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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第8章 繋がりを求めて (灯里視点)
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8-23. 珠恵の告白

知里ちゃん、和真君と別れた私達は、イベント会場となっていた体育館の入口の外で、待ってくれていた研究室の人達と合流し、改めて雪希ちゃんを囲んで喜びを分かち合った。祝勝会については、欠けているメンバーもいたので、日を改めてということにして、その場は解散した。

そこから三人で珠恵ちゃんの家に向けて歩き始める。珠恵ちゃんの家は代々木公園、体育館からは十分歩いていける距離だ。途中にあったケーキ屋に寄り道したりしながら、珠恵ちゃんの住んでいるマンションに到着。

珠恵ちゃん家のリビングに腰を落ち着けて暫くはケーキを食べながら他愛のない会話をし、一段落したところで本題に入る。

珠恵ちゃんの話は、知里ちゃんの紅林家と封印の地との関係から始まった。脈絡無く封印の地の話が出てきて私は混乱した。

雪希ちゃんが上手く話を繋げてくれて、珠恵ちゃんの家が秋の巫女の家系であること、珠恵ちゃん自身も巫女であることを知る。そして、知里ちゃんの紅林家は、西峰家の分家筋なのだそうだ。そんな繋がりがあったから、珠恵ちゃんは、知里ちゃん達にあのような態度を取ったのか。でも、西の地の秋の巫女が東京に居るとは考えていなかった。

だから思わず尋ねてしまう。

「どうして珠恵ちゃんは東京の大学に来たの?」

珠恵ちゃんは少しせつなそうな表情になる。

「んー、ちょっと家でゴタゴタがあって、離れたかったんだ。それで高三のときに、大学見学でこっちに来て、織江さんと八重(やえ)さんに会った。そして誘われて」

おっと、珠恵ちゃんも何か目的があって東京に来たのかと思っていたが、そうではなかったんだ。

「巫女の家でもゴタゴタがあるの?」

「あるよ。と言うかさ、ゴタゴタしないようにルールを決めているのに、そのルールを無視しようとするんだから。付き合ってられないよ」

珠恵ちゃんは思い出しながら怒りが込み上げてきたようで、膨れっ面をしている。

「何?それって、後継者争い?」

「うーん、どうなんだろう?別に血で血を洗うような戦いを繰り広げていた訳でもないし、姉妹でじゃれ合っていただけかな?いや、本当、姉妹の間だけでやってくれてれば良かったんだよね。子供を巻き込まないで欲しかったよ」

なるほど、姉妹喧嘩に子供が使われているパターンね。確かに迷惑そう。

「いや、思い出すと腹が立つから、この話題は止めよう。そう言えば、灯里ちゃんは弟いたよね?姉弟喧嘩とかしない?」

「うーん、喧嘩したことあったかなぁ。弟相手に腹を立てたこと無い気がする。雪希ちゃんは?雪希ちゃんのところも弟だったよね?」

「私もぉ、喧嘩したこと無いかなぁ」

ここから先、兄弟や家族やそれぞれの高校時代の話で盛り上がった。話をしているのが楽しくて、そのまま宅配ピザを頼んで、食べながらも会話して。珠恵ちゃんの家を出たのは夜になってからだった。

家に帰る道すがら、私は考えていた。珠恵ちゃんは何故今になって秋の巫女であることを明かしたのだろうか。それは、和真君とのことがあったからだ。珠恵ちゃんは和真君を避けることもできた筈だが、敢えてそれをしなかった。となると、珠恵ちゃんが和真君に言ったことの中に重要なことがあったのだと思える。あの時、珠恵ちゃんは具体的なことは口にせず知里ちゃんが言い付けを守らなかったと指摘し、和真君も何について言われたのか正しく理解していた。

知里ちゃんが守らなかった言い付けとは何だろう?何か情報が足りていない。残念ながら、私には不足しているものは分からないが、どのみち他人の家のことだし、封印の地が関係しているのであれば、深入りは禁物だと自分自身に言い聞かせる。

でも、少し父に聞いてみようか。

「ただいま」

家に帰り、リビングに顔を出す。リビングには弟がいて、テレビのニュースを見ていた。弟は家にいるときには、大抵夜のニュースを見ている。

ちらとテレビの画面を盗み見ると、容疑者不明の殺人事件のことが取り上げられていた。確か先月にも一件あった奴だ。被害者を滅多刺しにしたのだとか。まだ解決してないのか。物騒なことだ。次のニュースはパンダの赤ちゃんが産まれた話。そうそう、そう言う明るいニュースばかりが良いなぁ。

「トモちゃん、お帰り。立ってないで、座ったら?」

荷物も手にしたまま立ってテレビを見ていたので、弟の玲次に指摘されてしまう。

「いや、2階に行くから。お父さんは帰ってる?」

「うん、さっき帰ってきてた」

「そう、ありがと」

父の在宅が確認できたが、一先ず自分の部屋に入り、荷物を置いてから、両親の部屋に向かう。

「お父さん、聞きたいことがあるんだけど、今良い?」

部屋の扉をノックして開き、顔を出して父に問い掛ける。

父は机の上にノートパソコンを置いて操作していた。部屋にあるデスクトップパソコンを使っていないところを見ると、仕事をしているのだろう。

「少しだけ待って。そこに座ってて貰って良いか?」

父はパソコンデスクの椅子を指差すと、作業の続きに取り掛かる。私は、部屋の中に入り、指示された椅子に座って大人しく待った。それから数分すると、作業が一段落したらしく、父はキーボードから手を離して私の方に向き直った。

「待たせてゴメン。それで何が聞きたいんだ?」

「博多の紅林と矢内って、知ってる?」

父の目が鋭くなる。

「また何か探ろうとしているのか?」

そのプレッシャーに耐えかねて父から目を逸らすが、考えてみれば何もやましいことをしようとしているのでもないと考え直して視線を戻す。

「別に。一般常識として」

「封印の地に由来する家の話のどこが一般常識なんだか」

父は呆れた表情で私を見、溜息をつく。

「それで、灯里は何を知っているんだ?」

「紅林家は、秋の巫女の家系である西峰家の分家筋で、前は西の封印の地に住んでいたけど博多に移った。それで、矢内家は西峰家に仕えていた一族だけど、紅林家が博多に移ったときに、矢内家の一部の人達が一緒に付いていった」

珠恵ちゃんに聞いたことを思い出しながら口にする。

「何だ、良く知っているじゃないか。それで何を知りたいんだ?」

「西の封印の地にいた紅林家が、何故封印の地から出たのかと、それで今何をしているのか、かな?」

これくらいのことなら、まだ一般常識の範囲内だよね、と言わんばかりに笑顔を向けてみる。父は、お前の一般常識って何だよ、と言いたげな目付きで私を見た。が、諦めたのか口を開く。

「紅林家が封印の地を出た理由は、分かっていない。何しろ秋の巫女の領地の中のことだし、それに本当にごく一部の人間だけで決めたらしくてな。悪いがそこは諦めてくれ」

父は誤魔化すような人ではないので、知らないと言うのは本当だろう。だから、私は頷いた。

「お父さん達にも分からないなら仕方が無いよ」

私の言葉にホッとしたのか、父は少し表情を緩めて先を続ける。

「それで紅林の家だけど、西峰の家を商売上で補佐する役割を持っていた。特に食料品や飲食関係に強い。それは以前も今も変わっていない。そう言う意味では、今も西峰の家とは関係を持っている。店舗も前から西側中心で、九州にも出店していたから、博多に移っても大きな変化はなかったんだ」

そうなると、ますます、博多に移った理由が分からない。

「灯里、眉間に皺が寄ってるぞ」

「えっ、ああ」

おっと、父に指摘を受けてしまった。姿勢を楽にして深呼吸する。

「まあ、気持ちは分かるけどな。話を続けても良いか?」

「うん」

分からないことに拘っていても仕方が無い。私は再び聞く姿勢になって父を見る。

「矢内の家は、調査と警備の会社を営んでいる。東護院の探偵社のようなものだ。もっとも、うちの探偵社は社長が東護院の人間なだけだが、矢内の方は会社幹部が殆ど矢内の人間で占められている。親族経営みたいなものだ。その矢内の会社とうちの探偵社の間には暗黙の了解があってな。原則、相手の担当地域には入らない、どうしてものときは相手に申し入れることになっているんだ。そこまでは良いか?」

私は首を縦に振って了解の意を示す。

「その矢内の家から紅林に付いて博多に移った人達なんだけど、新しく博多矢内の名で会社を設立した。本家の矢内の会社はそのままだったから、博多には二つの矢内の会社の事務所が出来た」

「一箇所に二つの会社って、本家と競合になっちゃうよね?」

紅林家に付いて行った以上、博多での開業は避けようもないが、後発で本家と競うのは勝ち目が無さそうな気がする。

「本家と同じことをすればね。でも、博多矢内はそうはしなかった。彼らは、九州にありながら、地域に縛られない対応をすることにした。そのために、博多矢内は東京や大阪にも事務所を開いた。そして、本家矢内とうちの探偵社の間を取り持つ仕事を始めたんだ。うちが西側のことを調査したいと思ったら、博多矢内の東京の事務所に連絡すれば、あとは博多矢内が上手くやってくれる。それまでうちがやっていた本家矢内との調整ごとが要らなくなって、仕事が楽に、そして円滑に進むようになったんだ。それは本家矢内も同じだ。更に、博多矢内は黎明殿本部にも出入りするようになって、東西を跨る案件は彼らの受け持ちになった」

そこで父が口を閉じたので、説明が終わったのだと受け止めた。

「お父さん、それって、博多矢内が上手くやれたと言うこと?」

「狙ってのことかは分からないが、結果としては良かったんじゃないか?自分たちの居場所が作れたんだから」

父のお蔭で紅林家と博多矢内家のことが良く分かった。あと一つ聞いておきたいことがある。

「ねえ、紅林家が博多に移ったのはいつなの?」

「えーと、俺が会社に入って少ししてからだから、大体25年前だな」

「25年前かぁ」

私が生まれるより前のことだ。当然、知里ちゃんも生まれていない。それくらい前のことだと、調査するとなれば骨が折れそうだが、今はこれ以上調べるつもりはない。

ん?でも、25年くらい前と言えば、何かあったような気もする。何だっけ?


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