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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第8章 繋がりを求めて (灯里視点)
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8-41. チームのプライベート異空間

珠恵ちゃんからプライベート異空間の準備が出来たと連絡が来たのは火曜日の夜。それから柚葉ちゃんに連絡し、引き渡しの日取りについて相談したところ、折角なのでチーム全員で喜びを分かち合いたいとのことで、全員の都合の合う金曜日の午前中となった。

当日の金曜日の朝、電車での移動のため少し早めに家を出た私が、集合場所である柚葉ちゃんの部屋への一番乗りだった。姫愛さんと陽夏さんは、それぞれ愛花さん、摩莉さんの姿で転移して来た。二人は、ロゼマリの髪型で、着て来た服もロゼマリの新作のキャラクターTシャツだった。

考えてみると、愛花さんと摩莉さんの姿をこうして目の前でじっくりと見るのは初めてだ。以前見た時は、蹟森での超大型魔獣との闘いの時で、あの時は闘いが終わると二人は直ぐに去って行ったので、遠目にしか見られていなかった。こうして目の前で二人の姿を見ると、3Dアバターのロゼマリに本当にそっくりだと感心してしまう。

珠恵ちゃんは、約束の時間の五分前に来た。私達は珠恵ちゃんが来る十分前には揃っていたが、それは珠恵ちゃんが来たら直ぐにプライベート異空間を引き渡して貰えるようにするためだった。柚葉ちゃんが珠恵ちゃんに、愛花さんと摩莉さんを紹介し、挨拶を終えると、早速本題に入る。

「これからプライベート異空間をお渡ししますけど、誰が作ったかは教えない約束で作って貰ってますので聞かないでくださいね」

珠恵ちゃんの言葉に、皆が頷く。

「それじゃあ、転移しますので手を繋いで輪になってください」

皆が言われた通りにする。全員が輪になると、珠恵ちゃんがその輪よりも大きい転移陣を展開した。そして、次の瞬間、私達は異空間に移動していた。

「これからここが皆さんのチームのプライベート異空間です」

珠恵ちゃんの紹介を受け、皆が周りを見る。

「ここが私達の異空間なんだ。でも、何も無いね?」

愛花さんの言う通り、本当に何も無い。今、私達の目の前に見えているのは、大きな一つの部屋だった。藍寧さんの異空間と同じように白く発光する天井があり、それ以外に見えているのは壁と扉だけだ。

「床の模様が違うんだけど、どうしてかな?」

摩莉さんは足下を見ていた。確かに、転移して出て来たところの床は半分はフローリングのように木目が見えていて、残り半分はグレーだ。

「木目が見えている方が靴を脱いで上がるところ、グレーの方が土間です。最近はバリアフリーが流行りなので、床の高さを揃えていますけど、お好みで模様替えしてください」

珠恵ちゃんの説明になるほどと思う。

柚葉ちゃんは素足のまま、土間のエリアに設置してある扉まで歩き、その扉を開いた。

「この部屋の外は何も無い荒野だから、いくらでも強力な技の練習ができるよ」

珠恵ちゃんが柚葉ちゃんの後ろ姿に声を掛ける。

柚葉ちゃんは暫く外を眺めた後、扉を閉めて珠恵ちゃんの方を振り返った。

「珠恵さん、ありがとうございます。ここを作ってくれた人にもお礼を伝えてください」

「うん、どういたしまして」

珠恵ちゃんは柚葉ちゃんのお礼に反応してから、皆を見渡しました。

「それでは、利用者登録しましょうか。ここには利用者登録した人しか転移できませんから。利用者登録は、この足元の転移石にすれば良いです」

珠恵ちゃんが指し示したのは、私達が転移して来たところの中央に埋め込んである、透明な石だった。珠恵ちゃんに促され、柚葉ちゃん、愛花さん、摩莉さんが順番に利用者登録をした。

「では、引き渡しはこれで終わりです。私はお邪魔だろうから消えますね。何かあれば連絡ください」

珠恵ちゃんは、バイバイと手を振りながら転移して去って行った。

後に残された私達は、互いに顔を見合わせる。これからどうするか。

「異空間は手に入ったので、次は備品ですね」

柚葉ちゃんの提案に皆賛成し、私達の異空間に用意する物のリスト作成を始めた。

と言っても、異空間には手ぶらで行ったので、そこでは何もできず、転移で柚葉ちゃんの部屋に戻ってからの作業となった。テーブルやソファを始め、冷蔵庫や給湯ポット、はたまたトイレマットなどの小物類に、雑巾や掃除機などの清掃用品が次々と挙げられていく。だが、電子レンジは兎も角も、炊飯器、電気コンロにフライパンや鍋などの炊事道具やら、段々と異空間で生活が出来そうな様相になり始める。最初は黙ってメモしていた柚葉ちゃんも、ベッドと言う単語を聞いて堪えられなくなったのか、ジト目になりながら口を開いた。

「愛花さん、ベッドを持ち込んでどうするんです?」

「いや、もう私、住んじゃおうかなって。ほら、電気があったでしょう?お風呂もトイレも付いてたし。そしたら家賃も浮くじゃない?」

確かに電気と水道は準備されていた。珠恵ちゃんによれば、最近のプライベート異空間の標準装備らしい。なので、愛花さんの気持ちも分からなくは無いが、やはりそれは違うのではと言いたい。それは柚葉ちゃんも同じようだった。

「住民票はどうするんです?住所不定とか言いませんよね?」

「ん?摩莉のところに住んでいることにすれば良いんじゃない?あそこ、下宿だし」

「私のところは、一人部屋なんだけど。二人で住んでいることには出来ないからね」

「この部屋もです」

愛花さんに先回りするように柚葉ちゃんが続ける。

「じゃあ、灯里ちゃんの家は?」

「私は家族と一緒なんですから、無理に決まっています」

「うー、駄目かぁ」

思惑通りにならず、しょげている愛花さん。悲しそうな目で柚葉ちゃんを見詰めている。

「駄目か、じゃないですよ。異空間は住むところではないです。まあ、良いところ合宿所ですね」

「合宿所かぁ、それも良いね。じゃあ、カラオケセットを持って行って、寝る前に歌いまくる?」

暗くなっている愛花さんを可哀そうと思ったか、柚葉ちゃんがフォローすると、それでまた愛花さんが調子に乗る。

「愛花さん、そのアバターの身体なら寝なくても何でもないですから、合宿の間、休むことなく闘いの訓練をし続けられますよ」

呆れたような目で柚葉ちゃんが指摘すると、愛花さんが涙目になった。

「お師匠様、そんな殺生なこと言わないでくださいよ。合宿の醍醐味は女子トークじゃないですか。お喋りしたり寝たりする時間は必要なんです」

愛花さんは顔の前で両手を組んで、お祈りするように柚葉ちゃんに懇願する。柚葉ちゃんは、やれやれといった体だ。

「分かりました。良いですよ、休憩は入れましょう。だけど、ベッドは駄目です。布団にしておいてください」

「はいっ、お師匠様」

愛花さんは敬礼のポーズで了解の意を示す。そうして、リストに四組の布団が書き加えられた。

それからも皆の思い付く物を並べた結果、リストには30分もしないうちに沢山のものが並べられた。しかし、それでは多過ぎると、その中から柚葉ちゃんが必要性の高いものを選んで印を付ける。

次に、それらの物をどう用意するかの話に移る。魔道具関係は、藍寧さんにお願いしてみるしかなく、チームリーダーの柚葉ちゃんが担当することになった。しかし、家電や什器などその他の物は、財力に余裕のあるメンバーがおらず、悩みの種となった。手っ取り早くお金を稼ぐ方法が無いかと考え、しかし、そんな方法があれば誰も苦労しないよなという結論に辿り着き、思考が袋小路に入ってしまう。

ある程度の時間、皆でウンウン唸って考えたが、良い案が思い浮かばず、結局、それも含めて柚葉ちゃんから藍寧さんに相談して貰うことにして、解散した。

柚葉ちゃんは、その日のうちに藍寧さんと話をしてくれて、夕方には備品の目途が立ったと連絡が来た。柚葉ちゃんがどういう交渉をしたのかは謎だ。兎も角、物は月曜日中に黎明殿本部に集めておいてくれるとのことで、姫愛さん達がオフであることもあり、翌日の火曜日に、私達の異空間に運び込むことに決まった。

火曜日。

私は朝から姫愛さんの家に行き、そこから異空間に転移した。姫愛さん達は重い物を運ぶからとアバターの身体に替えていた。黎明殿本部の事務局には、柚葉ちゃんが一人で行っていて、藍寧さんが集めた物を異空間に転送する役を担ってくれる。送る側が柚葉ちゃん一人で、受け取る側が三人となり、不公平かと思っていたが、転移石のところに出て来る物を、配置も考えながら移動させねばならず、異空間の側に三人いても結局、柚葉ちゃんを待たせながらになってしまった。ともあれ、せっせと働いたお蔭で、午前中には用意された物をすべて異空間に運び込めた。

その後、私達が仮に設置したソファで息抜きしていると、転移石の上に柚葉ちゃんの姿が現れた。柚葉ちゃんは、お弁当が入った袋と、ソフトドリンクが入った袋を両手に下げている。私達は有難くお昼ご飯として頂戴して、残ったソフトドリンクは冷蔵庫に入れておく。勿論、お金は割り勘で。食後、その精算をきっかけに、チーム内でのお金の管理方法も相談して決めた。それから異空間を使うときのルールも考えた。と言っても最初に決めたのは、基本的に異空間にはチームメンバー以外は入れないことと、もしもの場合は四人で相談するということだけだ。

それから仮置きした物の配置の見直しを始めたのだが、その最中に私の頭の中でアラームが鳴る。それと同時に到着想定地点が、頭の中に浮かんでいる地形図の上で光った。示された場所が東京近辺でないのは、ここが異空間だからだろう。異空間だから、地球上の位置とは無関係に、この世界に接近しているものが察知できているのではと思えるのだ。しかし、あれ?

「ねえ、柚葉ちゃん。はぐれ魔獣が来るみたいなんだけど」

私は近くにいた柚葉ちゃんに声を掛ける。

「何かありましたか?」

柚葉ちゃんはこちらを向き、私が首を傾げているのを見て、異常を感じたらしい。

「いつもだと、三ヶ所候補が出るんだけど、今回は一つだけしかないんだよね。どうしてだろう」

「目的地がはっきりしているのですか。何処です?」

「篠郷」

「篠郷?」

柚葉ちゃんは、篠郷のことは知らないようだったので、地理的な位置と、そこに黎明殿の役場があることを教えた。

「黎明殿の地を目指しているように見えると言うことですね。ふむ」

柚葉ちゃんは、暫し考え、そして顔を上げた。

「普通なら地域担当の本部の巫女の管轄になりますね」

「篠郷だと、菜緒(なお)さんだね」

菜緒さんは、東海・中部・北陸地方担当の本部の巫女だ。苗字は篠郷。と言っても本部の巫女は両親不詳なので、姓は親から引き継いだ物ではなく、自分で勝手に付けているものだ。だからきっと、菜緒さんは篠郷に縁のある人なのだろう。

「そうですね。このことは藍寧さんに伝えておきます」

「うん、お願い。多分、他でも気づいているとは思うけど」

以前、北海道の叶和さんにはぐれ魔獣のことを知らせていた人がいる。一人なのか複数人なのかは分からない。その人がどうやって北海道のはぐれ魔獣を感知しているのだろうかと思っていたが、もしかしたら、異空間ではぐれ魔獣の接近を探知しているのかも知れないと、その時ふと思った。


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