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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第10章 未来への旅 (柚葉視点)
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10-26. 神槍の在処

共通試験は、まあそこそこできたと思った。自己採点結果も、その手応えを裏付ける内容だった。清華の方がより点数は上だったけど、そこは大きな問題ではない。要は合格すれば良いのだ。寒江さんも頑張った甲斐があったと言っていたので、悪くは無かったのだろう。

さて、大学入試の最初のイベントである共通試験が終わったら、後はそれぞれの私立大学の入学試験だ。だけどそれは2月に入ってから。試験日が近付いたらまた勉強尽くしになるにせよ、今は少し余裕がある。なので今のうちに少し調査を進めておきたい。

年末にお婆ちゃんに会ったことで、封印の魔道具については決着した。幻獣を元に戻しても、また封印を壊されるとなると(たま)ったものではないけど、お婆ちゃんの情報だとそれはなさそうだ。ならば、後は封印の魔道具を直して、幻獣を呼び出して封印すれば良い。

お婆ちゃんは封印の魔道具の準備を三ノ里の研究所にお願いしておいてくれると言ってくれた。だから、私は神槍を探しなさいと。神槍の場所は、お婆ちゃんは知らないとのことだった。話には聞いたことがあるけど、見たことはないらしい。

裏でこそこそ動いていたお婆ちゃんならと期待があったのだけど、当てが外れてしまった。仕方がないから、もう一度藍寧さんと話してみようか。

自由登校期間とは言え、受験とは無関係なことで出歩いているのを見られたくはない。藍寧さんに相談したら、夜に私の部屋に来てくれることになった。

その夜。

私がローソファに座ってノンビリしていると、部屋の片隅で力の気配がした。あ、来たなと思う間もなく、そこに藍寧さんの姿が現れた。

「こんばんは、藍寧さん。来て貰ってありがとうございます」

声を掛けると、藍寧さんは微笑んだ。

「どういたしまして、柚葉さん。神槍のことでしたね」

「そうですけど、先に座ってください」

藍寧さんが立ったまま本題に入りそうな勢いを感じたので、慌てて立ち上がって席を勧める。ついでにお茶を淹れて出す。

「ミカンも自由に食べてください」

テーブルの上に、ミカンを盛った果物皿を置いてある。食事の回数は減らしているが、気分転換にミカンを食べられるように常備してある。

そのミカンを自分でも一つ取り、皮を剥き始める。それを見てか、藍寧さんもミカンに手を出した。

「年末にお婆ちゃんに会ったんですけど、神槍のことは分からなくて。使うとすれば藍寧さんくらいしかいないのではと言われたんです。それで、何か手掛かりになるようなことでも無いかと思いまして」

自分のミカンを粗方食べ終えてから、話したかったことを持ち出した。

「そうですね。確かに私くらいしかあの神槍を使った人はいないと思います。その点からすれば、私が知っていて然るべきではあるのですけれど」

藍寧さんは気まずそうな表情をした。

「その神槍を最後に使ったのは何時なんです?」

確かなところから、一つ一つ順番に確認してみようと、回答が得られそうな質問を選んだ。

「四つの封印の地に幻獣を召喚したときですね。凡そ400年前になります」

「その召喚の後に失くしたのですね?」

「ええ。幻獣の召喚は負担が大きくて、消耗した私はその後10年ほど眠り続けました。そして目覚めた場所は召喚を行ったのとは別の所でしたし、神槍は誰かが仕舞ったのだろうと考えて確認していなかったのです。それで、最近になって聞いてみたら、誰も知らなくて」

藍寧さんが眠っている間に移動していたとすると、藍寧さんを運んだ人がいる筈だ。

「藍寧さんが幻獣を召喚したとき、近くに誰かいませんでした?」

藍寧さんは頬に手を当てて考え始めた。

「そうですね。あのときは、大体の人が四つの封印の地に分かれていましたから。私と一緒にいたのはデリアくらいだったでしょうか」

「デリアさん?ああ、理亜さんですね、三ノ長の」

「ええ、そうです。ご存知でしたか」

その辺りの知識は少しは持っていたので理解できたけど、その根っこにあるものは知らなかったし、気になっていた。

「はい。最初の六人はアルファベット順に名前を付けているとは聞いてました。でも、どうしてなんです?」

「実は、最初は数字で呼んでいたんですよ。一、二、三って。でも、五番目の子が数字じゃ嫌だと言い出したんですよ。アバターの番号ともずれていましたし、味気ないって。それで当時世界のことを調べていた三が、私の名前がアーネであることもあるから、アルファベットにしようと提案したのです。それで、それぞれのアルファベットから始まる名前を付けたから、三はデリアとなったのです」

「だから、その五番目の子、フェリさんまでがアルファベット順なんですね」

なるほど、そういう経緯だったのかと納得した。

ただ、その最後の質問は、私は単に確認の意味で問い掛けたつもりだった。でも、藍寧さんの話はそこまででは終わらなかった。

「ええ、その時は、私達は六人しかいませんでしたし、七人目の巫女からは巫女になったのが随分と成長してからなので元から名前がありましたしね」

「え?最初は、名前の無い赤ちゃんを巫女にしていたんですか?」

「巫女が増えたのは、捨てられて死に掛けの赤ちゃんや幼児(おさなご)を私が助けようとしたのが始まりでした。けれど、巫女の力を得られて助かったのはホンの少数で、沢山の子供達は助けられないまま……」

言葉を切った藍寧さんは遠くを見て悲しそうな表情をしていた。助けられなかった子供達のことを思い出しているのだろう。

今の時代は昔に比べればそうとう恵まれた社会になってきていると思う。藍寧さん達が見て来た時代が何時なのかは聞いていないけど、約400年前に季さんが生まれ、31番だと言っているのだ、きっと千年以上前のことではないだろうか。簡単には計り知れないものの、苦しい生活に喘いでいた子供も多くいたのではないかと思われる。

だけど。

「子供の命を救うことは人の社会の問題であって、黎明殿の巫女の役目ではないですよね」

藍寧さんの気持ちは分からなくもない。けれど、何か違うと思うのだ。

「そうですね。デリアにも同じことを言われました。あの子は人に対してドライなところがありましたから。でも、巫女としての考え方は、あの子の方が正しいことは私も分かっていました」

気持ちを落ち着けられたようで、藍寧さんは顔を上げ、私を見て微笑んだ。

「それからは、物事が良く理解できる学のある十代後半以降の女性を相手にするようにしました。その方が力の受け取り方も誘導できましたから、成功率が大きく上がりました。それが一華(いちか)さん達、後に初代の封印の地の巫女になった人達です。当然のように彼女達には名前がありました」

「だから、藍寧さんが名前を付ける必要がなかった」

「そうです。十分に成長してから巫女になった人は、見極めも早くにできると言う利点もありました」

「見極めですか」

何となく、嫌な言葉だと感じた。

「アバターを与えるかどうか。やはり重要なことですから。変な野望を持つ人や、他人に依存しすぎる人など、どうしても力を持つには相応しくない人はいるものです」

「そうした人達はどうしたんです?」

「人それぞれですね。力を封じてしまったり、力は封じないけれどアバターは与えなかったり。まあでも、青年期に入ってからの人は、力を与える前にある程度のことは調べを付けていたので、そこまで酷くはありませんでした。寧ろ幼いうちに力を得た人の方が色々ありました」

憂いた表情の藍寧さんに、その色々の中身について突っ込んで聞くべきだろうかを悩む。いや、楽しい話になる気がしないので止めておこう。

「巫女にするのも育てるのも大変なら、やっぱり幼い子に力を与えるのはどうかと思いますけど」

「そうなのですけど、幼児のときに力を与えないとできないこともあるのですよ」

「できないことって何です?」

短所を覆すだけの利点があるのだろうか。

「それは、他人に巫女の力を与えることです。成長してから力を得ても、他人に力を与えられるようにはなりません。でも、幼児の時に力を得た巫女は、他人に力が与えられるようになるのです」

「だから、里長は最初の五人なんですね」

「ええ。そして、愛子さんが六人目です。そしてそれで全部ですね。その彼女達が力を与えた場合は、幾らその相手が幼くても他人に力を与えられるようにはなりませんでした。それでももう十分な数の巫女がいます」

「はい、そう思います」

漸く藍寧さんの話が一段落した。

思わぬ昔話を聞けたけど、しかし、盛大に話が逸れてしまった。

「あの、藍寧さん。話を戻したいんですけど、藍寧さんが最後に神槍を使った時に近くにいたのが理亜さんなら、理亜さんが何か知っているんじゃないでしょうか」

そんなこと、私が指摘するまでもないことではある。

「私もそう考えてデリアには尋ねました。でも、デリアが倒れた私を運んで戻った時にはもう神槍は無かったそうなのです。だから、誰かが何処かに仕舞ったのだろうと」

「仕舞った場所が分からないんですか?」

「そうなのです。私が幻獣を呼び出す儀式をしたのは中央御殿の中でしたから、多分、今も中央御殿の中にあるのではないかと」

何ですと。

「中央御殿って昔、篠郷にあったと聞きましたけど。今も何処かにあるんですか?」

「ありますよ。丁度私が幻獣を呼び出した後の眠っている間のことなので詳細は知らないのですけど、黎明殿が時の為政者との揉め事になり掛かったことがあって、その時、デリアが移動してしまったそうです」

フム。すべては理亜さんですか。


お話の途中ですが、お知らせです。


新作を始めました。

「妹大好き姉の内緒のお手伝い」

https://ncode.syosetu.com/n5038id/


これを読んでいただいている人だけにお伝えしますが、新作は本作のスピンオフの位置付けです。

時代がどの辺りかは、そのうち分かるかも知れません...。


本作には影響のないお話になっておりますので、新作は新作で楽しんでいただければと思います。


よろしくお願いいたします。



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