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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第8章 繋がりを求めて (灯里視点)
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8-43. 灯里のアバター

チームの異空間には誰もいなかった。

姫愛さんと私は、早速工房用の部屋へと向かう。

チームの異空間の転移石のある部屋は大きな部屋で、皆で寛ぐテーブルやソファ以外にも沢山のものが置ける広さがある。しかし、部屋はこれ一つではなく、大部屋の両脇に小さな部屋がいくつか配置されている。片側にはキッチンやお風呂やトイレがあり、反対側には倉庫と工房とまだ使っていない空き部屋があった。

工房と言っても置いてある物は殆どない。将来は、作業台などを入れたいと話しているが、いまあるのは、アバターを創るための魔道具と、アバターの保管用のカプセルだけだ。

アバターを創るための魔道具にも人が入れる大きさのカプセルが付いている。そして、その魔道具にアバター保管用カプセルを接続して使う。アバターを創るための魔道具側のカプセルにアバターを創りたい巫女が入り、アバター保管用カプセルには創られたアバターが入るのだ。これらの道具を運び込んだ時、過去にアバターを創った経験のある姫愛さんと陽夏さんが説明してくれた。

「灯里ちゃん、どんなアバターを創るか決めてる?」

「はい、まあ。悩むところもありますけど」

「悩む?」

姫愛さんが首を傾げた。

「天乃イノリと同じにしたら、流石に家族から怪しまれるんじゃないかと」

「それなら大丈夫、って言うか、ごめん、伝え忘れてたことがあった」

何かを思い出したように手を打った姫愛さんが、申し訳なさそうな顔になる。

「灯里ちゃんのアバターは、本部の巫女登録しないんだって。この一年で二人登録したし、これ以上は不自然に思われるから止めておきたいらしいよ。だからどんなアバターにしても良いってことだけど、街中を歩けないと不便だから、人族にしておいてね」

まあ、確かに愛花さん達が登録する前は、暫く五年に一人のペースだったから、不自然だと言うのは分からないでもない。そうなると、人前で巫女として活躍できなくなるが、別にそうしたいとは考えていなかったから良いと言えば良い。

「本部への登録をしないことは分かりましたけど、人族って何ですか?他の種族が選べるんですか?」

そこは是非確かめておきたい。

「出来るらしいんだよね、エルフ族も、猫耳族も、ドワーフ族も。人魚族もあるみたい」

「人魚、良いですね、それ」

自分が人魚になった姿を思い浮かべてニンマリする。

「いや、だから、ここだとネタにしかならないから。それに私がオーケーしなくちゃアバターは創れないよ」

姫愛さんが焦ったように突っ込んで来た。勿論、そんなことは私だって分かっている。言ってみただけだ。でも、いつもは自由奔放な姫愛さんが慌てる姿は見ていて楽しい。

「はい、人族にします」

心底納得していることを示そうと、私は笑顔で返事をする。

「分かってくれれば良い」

慌てたのが恥ずかしかったのか、姫愛さんは顔を赤らめてプイと横を向いた。

若干からかい過ぎてしまったか。

「それじゃあ、姫愛さん、アバターを創りましょう。こっちのカプセルの中に横になれば良いのですよね?」

私はカプセルに入るために服を脱ぎ始める。夏で薄着なので、脱ぐのは簡単だ。

「ちょ、ちょっと待って。灯里ちゃん、何で服脱いでるの?」

丁度ブラジャーを外そうとしているところで、姫愛さんから待ったが掛かった。

「え?だって、カプセルに入るときは裸だって、陽夏さんが」

「陽夏ぁ?まったくもう、灯里ちゃんに何を吹き込んでくれてるんだろう。それ、陽夏の冗談だから。カプセルは服を着たまま入って大丈夫だから」

何と、嘘を教えられていたのか。不必要に姫愛さんに下着姿を見せてしまった。もっとも、朝起きて着替える時に、既に下着姿は見せているのでここまでならセーフだ。

私はいそいそと服を着直してから、カプセルに入り、横になる。

「灯里ちゃん、良い?目を瞑ると、白い空間が見えてくるから。そこでアバターの設計をして、設計が終わったら実際にアバターを創る。順番、分かった?」

「はい」

姫愛さんは、私の頭の上の方、二つのカプセルの真ん中辺りにある制御盤の前に座り、制御盤に手をかざした。それを見て、私も目を閉じる。が、真っ暗なまま何も見えてこない。

「あれ?起動しない。どうして?」

姫愛さんの戸惑った声がした。私は目を閉じたままジッと待つ。

「言われた通りにやってるんだけどなぁ。壊れたかな?」

「どうかしましたか?」

取り敢えず、目を閉じたまま声を掛けてみる。

「ごめん、上手くいかなくて。確かマニュアルがあった筈。あ、あった」

頭の上の方でガサゴソ音がしている。

「えーと、起動の手順、これか、おー、しまった、そうだった」

「分かりました?」

「うん、分かった。アバターの身体に切り替えてなかったからだった。アバターじゃないと、起動しなかったんだ、これ」

ギィッと言う音がした。椅子のバネの音みたいだ。姫愛さんが立ちあがったのだろう。

そしてまた、ギィッと音がする。

「さて、今度は。おおぉ、起動した。それじゃあ、始めるよ」

姫愛さんのホッとした声が聞こえる。いや、今は愛花さんか?声が同じなので、目を閉じたままだとどちらか分からない。

私が目を開けて確認しようかと思う前に、視界が白くなった。そして、目の前に人の姿が現れる。

「人の姿が見えたでしょう?それを見ながら設計するからね。それで、灯里ちゃん、アバターの姿は、天乃イノリで良いんだっけ?」

「はい」

目の前の人の姿が、天乃イノリに良く似た姿に変わる。それを起点に、二人で相談しながら細かい調整をしてアバターの設計が完了した。

「よし、この設計図を元にアバターを創る」

そこで、少しの間があった。

何が起きているのか見たくもあったが、雑念が入ると設計通りにアバターができないと脅されていたので、心を無にして待つ。

「出来た。おおっ、良い感じ。灯里ちゃん、もう目を開けて大丈夫だから、カプセルから出てアバターを見てみて」

言われた通りに、目を開けて起き上がって横のカプセルを見る。だが、それだと隣のカプセルの中が良く見えなかったので、カプセルの中で立ち上がり、隣のカプセルの方へカプセルの縁を跨いで出る。

「似てますね」

隣のカプセルには天乃イノリ似のアバターが横たわっていた。髪はアドバイスに従って、栗色にしておいたが、あとはそっくりだ。髪の毛を自然な色にしたので外見は普通の人間だ。ただ一点、人と違うところがあった。胸元に透明な石が付いているのだ。

「胸元の透明な石に力を注いで光ったら、利用者登録完了だから、やってみて」

私はアバターのカプセルの脇に膝を突き、左手をカプセルの縁に添えて右手を透明な石の上にかざす。その石が輝いたところで、頭の中でもう一つの身体の存在を感じた。なので、そちらの方に神経を集中させると、いきなり視界が切り替わり、私の胸元に右手をかざしたまま静止している自分の姿が見えた。

「私の前に私がいる」

私が呆けていると、頭の上から愛花さんの声がした。

「あ、もう身体の切替ができちゃったんだね。灯里ちゃん、今、アバターの身体の中だから。一旦元に戻れる?」

「はい、多分」

私は感じ方が弱くなっているもう片方の身体に神経を集中させる。

「戻れた」

今は、カプセルの中のアバターが見えている。

それから姫愛さんが、身体ごとアバターと入れ替わる方法を教えてくれた。それを何回か繰り返して身体の切り替えに慣れた後、アバターの身体のまま用意しておいた服を着る。

「それじゃあ、少し身体を動かしてみる?」

「はい、勿論」

愛花さんと一緒に工房を出て、倉庫から木剣を取り出すと、広い場所に移って愛花さんと向き合って立つ。

「行きます」

木剣を脇に構えて愛花さん目掛けて飛び出す。近付く私に、愛花さんは上段から木剣を振り下ろしてきた。それを受けるか、避けるか。その時、頭の中にその先の動きのイメージが見えた。確かにそれが良さそうだと、そのイメージに沿って体を動かす。私は愛花さんの剣筋を右に受け流し、そのまま愛花さんの腹を横なぎにしようとする。しかし、愛花さんも素早く後ろに下がると、木剣で私の打ち込みを受けた。

この一回の打ち合いだけで、ハッキリと違いを感じた。

「凄い、今までよりずっと軽く動ける。それに、こう動いたら良いって頭に浮かんで来たんですけど」

「あー、それはアバターに付いてる戦闘支援システムのガイドだよ。最初の内は頼っても良いけど、万能じゃないし限界があるから、ある程度動けるようになったら使うの止めた方が良いよ。陽夏は最初から使ってなかったし、私も今は切ってる」

「便利だと思ったんですけどね」

「確かに便利だけど、動きがワンパターンになっちゃうんだよね。それが相手に分かっちゃうと、直ぐにやられちゃう。でも、良いところもあるよ。テニスでも何でもある程度のレベルになれるし、クレーンゲームでも補正付くから景品が取り易くなる」

愛花さんがエヘンと両手を腰に当てて胸を張った。

いや、クレーンゲームにアバターの能力を使うのってどうなんだろう?突っ込みたいところではあったが、嬉しそうな愛花さんの表情を見て、その気が失せた。

「それで、愛花さん、本当はもう少しアバターの身体の動きに慣れたいんですけど、時間が無いから次に進みましょうか。時空結界を覚えないといけないんですよね?」

「うん、そう。それじゃあ、お師匠様達を呼ぼうか。そろそろお昼だし、陽夏にお弁当でも買って来て貰おっかな」

「え?アバターの身体で食べるんですか?」

「ううん、元の身体に戻るよ」

「お昼を食べたら、またアバターの身体に替えるんですよね?」

「そだね」

「それで夕飯になって元の身体に戻ったら、お腹が一杯のままじゃないですか?」

「あー、そか。でも、お昼食べたい気分なんだけどなー」

「だったら軽めのものにして貰ってください」

「まあ、仕方が無いかー」

渋々な様子が伺えたが、それでも私の言う通りにしてくれた。

しかし、食べるときだけ元の身体に戻ることを続けていたら、元の身体が肥えてしまうのではないかと心配だ。


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