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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第8章 繋がりを求めて (灯里視点)
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8-45. 加勢

珠恵ちゃんの服装は、黒を基調としながら所々に白い布地を使ったゴスロリ衣装で、更に紅のアクセントが入っている。白と銀のアクセントを基調とする私達とは対照的だ。

「向こうが戦闘を継続したいと望むなら、受けて立たないとね。悪いけど、勝手に加勢するよ」

「いえ、ありがとうございます。助かります」

柚葉ちゃんは、素直に珠恵ちゃんの助太刀の申し出を受け入れた。

「うん、素直で良い子だ」

珠恵ちゃんが、両手を腰に当てて機嫌よさげにウンウンと頷きます。そして、私達の方を向いた。

「愛花さん達。すみませんけど、もう一度こちら側から時空結界のトンネルを張り直してくれませんか?」

依頼を聞いたロゼマリの二人のやる気が思念で伝わって来たので、私が起点になって再び時空結界陣を描いてトンネルを延ばしていく。

その間にも、ハーミットからは青い砲弾が散発的に撃ち出されていた。しかし、それらの攻撃はすべて透明な赤い壁に遮られ、こちらの世界には届いていない。

「それでは、そろそろ行きますか」

私達が時空結界を張り終えたのを見届けて、珠恵ちゃんが自分に気合を入れている。

珠恵ちゃんは空中で腕を組み、浮遊陣の上で仁王立ちをしていた。と、その周りに半透明な赤い三角錐の物体が六つ現れた。その物体は尖ったところをハーミットに向けている。そして、三角錐の底面に作動陣が描かれたが、私のところからだと三角錐が邪魔をして何が描かれているのか分からない。

だが、それまで静止していた赤い三角錐の物体が珠恵ちゃんを中心に円を描いて動き始める。三角錐は、今描かれた作動陣によって動かされているようだ。

攻撃の準備が出来たのか、珠恵ちゃんが不敵な笑みを浮かべながら、腕組みを解いて左手を腰に当て、右手を前に差し出す。その次の瞬間、トンネルの入口を塞いでいた透明な赤い壁が消え、赤い三角錐が順に結界のトンネル目掛けて飛び出した。

前に進む三角錐に、砲台から撃ち出された青い砲弾がぶつかり、爆発する。しかし、赤い三角錐はビクともせず、ハーミットに向けて突進を続けていき、そのまま相手の砲門に突き刺さる。先程の柚葉ちゃんの攻撃は、ハーミットを覆う緑の膜のようなものに阻まれたが、赤い三角錐は易々と砲門を破壊している。六つの三角錐は、それぞれ別の砲門を破壊し、結果としてこちらに向いていた三つの砲台のすべての砲門を破壊した。

「さて、どう来るかな?」

珠恵ちゃんは笑みを浮かべた余裕の表情で、ハーミットを観察している。

その目線の先、相手側に目をやる。砲台が壊された後、攻撃もせずに沈黙していたが、何やら後ろ側に設置されていた砲台が動き出している。と、砲台が備え付けられていた箇所が分離した。砲台を乗せた小型ボートが三隻と言った体だ。ボートとは言っても石で出来たボートだから水には浮かびそうもない。

それらの浮遊砲台は回転を始め、砲門を私達に向けたところで停止した。それからこちら側へと移動を始める。

「砲台だけ分かれるのか、面倒くさいね」

珠恵ちゃんは独り言のように呟いた。

「珠恵さん、さっきの赤い矢じりのようなものは、どうすれば?」

柚葉ちゃんが珠恵の隣に移動して話し掛ける。

「ん?柚葉ちゃんには出せないけど、動かすことなら――」

と、そこで珠恵ちゃんがかぶりを振った。

「いーや、柚葉ちゃん、ここはちまちまやらずに、派手にドカンと行こうよ」

ガシッと柚葉ちゃんの手を握る。驚きの表情を浮かべる柚葉ちゃんに、ニヤニヤ顔の珠恵ちゃん。

珠恵ちゃんは、柚葉ちゃんの肩を掴んで向きを変えさせ、結界のトンネルの入口が正面になるようにすると、柚葉ちゃんの後ろに回り、両手で柚葉ちゃんの腰を挟んだ。

「ひゃっ」

予期していなかったのだろう、溜まらず柚葉ちゃんが声を上げる。

「くすぐったりしないから大丈夫だって。さっきの作動陣を展開してくれる?最後の集束陣は一つで良いから」

「え?でも、さっき全然通用しなかったですよ」

「大丈夫、心配要らないから。少しアレンジすれば通用するってこと教えてあげる」

「分かりました。お願いします」

珠恵ちゃんに腰を押さえられたまま、柚葉ちゃんは槍を構え、黄道十二星宮砲の作動陣を展開する。その髪は、白銀に輝き、体中が銀色の力を帯びている。私のいるところからでも、柚葉ちゃんの巫女の力を強く感じる。だが、柚葉ちゃんが気にしている通り、それでもあのハーミット相手には威力が足りなかったのだ。ここで珠恵ちゃんはどうするつもりなのか?

私の疑問に答えるかのように、珠恵ちゃんの身体も銀色の力を帯びていく。そして髪も白銀へと変わる。

「え?そんなに力を身体に流して大丈夫なの?」

声を漏らしたのは摩莉さんだった。そう言えば、摩莉さんは、今のアバターの身体を手に入れる前、力の使い過ぎで大けがをしていた。そのことを思い出したのだろう。珠恵ちゃんは封印の地の巫女であり、アバターは持っていない。柚葉ちゃんと同じことをしたら、身体の限界を超えてしまうのではと心配になる。

だが、それは杞憂のようだった。珠恵ちゃんの髪も段々と銀色を帯び、遂には柚葉ちゃんの髪と同じ白銀に輝くようになった。それと同時に、柚葉ちゃんの描いた黄道十二星宮砲の最後の集束陣の先に、見知らぬ作動陣が一つ加わる。これが珠恵ちゃんの言っていたアレンジか?

「柚葉ちゃん、もう少し待っててね。これからが本番だから」

これ以上どうするつもりかと思っていたら、珠恵ちゃんに変化が生じた。珠恵ちゃんの体を囲む銀色の光の外側が、赤みを帯びてきた。それと同時に、二人が描いた作動陣の外周も赤みを帯び、作動陣の内側にも、所々に赤みを帯びた部分が生じてくる。加えて、今にも発射されそうになっている、光星陣の前の大きな光の玉も赤い斑模様になる。それらの赤は常に変化しており、力が一箇所に留まっているのではなく、絶えず動き回っていることを示していた。

「柚葉ちゃん達、あっちから撃ってきたよ」

姫愛さんが焦ったように叫ぶ。見ると、ハーミットの移動砲台が、こちらに向かいながら青い砲弾を打ち出していた。

「よし。準備できたから、柚葉ちゃん、撃っちゃって」

「はい」

珠恵ちゃんを包み込む銀色の光の外側が赤みを帯びても、柚葉ちゃんを包む銀色の光はそのまま銀色であり続けた。周囲の作動陣もすべて赤が混じった中、無垢なる銀色の姿は神々しさすら感じる。その柚葉ちゃんの輝きが一瞬だけ増し、直後に赤の混じった銀色の光が光星陣より前面に飛び出す。光は螺旋を描きながら集束陣を通過し、最後の作動陣に到達すると、そこで螺旋がトンネルの円一杯の大きさに拡がった。そして、そのまま時空結界のトンネル内を突き進む。赤みを帯びた光の螺旋は、奔流となって、ハーミットの浮遊砲台が撃ってきた青い砲弾の(ことごと)くを飲み込み、更にはその浮遊砲台をも巻き込んで、そのままハーミットの本体にぶつかった。

トンネル全体に拡散していたので、柚葉ちゃんが一人で撃ったときより威力は落ちていると思うのだが、明らかに先程より損傷(ダメージ)を与えていた。ハーミットのこちら半面、つまり攻撃に晒された側は、全面傷だらけのボロボロ状態になっている。

「凄い」

呟いたのは愛花さんだろうか。ロゼマリの二人とも、呆然として攻撃の結果を眺めていた。振り返って見れば、柚葉ちゃんも同様だ。珠恵ちゃんは柚葉ちゃんの腰から手を外し、自分の腰に手を当てて、期待通りの結果だったと言わんばかりに笑顔で立っている。

「さて、あちらさんは沈黙したし、そろそろ追い返しますか」

「破壊してしまわないのです?」

柚葉ちゃんが珠恵ちゃんを不思議そうな顔で見る。

「こんな大きいのを全部跡形もなく壊すのは大変だからね。かと言って、時空の狭間に放置する訳にもいかないし。元いた世界に戻って貰うのが一番だよ」

「でも、元いた世界にって、どうやって?」

「えーとね。ある世界から時空の狭間に出てきた物は、元いた世界との繋がりが残っているの。だから、その繋がりを辿らせるようにすれば、元の世界へと戻っていくってこと。まあ、やって見せた方が早いと思うから、見てて」

珠恵ちゃんが右手をハーミットに向けて掲げると、時空結界のトンネルの入口に見知らぬ作動陣が描かれた。その作動陣から半透明の銀色の帯状のものが放出されハーミットへと伸びていく。それが相手側に到達すると、それの全体を包み込むように拡がり、巻いていった。そして、ハーミットをすべて包み終えたところで止まる。

「あれ?」

何か、珠恵ちゃんにとって想定外のことが起きたらしい。

「戻っていかないんだけど、どうして?」

首を傾げる珠恵ちゃん。どうやら、この状態で相手が元の世界へと戻っていく予定だったらしい。でも、動く気配がない。

「元の世界へと戻ろうとする力より、この世界に近付こうとする力の方が強いんだと思いますよ」

宙に浮いている珠恵ちゃんの足下の方から声がした。

「え?嘘」

それが意外な人物であったため、思わず呟いてしまう。しかし、私の呟きなど聞こえなかったかのように、珠恵ちゃんは普通に反応していた。

「この世界にあれを引っ張っている何かがあるってことですか」

「ええ、探してきて貰える?」

何の違和感もなく話し続ける二人の姿を、私は唖然として見ていた。


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