2-6. 仮入部期間
学校の部活動の仮入部期間は、入学式の翌日から2週間となっています。その間に、新入生は、気になる部活動をみて回り、入りたい部に入部申請して、正式に入部となるのです。
なので、私たちはこの仮入部期間の間に正式な部員を5名以上にしなければなりません。仮入部期間後に5名に満たない部は廃止にはなりませんが、同好会に格下げになります。この学校では部への参加は強制なので、同好会になってしまうと他の部に入らないといけません。それに、部ならば活動費が少しですが支給されますけど、同好会には支給されません。なので、やはり部は存続させたいのです。
さて、入学式の翌日から授業が始まりました。初日からいきなり六時限まで授業です。もっともどの授業も新年度の初回なので、最初の半分くらいはガイダンスの時間でした。そして六時限が終わるとショートホームルームがあって、その後、お掃除当番以外は解散になります。ホームルームが終わったところで、遠野さんが私に声を掛けてきました。
「東護院さん、今日は帰り?」
「いえ、部に寄ろうと思っています。遠野さんはお帰りですか?」
「そう。部活は気が向いた時だけ行く感じ。そもそもウチの部活はそれほど盛んでも無いし。そういえば、東護院さんのところの部ってダンジョンに行こうとしているらしいね」
「ええ、部長の潤子先輩が乗り気みたいで。危険もあるので部活動で行っても良いのかとも思いますけど、学校の許可は下りたみたいですし、他校だとダンジョン探索専門の部活動もあるとか」
「危険かもしれないけど、東護院さんはダンジョンに入ったことあるんでしょ?」
「ええ、それはまあ」
巫女としての訓練の一環で何度もダンジョンに入ったことはあります。でも、そのときは、周りは熟練した大人たちでしたから、不安はありませんでした。
「経験者がしっかりしていれば大丈夫だよ。それに東護院さん、強いし」
遠野さんは、私に屈託のない笑顔を見せました。
「それじゃ、東護院さん、私帰るね。また明日」
「ええ、また明日」
私に向かって手を振りながら、遠野さんは教室を出て行きました。
辺りを見回すと、掃除が始まろうとしていました。柚葉さんは窓際の自分の席から鞄を持って立ちあがろうとしているところでした。私が柚葉さんに向けて手を挙げると、柚葉さんも私に気が付いて近づいてきました。
「清華はこれからどうするの?」
「ミステリー研究部の部室に行こうと思っていますけれど、柚葉さんもご一緒しませんか?」
柚葉さんは、うーんと唸るような声を上げて悩んだ風でした。
「ゴメン、今日は図書室に行ってみたいんだよね。だから今日は部活の方はパスで良いかな?」
「ええ、それは柚葉さんの自由ですから。気が向いたら部室の方にも顔を出してくださいね」
私は柚葉さんと別れ、一人部室に向かいました。
部室には、礼美さんと佳林がいました。
「礼美さん、佳林、こんにちは。早かったですね」
「授業が終わってから何も無かったので、すぐこちらに来てしまいました」
「そうなのですね。それで、いまは何をしているのです?」
「礼美先輩が、ダンジョン探索ライセンスの入手方法が知りたいとのことでしたので、お教えしていました」
「ここだと、東京ダンジョンに行くのが、一番近いでしょうね」
確か、東京都には二ヵ所の講習会実施箇所があったとも思いますが、近いのは日比谷公園にある東京ダンジョンのものだと思います。
「はい、そう思って東京ダンジョンのことをお知らせしていました」
「講習会はいつやっているのか確認しましたか?」
「ええ、毎週月水金と土曜日にあるようです。学校を休まないでとなると、土曜日ですね」
「あとは、潤子部長と礼美さんの予定次第ですか」
「佳林さんに教えてもらって、大体分かったので、潤子部長と話してみますね」
礼美さんは、佳林と私を交互に見ながら言いました。
それから、しばらく3人でお話していましたが、後から来た人はいませんでした。
「そう言えば、佳林は正式入部したのですか?」
「はい、先ほど入部届けを礼美先輩にお渡ししました」
「それはありがとう、佳林。ミステリー研究部にようこそ。これから一緒に部活動を楽しみましょう」
「はい、よろしくお願いいたします」
これで部員が4人になりました。あとは柚葉さんか折川さんのどちらかだけでも部員になってくれれば部の存続が確定します。
そして、次の日は、土曜日でした。礼美さんは、潤子部長と話をしたのだろうか、東京ダンジョンに行って講習会を受けたのだろうかと考えながら週末を過ごして、月曜日を迎えました。
月曜日の放課後は、仮入部の人含めて、ミステリー研究部の全員が部室に集まりました。
「まず最初になんだが」
潤子部長が言いました。
「南森くんと折川くんは、正式入部については如何かね。急かすつもりではないが、決めてもらえると助かるのだが」
「私、正式入部しても良いですよ」
「私も入部したいです」
柚葉さんも、折川さんも入部してくれるみたいです。
「では、入部届けに名前を書いてくれたまえ」
二人は、入部届けの紙を受け取って、それぞれ自分の名前を書き入れ、潤子部長に渡していました。
「よし、これで全員が正式な部員となり、6人となったので、今年度も部として存続できることになった」
潤子部長が宣言します。そして続けて言いました。
「それで、皆に知らせが三つある」
勿体ぶるように言葉を切ると、全員を見回してから、続きを言いました。
「礼美くんと私は、この週末に東京ダンジョンの講習会に参加して、ダンジョン探索ライセンスのC級を取得した。清華くん、土屋くんと折川くんはライセンス保持者だったな?柚葉くんもダンジョン探索ライセンスは持っているのだよな?」
「はい、持っています」
「それは何より。それじゃあ、これで部員全員がライセンス保持者になったわけだ」
全員の顔を見回して、潤子部長が続けました。
「では、二つ目だが、皆で次の週末に皆との親睦を兼ねて、新歓ダンジョン探索を行いたいと思う」
「どこのダンジョンに行くのですか?」
折川さんが訪ねていました。
「それは今週の部活の中で決めたいと思う。まあ、最初だし、近場の中型ダンジョンに行くのが適当だとは考えるが」
東京には小型のダンジョンはありません。人口に比例して大きなダンジョンが無いとバランスが取れないらしく、東京は大型ダンジョンか中型ダンジョンになっていまいます。
「まあ、どこのダンジョンに行くかは今後の課題として、三つ目の知らせだが」
と、潤子部長が一旦言葉を切って皆を見回しました。
「先輩呼びを廃止したいと思う」
「え?どうしてですか?」
思わずといった口調で佳林が問いかけました。
「礼美くんと私は、ダンジョン講習会に行ったのだが、その講習の中でパーティーを組む際の重要事項を教えて貰った。それは指示系統を一つにするということだ。先輩呼びすると、どうしてもいざというときも先輩に気兼ねしてしまう部分があるだろう。だから、礼美くんと相談して、先輩呼びをやめることにした。全員、名前に『さん』を付けるなどして呼ぶことにする」
潤子部長、いや潤子さんが言葉を切って、皆の反応を伺っています。
「異論はなさそうだな。それでなのだが、私は皆をあだ名呼びすることにする」
「え?」
潤子さんの唐突な発言に、皆さん絶句しています。
「礼美くんは『礼美りん』、清華くんは『サーヤ』、南森くんは『柚っち』、折川くんは『ユーリ』、土屋くんは『カーリン』だ」
「いやいや、潤子部長、いや、潤子さん、『礼美りん』はちょっと」
「ん?駄目かな?じゃあ『レミー』でどうか?」
「その方が、幾分ましです」
「それじゃ『レミー』で」
潤子さんが満足そうなので、礼美さんもそれ以上突っ込むのは諦めたようです。
「私は、皆さん、名前にさん付けで統一しますね」
「私もですね」
「私もです」
私の言葉に、礼美さんと百合さんはすぐに同意しました。
「私は、潤子さん、礼美、清華、佳林ちゃん、百合ちゃん、で」
「私は、潤子さん、柚葉、清華、佳林ちゃん、百合ちゃん、かな」
柚葉さんと礼美さんも呼び方を決めたようです。
「あの、清華様、私はどうすれば?」
佳林が戸惑いを隠せない顔で私の方を見ました。
「私のことはさん付けで良いですよ」
「それでよろしいのでしょうか?」
「先程の潤子さんの話を聞いたでしょう。だから良いのですよ。敬語も止めて丁寧語にしなさいな」
「分かりました。そうします」
ホッとしたのか佳林が笑顔になった。
「よし、呼び名も決まったな。それでダンジョンに入るときの隊長は、巫女であるサーヤにやってもらおうと思う」
「あ、潤子さん、言い忘れていたことがあるのですけれど」
「サーヤ、何かね?」
「実は、柚葉さんも黎明殿の巫女で、私と同じ力を持っているのです」
私の力のことは、この学校の人たちは知っています。
「そうだったのか。それは失礼したね、柚っち」
「いえ、話していませんでしたから」
「では、ダンジョンに入るときの隊長は、サーヤか柚っちのどちらか、そのときの状況によって決めるということで良いかな?」
「はい、それでお願いします」
伝えられていなかったことを伝えることが出来て良かったです。
今度の新歓ダンジョン探索が楽しみですね。学校の友達同士でダンジョンに行くのは初めてです。




