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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第8章 繋がりを求めて (灯里視点)
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8-29. 探偵との面談

祖父の三回忌から三週間余り経ったある日、探偵の池梨さんから連絡のメールが来た。出会ってから丸一か月近くが経過しており、正直私は忘れ掛かっていた。メールには、予備調査に一か月も掛かってしまったことのお詫びと、今後の対応について話がしたいとあった。

私は早速そのことを珠恵ちゃんに報告した。珠恵ちゃんからは、同席するから日程を決めて欲しいとの返事があり、池梨さんと木曜日の夕方に会う約束をした。

その約束の木曜日。

三限の講義が終わり、教科書やノートなどを鞄に仕舞っているところへ、珠恵ちゃんがやってきた。あれ、今日も別々に新宿まで行く話をしていたのだが。

珠恵ちゃんは、申し訳なさそうな表情をしていて、私の目の前まで来ると、胸の前で両手を合わせて頭を下げた。

「ごめん、今日、行けなくなった。黎明殿本部から急に呼び出しを受けちゃって。灯里ちゃん、一人で行って貰っても良いかな?」

「え、まあ、仕方が無いから良いよ」

今回のことは、自分のための話に珠恵ちゃんを付き合わせているようなものなので、そういう意味では珠恵ちゃんは居なくても構わない。珠恵ちゃんは事情を良く知っているので、一緒に行って貰えれば心強いのは確かだが、用事が出来てしまったのなら止むを得ない。

私は講義のあった教室で珠恵ちゃんと別れ、一人で新宿に移動した。

池梨さんから連絡を受けたオフィスまで、駅から10分程度歩く。そこはワンルームマンションのようにも見えたが、オフィス向けのレンタルスペースだった。それぞれの扉に番号の付いたプレートが貼ってある。私は指定された番号のプレートのある扉の前に立ち止まり、インターホンを押す。

「お待ちしておりました。どうぞ中へ」

池梨さんが内側から扉を開けて、私をオフィスの中へ招き入れた。中には、執務用の机と、打合せスペースだけがあり、とても質素なものだった。

「いつもここでお仕事されているんですか?」

「いえ、ここは打合せなどが必要な時に借りているんです。調査の時は外に出ていますからね、オフィスは不要なんですよ」

「はあ」

まあ、確かに一人で探偵業をやっているなら、調査で外に出ている時はオフィスは不要ではある。

「ともかく、そちらに掛けていただけますか?」

私は促されるまま、素直に打合せスペースの椅子に座る。

「お飲み物はいかがですか?お茶か紅茶かコーヒーか。コーヒーはインスタントになりますが」

「お茶でお願いします」

池梨さんは、お茶を二人分淹れると、湯呑茶碗を持って打合せスペースのテーブルに来た。

「初めにお詫びを。ご連絡が遅くなりまして、申し訳ございません。何分にも一人でやっているもので、立て込んでいると予備調査まで手が回りませんので」

お茶を勧められ、池梨さんがお茶を飲む様子を見て、私もお茶を飲む。その後の池梨さんの第一声が、お詫びの言葉だった。

「いえ、大丈夫です。それより、私の依頼は受けていただけるのですか?」

それが私が一番気になっていることだった。当てにはしていなかったが、連絡が来たと言うことは期待しても良いのだろうか。

「今回のご依頼の確認ですが、お客様のお母様を見付ける、と言うことでよろしかったですね?」

「はい、そうです」

池梨さんは、両手を組んで、テーブルの上に乗せる。

「正直にお話しすると、依頼はお受けできますが、目標を達成できるかはやってみないと分かりません。ですので、それでもよろしければ、という条件付きになります」

目標の達成が保証できないと言われるのは想定内ではあるが、そうなると依頼したものか悩ましい。

「あの、もしお願いするとしたら、費用はどの程度掛かるでしょうか?」

「そうですね。書類上の調査だけでなくて、聞き込み調査も行うことになると思いますから、それなりの額になってしまうと思います。あるいは、成功報酬型の依頼も可能ですが」

「成功報酬型?」

「はい、手付金はお支払いいただきますが、その後は目標を達成できた場合にお約束した額を頂戴するというものです」

成功するかどうか分からないのなら、確かに成功報酬型の方がお得かも知れないが。

「成功報酬型だと、お幾らくらいになるのですか?」

「今回のご依頼ですと、手付金五万円、成功報酬は四十五万円でしょうか」

総計五十万円か。うーん、悩む。

私はお茶を飲んで考える。五万円は問題ない、しかし成功報酬はアルバイトの収入と比較すると中々に高額だ。池梨さんにとっても博打みたいなものだと言うことなのか。まあ、私自身、自分で調べるにしても、どう調べたものかイメージが全然湧いていないので、仕方が無いとも言える。とは言え、そう簡単には踏ん切りがつかないでいた。

私が悩んでいるのが分かっているのか、池梨さんは黙ってニコニコしている。間が持たないので、もう一度お茶を飲む。もっとも、お茶を飲んだところで結論が出るものでもない。

「少しお考えになりますか?」

「はい、考えさせてください。どうするか決めたら、ご連絡するで良いですか?」

「ええ、それで構いません」

単に問題を先送りにしただけだが、家に帰ってゆっくり考えたかった。

「ありがとうございます。それでは、失礼します」

私は椅子から立ち上がろうとしたが、その段になって、身体がやけに怠く感じることに気付いた。

「どうかされましたか?」

私の様子が変だと思ったのか、池梨さんが声を掛けて来た。

「何だか身体が怠くて」

「それはいけませんね。お家はどちらですか?」

「笹塚です」

「笹塚なら、車で直ぐですね。私の車でお送りしますよ」

親切で言ってくれているのだろうが、申し訳ない気分だった。

「いえ、歩けはしますし、辛かったらタクシーでも捕まえますから」

「別に遠慮なさらなくても。私はどちらにしても、これから別件の調査で出掛けますので、大した問題ではありません」

「そうですか?なら、お願いしても?」

「はい。ただ、すみません、先に出て、建物の入口まで行っていていただけますか?私はここを片付けた後、車を取って行きますので。ゆっくり歩いて貰えれば、大丈夫ですよ」

「分かりました。そうします」

私は池梨さんが借りたレンタルオフィスから出ると、ゆっくり建物の玄関に向かう。歩くときのバランスは問題なく、単に身体を動かすのに相応の気力が必要な状態だった。

玄関まで辿り付くと、壁に手を当てて寄り掛かった姿勢で池梨さんを待った。それから池梨さんの車が来るまでの待ち時間がとても長く感じられたが、実際には五分程度のことだったと思う。私の傍に車がやって来て停まる。運転席から出て来たのは池梨さんだった。

「お待たせしました。さあ早く、車に乗ってください」

池梨さんに支えられながら、私は池梨さんの車の助手席に乗り込んだ。

「それでは、車を出します。お家のある所は、戸籍のある所と同じですよね?」

「はい、そうです。ご迷惑をお掛けします」

「大丈夫ですよ。お任せください」

池梨さんの運転で車が動き出した。芳香剤を使っているのか車内は良い匂いがする。リラックス効果があるのか、私は良い気分になって眠ってしまった。

そして。

目が覚めと、見知らぬ天井が見えた。姿勢を変えたいと思い、手足を動かそうとするが動かない。焦って自分の状況を確認する。私はベッドの上に寝かされていて、手足には、それぞれ皮製の拘束具が装着され、ベッドの四隅から出ている縄に繋がっていた。口には猿ぐつわもされており、話すこともできない。

何故こうなった?


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