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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第9章 私の役目 (瑞希視点)
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9-10. 女子大生との交流

「お、やった。5が揃った。上がりだ。悪いな、トモ」

「うー、負けたー」

夜です。私は今、宿屋の冴佳さん達の部屋に来て、一緒に遊んでいます。そうしているのには、理由があります。

昼間、山に登った山野さん達が見付けたのは、現場からオジサンの小屋への行き方でした。しかし、小屋にいたオジサンの発言からすると、現場から小屋に至るルートがあることは事件とは無関係そうです。勿論、オジサンの言葉が正しいとすればですけど、山野さんは今のところ疑う必要は無いと考えていたようです。

そのオジサンの小屋からの帰り道、山野さんは歩きながら声を掛けてきました。

「なあ、嬢ちゃん。今、この島にいる外の人間は、俺ら以外だと向陽の嬢ちゃん達だけか?」

「はい、そうです」

「そうか」

「ボス、彼女達がどうかしましたか?」

古永さんの問い掛けに、山野さんは大きく首を横に振りました。

「いや、疑っているんじゃないんだ。ただ、何か気付いたことがないか、聞けるときに聞いておいた方が良いと思ってな。それでなんだが、古永、宿に戻ったら聞いておいて貰えないか?」

「私が一人で事情聴取するんですか?」

古永さんは険のある表情をしました。

「そんな形式ばったことはしなくて良いんだ。暫く一緒にお喋りしながら聞き取りして貰えれば十分だから。それに女子同士なら打ち解け易いだろう?」

山野さんは冷や汗を掻いているように見えます。

「同じ女性とは言っても年代が違うと思いますが。彼女達は二十歳くらいですよね?」

「お前だって、まだギリギリ二十代だから大丈夫だって。それでも気になるんなら、こっちの水の嬢ちゃんにも一緒にいて貰えばどうだ?それでバランスが取れるだろう?」

もしかして、今、さらっと私が巻き込まれましたか。

「で、私がお喋りしている間、ボスは何をしているんです?」

山野さんは古永さんから目を逸らしました。

「俺は、水の旦那とこれまでの情報整理をだな」

「何処でです?」

「宿の食堂でかな」

「それ、絶対に飲みですよね」

「そうだよ、良いじゃないか。夜なんだし。コミュニケーションは良好な人間関係を保つために重要なんだよ」

「開き直りましたね。まったく」

古永さんは溜息を吐くと、諦めたような表情をしました。

「良いでしょう。私が向陽さん達から話を聞いておきます。瑞希さん、一緒にお願いできますか?」

「はい」

山野さんに名前を出された時から、今夜は宿題がやれないなと諦めの心境になっていたので、迷いはありませんでした。

そうして宿の夕食の時間が終わる頃、私は父と崎森荘を訪れ、酒を酌み交わし始めた山野さんと父を食堂に残して、古永さんと向陽さん達の部屋にお邪魔させて貰ったのでした。

「よし、もう一度やろっ」

向陽さんが、トランプを集めて切り始めます。

夕食後にお喋りがしたいとの古永さんからのお願いは、割りと簡単に受け入れて貰えたとのことでしたけど、いざお部屋に行ってみると話の糸口が無くて若干気まずい状況でした。それで、まずは一緒に遊ぶところから始めようとの冴佳さんの発案で、トランプで遊ぶことにしたのです。

始めたのはルールも簡単なババ抜きです。それでも遊ぶうちにそれぞれの人柄が分かってきました。冴佳さんは頭脳派ですけど、ババ抜きのような運の要素が強いものでは、なかなかどれを選ぶかを決められないようです。五条さんは、おっとりしたように見えながら、決めるのは直ぐです。向陽さんは、とても楽しそうに引き抜くカードを選んでいます。お喋りしながら相手の反応を見ているようでもありますけど、負け続けているので果たして意味のあることをやっているのか良く分かりません。一方で、古永さんは、大人しく淡々とプレイしています。表情をあまり変えないので、クールなのかと思わせつつも、時折、口の端が上がりますし、山野さん相手には言いたい放題発言していたことを考えると、もしかして人見知りなところがあるのでしょうか。

「うわー、また負けたー」

向陽さんが、最後の一枚を手に持ちながら突っ伏しています。

「トモはつくづく運が無いな。今度は別のゲームにするか?」

「そうだね。次は私が勝てる奴をやりたいかな」

「だったら、何をやるのかトモが決めたらどうだ?」

「え?良いの?」

冴佳さんの言葉で、向陽さんは元気になったかと思うと、ガバっと起き上がりました。

「それじゃあ、スピードをやろう。勝ち抜き戦で」

「そう来たか」

「灯里らしいわね」

冴佳さんと五条さんは悟ったような表情をしています。

「あの、勝ち抜き戦って、どうやるんですか?」

「スピードは二人で勝負するんだが、順番に勝った方と戦っていって、最後に勝ち残ったら優勝だ。瑞希は、スピードは知ってるのか?」

私は首を横に振りました。

「やったこと無いです」

「それじゃあ、やって見せるよ。トモ、私が最初に対戦する。良いか?」

「勿論、良いよ」

そう言いながら、向陽さんはトランプを分けていました。

「最初にカードを赤と黒に分けるんだ。で、その片方を取ったら良く切って相手に渡す。その受け取った束が手札だが、まずその上から順場に四枚を開いて場札として自分の前に並べる」

冴佳さんと、その正面に正座している向陽さんとがそれぞれ自分の前にカードを四枚開いて並べました。向陽さんは黒、冴佳さんが赤です。

「この状態で、一枚ずつ、今度はお互いの間に出すんだ。それも同時にな。そして、そのカードと数字が隣の場札を重ねていく。場札が減ったら四枚まで手札から補充して、中央のカードに重ねられるものがあれば、どんどん出していく。場札から出せるものがなくなったら、二人で同時に新しいカードを中央に出す。それを繰り返して自分のカードが早く無くなった方が勝ちだ。ここから先は見ていれば分かるだろう。良いか、トモ」

「良いよ、冴佳」

「それじゃあ、行くぞ。いっせーの」

『せ』

掛け声と共に二人同時にカードを一枚中央に出した後、数字が隣り合う場札を中央のカードに重ねていきます。掛け声が繰り返されるにつれ、手札が減っていきますが、手札の減る速さは明らかに向陽さんの方が上です。

「よっしゃ、終わりっ。私の勝ちっ。やったね」

向陽さんがガッツポーズで喜びを表現しています。

「とまあ、こんな感じだが、分かったか?」

「はい、まあ、大体は」

「次は私かしらね」

五条さんが冴佳さんと場所を交代して、向陽さんとの勝負を始めました。

二人の掛け声ごとに、せわしなく場札を重ねていく動きは、明らかに向陽さんの方が速いです。冴佳さんとやっているときも思いましたけど、手札を中央に置いた次の動きに澱みがありません。直ぐに重ねるべき手札に向けて手が動いているのです。これだけ速いと、余程カード運が良くないと勝てなさそうです。

結局、五条さんとの勝負も、向陽さんが制しました。

「どうする、瑞希。やってみるか?」

冴佳さんに振られて、勝てる自信はまったく無かったですけど、どうせゲームだからと首を縦に振りました。

「挑戦してみます」

五条さんと代わって、向陽さんの前に座りました。自分で切ったカードの山を向陽さんに渡し、向陽さんが切ったカードの山を受け取って、四枚のカードを開いて場札の位置に並べました。

「いっせーの、せっ」

掛け声に合わせて開いた手札はハートの2、向陽さんのはスペードの7。隣の数字が私のがAか3、向陽さんのが6か8。私の場札にダイヤの8があるから、それを向陽さんカードの上に重ねて。

と、私の手が自分の場札に届く前に、向陽さんがクラブの6を乗せました。だったら、ハートの7がと思う間もなく、クラブの5が置かれ、正に手も足も出ない状況です。

このゲーム、開いた手札をどれだけ素早く認識できるかだけでなくて、その後場札をどう出していくのかを相手のカードも見ながら決める必要もあり、カード全部を把握した上での判断力が求められるゲームだなと思いました。

「はい、終わり。私の勝ち」

ゲームの要点が分かっても、自分の能力が相手に追い付かなければどうにもなりません。あっけなく、私の負けが決まりました。

「瑞希、お疲れ。まあ、初めてにしては善戦したんじゃないか」

「はい」

冴佳さんが優しく慰めてくれます。まあ、想定された結果なので、悔しいですけど落ち込んではいません。

「残るは古永さんですね。やって貰えますか?」

不敵な笑みを浮かべている向陽さんに、古永さんは微笑み返しました。

「ええ、やりましょう。でも、向陽さん、油断しない方が良いですよ。私、結構強いですから」

これまで向陽さんが皆に強さを見せつけて来ていたのに、それでも自分が強いと言った古永さんは、相当自信があるのでしょうか。

古永さんの言葉を聞いてもなお、向陽さんは笑顔を崩さず、楽しそうにカードを赤と黒に分けています。その間に、私は古永さんに席を譲りました。

二人はそれぞれ場札を四枚置き、開始の準備を整えると、右手を手札の山の上に添えて前傾姿勢になります。

「いっせーの、せ」

発声と同時に向陽さんが素早く動きますが、古永さんも同じくらいの速さで動いています。掛け声を繰り返すごとの二人の動きは、殆ど互角に見えました。そして、何度目かの掛け声の時、二人同時に手札が無くなり、場札の数は向陽さんが三枚に対して、古永さんが二枚。その古永さんの二枚は隣同士の数字です。

次の掛け声で、古永さんのカードが無くなると、古永さんが勝利を宣言しました。

「あー、負けちゃった。古永さん、本当に強いですね。でも、もう一度、良いですか?今度は私が勝ちます」

「良いですよ」

再度の勝負で、今度は向陽さんが勝ちました。それで一対一の引き分けだからと、更にもう一戦。その三戦目は古永さんの勝利に。そうすると、向陽さんがもう一度やろうと言い出して、と言うのが何回か繰り返されました。

「ううっ、四勝五敗。何回やっても勝ち越せない」

「トモ、そろそろ終わりにしないか?負け越していると言っても一つだけだろう?誰が見ても互角だよ」

「ん、そだね。古永さん、何度も相手して貰ってありがとうございました」

向陽さんが頭を下げると、古永さんの顔が少し赤くなりました。

「いや、大したことじゃないです。向陽さんも強かったし、私も楽しめました。あの、それでですが、これからは私のこと(たまき)って呼んで貰えますか?」

「え?良いんですか?だったら、私のことも灯里で」

「ええ、トモ、さん」

古永さんは耳まで赤くなってます。恥ずかしいのでしょうか。

会話をし易くするためにまずはゲームをと言うことでしたけど、古永さんが冴佳さん達の心を開かせると言うよりも、古永さんの心を開かせているように見えるのは、私の気のせいでしょうか。

何にしても事件の話はまだ全然していなくて、これからです。


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