表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第2章 友情の涙 (清華視点)
38/393

2-4. 事務局

午後、お父様と話していた通りに私は黎明殿本部の事務局に向かいました。事務局は、神谷町で降りて数分歩いた雑居ビルの三階にあります。

私は地図を見ながら目的のビルにたどり着き、エレベーターに乗って三階まで昇りました。

エレベーターを降りて左右を確かめると、右側に黎明殿本部事務局と書いてある扉がありました。扉に近づくと、その横の壁にタブレットが設置してあり、「訪問者は、タッチしてください」と表示されていました。

その指示の通りにタッチすると、呼び出し中の表示に変わり、ほどなくタブレットから声が聞こえてきました。

「こちらは黎明殿本部事務局の受付ですが、どなたで様しょうか?」

「私は東護院清華と言います。父に言われてお手伝いに来ました」

「あ、清華さんですね。お話は伺っています。扉のロックを外しますので、中に入ってきていただけますか?」

その言葉が終わると同時に、扉の鍵がカチリとなった音が聞こえました。私は扉のノブを捻ると、扉を開けて中に入りました。

扉の内側では、女性が一人立っていました。

「東護院清華さんですね。初めまして。私、本荘円香です」

「初めまして。あの、探偵社の本荘さんの奥様ですよね?」

「ええ、そうです。いつも主人がお世話になっています」

「いえいえ、お世話になっているのは私の方です」

本荘さんの旦那様は東護院家が経営している探偵社に努めているのです。私は旦那様の方は以前から知っていましたけど、奥様の方に会ったのは今日が初めてです。私たちは互いにお辞儀をして、挨拶しました。

「これ、私の名刺です。お渡ししておきます」

本荘さんから受け取った名刺には、主任の肩書が付いていた。

「ありがとうございます。あの、主任ってありますけど、本荘主任って呼んだ方が良いのですか?」

「ここでは肩書で呼ぶ必要はないですよ。本荘さんか、円香さんって呼んで貰えれば。私も清華さんと呼ばせてもらいますから」

「そうなのですね。分かりました。本荘さん、と呼ばせてください」

話が一段落して、気持ちに少し余裕のできた私は、部屋の中を見回しました。机はいくつかありましたが、部屋にいるのは本荘さんの他は、若そうな女性がもう一人居るだけでした。

「ここが事務局なのですね?」

「はい。少し手狭なのですけどね。奥の窓側の席が事務局長の莉津さんの席なんですけど、いまは出掛けています。その手前が私たちの席です。こちらは私と同じ事務局員の矢田部希美さんです。希美さん、こちら東護院清華さんです」

「初めまして。矢田部希美です。よろしくね」

「よろしくお願いいたします」

矢田部さんは、髪はミディアムで、快活そうな雰囲気でした。

「机は四つありますけど、二つは空席なので、清華さんが来たときには好きな方を使ってもらって良いですよ。あと、こちらの机は、外から人が来たときの作業用に用意してあるものです」

「外の人というのは?」

「ここに関係のあるところね。例えばダンジョン協会とか、あなたのお家の探偵社の人とか」

「なるほど」

「清華さんは、この事務局の仕事は知っているの?」

「はい、私たち黎明殿の巫女の対外的な窓口の役割を担ってくれていると聞いています」

「そう、タレントのマネージャーみたいな感じね。それと他にも仕事があるのだけど、それについては?」

「いえ、聞いていないです」

「そう?もう一つの仕事は、巫女の管理なの」

「管理ですか?」

「そう。だけど、そんなに厳しく管理しているわけもないの。誰が巫女でどこに住んでいるかということと、緊急時に連絡が取れるようにしておくことくらいね」

「私も管理されているってことですか?」

「そうよ。まあ、あなたたち封印の地の巫女は、基本的に封印の地にいるし、管理するまでもないのよね。問題なのは本部の巫女の方。清華さんは本部の巫女のことは知ってる?」

「話に聞いたことはあります。でも、実際に会ったことは無いです」

本部の巫女とは、黎明殿の巫女のうち、封印の地に属していない巫女のことだと以前お母様に聞いたことがあります。

「私たちは本部の巫女も管理しないといけないの。人数は多くないからきちんとコンタクトさえできれば管理は難しくないのだけど、新しい巫女が現れるのは突然だし、何処に現れるかも分からないのよ。だから、いつも目撃情報を集めていて、場合によっては現地まで行って確認したりすることがあるのだけど、空振りなことも多いのよ」

「それは大変ですね」

事務局に巫女探しの苦労があるとは知りませんでした。

「そうなの。最近も目撃情報があるのだけど、真偽のほどがわからなくて」

本荘さんは腕を組んで困ったような顔をしていましたが、ふと私の顔を見るとニッコリしました。

「まあ苦労話はこれくらいにして、ここの中を案内しないとね」

それから本荘さんは入口から入って右側の壁の方を向いて、手で示しました。

「この部屋から繋がっているところなんだけど、あちらの右側が来客用の応接室で、左が会議室ね。それから」

言葉を切って、本荘さんは後ろを振り返りました。

「こちらの扉の奥が資料室です」

よく見ると、資料室の扉の横に認証用の端末と思われるものが設置されていました。

「これって、認証用の端末ですよね?」

「ええ、そう。良く分かったわね」

「はい。ここの入り口にもありましたし、家にも似たようなものがありますので」

「ああ、そうか、そうね。清華さんのお家にもセキュリティシステムはあるわね」

「重要な資料が保管されているのですか?」

「見てみたい?なーんて、清華さんに手伝ってもらうことにも関係するから、案内するわね」

私に笑顔を向けた後、本荘さんは端末を操作して資料室の扉を開けました。

「ここ、本当は登録した人しか入ってはいけないところだから、気を付けてね。清華さんは後で登録するから良いってことで」

「分かりました」

本荘さんに促されて、私は資料室の中に足を踏み入れました。

扉は、資料室の左寄りにあったのですが、入って左側には作業用と思われる机と椅子が配置されていました。そして右側には棚が何列か並んでいます。

「これが全部黎明殿に関する資料なのですか?」

「そうよ。結構沢山あるでしょう?大きく分けると、昔の黎明殿に関する調査研究の文献と、最近の黎明殿の活動に関する資料、それに過去からずっと集めて来た魔獣やダンジョンに関する資料ね」

「ここなら、黎明殿のことは何でも分かると言うことなのですか?」

「そうでもないわよ。黎明殿はそれほど情報が残されていないから。むしろ分からないことだらけね」

「それでもこれだけの資料があるのですよね?」

「そうね。多いのは、黎明殿の巫女がダンジョンに入ったときの記録かしら。次に多いのは、昔の文献や遺跡などで黎明殿に関係するのでないだろうかという考察が掲載されている研究論文かな」

「黎明殿の巫女についての情報ってあるのですか?」

「そうねぇ」

本荘さんは、目を閉じ手を組んで、思い出すような仕草をしました。

「昔の巫女のことは、研究論文で巫女に関する記述ではないか、と言われたところに出てきている名前くらいかな?当時の様子が分かるような記録や文献は見つかっていないと思う」

「ほとんど分からないってことですね」

「そうね。昔から黎明殿の巫女は表にはなるべく出ないようにしていたと思うし。封印の地の巫女は、基本的に封印の地からは出ないでしょう?封印の地に属していない巫女は、本殿の巫女と呼ばれていたらしいのだけど、そうした巫女が活躍するのははぐれ魔獣が出現するところで、はぐれの魔獣って何故か人が少ない山や森の中に出ることが多いのよね。つまりは地方だけど、そういうところではそもそも記録を残している人がいないし。そういうことが重なって情報が少ないのだと思うのよね」

「はぐれ魔獣って人けのあるところには出ないのですか?」

「経験的なことだけど、そう言われているわ。まあ、最近は都市部が広くなり過ぎて、避けるに避けられない状態だけど、それでも大抵の場合は空き地とか公園とか人が少ないところに出たっていう報告がほとんどね。ただ、最近、そうじゃない事例もあったみたいだけど」

段々と巫女の話から外れて来たので、私は質問を変えてみました。

「昔の巫女のことは情報が少ないのは分かりました。最近は記録を付けているのですか?」

「ええ、まあ、巫女のことは本部で管理することになっているから、封印の地の巫女も、本部の巫女も一応全員の記録はしているわ。でも、個人情報だし、あまり細かい記録は付けていないのよ。それに亡くなったり、行方不明になったら一定期間後には廃棄することになっているし」

「そうだとすると本当に最近の人の記録しか残っていないということなのですね?」

「そうなるわね。まあ、封印の地の巫女なら、時間が経ってもそれぞれの家の家系図が残っていると思うけど、本部の巫女だと何も分からなくなってしまうということね」

「本部の巫女は家系ではないのですか?」

「家系なんて無いと思うわ。私の知っている本部の巫女で母娘なんて例はなかったし、それどころか同じ親族という例も無かったと思うし。そもそも出自が不明な人が多いし」

「出自も不明って、本部の巫女はどうやって生まれてきているのでしょうか?」

私の問い掛けに、本荘さんは両手を広げて肩をすくめ、首を横に振りました。

「それが分からないの。あまり追究してはいけない話題みたいだから、彼女たちとお話するときには、清華さんも気を付けた方が良いわよ」

「ええ、注意します」

とは言っても、本部の巫女がどのようにして現れるのか、興味を惹かれました。

「一応注意しておくけど、本部の巫女には謎が多いけど、それを知ろうとはしない方が良いわよ。あと、知っても他の人には言わないことね」

「はい」

「それから、内緒話は、事務所の中でもこの資料室の中か、反対側の会議室の中でするようにね」

「分かりました」

色々と秘密なことがあるようです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ