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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第8章 繋がりを求めて (灯里視点)
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8-50. ミステリーツアー

ふと目が覚めて窓を見ると、カーテンから光が漏れている。朝のようだ。時計の表示は7時を回っていた。丁度良い頃合いだとベッドの上で体を起こす。冴佳と由縁はと言えば、まだスヤスヤと眠っている。さもありなん。昨晩は随分と夜更かししたのだから。

昨日、私が散歩から帰ったとき、由縁は昼寝をしていたが、冴佳は起きて本を読んでいた。

「ただいま」

部屋に入って声を掛けると、冴佳は本から目を離して私を見た。

「お帰り、トモ。何処に行って来た?」

「少し街中をぶらぶらしてから港の桟橋の方を見て来た。良い雰囲気のところだね」

私の感想を聞いて、冴佳が嬉しそうに微笑んだ。

「そうだな。気に入って貰えたなら良かった。夕食の店は予約してあるが、まだ三十分以上あるぞ。少し休んだらどうだ?」

「うん、ありがとう。そうだ、私、コーヒーが飲みたいな。買いに行くけど、冴佳は何か要る?」

冴佳は目を宙に向けて暫く考えてから、再び私を見た。

「いや、私はお茶が良いかな。確か、備え付けのポットがあったよな?それでお湯を沸かしてお茶を淹れよう」

「じゃあ、ポットにお水入れて電気点けておくね」

「良いのか?悪いな」

「ううん、大丈夫」

私は直ぐ傍の棚の上に置いてあったポットを取り上げ、洗面台へ行く。そこでポットを一度洗い、水を満たしてから棚の上に戻し、コンセントを挿してから電源を入れた。通電されたことを示す橙色のランプが点灯し、電熱線が唸る音が聞こえた。

「これでお湯が沸くと思うから。私、コーヒー買って来る」

「ありがとう、トモ」

「どういたしまして」

冴佳に笑顔を向けると部屋を出た。ホテルの中にも缶コーヒーの自販機はあったが、外に出て近くのコンビニまで買いに行った。

コンビニのコーヒーを入手し部屋に戻ると、ポットのお湯が沸いていたようで、冴佳がパックのお茶を淹れているところだった。それから、コーヒーとお茶を銘々で飲みながら話をしていたら、由縁も起きて来て、予約していた時間に三人で連れ立ってホテルを出た。

冴佳に連れて行かれたのは、沖縄の郷土料理のお店だった。ゴーヤーチャンプルーに、ラフテー、ミミガ、島豆腐、それからもずくの天ぷら。折角だからと地ビールを飲んでみた。でも、うーん、日頃飲み慣れていないせいか、ビールの味は良く分からない。ならばと泡盛の水割りに。こちらはスッキリしていて幾らでも飲めそうだった。魚の刺身や焼き魚などもあり、大いに満足した。

「石垣島って本当、良いところねぇ。彼氏と来ればもっと良いかしら」

「ああ、そうだな。それで、ユカは彼氏いるのか?」

「いないわよ。周りに良い男がいないのよねぇ」

「じゃあ、ここで見付けたらどうだ?」

「いやよ。私、遠距離恋愛なんて耐えられないわ」

由縁と冴佳が女子トークに花を咲かせている。何となく、いつもよりも生々しい会話になっているような気がするのは、二人とも、酔いが回っているからか。既に全員二十歳の誕生日は迎えているので酒を飲むこと自体は問題ないのだが、果たしてどれくらい飲めるかの加減が分かっているのだろうか。

かく言う私は、巫女の力による治癒が働かないように神経を尖らせていた。ロゼマリの二人から、普通にしていると全然酔えないと言われていたが、まったくその通りで、ほどほどに酔うにも巫女の力を抑える必要があった。そんな訳で、私は飲み過ぎになることはないのだが、残りの二人のことは心配だった。流石に二人も抱きかかえてホテルに戻ることにはなりたくなく、会話をしながら二人の酒量に気を配り、チェイサーを飲むように勧めたりもした。その甲斐あってか、二人とも自分で歩いてホテルに戻ることができた。

ホテルの部屋に入ると、二人は直ぐに風呂に入りたがった。一日汗を掻いたし当然の欲求ではあるが、なるべく酔いを醒ました方が良いので、22時になるまで我慢して貰う。それからホテルの大浴場でゆったりと湯に浸かり、部屋に戻ってお喋りを再開。夜中の2時過ぎまで話に花を咲かせていた。

そして、現在に至る。

二人の寝顔を見て、今起こすかどうかを悩む。

一先ず、遮光カーテンは開けて、外の光を部屋に取り込んだ。それから、洗面所で歯を磨き、顔を洗う。しかし、それくらいの時間では二人は起きない。仕方が無いので、観光ガイドの本を読みながら、時間を潰す。

8時になっても二人は目を覚まさない。6時間も寝れば十分ではなかろうかと、心を鬼にして二人を起こした。朝食のために食堂に向かったのはその30分後、出発の準備をしてホテルを後にした時には、10時を過ぎていた。

ホテルの玄関から出ると、冴佳は、引っ張っていた車輪付きのスーツケースの取っ手から手を離し、大きな伸びをした。

「うーん、外の空気が旨いな」

「そろそろ二日酔いが抜けた?」

「ああ、もう大丈夫だ。トモ、昨日は悪かったな。調子に乗って飲み過ぎてしまった」

「私も飲み過ぎてしまったわね。ホテルに帰った記憶がないの。私、お風呂に入ってた?」

「ちゃんと二人ともお風呂に入って体を洗ってたよ。まあ、次からはお酒はほどほどにしようね」

「そうする」

「ええ」

二人の表情に反省の色が見えたので、これ以上苦言を呈するのは止めておこう。

「それで冴佳、今日は船に乗って別の島に行くんだよね?」

「ああ、そうだ。良いところだぞ。二人にとっては得難い経験になる筈だ」

「それは楽しみね。そこは何て言う島なの?」

由縁の言葉に、冴佳はニヤリと笑って答えた。

「それは行ってからのお楽しみだ。これは私が企画したミステリーツアーだからな」

「分かった。楽しみにしておく」

冴佳は、私達をどんなところに連れて行ってくれるのだろうか。

離島ターミナルに入ると、冴佳は右奥へと進んでいった。特に待っていろとも言われなかったので、私は由縁と一緒に冴佳の後を付いていく。

冴佳は、結局、一番奥まで行った。そして、そこにある乗船カウンターの前に立ち、笑顔になって話し掛ける。

雅子(まさこ)小母さん、こんにちは」

「あら、冴佳ちゃん、お久しぶりね。一年振りかしら。元気だった?」

「はい、お蔭様で。小母さん、こっちに来たんだね」

「ええ、この四月から、子供と一緒にね。貴女、知っているでしょう?うちの卓哉(たくや)

「勿論。あ、そうか、今年高一なんだ」

「そういうこと。それにここの交代要員も探してたから、丁度良いかなって。そう言えば、里穂(りほ)小春(こはる)さんのお世話になっているみたいで、悪いわね」

「いえ、偶にうちに来て貰ったりしているだけなので」

二人は随分と親密な間柄らしい。知らない人の名前がどんどん出て来る。由縁と私は、冴佳の脇で大人しく立っていることしかできないでいた。

「それで冴佳ちゃん、今日はこれから島へ?」

「そう、友達を連れて行こうと思ってて。この二人は、高校からの友達なんだ」

漸く本題に入ったらしい。冴佳に紹介されたので、お辞儀をする。

「冴佳ちゃんがお友達と言うのなら大丈夫とは思うけど、許可は貰ってる?」

「はい、これ」

そう言いながら、冴佳は鞄から封筒を取り出して、カウンターの女性に渡した。女性は受け取った封筒から紙を取り出し、真剣な表情で紙に書かれていることを確認すると、顔を上げ表情を緩めた。

「お二人のお名前を確認させて貰っても良いかしら」

「ええ、五条由縁です」

「向陽灯里です」

私達が名乗ると、女性は頷いて応え、それから冴佳を見た。

「問題ないわね。一人片道で2,500円、往復だと4,900円だけど、どうする?」

「全員往復で」

冴佳は悩まずに答える。そして、私達はそれぞれ乗船券を購入した。

「次の船は11時半だけど、10分くらい前にはここにいるようにね」

「はい、ありがとうございます」

「良い船旅を祈っているわ」

私達は会釈してカウンターの前から離れた。出発の時刻まで一時間足らず。由縁が桟橋を見たいと言うので、ターミナルの建物を出て桟橋を歩いた。それからターミナル内に戻り、待合所の椅子に座って待つことしばし、出発の時間が近付いた。

冴佳の誘導で、一番端の桟橋に着いていた船に乗り込む。ここでも冴佳は乗員と話をしていた。どうやら知り合いらしい。

船室に入り、三人並んで座って出発を待つ間に、冴佳に尋ねてみた。

「冴佳、知り合いが多いみたいだね」

「ああ、これから行く島は、母の故郷だからな。私も何度も来たことがあるし。さっき、乗船券を売って貰った雅子小母さんは母の幼馴染だ」

「確か、小春って冴佳のお母さんのお名前よね」

なるほど、そうだったのか。

「そう。それで里穂は小母さんの娘で、今年東京の大学に入って、うちの近くで一人暮らしをしているんだ。それで卓也が里穂の弟。どうやら今年、石垣島の高校に入学したみたいだな」

「島には高校が無いから?」

「残念なことにね。高校に入るなら島を出るしかない。だから島にいる子供は、大体中学生以下なんだ」

話をしている間に船は出発した。港を出ると、お喋りを止め、外の景色を眺めた。デッキにも出てみる。透明な海の下、浅い海底が流れるように後ろへと移動していくのが良く見える。

石垣島の港を出てから30分を過ぎた辺りで船の速度が落ち始めた。前方に島が見えている。船は右に針路を取り、島を左舷に見えるように進むと、暫くして港の突堤の中へと入った。それから数分後、船は桟橋に接岸した。

船から桟橋に降り、島に上がる。目の前は駐車スペースとなっていて、その脇に待合室らしき建物があった。ここからどう進むのかを冴佳に尋ねようとしたところで、こちらに手を振って走って来る女の子に気付いた。

「冴佳さん、いらっしゃい」

その女の子は走って来たので少し息を切らしていた。

「やあ花蓮(かれん)。あれ?花蓮も高校に入ったんじゃなかったのか?」

「私は一人で行ったから、石垣島にある島の宿舎に入れて貰ってるんだ。麗奈も私と同じだよ。それで今は夏休みだから帰ってきてるの」

「そう言うことか。で、車で来たのか?見当たらないが」

「あー、宿の車、一昨日故障しちゃって修理中なんだ。だから家の車で来たの。狭いんだけど、ごめんね」

「いや、荷物さえ運んで貰えれば問題ない」

「皆乗れると思うよ」

実際、花蓮ちゃんの言う通りだった。案内された車はSUVで、荷物はすべて後ろに乗せられたので、花蓮ちゃんが助手席、私達三人が後部座席に着くことができた。

宿までは、港から花蓮ちゃんのお父さんの運転で数分、距離にして2km程度だった。その宿は島にあるたった一つの集落の中心に位置しているとのことだったが、周りは民家のような家ばかりだ。宿の前には大きな広場がある。

車から降りて広場の方を眺めてみると、左の方に広い入口があるのが見えた。何か気になって、その入口へと歩いて行く。

入口の向こうも広場になっているようだったのだが、その入口に近付いていくと、広場の奥に建物が見えてきた。その建物には見覚えがある。でも、私がこれを見たのは、全然違う場所でだ。

私が混乱した頭で振り返ると、冴佳がニヤニヤしながら立っていた。

「ねえ冴佳、何でここに黎明殿の北御殿があるの?」

「トモ、それは北御殿ではなくて南御殿だ。ここは崎森島、南の封印の地だからな」

え?冴佳のお母さんの実家って南の封印の地だったの?そんな話、聞いたことが無かったんだけど。

私は驚きのあまり声を発することができず、呆然と冴佳を見ていた。


これで第八章は終わりです。半年間に渡りお付き合いいただきありがとうございました。


まさかの全50話、20万文字超。自分でも何で?という状態ですが、最初の方から出ていたキャラなので蓄積が多かったからでしょうか。


さて、お話の最後で期せずしてあの場所に着いてしましました。そして第九章はこの続きとなります。この先も楽しんでいただければと思います。



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