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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第10章 未来への旅 (柚葉視点)
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10-40. 幻獣召喚

幻獣召喚当日の朝が来た。

宿舎のベッドの上に起き上がり、横を見る。隣のベッドでは清華がスヤスヤと眠っていた。

私達はこの一泊のために宿舎の部屋を貸して貰った。二人一部屋だそうで、私は清華と、理亜さんは篠さんと一緒の部屋だ。結さんは部屋の割り当てに際して、二人一部屋であることを恐る恐る理亜さんに告げていたけど、理亜さんは眉一つ動かさずにそれで構わないと言ったので、ホッとした様子だった。

私は清華を起こさないようにと静かに床に降り立つと、扉を開けて部屋を出た。ここはお風呂もトイレも共用なので、顔を洗うにも廊下の先にある共同の洗面所に行かないといけないのだ。

部屋から持って来た洗面用具とタオルとで、歯磨きをして顔を洗ってサッパリする。下ろしていた髪を纏めて束ねて丸めて簪を挿す。そうするだけでも、新しい一日が始まるんだという気持ちになる。

部屋に戻ってみると、清華も既に起きていた。清華の支度を待って、二人で連れ立って一階へと向かう。

「おはようございます」

「ああ、おはよう清華」

一階の食堂に入ると、厨房にいた詩さん達が声を掛けてきた。

厨房前のカウンターにおかずが並んで置かれていて、手前にトレーが重ねられている。これはセルフサービスと言うことなのだろう。

私はトレーを一つ取って、おかずの前へと進む。

「おかずは一人一皿ずつだ。ご飯と味噌汁はお代わり自由だけど自分でよそって貰えるかい?」

「はい」

詩さんの指示に従ってトレーに朝食を乗せていく。味噌汁の隣に、お茶のポットもあったので、茶碗にお茶を注いでそれもトレーに乗せる。

取れるものを全部取ったので、食堂を見渡して座る場所を考える。六人掛けのテーブルが二列に並んでいて全部で十。ここには私達しかいないので、選び放題だ。

私は窓側の真ん中のテーブルを選んで、厨房の方を向いて座る。向かい側に清華が来た。

「食欲をそそる朝食ですね」

「うん」

トレーの上に乗っているのは、ご飯と味噌汁の外に白身魚の西京漬け、ベーコンエッグ、小松菜の煮浸し、冷奴、納豆に海苔。朝食としては十分な量がある。

清華と一緒に戴きますをして食べ始める。味噌汁を一口飲んでから茶碗を持って白米を一口。

「美味しいっ」

瑞々しく、ふっくらとした食感が口の中に広がる。実家で食べる米も美味しいと思っていたけど、これはそれ以上だ。

「フフフ、美味かろう。これはこの辺りの農家に分けて貰った地元米なのだ。しかも精米したてで炊いておるからの、絶品なのだ」

厨房の中から自慢げな結さんの声がする。

これだけ美味しいお米が食べられるのなら、お昼もこれで良いのではと考えてしまう。でも、何か結さん達の事情があるかも知れず、余計な口出しは止めておく。

兎も角も、私はご飯をお代わりした。

私達が食事をしている間に理亜さん達も食堂に来て、私達の隣のテーブルに腰掛けて食べ始めた。そして、詩さん達も厨房の仕事は終わったとばかりに、一番厨房に近いテーブルで食べ始めていた。

六人だけがいて、誰も余計な話をしないので、ただ食事をする音だけが響いている。

いち早く食べ終えた私は、お茶を飲んで一息つく。窓の外に見える空は青く晴れている。寒そうではあるけど、今日も良い天気になりそうだ。

そんな風に私が良い感じにまったりしていると、横から理亜さんの声がした。

「柚葉よ。お前、その格好で幻獣召喚に臨むとか言わないよな?」

「ん?」

言われて自分の姿を確認する。下はスポーツ用の短パン、上はタンクトップ。裸足に部屋に置いてあったスリッパを突っ掛けている。自分としては非常に過ごしやすい格好で、実を言えば寝ていた時と同じままだった。

対して、清華はと言えばブラウスにロングスカートに長袖のカーディガン、理亜さんはブラウスに膝上丈のタイトスカート、篠さんはパンツにニットのセーター。誰もがそのまま外出しても問題の無い窮屈そうな服装をしている。

うーん、家に帰るときは兎も角、幻獣召喚ではこの建物の外に出ることは無いし、別にこのままでも、と言いたいところだったけど、理亜さんの目がマジだった。

「着替えます」

私は呆気なく折れた。理亜さんに逆らってもまったく勝てる気がしない。

離れたテーブルに座っている結さんを見ると、同情の眼差しを向けられた。

なので、二時間余りの後、幻獣召喚のために集合場所に向かう時には、ちゃんと着替えて行った。

デニムの短パンに半袖Tシャツ。ちゃんと下にはスポーツブラも着けている。足にはソックス、そして運動靴。これなら理亜さんも文句は無いだろう。事実、文句は言われなかった。

ただ、私の服装を見て一言を発したに過ぎない。

「制服を持って来させれば良かったかな」

いやいや。何故学校に行くのでもないのに制服を着ないといけないのです?登校時の制服着用は校則にあるけど、幸いにもウチの高校には外出時の服装を定める校則は無いのだ。

理亜さんがそれ以上を言い出したら、校則を盾に反論しようかと身構えたのだけど、何も言って来なかったので、その話はそこで終わりになった。

さて、昨日の下見の結果、幻獣召喚の会場には役場の建物の地下にある大会議室を使うことになった。そこに置かれていた会議机や椅子は、前日の間にすべて運び出して地下倉庫に持って行ったし、入り切らなかった分は廊下に置いてある。だから今、大会議室の中には何も無い床だけが広がっていた。

「篠、こっちが北だよな」

理亜さんが入口の一つを指差して尋ねる。

「はい。建物の入口のある方がこちらで南、反対側のこちらが北です」

この大会議室は、詩さん達がいる事務室の真下にあたる。事務室の南側に窓があり、西側がロビーに通じる扉、北側が通路だ。大会議室も同じように北側に通路があり、理亜さんが指差したのもその通路に面した扉だ。

「良し、それでは描いておくか」

理亜さんは大会議室の中央に進むと、北側を向いた状態で片膝を突き、右手を床に当てて目を閉じた。

そして理亜さんの身体全体が白銀に輝き始め、そこを中心として大きな作動陣が床に描かれた。その後、理亜さんの身体の輝きが失われるとともに作動陣の輝きも消えていったのだけど、理亜さんが作動陣を床に焼き付けたようで、作動陣の跡が床に残っている。

目を開けた理亜さんは立ち上がると、その結果を確認して満足そうな笑みになり、私の方を向いた。

「一応、幻獣創造陣を描いておいた。だが、余りこれに囚われるな。これはガイド、つまりは目印に過ぎない。注意すべき点は二つある。まず一つ目だが、南北の封印の間に描く召喚陣との連携を強く意識しろ。正確さは大きな問題ではないが、連携が弱いと成功の確率が下がる。だから封印の間の召喚陣との連携が最大になるような調整が求められる」

使ったこともない作動陣を発動させながら調整とか、何処までの要求をしてくるのだろうかと思ったけど、黙っていた。どの道やらなければならないのだ。

私は了解の意味で、首を縦に振る。

「二つ目だが、幻獣の大きさだ。封印の間に収まらないといけないから、大きくし過ぎないように。幻獣創造陣ではなく、封印の間の召喚陣の大きさを目安にしろ。幻獣創造陣は通過点でしかないし、ここで幻獣を実体化するものでもないからな」

「この部屋は大丈夫ですか?」

万が一、失敗したらこの部屋がどうなってしまうのか心配になる。

「篠と私で結界を張っておくから心配するな。いざとなれば、異空間に繋げて容積を増やすこともできる。こちらは我々で何とかするから、お前は幻獣創造陣の制御に専念しておけ」

「分かりました」

理亜さんが付いていてくれれば心強い。

「それで、神槍はどうした?」

私が神槍を手にしていないことを不思議に思ったのだろう、理亜さんから聞いて来た。

「絶対に無くしたくないなと思いまして、私達の異空間に置いてあります。そろそろ取って来ましょうか?」

「だったらここと繋げる」

理亜さんは右手を横に掲げると、その先の空間に対して何かをした。私には何も知覚できなかったけど、一瞬後には理亜さんの右側に私の背丈ほどの穴が開いて、その穴の向こうには私達の異空間の中が見えていた。

「え、理亜さんてどんな異空間でも繋げられるんですか?」

驚いた私が尋ねると、理亜さんは微笑みを向けた。

「何処でもではない。自分が行ったことがある場所しか繋げることはできないんだ。まあ、お前達のプライベート異空間は私が作ったものだから、繋げるのには何の問題もない」

「そうだったんですね。ありがとうございます。では、取ってきます」

私がプライベート異空間の倉庫から神槍を取って戻って来ると、理亜さんは繋げていた穴を閉じて異空間を分離した。

「そろそろ時間になるが、準備が整っていたら始めてしまうか?それとも時間まで待つか?」

私は念話リンクを通じて両側の封印の間とも準備が整っていることを確認したのだけど、同時に皆が時間を気にしていることも伝わってきた。

「時間が来たら始めましょう」

皆の心構えが整ってから始めた方が良い。そう判断してのことだった。

理亜さんは頷くと大会議室の北側の端に移動した。それに合わせるように篠さんが南側の端へと移動する。清華は西側へ。

誰も言葉を発しなかったけど、それぞれが何をしなければならないかは分かっていた。

そのまま数分が経過すると、理亜さんと篠さんが動き出す。二人は連携して大会議室の内側を覆うように結界を起動した。

その結界の完成と共に、約束の時間となった。

私はチーム戦を起動して、南北の封印の間での三連召喚陣の起動を指示する。同時に幻獣創造陣を起動。南北の召喚陣の出現が感じられ、幻獣創造陣との繋がりが意識できた。その繋がりが最大になるように、召喚陣と幻獣創造陣を調整していく。

案ずるより産むが易しとはその通りだな、と考えた。やり方は知らなかったけど、やってみればできてしまうものだと。

調整が完了したと思えたところで、神槍に籠める力を更に強くしていく。

「後は幻獣を創造してしまえば」

そう考えながら力を籠めていくが、暫くしてから違和感を覚え始める。

上手くいっている筈なのに、何かが変。

三連召喚陣も幻獣創造陣もきちんと起動し、繋がっている。神槍にはそれなりに力を籠めているし、私にも相応の負荷が掛かっている。

でも、そこまでだった。

何故かこのままだと失敗しそうな予感しかしなかった。


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