバンが止まっていました。拓人さんがバンから降りてきて挨拶してきました。

「やあ、清華、お久しぶり。届け物を持ってきたよ」

「拓人さん、わざわざ学校まで持ってきてくださってありがとうございました」

「いえ、どういたしまして。どうせなら、早く手に入れたいだろうと思ってね」

「清華さんの叔父様、親切にありがとうございます」

礼美さんが挨拶しています。

「ご厚意感謝します」

「ありがとうございます」

潤子さんや百合さん、佳林が、口々にお礼を言っていました。

「皆さん、どういたしまして。いやあ、かわいいお嬢さん達に感謝されると嬉しいね」

叔父様は満更でもない様子で皆からの感謝の言葉を受けていましたが、何か思いついたのか、口を手で覆ってひそひそ声で私に問い掛けてきました。

「あのさ、清華。ここに例の夏の巫女っている?」

なるほど、拓人さんはお使いのついでに柚葉さんを見に来たようです。

「ええ、あちらに」

剣と盾を借りられて喜んでいる部員たちから少し離れたところから、遠巻きに眺めている柚葉さんの方に手を伸ばして差し示しました。

「ああ、彼女なんだ。清華、紹介して貰えるかな?」

拓人さんにミーハーっぽさを感じた私は、一瞬横にらみしてしまいましたが、直ぐに気を取り直して柚葉さんに手招きしました。

「柚葉さん、こちらに来てもらえますか?」

「何?清華」

「叔父が柚葉さんにご挨拶したいのですって」

「初めまして。清華の叔父の東護院拓人です」

「南森柚葉です」

二人は互いにお辞儀をしました。

「君の噂は東御殿まで届いているよ。何か凄いことをやったらしいって。一体何をやったの?」

「え、いやぁ」

柚葉さんは目を逸らし気味にしています。私も柚葉さんのやったらしい凄いことに興味はありましたが、柚葉さんの様子から無理強いしてはいけないと思い留まりました。

「拓人さん、柚葉さんが困っています」

「そうか、ごめん。言いたくないことを聞いちゃったみたいだね」

「すみません、いまはまだ」

「うん、良いよ。無理に聞きたい訳じゃないんだ。気が向いたらそのときにね」

拓人さんも、いまここで聞き出そうとするのは控えることにしたようです。

「それじゃあ、渡すもの渡したし、僕はこれで戻るよ。清華、また今度な。皆さんも一度伊豆の家にいらっしゃい」

「はい、拓人さん、また今度。お母様にもお礼を伝えておいていただけますか」

「ああ、分かった。義姉さんにも伝えておく。それじゃあ」

拓人さんは手を振ってから、車を動かして学校の敷地から出ていきました。

「清華って、叔父さんのこと名前呼びするんだ。意外」

柚葉さんが鋭い指摘をしてきました。

「以前から私が叔母のことを涼華さんと呼んでいたので、自分のことも叔父様ではなくて拓人さんと呼んでくれと言われまして」

「ふーん、そうなんだ。それで何で叔母さんのことを名前呼びしてたの?」

「何かウマが合うと言うか、友達感覚で話ができたと言うか、気軽な話し相手だったんです。それで小さい頃から名前で呼ぶのが普通になっていました」

「へー、良いね、そういう関係」

「ええ」

私達は互いに微笑み合いました。

でも、柚葉さんに指摘されて、私にとっては当たり前のことだったことが、実は得難い関係性なのかも知れないと思いました。拓人さんとは久しぶりに会えましたが、涼華さんとはしばらくご無沙汰です。あとでメッセージでも送りましょうか。拓人さんに伝言をお願いしてしまいましたが、お母様にも電話した方が良いかな、と思い直しました。

さて、皆で拓人さんの車を見送った後、私達は貸していただいた剣と盾を分担して持ち、部室に運び込みました。

「それでなのですけれど」

私は皆の顔を見ました。

「道具は貸して貰えることになっていますが、手入れはきちんと自分たちでやるようにと言われています。なので、手入れ道具は自分たちで用意しないといけません」

「そうだな、それくらいはしないといけないな。それで、手入れ道具はどこで手に入るんだ?」

「剣や盾を売っているお店にあると思います。なので、一度戸山ダンジョンに行ってみませんか。そこのダンジョン管理協会のお店にあれば良いですが、もしなければ、急いで他のお店を探さないといけないですから」

「そうだな、皆は良いかい?」

誰からも反対の声が出なかったので、皆で連れ立って戸山ダンジョンのダンジョン管理協会のお店に向かいました。


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