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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第1章 南国の雪 (柚葉視点)
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閑話1-4. 瑞希ちゃんのお泊り会

11月になりました。今日は花蓮ちゃんの家で女子会をやることになっています。と言っても、女子会だけでは柚葉さんを連れ出せないので、最初はダンジョンで、私が花蓮さんと麗奈さんをサポートするのを柚葉さんが指導する、ということにしました。

今回の目的は、そう、柚葉さんの変化を確認することです。柚葉さん、結構ガードが堅いので、随分と時間が掛かってしまいました。ようやく柚葉さんを誘うことができましたが、油断は禁物です。注意していきましょう。


まずはいつものように、御殿前広場に集合です。

「瑞希ちゃん、こんにちは」

「こんにちは、柚葉さん」

柚葉さんが最初に来ました。

「やっほー瑞希ちゃん」

「瑞希ちゃん、お待たせ」

花蓮さんと麗奈さんも来ました。花蓮さんは相変わらずテンションが高いです。

「それじゃ、ダンジョン行こうか」

柚葉さんが仕切ります。ダンジョンに行くときは、自然と柚葉さんが先頭に立ちます。これがいつものパターンですし、柚葉さんも平常運転という感じです。

ダンジョンに入るときは、先に花蓮さんと麗奈さん、それから私、最後に柚葉さんの順です。

「瑞希ちゃん、探知はどれくらいできるようになった?」

「もうダンジョンの一層は大丈夫ですね」

「おお、成長したねぇ。じゃあ、どこに魔獣がいるかもわかっているね」

「はい。今日も群れている魔獣はいないですね」

「そうね。でも、気を抜かずに行こうね」

「そうします」

私も沢山練習したのです。なので、ダンジョン一層の一フロア分まるごと探知できるまでになりました。もちろん、フロア内ならどこでも転移できます。これも柚葉さんの特訓のおかげです。

もう柚葉さんと私は魔獣がどこにいるか分かっているので、迷うことなく花蓮さんと麗奈さんを誘導して進みます。

その先の角を曲がると、魔獣に出会うところまで来ました。

「せっかくだから、花蓮ちゃんと麗奈ちゃんの身体強化してみる?」

「他の人の身体強化ってやったことないのですけれど、できるのでしょうか?」

「たぶん、大丈夫だと思うよ。ただ、花蓮ちゃんと麗奈ちゃんの感覚が狂わないように、やりすぎは良くないと思う」

「分かりました。やってみます」

私は、花蓮さんと麗奈さんの背中に手を突いて、身体を強化するようにイメージして力を注ぎました。

「何だか、剣と盾が軽くなったみたい」

「うん、早く動けそう」

身体強化は成功したようです。

「では、魔獣を攻撃してみよう」

柚葉さんが言いました。

花蓮さんと麗奈さんは、二人して勢いよく魔獣の方に近づいて、攻撃しました。相手の魔獣が中型でも小さ目のこともあり、二人は難なく魔獣を斃しました。

「おー、凄い凄い。簡単に倒せた」

「思ったよりも強化されているみたいに感じた」

二人とも、身体強化の手ごたえを感じたようです。

「身体強化は、それほど長く持つものでもないので、気を付けてね。最初は、どれくらいの時間強化できるのか、測りながらやった方が良いよ。大体いつも同じくらいの時間だから」

「はーい。瑞希ちゃん、今度測ってみようね」

「そうしましょう」

花蓮さんの誘いに、私も賛成しました。

そのまま、二人は魔獣をもう一頭斃し、二頭の骸を持ってダンジョンを出ました。

「柚葉さん、身体強化された状態で独りで討伐した場合って、単独討伐のカウントに入るのですか?」

ちょっと疑問に思ったので、聞いてみました。

「身体強化をしてもらっても大丈夫だったと思うよ。防具とかと同じ扱いかな?」

なるほどです。でも、ちょっと防具よりも強力な気がしますけれど。

御殿前の広場に戻った私たちは、魔獣の処理を柚葉さんのお父さんに託して、花蓮ちゃんの家に向かいました。


ダンジョンから帰って、食事時までしばらくあったので、トランプで遊びました。ボードゲームもあったけど、ちょっと時間が掛かりそうだったので、止めておきました。

トランプでは、大貧民をやりましたが、何と柚葉さんが大貧民で終わりました。カード運は、みんなに公平みたいですね。

そうして夕食になりました。花蓮さんの家では、飲み屋兼食事処もやっていて、そちらに行っても良かったのですけど、家族用の食堂で食べようってことになりました。

花蓮さんのご両親は、食事処の切り盛りがあっていなかったので、食事は子供たちだけでしたけれど、花蓮さんの弟の正樹くんが一緒でした。

私たちが食堂で準備をしようとしていたら、花蓮さんのお父さんが料理の入ったお皿を持ってきてくださいました。

「いらっしゃい、皆。賄い持ってきたから、沢山食べてな」

見ると、ゴーヤチャンプルー、ミミガー、もずくの天ぷら、ラフテー、ヒラヤーチなどが並べられていました。

「うわぁ、美味しそう。いただきます」

本当、どれも美味しかったです。皆も美味しいって言ってました。

食べたあともしばらくお茶を飲みながら、食堂でおしゃべりしてました。そして、そろそろお風呂に入ろうってことになりました。

花蓮さんの家のお風呂は、少し大きめですが、とは言えそんなに大きくはありません。4人で入ると、2人が湯船に入って、2人が洗う形にしないと、辛いのです。柚葉さんのお背中を流そうと思っても、残念ながら、それだけの場所のゆとりがないのです。なので、私は柚葉さんの観察に専念です。

最初に柚葉さんと麗奈さんが洗うことになり、私は花蓮さんと湯船に浸かりました。

「瑞希ちゃん、柚葉さんのこと本当に好きね」

「え?」

不味い、ちょっと凝視し過ぎてしまいましたか。いや、予想とちょっと違ったので、何かあるのではないかと考えてしまったのですよね。それを花蓮さんに見とがめられてしまったらしいです。

「え、ええ、柚葉さんのこと好きですよ」

少しもたついた言い方になってしまいましたが、誰だって動揺してしまう質問だから大丈夫でしょう。

「だよねー、いつもキラキラした目で柚葉さんのこと見ているものね」

「え、そんなですか?」

「そう見えてたよ」

「そうなんてすね、そんな風に見えてたのですね」

ああ、不味い、花蓮さんと話していたら、観察ができません。でも、会話やめるのは不自然ですし。

そうこうするうちに、交代の時が来てしまいました。

仕方がないと、体を洗うために風呂桶から出ようとしたら、足が滑ってしまい、慌てた私の手が、丁度風呂桶に入ろうとしていた柚葉さんの胸にぶつかってしまいました。

柚葉さんのその感触が、固い?おや?柚葉さんを見上げたら、私から目を逸らせ気味にしています。

ん?分かりました、柚葉さん、身体強化使ってますね。いや、身体硬化でしょうか。まあ、どちらにしても、力をそういう風に使えるのかとも思いましたが、やはり力の無駄遣いなような気がしましたよ。そこまで隠す必要ないと思うのですけど。なので、怪訝な顔から、ジト目になってしまいました。

うーん、でもここは武士の情けで知らんぷりでしょうか。いや、何か悔しいので、分かってますよと微笑んであげましょう。

「瑞希ちゃん、百面相、面白い」

「ちょっと柚葉さん、誰のせいでこんな顔になったと思います?」

「あはは、ごめんごめん」

柚葉さんは、手で私の頭を軽くポンポンとはたくと、風呂桶に入っていきました。

「どうかしたの?」

「ううん、何でもないですよ」

そうです花蓮さん、何もなかったんです、ということにしておいてください。まあ、でも、柚葉さんの体に変化があったらしいことは分かりましたので、目標達成ということで、私としては満足です。

そして、私と花蓮さんが体を洗い終わったら、柚葉さんと麗奈さんが先にお風呂から出ていきました。花蓮さんと私は、もう一度湯船にゆっくり浸かってから、お風呂を出ました。


お風呂を出たら、パジャマに着替えて、お布団のところでおしゃべりです。4人一緒に寝られるように、花蓮ちゃんのお父さんが和室の客室を使わせてくれました。皆でお布団を敷いて、それぞれの寝場所を決めました。もちろん、私は柚葉さんの隣です。

それでおしゃべりしているうちに、島の男の子たちの話になりました。皆気にしている男の子がいるのか、お互いにけん制気味に聞いてましたけど、実は誰もまだそういう子はいないという話になりました。そうですよね、私たちはまだまだこれからです。まあ、柚葉さんは、ちょっと違う方向に向かっているような気がしないでもないです。だって何かに興味を持つと、マッドサイエンティスト並みに集中して色々調べたりしていて、何かあまり恋愛方面に興味を持ちそうに見えないのですから。柚葉さんは、物語が好きと言って、良く本を読んでいますが、どういう話に共感しているのでしょうね。

そんな話をひとしきりしたあと、少し会話が途切れたのですが、そこで柚葉さんが居住まいを正して、私たちに言いました。

「ちょっと皆に話しておきたいことがあるのだけど」

「はい、柚葉さん、何でしょう?」

花蓮さんが代表して答えました。麗奈さんも頷いています。

「いつ言おうか迷っていたのよね。私、今度の春、4月になったら島を出て、東京に行こうと思うの」

柚葉さんは、決意の籠った目で、私たちを見回しました。

「どれくらいの期間、東京に行かれるのでしょうか?」

「分からない。すべてが終わるときまでだろうと思うけど、それがいつかは今は分からないの。何か月か、あるいは何年か」

「それじゃあ、学校はどうするのですか?」

私は思わず聞いてしまいました。

「東京の高校に転校しようと思ってる。ちょうど、同い年の春の巫女がいて、東京の高校に通っているそうだから、同じ学校に行きたいかなって」

「柚葉さんがいなくなると、寂しくなりますね」

麗奈さんが、しんみりとした表情で言いました。

「ごめんね、皆。でも、私、すべてを終わらせたら、きっとここに帰ってくるから」

柚葉さんの決意は、変わらないでしょう。柚葉さんのことだから、自分から望んで行きたいということではないのです。私たちのために行かなければならないと思っている筈です。そんな柚葉さんを止めることはできません。

「大丈夫ですよ、柚葉さん。私たち、待っていますから」

願わくば、一日も早く柚葉さんがここに帰って来られますように。


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