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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第1章 南国の雪 (柚葉視点)
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閑話1-2. 瑞希ちゃんと封印の間

柚葉さんとの剣の稽古が終わったお昼時、柚葉さんと食堂に行くと、紅葉さんがお昼ご飯を作っていました。さっきから時間を置いたためか、紅葉さんの顔色は良くなっているようです。

「お母さん、ただいま」

「あ、二人ともおかえりなさい。手を洗ってきましたか?」

「これから行ってくる」

柚葉さんは洗面台の方に向かいました。

「あの、母は?」

「ああ、若葉は家に帰ったわよ。家事とかあるからって」

「そうですか。では、私も手を洗ってきます」

私も柚葉さんを追いかけました。そして洗面台のところで、二人して顔と手を洗い、食堂に戻りました。

「お昼はチャーハンね」

「はーい」

食卓に着くと、チャーハンとサラダ、それに玉子とわかめの入った中華スープが用意されました。

「チャーハンはお代わりあるから、自由に取って食べてね」

「はい、ありがとうございます」

剣の稽古をしてそれなりにお腹は空いたとはいえ、お代わりしなくても十分そうに思います。

「いただきまーす」

三人一緒に食べ始めた。

「あれ? 恭也くんは、いないのですか?」

「朝から卓哉くんの家に行ったみたいよ」

なるほど、だから見かけなかったのですか。


お昼ご飯を食べて、お茶を出していただいて飲んで、一息ついたところで、紅葉さんが席から立ちながら言いました。

「それじゃあ、食器を片付けてしまうわね。そしたら封印の間に行きましょう」

「うん、いいよ」

紅葉さんは、食事の片付けを始めました。柚葉さんは食器洗いを手伝い、私はテーブルの上を拭いたりしました。

それから三人で御殿に向かいました。

御殿では靴を持って上がり、像の裏手の部屋から階段を下り、そこで靴を履いて、扉の前に立ちました。

「瑞希ちゃんは利用者登録しないといけないわね。柚葉、登録してあげて」

「分かった」

柚葉さんが私のところに来ました。

「瑞希ちゃん、利用者登録のやり方なんだけど、まず瑞希ちゃんが扉の透明な石に手を当てて力を注ぐの。その上から、既に登録している人が力を注げば完了。今回は私がやるね。良い?」

「はい、お願いします」

私は、扉の透明な石に手を当てて、体の中にある力を、石に流し込み始めました。そして、私の手の上に柚葉さんの手が添えられて、柚葉さんが優しく力も流し込んできました。そうしたら、石が光ったので、登録完了らしいです。

「これで登録できたと思うから、瑞希ちゃん一人で力を注いでみて」

「はい」

私はもう一度扉の透明な石に手を当てて、力を流し込んだ。そうすると石が光って、鍵がカチリと開く音がした。

「開いたみたいです」

扉のノブを回したら、扉が開きました。成功です。

扉の中に入り、さらに階段を下りて、転移陣のあるところへ行きます。

「瑞希ちゃん、もう転移のやり方は分かるよね」

「はい、できます」

「じゃあ、やってみてだけど、私が最初に行くね」

柚葉さんが、まず封印の間に向けて転移しました。次に私、その次に紅葉さんと続きました。

封印の間は、初めて入りましたが、炎で溶けた跡があちこちにあって、火竜の凄まじさを感じました。

「戦いの(あと)が生々しくて、凄いですね」

「そうね、これがもし外に出てしまっていたらと思うと寒気がするわね」

「結局はそうならなかったのだから、良かったってことで」

柚葉さんは、明るい声で言いますが、そのときはどんな気持ちで戦っていたのでしょう。

「それより、お母さん、魔道具はどこなの?」

「そこの封印の破れたところから、梯子が降りているでしょう。その下ですよ」

「梯子なの?」

「ええ。石板によれば、壁の中に隠し通路があるらしいのですけど、火竜の炎で溶けて固まってしまったのか、通路の出入り口が見つかっていないのです」

「うーん、そうなのかぁ。まあ、一時的には梯子でもとは思うけど、やっぱり普通は通路を歩きたいよね。ちょっと調べてみる」

柚葉さんは、封印の間の床に膝をついてしゃがんで、右手を床に付け、目を瞑りました。そして、目を開けて、壁の一点を指さしました。

「どうやら、ここっぽい」

そこも火竜の炎があたったのか、溶けた跡があります。そこに柚葉さんは手を当てて、掌底破弾を打ち込みました。すると、壁に穴が開きました。

「ね、通路があったでしょう?」

「凄いです、柚葉さん。どうやって見つけたんですか?」

「普通に探知使って?」

私の探知では見つかりそうな気がしないので、どこら辺が普通かは分かりませんが、柚葉さんは探知を使って見つけたようです。

「そうだよ。じゃあ、入ってみるね」

柚葉さんは、壁に明けた穴の中に入り、力の光を灯して、そこから延びる通路に入っていきました。通路は、壁に沿って作られているようでしたが、段々と下りていました。通路の終着点は、扉になっていて、そのまま開けることができました。ただ、隠し扉のようでもあり、魔道具側からは簡単には見つからないようになっていたようです。

扉を出ると、梯子の下が見えていて、正しいところに出たことが分かりました。

「よし、じゃあ、今度こそ魔道具にご対面だね。お母さん、魔道具はどこなの?」

「こちらよ」

紅葉さんが魔道具のところに連れていってくれた。そこは、床から太い六角柱の柱のようなものが腰の高さくらいまであって、その真ん中に両手でも覆い尽くせないような大きな丸みを帯びた透明な石が嵌っていました。

「これが魔道具?」

「魔道具と言うか、魔道具の制御装置みたいなものね。魔道具本体は、私たちの脚の下にあるみたいですよ」

「とても大きいものなのですね」

「そうみたいです」

「それで、この石に力を注げば良いということね?」

「ええ。いま、この石はくすんだ銀色ですけど、私達の力を馴染ませれば明るい銀色になると石板には書いてあったわ」

「じゃあ、やってみますか」

私たちは、制御装置を三方から囲み、それぞれの右手を出して、透明な石に手を当てた。

「始めますけど、いい?」

「はい」

「じゃあ、サン、ニ、イチ、開始」

皆同時に力を流し始めました。でも、それぞれが流し込む量は違っているようです。柚葉さんが一番流しこんでいるように見えました。

それを30分程度続けたでしょうか。くすんだ色のところが、段々と石の真ん中だけになってきて、最終的に消え去りました。そして、石全体が明るく銀色に輝き始めました。

「どうやら、これで良さそうですね。終わりにしましょう」

私たちは、力を流し込むのを止めました。それでも石は銀色に光っていました。

「今回は最初だから時間がかかりましたけど、明日からはもっと短くなると思いますよ」

「はい」

「明日は瑞希ちゃんと二人で試してみましょうか。柚葉がいなくても問題ないか、早めに確認しておきたですから」

「分かりました」

そこでふと柚葉さんを見ると、柚葉さんは腕を組んで考え事をしているようでした。

「柚葉さん、どうかしたのですか?」

「ん?いや、何で『馴染ませる』をいう指示なのかなって」

「何か変ですか?」

「私達の力で染め上げろ、なら幻獣の力を追い出して巫女の力だけにするってことだと思うけど、馴染ませるってことは幻獣の力が混じったままで良いって言っているよね」

「そうですね」

「だとすると、魔道具から見れば、幻獣の力も巫女の力も同質の物ってことになるんだけど、何か引っ掛かるんだよね」

「柚葉、何か調べるのですか?」

「ううん、お母さん。少し気になっただけだから。家に戻ろう?」

「柚葉が良ければ、帰りましょうか」

作業を終えた私たちは、通路を通って、封印の間に戻りました。

「そういえば、封印の間の天井の穴はどうするの?」

「早いうちに鉄筋コンクリートか何かで蓋をしてもらうつもりですよ。お父さんたちには、どうするのが良さそうか、検討するようにお願いしてあります」

「結界張るのはどうなの?」

「新しく結界を張る方法が分からないのです。いまある結界の修理であれば分かるのですけれど」

「色々と伝承が失われているんだね」

「ええ、残念なことに」

私たちは、入り口の転移陣を使って、御殿の下に戻りました。そして、入ったのとは逆順に進み、像の裏の部屋を通り、御殿の外に出ました。

「今日はこれで終わりですけれど、明日から毎日確認に行かないといけません。二人とも、毎朝確認するということで良いかしら」

「はい、朝が良いです」

「じゃあ、学校のことも考えて、8時集合ということで良いかしら? 柚葉は学校の日は船便が早いから、参加できる時だけ参加で良いですよ?」

「うん、そうする」

これから毎朝で大変だけど、皆のために頑張ります。

私は、紅葉さん、柚葉さんとお別れして、家に帰りました。


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