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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第1章 南国の雪 (柚葉視点)
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閑話1-7. 瑞希ちゃんと隠された港

私たちはオジサンに連れられて、地下室に下りました。地下室への階段は、入り口横からロフトに上る階段の裏側にありました。階段の途中には踊り場があって、そこで左に半回転して更に下りるようになっています。階段を下り切ると扉があって、扉を開けるとそこが地下室でした。オジサンは入り口横のスイッチを入れて灯りを点けました。広さは8畳間程度でしょうか、板間で、目の前の壁際にはお米やじゃがいもや玉ねぎなど備蓄品が置かれているのが見えました。その横には機械が設置されています。良く見ると、それは自動精米機でした。そして他にも農機具などが置いてあります。この地下室は倉庫として使われているようです。

「ここは倉庫ですか?」

「うん、上に比べて涼しいからね。保管庫代わりに使っているんだ。船着き場への地下通路は、左の扉の先だよ」

階段側の入口から入って左側は、一部が土間になっていて小さな下駄箱も置いてあります。

オジサンは下駄箱から取り出した靴を履き、扉の鍵を開けて地下通路の方に出ていきました。

私たちはオジサンに言われて玄関から靴を持ってきていたので、それを土間に置いて履きました。私たちが扉をくぐって地下通路に出ると、オジサンが扉を閉めて鍵を掛けました。

「ここは一本道だから万が一ということはないんだけど、昔からの癖で鍵を掛けないと不安でね」

言い訳じみたことを言っているオジサンが少し可愛く見えます。

地下室の扉の上には灯りが点いていて、周りを照らしていました。扉の前の空間は少し広くなっていますが、その先は人がすれ違える程度の幅の通路のようです。オジサンはダンジョンに入るときに使うようなヘルメットを被っていて、ヘルメットに付いていたLEDのライトを点けてから地下通路を歩き始めました。その後に柚葉さんと私が続きます。オジサンは私たちにもヘルメットを貸してくれようとしましたが、ヘルメットは無くても大丈夫ですからと辞退しました。

「この通路は滑りやすいし階段が多いから気を付けてね」

道は緩やかな下り坂ですけど、途中途中に階段がありました。一つ一つの階段は、それほど段数が多くも無いので、そこまで危険には感じないのですが、注意しないと足を踏み外しそうなので歩みが慎重になりがちです。一方、オジサンは慣れた道なのか、階段があってもペースが落ちることが無く、追いかけるのが大変でした。

そしてその通路を三十分ほど歩くと扉があって、その先は通路の左手の方の視界が開けていました。と言っても、肩くらいの高さまである岩があって、歩く場所の幅は変わっていないのですけれど、左手の岩と天井の間には1m程度の隙間があって遠くに外の明かりが見えていて、終点が近いことを知らせていました。

「この扉は何のためにあるのですか?」

「万が一津波が来ても、ここから先には海水が入って来ないようにするためだよ。だから、この扉は頑丈にしてあるし、いつも閉めておくようにしているんだ」

「備えあれば患いなしってことですね」

「そうだね」

さらに少し歩くと、地下通路の終点のようなところに到着しました。そこは、海より幾分高い崖のようになっている場所で、その先には桟橋が繋がっていました。その桟橋の左は海の水が広がっていて、小型船ならそこで旋回できそうです。そして、それらすべてが地下空間にあるのです。

「凄い。地下の船着き場ですね」

「そう、ここなら桟橋に船が泊まっていても、外から見えなくて好都合なんだ」

「これまで良く見つからないで済みましたね」

「出たところは岩礁だし、よほどでなければ近づく人もいないからね」

探知によれば、ここは島の北西に位置するようです。島の港は正反対の南東ですし、島の西側は海中にも岩が多いので、確かに普通の船は近づこうとは思わないでしょう。

ふと見ると、左側に崖沿いに進む道がありました。

「この道はどこに行くのですか?」

「導灯のところだよ」

「導灯?」

「瑞希ちゃん、導灯は船に進入路を教えるための灯かりのこと。それがあれば、周りが岩場でも間違えることなく船着き場まで入って来られる目印のようなものね」

柚葉さんが教えてくれました。

「そう、柚葉ちゃんの言う通りだよ。ここへの進入路はこの隠れた入り江の南端にあるから、導灯もここから南の方に行ったところに設置してあるんだ」

「あのう、見に行っても良いですか?」

「良いよ、勿論」

私たちは、導灯に向かう道へと進みました。道は、海から見て岩陰を縫うように作られています。そしてしばらく歩くと、上を覆うものが無くなり太陽の下に出ました。それと同時に左手が崖になりました。上の方を見ると、岩がオーバーハングして頭上に覆い被さるようになっています。これだと、上からは、この道は見えなさそうです。それから程なく、道の終点に着きました。しかし、パッと見た限りでは、導灯らしきものは見当たりません。

「オジサン、ここに導灯があるのですよね?」

「そうだよ。念のために分かる人にしか分からないようにしてあるんだ。ほら、ここにあるんだよ」

オジサンが右側の足元に近い岩をずらすと、金属の箱があるのが見えました。

「灯りは海の方に出すから、こっちは裏側なんだ。で、海に近い方の導灯がこれで、もう一つの海から遠い方の導灯はここに光源があるんだ」

オジサンは左側にある岩を持ち上げてどけると、その奥に金属の箱がありました。

「あの、ライトが見当たらないのですけれど、どうなっているのですか?」

「ああ、箱の反対側に光源があって、そこから光ファイバーで光を出すところまで繋げてあるんだ。試しに点けてみるから、あそこを見ていて貰えるかい?」

言われたところを見ていると、光が点いたり消えたりするのが見えました。

「見えました。奥の方で光っていますね」

「分かったかい?それが二つ目の導灯なんだ」

「知らない人には分からないですね」

「そう言ってもらえると安心するよ」

オジサンは微笑んだ。

ここには他に見るものが無かったので、私たちはもと来た道を戻ってオジサンの家に戻りました。行きと反対に帰りはひたすら階段を上っていくのですが、オジサンはペースを落とすことなく歩いていました。柚葉さんや私は力で回復しながら歩けるのでまったく苦になりませんけれど、オジサンはそれなりのお年に見えるのに健脚だなって思いました。

「オジサンの家に戻って来たばかりなのですけど、港まで行っていて時間が経ってしまったので、私たちはこのまま帰ろうと思います」

柚葉さんがオジサンに申し訳なさそうな顔をしながら暇乞いをしました。

「ああ、そうだね。じゃあ、玄関でお見送りさせてもらうよ」

私たちはオジサンと一緒に玄関に行くと、オジサンが扉を開けてくれました。

「今日は来てくれて嬉しかったよ、ありがとう。柚葉ちゃんは、東京に行っても元気でね。瑞希ちゃんは、これからもよろしく」

「はい、よろしくお願いいたします」

「オジサンもお元気で」

「うん、また」

家から少しは慣れたところで振り返ると、オジサンが手を振っていました。私たちも手を振り返します。

「瑞希ちゃん、森に入ったところで山頂に転移するよ」

「はい、柚葉さん」

私たちは手を振りながら歩いていましたが、森の入口で前に向き直って、森の中に入りました。そこで柚葉さんが転移したので、私も追いかけて転移します。

山頂に着いたあと、私たちは今までいた北側の方を向いて並んで立ちました。

「あのオジサン、怪しくないのですか?」

「お祖母ちゃんの関係者みたいだし、大丈夫じゃないかな」

「でも、確証はないんですよね?」

「そうだけど、お祖母ちゃんとのことならトメさんやチヨさんに聞けば分かると思うんだよね。調べればすぐに嘘だと分かっちゃうことをわざわざ言うとは思えなくて」

「そうかも知れませんけど」

「心配だったらトメさん達に聞いてみてよ。私も東京に行ってお祖母ちゃんに会えたら聞いてみる。何か分かったら瑞希ちゃんに連絡するから」

「はい、分かりました」

この話題はここまでかな、と思いました。

しばらく、私たちは黙って景色を見つめていました。透明でキラキラ光る海が今日も綺麗です。

「この景色もそろそろ見納めかな」

「出発は来週末でしたよね。柚葉さんが居なくなると寂しいです」

「そうね。私も瑞希ちゃんと離れるのは寂しいけど、今のままってわけにもいかないし、自分で行くって決めたからね」

「いつか、この島に帰ってきますよね?」

「うん、きっと帰ってくるよ。そして、またここに来て、この景色を眺めに来るんだ」

「その時は、私もここに一緒に来たいです」

「そうだね、一緒に来ようね」

「約束ですよ」

「分かった、瑞希ちゃん。約束ね」

私たちは顔を向き合わせて微笑みました。

穏やかに吹く風が心地良いです。


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